白金等級冒険者による講義
「つまり……セラスさんはゴブリンの群れの数が多かったから一気に討伐するのではなく、孤立した個体を狙い、数を減らす方法を選んだのですね?」
殺戮の現場から数キロ以上離れた所で休息を取る中、セレスティア王女が確認する様に問えば、バツの悪そうな面持ちと共にセラスは肯定する。
「はい。正面から仕掛けても勝てる見込みが薄かったので……」
取材する様に知ったセラスがゴブリンの群れに対する戦い方を知ると、セレスティア王女は周囲を然りげ無く見廻して警戒するヘルガに尋ねる。
「ヘルガ様。セラスさんの取った戦い方をどう思われますか?」
セレスティア王女がセラスを責める為ではなく、純粋に専門家から意見を求める様にして尋ねると、セラス自身は自分の拙い戦法に恥ずかしさや気不味さを覚えながら耳を傾けた。
そんな2人に向け、ヘルガは本心を隠す事無く正直に答える。
「堅実で良い戦法よ」
思いもよらぬ答えにセラス自身は驚きと共に困惑すると、セレスティア王女はその理由を尋ねる。
「何故なのか?お尋ねしてもよろしいでしょうか?」
セレスティア王女が理由を求めれば、ヘルガは警戒を続けながら答えていく。
「自分よりも相手の方が数が多い。しかも、20以上も居る……そんなの相手に単独で正面から仕掛けたら、自殺と変わらない」
「ですが、それなりに位のある冒険者の中にはそう言う事も出来る者と聞いて居ります。それにヘルガさんもしたではありませんか……」
純粋に疑問をぶつけられると、ヘルガは少しだけ呆れながらも半分だけ肯定する。
「中にはそう言う正面戦闘が強い奴が居るのも間違いじゃない。だけど、そう言うのが出来て当たり前と言う認識は間違いだから、常識として考えない様に」
やんわりとセレスティア王女の認識を修整する様に答えると、ヘルガは話を戻す様にしてセラスに尋ねた。
「貴女が仕留めようとした群れは20以上居た。で、正面から仕掛けて乱戦になったら視界の外……後ろや横から殺られる。そう判断したのよね?」
ヘルガに問われると、セラスは驚きと共に肯定する。
「その通りです」
「で、見た所……貴女は騎士達みたいな頑丈な鎧兜を身に纏ってない。でも、腹や胸。背中は安物の革鎧で守ってる。だけど、頭を守ってない。そんな装備で正面戦闘仕掛けて乱戦に持ち込んだらバカ丸出しの間抜けな死を迎えてしまう。そう言う理由もあるわね?」
ヘルガが自分の装備を分析する様に問えば、セラスは益々驚きながらも肯定する。
「その通りです」
「で、見た感じとして動き易さを優先してるのかしら?後、武器を見ても正面戦闘を仕掛ける様な組み合わせじゃないわね」
専門家として分析すれば、セレスティア王女は此処で漸く気付いた。
「つまり、最初から正面戦闘を考えてない装備と言う事なのですか?」
「そう。だからこそ、正面戦闘を避けざるを得なかった。まぁ、騎士みたいに重装甲に身を包んでるなら、正面戦闘を仕掛けて乱戦に持ち込むのもアリといえばアリなんだけど……防具を過信して死ぬ奴も珍しくないけどね」
身も蓋も無い世知辛い現実で締め括ると、先に休んでいた2人の護衛がヘルガに交代します。そう告げると、ヘルガは休憩を取りながら続きを語る。
「話が色々と脱線したけど、セラスさんは自分の戦い方をキチンと持ってる。で、ゴブリン達の数の多さも相まったからこそ、自分の戦い方を変えずに地道に仕留めていくのを選んだ」
「そうです」
セラスがまたも肯定すると、セレスティア王女はセラスの戦い方を尋ねた。
「セラスさんの戦い方と言うのは?」
「私の戦い方は基本的には正面戦闘は極力避け、敵の後方や側面から奇襲すると言う軟弱な戦い方ですよ」
自分を卑下する様にセラスが言うと、ヘルガは少しだけムッとした様子で問うた。
「それ、私や貴女と同じ様な立ち回りする連中に喧嘩売ってる?」
「そう言う訳じゃ……」
しどろもどろに言葉を返せぬセラスにヘルガはハッキリと言う。
「あのね。正面から仕掛けるばかりが戦いじゃないわ。勝つ為に自分の取れる手段を全て叩き付け、立ち回るのが戦いなの……で、貴女は勝つ為にその戦い方を選んだ。だからこそ、胸を張りなさい」
その言葉にセラスは少しだけ救われた様な気がした。
そんなセラスの事を聞く様にセレスティア王女はヘルガに自分の認識が合ってるのか?確認する様に尋ねる。
「つまり、セラスさんは勝利して生きて帰る為にその様な戦い方をなさってる。そう言う事でしょうか?」
「その認識で問題無いわ。さて、さっき言ったのが答えなんだろうけど、セラスさん……貴女、群れから離れた2、3匹を始末してる最中に叫び声を上げられたから慌てて逃げる羽目になった。それで合ってるかしら?」
改めて問われると、セラスは申し訳無さそうに肯定する。
「そうです。最後の1匹を仕留めようとした矢先に叫び声を上げられてしまい、それを聞き付けた群れが追い掛けて来たんです」
セラスが正直に認めると、ヘルガは呆れ混じりに言う。
「大方、群れから離れてない所つうか近くで仕掛けたんでしょ?叫び声って地味に遠くまで響くのよね……」
そんなヘルガの言葉にセレスティア王女は学術的な好奇心から尋ねた。
「ヘルガ様。その場合はどうすれば良かったのですか?」
その問いを聞くと、セラスは真剣な面持ちで耳を傾ける。
そんな2人に対し、ヘルガは教師の如く答えた。
「簡単よ。その孤立したのが群れから遠く離れるまで静かに追い続ける。で、叫ばれても聞こえなさそうなのも含めた離れた距離まで来た所で仕掛ける……コレに尽きるわね」
ヘルガの語った答えは実にシンプル極まりないモノであった。
そんな答えに2人が「そんな事で良いの?」と、言う様に困惑気味な面持ちとなると、ヘルガは悪怯れる事なく言う。
「そんなんで良いのよ。勿論、仕掛ける前に周囲を見廻して安全を確認も忘れない様にする事も大切よ」
ヘルガが自分の戦い方を肯定するばかりか、自分よりも簡単に最適解を出す様子にセラスは驚きよりも尊敬の念を覚えた。
そんなセラスにヘルガは自分の中にある疑問をぶつけた。
「こんな事を聞くのも何なんだけど、セラスさん……貴女、何で未だ黒曜なの?」
「え?」
その問いにセレスティア王女が間抜けな疑問の声を漏らすと、セラスは何と答えるべきか?悩んでしまう。
そんなセラスに対し、ヘルガは言う。
「黒曜は冒険者として2年務め、その間の素行が悪くなければ誰でもなれる。だから、黒曜になった奴等の大半は正直言って、貴女の様な慎重かつ堅実な立ち回りをしないわ……まぁ、中にはそう言う立ち回りを学んで、する奴も居るけどさ」
其処まで言うと、ヘルガは一息入れてから更に続けた。
「で、貴女の立ち回りを聞いてたけど明らかに黒曜程度の駆け出しには合わないのよ……貴女の立ち回りが良過ぎるって意味で」
ヘルガが語った言葉にセラスは観念した様に答えた。
「ヘルガ様の仰有る通りです。私は冒険者になって4年目です」
セラスは正直に自分が冒険者として4年勤めている事を答えると、更に続ける。
「ですが、幸運にも恩師である方の計らいで学院に通う事になった関係で私は昇級審査の誘いを断らざる得なかったんです」
「成る程。だから、立ち回りがベテランのソレだった訳ね」
其処で引っ掛かっていた疑問が解決すると、セレスティア王女はセラスに驚きを露わにすると共に善意も含めた本心から願った。
「セラスさん。私と一緒に研究課題をしてみませんか?」
「え?」
「セラスさんという常識の範囲に収まる冒険者の知識と経験は私にとって貴重なモノ。ですので、私の我儘で申し訳無いですが、是非とも私の研究課題に付き合って戴けないでしょうか?」
セレスティア王女が本心から願うと、セラスはどうするべきか?悩んでしまう。
そんなセラスに対し、ヘルガは他人事の如く背を押した。
「折角なら引き受けなさいな」
「でも、私の様な者がセレスティア様の研究課題に携わるのは分不相応です」
平民として自分の分を弁えているが故、セラスは辞退しようとしていた。
そんなセラスにヘルガはまたも他人事の如く言う。
「ソレを引き受けて終わらせられれば、貴女は集中して稼ぎに精を出せるわよ」
「え?」
思わぬ言葉にセラスが間抜けな声を上げると、ヘルガはメリットを語る。
「単独でゴブリンの群れ退治を請け負うなんてバカな真似をしてるって事は金を稼ぎたいからでしょ?なら、その研究課題に何日か付き合って終わらせたら、残った夏休みの期間を荒稼ぎに使えるじゃない」
その発想とセラスの思惑にセレスティア王女は苦笑いをしながらも、ヘルガの率直かつ粗野ながらも高い知性に感心してしまう。
そんなセレスティア王女を他所にセラスは考えると、覚悟を決めた様に答えた。
「セレスティア様のお望みに適うよう最善を尽くさせて戴きます」
「ありがとう御座います」
セレスティア王女が礼儀正しく感謝すれば、ヘルガはセラスに善意から言う。
「昇級審査受けれるなら受けときなさい。そうすれば、受けれる仕事も増えるし、稼ぎも少しは増えるから……」
「前向きに考えておきます」
無難な答えが返って来ると、ヘルガはそれ以上の事は言わなかった。
そんなヘルガにセレスティア王女は納得した様子で言う
「御兄様から聞いた通りの御方なのですね」
「御兄様?あぁ、トミーね……トミー、私の事なんか言ってたの?」
「御兄様はヘルガ様は普段は物臭で面倒臭がり。それなのに妙に面倒見が良い方と仰有られていましたわ」
聞き慣れぬトミーなる名前にセラスは首を傾げる。
だが、セレスティア王女の兄と言う言葉を直ぐに思い出せば、驚きを露わにしてしまう。
そんなセラスを他所にヘルガは立ち上がると、2人に告げる。
「愉しい話を続けたいのは山々だけど、移動再開するわよ」
その言葉と共に2人が立ち上がれば、ヘルガは護衛の長として護衛達と共に2人の警護をするのであった。




