プロ失格
ヘルガは同行する事になったセラスを現地雇用した警備要員として扱う事にした。
そんなセラスに斥候を兼ねた前衛を任せ、自身はその少し後ろから。
2人の護衛には後方警戒とセレスティア王女の傍らに着いて貰い、現状に於いて最大限の警護体制を敷いた。
そうして、時折遭遇する獣タイプのモンスターをセラスが弓で仕留めたり、時にはヘルガがMk18で射殺する……と、言った状況が続いていた。
そんな中。セラスが立ち止まり、ヘルガ達に伝える様に少しだけ大きな声で告げて来た。
「前方に野営してる人が居ます」
その報告を聞くと、ヘルガはセラスと2人の護衛に周辺警戒を任せてから目を凝らしてハイエルフの高い視力を発揮し、その野営してる者を視認する。
野営してる者は呑気に折り畳み式の簡易椅子に座り、湯気の立つカップを啜っていた。
そんな野営してる者が身に纏う装備や周囲にあるアウトドア用品を確認すると、ヘルガは更に遠くの周囲を見廻していく。
周囲に人の姿と気配は無し。
武器は護身用の短剣と弓矢。
趣味人と見ても良さそうね……
入念に見廻して観察したヘルガは野営してる者が趣味でソグルスへ野営しに来た者である。
そう判断すると、振り向いてセレスティア王女に尋ねる。
「趣味で冒険者として登録してる者に取材してみる気はない?」
「趣味で冒険者に登録している者ですか?」
ヘルガの言葉にセレスティア王女が首を傾げると、ヘルガは解説する様に言葉を続ける。
「そう。よくある生活の為や一旗揚げて大成したいって奴と違って、比較的生活に余裕のある人が趣味の為に冒険者登録してるのよ」
語られた言葉にセレスティア王女が益々首を傾げてしまうと、ヘルガは冒険者として登録する理由を語っていく。
「冒険者以外がダンジョンに入る為の手続きや書類を揃えるのって地味に面倒臭いのよ。だから、敢えて冒険者登録する事で面倒臭い手続きと書類揃えるのを省略して楽が出来る。だから、こういうダンジョンに入る目的で冒険者として登録するのも実は其処まで珍しくも無いわ」
面倒な手続きや書類用意を取っ払う為だけに冒険者になる者も珍しくない。
そう聞かされると、セレスティア王女は驚きを露わにしてしまう。
「そういう方も居られるのですね」
「で、折角だからそう言う人の話を聞いてみるのも良いんじゃないか?そう思って提案してるの……まぁ、貴女の望む答えが返って来る可能性は低いけどね」
ヘルガが拒否しても問題無い。
そう締め括ると、セレスティア王女は別の視点を得る為に決めた。
「その方に取材をしてみようと思います」
「一応言っておくけど、断られたら素直に諦めてね。無理に聞くのは礼儀に反するから」
ヘルガが断られた時は素直に諦めろ。
そう命じると、セレスティア王女は素直に応じた。
「解りました」
「じゃ、決まりね」
そう言う事になれば、ヘルガは2人の護衛に取材時は周辺警戒を命じ、セラスには王女の傍らで護衛する様に命じてから歩みを進める。
そうして、ダンジョンでティータイムと洒落込んでる者へと歩み寄れば、ヘルガは挨拶した。
「おはよう」
ヘルガの挨拶にティータイムを中断した彼はカップを傍らに置くと、丁寧に挨拶を返した。
「おはようございます」
互いに礼儀を尽くす様にして挨拶を交わせば、ヘルガは自己紹介をする。
「静かな時間を邪魔してごめんなさい。私はヘルガ。冒険者よ」
「カルディスです」
簡単に自己紹介が終わると、ヘルガはセラスに警護されるセレスティア王女を指し示しながら彼女の紹介をした。
「彼女はセティ。学院に通う学生よ」
ヘルガがセレスティア王女を紹介すると、彼女は頭を下げて挨拶する。
「セティです。よろしくお願いします」
セレスティア王女が挨拶すると、ヘルガは前置きは終わりと言うように要件を切り出した。
「彼女……セティさんは学院の研究課題として冒険者に関して調査なされてる。で、カルディスさんに幾つかお尋ねしたい事があるの」
学院に通う女学生が研究課題の為に調査している。
そう聞けば、カルディスは快く応じてくれた。
「そう言う事でしたら構いませんよ」
「ありがとう御座います」
セレスティア王女が承諾に対して感謝の言葉を述べれば、取材は始まる。
「カルディスさんもやはり、冒険者なのですか?」
メモ帳とペンを手にセレスティア王女が尋ねると、カルディスは半分だけ肯定した。
「確かに冒険者として登録してはいます。しかし、私は此処でこうして野営する為に登録しているだけなのでちゃんとした冒険者とは言えませんね」
カルディスが正直に答えると、セレスティア王女はその理由を問う。
「と、言いますと?」
「私自身は小さいながらも店を営んでいまして、本業は商人です」
冒険者として活動する理由が無い。
そんな答えが返ってくると、セレスティア王女は書き留めていく。
程なくして書き終えれば、セレスティア王女は次の質問をした。
「では、何の為にダンジョンで野営をなさるのですか?」
「一言で言うなら趣味ですね。ダンジョン内の獣を狩って、その肉を食べたり、買い取って貰ったりはしています。しかし、一番の理由は此処でノンビリ過ごす為です」
通常の冒険者とは異なる者の答えを聞くと、セレスティア王女は書き留めていく。
そんなセレスティア王女にカルディスは更に続ける。
「街の喧騒から離れて静かな此処で過ごすと気分が落ち着きますし、嫌なことも忘れられるんですよ。だから、こうして過ごしているんです」
「そうですか……因みにですが、此処とは違う王都近くの森で野営はしないのですか?」
セレスティア王女が当然の疑問をぶつけると、カルディスは答える。
「してみたいとは思うんですが、ソグルスは王都に近いんですよ。それに他の森だとソグルスよりも危険なモンスターや盗賊が出る可能性もありますから」
カルディスが何故、ソグルスなのか?
その理由を語れば、セレスティア王女は納得と共に書き留めていく。
そんなセレスティア王女を他所にカルディスはカップのお茶を一口飲むと、カップを置いて続ける。
「後、此処ならこうして客人と話す楽しみも出来たりします。静かにのんびり過ごす為に来てるとは言え、こうして語り合えるのも好きなんですよ」
カルディスの言葉に嘘や偽りは無かった。
だからこそ、セレスティア王女の取材も快く受け入れてくれたのだ。
そんなカルディスにヘルガは尋ねる。
「この付近でゴブリンを見掛けなかった?」
ヘルガから問われると、カルディスは指差しながら答えてくれた。
「昨日の夕方頃に見ましたよ。此処から進んだ所にある水場で水を飲んでるのを何匹かですけど……」
カルディスの目撃情報を聞くと、ヘルガはソグルスの地図を出して確認する。
カルディスの指し示した方向を一瞥すると、詰所で確認した位置と照らし合わせていく。
「この近くにゴブリンの群れが居ると見た方が良さそうね」
ヘルガが漏らした言葉を聞くと、カルディスは少し驚きながら尋ねる。
「本当かい?」
「えぇ、詰所で確認したゴブリンの目撃情報と私達が遭遇したゴブリンの位置が離れてるわ」
ヘルガが情報を共有する様に答えれば、カルディスは少し考える。
程なくして、カルディスは申し訳無さそうに言う。
「もう少し語らいたかったんだが、この近くにゴブリンの群れが居るんなら退散したい。申し訳無いんだが、取材はコレで終わりにさせて貰うよ」
「此方こそ応じてくれてありがとう御座いました」
セレスティア王女の感謝の言葉と共に取材は終わる。
カルディスが慌てて野営の撤収をし始めたのを他所にヘルガは地図を見詰めて群れの居そうな位置に当たりを付けると、2人に水場のある方を警戒する様に命じてからセレスティア王女とセラスに告げる。
「水場付近に群れが居ると見て良いわ」
「迂回しますか?」
セラスがヘルガに臆する事無く意見を口にすると、セレスティア王女は申し訳無さそうにしながらも是非ともしたい。
そんな面持ちでヘルガに語り掛ける。
「ヘルガ様」
「何かしら?」
ヘルガに問われると、セレスティア王女は自分が身勝手な我儘を言ってる事を自覚した上で願いを口にした。
「この様な御願いをするのは私の身勝手な我儘である事も重々承知しているので大変心苦しいのですが、そのゴブリンの群れを退治するヘルガ様を取材させて戴けないでしょうか?」
その願いを聞くと、ヘルガは頭を抱えながらキチンと警護チームの長としてソレを否とした。
「護衛の者を指揮して貴女を護る警護の責任者として、そのお願いは流石に聞けません」
ヘルガが警護のチームの長として至極当然な返答をすると、セレスティア王女は自身が我儘を言った事を理解しながらも残念そうにしてしまう。
そんな彼女を見ると、ヘルガはトミーの言葉をふと思い出した。
そう言えば、アイツは妹の為に頭を下げで来たのよね……
うーん。護衛としてならお願いを聞くのは論外だし、言語道断。
だけど、時には危険な所へ遊行する際に護衛させられるのも冒険者の仕事の一環でもあるしなぁ……
セレスティア王女の願いをプロとして拒否しながらも、トミーが自分に頭を下げて乞い願った事を思い出したヘルガは珍しく悩んでしまう。
すると、ヘルガは諦めと踏ん切りを付けたセレスティア王女に尋ねた。
「私にゴブリンの群れ退治をさせる理由を聞いても良いかしら?」
ヘルガの問いに対し、セレスティア王女は正直に答える。
「一言で言いますと、ヘルガ様へ取材する為です」
「私を取材?」
セレスティア王女が何故に自分を取材する為にゴブリン退治をさせたいのか?理由を察しながらも、ヘルガが敢えて首を傾げて具体的な理由を求めれば、セレスティア王女は正直に語る。
「ヘルガ様と言う特殊な事例を知る為です。ヘルガ様自身が大変優れた冒険者なのは今までの事で理解させて戴きました。しかし、ヘルガ様のその武器の具体的な恐ろしさと言うのをこの目で見定める事が出来ておりません……その為、身勝手極まりない我儘なのを承知でお願いしたのです」
セレスティア王女の目的は、ヘルガが扱う銃がどの様な武器なのか?を知るのも含めた特殊ケースの一例としてヘルガを取材調査する事であった。
研究課題の一環としてヘルガと言う最高位の冒険者を特殊ケースとして取材したいのも本音。
だが、一番の理由は王族として、ヘルガだけが扱う銃と言う未知の武器を知りたい。これに尽きた。
そんなセレスティア王女の思惑等を察したヘルガは溜息を漏らすや、普段なら絶対にしない判断を下した。
「本来なら、絶対に断固として拒否する」
セレスティア王女とセラスが唐突に放たれた言葉に首を傾げながらも、真剣に耳を傾けると、ヘルガは言葉を続ける。
「護衛対象に願われたからと言って、危険な所へ護衛対象を連れて行くのは護衛失格と言わざる得ない。だから、私のこの判断も護衛として失格と認めざる得ない」
自分自身に呆れる様に締め括ると、セレスティア王女はその意味を理解してるからこそ表情を緩ませながらも確認する様に尋ねた。
「つまり?」
「今回だけ特別措置として貴女の要望にお応え致します。ですが、2度目は一切無い事も留意して戴きたい」
こうしてヘルガが折れると、セレスティア王女は感謝の言葉を告げた。
「ありがとう御座います」
感謝するセレスティア王女にヘルガは護衛チームの長として厳命する様に返した。
「但し、私が想定よりも危険と判断した時は素直に諦める。この条件を了承出来ないなら、私は貴女のお願いに応じれません」
「解りました。その時は潔く諦めます」
セレスティア王女がヘルガの提示した条件を素直に呑めば、ヘルガは自身が先頭に立って進む事を皆に告げる。
そして、セラスに王女の傍らに着いて警護する様に命じれば、カルディスから教わった水場の方向とは別の。風下の方へと歩みを進めるのであった。
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