友として、王子として
その日の夕方。
ヘルガは持ち込む各種装具の選別と確認。整備を済ませ、食糧等も含めた持ち込む消耗品のリストアップも済ませた所であった。
後はリストの品を実際に用意すれば良い。
其処まで済ませていたからこそ、今日の予定は終わり。
残りの寝るまでの時間は自由時間として使おうとしていた。
だが、それは突然の来客で頓挫してしまった。
「何か用?」
招かざる客とも言える来客……トマーゾ王子がトミーとしてやって来た事にヘルガは訝しみながらも中へ入れた。
ベッドに座る様に伝えてから、自身は水甕の水を汲んで安物の金属製のポットに入れて沸かすと、トミーはトマーゾ王子として告げる。
「最悪、戦争が起きるかもしれない」
その言葉にヘルガは一瞬だけ手を止めながらも、平常心と共に尋ねた。
「何時?相手は?」
「悪いけど、それは未だ言えない。ただ、今すぐと言うか今年じゃないし、相手は帝国ではないかもしれないという事だけは言える」
トミーが王子という立場から具体的には答えず、今言える段階の事だけを答えれば、ヘルガは相手となる国が何処かを察した。
だが、察しながらもそれを口にする事は無かった。
そんなヘルガに対し、トミーは愚痴を漏らす。
「本当ならセティの件とセラスの件で感謝の言葉を伝えるだけで居たかったんだけどね……」
その愚痴に対し、ヘルガは呑気に返した。
「礼なら報酬って形で貰ったから要らないわよ」
「それでも僕は直接感謝したかった。僕の為ではないとはいえ、妹と妹の友で僕の頭痛の種の為に尽力してくれた友に対してね」
本心から言うトミーにヘルガは「だから、要らんて」そう返すと、改めて問う。
「それで?最悪、戦争になるってどう言う事?アンタの言い草だと、仕掛けて来るのは"北"でしょ?」
トミーが自分に向けて暗に告げる様にして言った事を聞き逃す事無く察していたヘルガが問えば、トミーは具体的な事を伏せた上で語る。
「"北"はやってはいけない事を実行に移そうとしている。だが、我々としては実行に移してないならば、手を出せない。まぁ、手を出せるにしてもあの国には"旨味が少ない"から此方から仕掛ける理由も無いのが本音ではあるがね……」
トミーがトマーゾ王子として語れば、ヘルガは首を傾げる。
「でも、"北"と此処って戦力差あるわよね?後、対帝国に於ける防衛目的の同盟も結んでる筈でしょ?」
ヘルガの言う通りであった。
北方に隣接するツァールスの軍事力はサマリアルよりも若干低い。
更にツァールスとサマリアルは防衛目的を主とした対帝国同盟を結んでもいる。
だからこそ、ヘルガは同盟国にであるサマリアルにツァールスが戦争を仕掛けてくるのか?疑問に感じてしまった。
そんなヘルガに対し、トミーは言う。
「国家に友は居ないし、居たとしても状況や情勢次第で敵に廻る事だって珍しくも何ともない……だから、北は僕等と仲良くするよりも奪う方が良いと考え、それを実行に移したとしても驚きに値しないよ」
身も蓋もないばかりか、世知辛いトミーの言葉にヘルガはゲンナリとしてしまう。
「ほんと、碌でもない世界ね……」
「僕も心からそう思うよ……で、コレは独り言だけど、北がこの国に本当に仕掛けてくるんなら、その時期は来年の夏頃。麦の収穫が済んでからと予想してる」
トミーが独り言と言う形で開戦するならば、来年の夏の可能性がある。
そう告げると、ヘルガは呑気に「なら、のんびり過ごす時間はあるのね」そう返した。
そんなヘルガを窘める様にトミーは言う。
「しかし、帝国が北の件に勘付いて侵攻すれば、この国は同盟を理由に北の援助と支援をしなければならなくなる。だから、割と真面目に予断を許さない状況や情勢でもある」
「で、私にどうしろと?」
「申し訳無いと思うけど、暫くは遠出を控えてくれると助かる」
その頼みに対し、ヘルガはまたもゲンナリとしてしまう。
「私、明日辺りにシレーラス攻略に行こうと思ったんだけど……駄目?」
「それは別に良いよ。今直ぐに戦争が起こる訳じゃないし、流石の帝国も直ぐに戦争仕掛けられる様に準備をしてる訳じゃない筈だから……」
トミーは話しても大丈夫な部分だけを教える様に是とすると、更に続けた。
最悪の事態に備える為に。
「でも、最悪の事態に備えて暫くは遠出する際、行き先を明示しといてくれると助かる」
「どっちよ?」
「平時に冒険者を縛る手段や法を僕は有してないし、僕個人としても君の生活を台無しにしたくもない。と、しか僕は言えない」
友として、この国の政を担う者としてトミーが告げれば、ヘルガは呆れ混じりに納得する。
「だと思った」
「何れにしろ、君には万が一に備えていて欲しい」
「解った。暫くは仕事とかで遠出する時はギルドに伝えておくわ……勿論、休暇で出掛ける時も伝えとく。それで良い?」
「ありがとう。それだけでも充分だ」
その言葉と共にポットの湯が沸くと、ヘルガは自分とトミーの為に茶を入れた。
そんな湯気の立つ茶を受け取ると、真剣な話は終わりと告げる様にトミーは言う。
「セラス……あの娘は本当に良い娘だったよ。だからこそ、君のお節介で悪い方向に進まなくて心から安堵してる僕がいる」
その言葉にヘルガは素っ気無く返した。
「知らんがな」
「君らしいな。だけど、その件も改めて礼を言わせてくれ……本当にありがとう」
トミーが本心から感謝の言葉を述べると、ヘルガはまたも素っ気無く返す。
「だから、礼は要らないわよ。本当に感謝してるんなら、面倒な仕事や厄介事を押し付けないでくれる?」
「なるべく善処はする」
その答えから、面倒な仕事や厄介事が今後も押し付けらると察すると、ヘルガはボヤいてしまう。
「私はのんびり過ごしたいだけなんだけど?」
ボヤくヘルガをトミーは呆れ混じりに眺めと、ヘルガの淹れてくれた茶を静かに啜るのであった。




