筋は通す
戦果確保に手間取りながらもセラスは1時間ほど遅れて王都の冒険者ギルドへと、無事に戻る事が出来た。
そんなセラスは暇そうにする受付に戦果の証と言える大量の耳を集めた袋を見せる様に出し、受付に告げる。
「先程請け負った依頼なのですが……」
その言葉を皮切りにして、セラスは事細かに詳細を含めた報告をしていく。
自分がゴブリンの群れを退治しに行った事。
その際に失敗し、居合わせた白金等級の冒険者であるヘルガに助けられた事。
更にもう1つゴブリンの群れがあり、その群れをヘルガが1匹残らず殲滅した事。
自分の失敗も包み隠す事なく正直に受付に報告すると、セラスは自分が提出した戦果は全てヘルガの手によるものと告げた。
そんな報告を聞くと、受付の女性は真剣な面持ちで告げる。
「その件に付きましては全てヘルガさんから伺っております」
「そうですか」
「はい。その際、ヘルガ様から報酬は規定通りに支払う様に計らって欲しいと依頼されましたので、今回は規定通りに支払います」
ヘルガが宣言通り、話を通して根回しをしてくれた事でセラスには約束通りの報酬。
更にはもう1つの群れ討伐の報酬も支払われる事になった。
そんな特例と言えるギルドの対応にセラスは申し訳無さや己に強い不甲斐無さを感じるが故に、受け取りを辞退しようとしてしまう。
「嬉しい措置ですが、私は失敗しました。なので、受け取る訳にはいきません」
セラスが正直に自分の想いを打ち明ける様に辞退すると、受付は「本当にヘルガさんが言った通りになった」そんな言葉を漏らしてしまう。
受付の漏らした言葉にセラスが困惑すると、受付の彼女は告げる。
「ヘルガさんは現地で護衛として貴女を雇い、貴女の本来の予定を潰した上に獲物を奪ってしまった。だから、その報酬は護衛としての報酬として受け取って欲しいとの事です」
自分の善良な性格を見通す様にしてヘルガが配慮してくれた事に対し、セラスは感謝の念を覚える。
だが、それでも受け取って良いのか?悩んでいると、背を押す様にしてヘルガの声がした。
「貰えるもんは借金と病気以外は貰っときなさいな」
「ヘルガ様」
自分が居た事にセラスが驚くと、ヘルガと一緒に居たギルド長はノンビリ過ごす部下達とセラスは直ぐに背筋を伸ばす。
そんな部下達にギルド長は「楽にして良い」そう告げると、緊張した面持ちのセラスの方を向いて告げる。
「君も楽にして良い」
その言葉を聞いても真面目な性格から背筋を伸ばしたままのセラスを気にせず、ギルド長は言う。
「君は自分の失敗を隠さないばかりか、ヘルガが群れを討伐した事を正直に語ってくれた」
自分の言葉にセラスが沈黙で返すと、優しい微笑みと共にギルド長は更に続ける。
「君への報酬支払いは私が決裁した。つまり、それは君が受け取るべき正当な報酬と言う事だ」
そんなギルド長の優しい言葉にセラスは改めて言う。
「しかし、自分は討伐に失敗しました。そればかりか……」
自分のせいでセレスティア王女の身に危険が及んだ事を言おうとすると、ギルド長は真剣な面持ちで告げる。
「その件も本人からお聴きした。本来ならば褒められる所ではない。だが、君は彼女達に遭遇した際、ゴブリンの群れがやって来る事をキチンと伝えたそうじゃないか……大概の者はそんな事をせずに一目散に逃げようとしてる」
そう告げると、ギルド長は自責の念に駆られるセラスに向けて支払いの件を告げる。
「本来ならば君の言う通り、ゴブリン討伐の報酬は支払われるべきではないのだろう……だが、そのゴブリン討伐をしたヘルガは君はあの方の護衛として真面目に務めた事を証言。そして、ゴブリンの群れ2つは討伐されている」
其処で言葉を留めたギルド長は一息入れると、結論を告げた。
「だから、今回だけの特例措置と言う奴だ。ヘルガが君に支払う護衛の報酬も兼ねたな……この様な事は二度と無い。だから、今後は精進を重ねて己の力で依頼を成功させて報酬を稼ぐ事。それが君の受け取る為の条件だ」
ギルドの長として命じる様に告げれば、セラスはヘルガとギルド長に深々と頭を下げて感謝の言葉を述べた。
「ありがとう御座います!!」
「気にしなくて良い。今後も真面目に働いてくれれば私はそれで良い」
ギルド長が気さくに返すと、ヘルガは素っ気無く返す。
「礼は要らない。私は私なりに筋を通してるだけだから」
その言葉にギルド長は呆れ混じりに苦笑する。
「お前さんにしちゃ珍しいな」
「何が?」
「今日の護衛やコレも含めて他人にお節介焼いてる事がだよ」
普段のヘルガをよく知るからこそ、ギルド長は本心から珍しがっていた。
そんなギルド長に「私だって偶には優しくなるのよ」そう返すと、思い出した様に報酬を受け取ったセラスに告げる。
「おっと、忘れる所だったわ……セティから伝言よ」
ヘルガがセレスティア王女から伝言を預かってると知ると、セラスは真剣な面持ちで耳を傾ける。
「今回の取材した内容を纏めてレポートに書き出していきたいから、城に来て欲しいそうよ。あ、服装は平服でも構わないって……平服でも構わないって言ってるけど、身嗜みはしっかり整えなさい。後、風呂にも入って身綺麗にするのも忘れない様にね」
伝言を伝えると共にお節介を焼けば、セラスは改めて「ありがとう御座います」そう感謝の言葉を述べて冒険者ギルドを後にした。
そんなセラスを見送ると、ギルド長はヘルガにまたも意外そうにしながら言う。
「お前さんが其処までお節介焼くとはな……まぁ、セラスは良い娘だから当然か」
ギルド長が当然の様に言うと、ヘルガは尋ねる。
「あの娘を知ってるの?」
「あぁ、アイツの親父も知ってる」
「それこそ意外なんだけど?」
ヘルガが本心から意外そうにすると、ギルド長は懐かしそうに語る。
「セラスの親父は銀等級の冒険者で仕事振りも良いし、人柄も良かった。あの娘が幼い頃、此処に連れて来たりもしててな……」
「でも、父親は今は居ないのね?」
核心を突く様に問えば、ギルド長は深く頷いた。
「あぁ、結構前にな……で、母親と2人で暮らしてたんだが、母親も無理が祟って一昨年亡くなった」
セラスの心情をギルド長が語ると、ヘルガは気にする事無く尋ねる。
「成る程。もしかして、父親って生きてた頃にセラスに冒険者として色々教えてたりする?」
「あぁ、幼いセラスに色々教えてたよ。セラスもセラスで愉しそうに学んでた」
ギルド長が当時の事を思い出しながら懐かしそうに肯定すると、ヘルガは漸く納得した。
「だから、立ち回りがベテラン冒険者みたいだったのね」
セラスが持つ歳と冒険者の年数に釣り合わぬ技量の高さにヘルガが納得すると、ギルド長はセラスに願った。
「なぁ、アイツに色々と教えてやってくんねぇか?」
セラスの父親の友として、友の娘を心配する大人としてギルド長は頭を下げた。
だが、ヘルガがそれを承諾する事は無かった。
「悪いけどお断りよ」
「だよなぁ……お前そういう奴だもんな」
「でも、何か教えて欲しいとか聞かれたら少しは相手してあげるわ」
ヘルガが教えを請われたら、それなりに教えはする。
そう告げれば、ギルド長は感謝した。
「ありがとな」
「礼は要らないわよ。じゃ、私も帰るわ」
ヘルガはそう言い残すと、呑気な足取りで帰路に付くのであった。
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