王女様の取材
セレスティア王女が王都の営みや行き交う人々を興味深そうに見回しながら歩む。
そんな王女を護る様に先頭を進む護衛の1人は前方と左右を然りげ無く。なれど、一切の隙無く見廻しながら歩み、セレスティア王女の傍らを歩むヘルガは前方と左右、更には周囲の建物を見廻して警戒。
そして、後方に立つもう1人の護衛は時折、後方を然りげ無く確認しながら左右を入念に見廻していく。
すると、セレスティア王女がヘルガに尋ねた。
「ヘルガさん。この護衛の陣形にはどう言う意図があるんでしょうか?」
好奇心と共に尋ねられると、ヘルガは警戒を続けながら各役割を答える。
「正面は前方とその左右を警戒し、接敵した際には私達にソレを大声で通知。万が一の際は盾となります」
その答えにセレスティア王女は驚きを露わにしてしまう。
だが、ヘルガは気にする事無く続ける。
「後ろは私の警戒の補助と後ろから来る襲撃者対策です。無論、万が一の際には正面を護る者と同様に盾となります」
ヘルガが答えると、セレスティア王女は最後に残るヘルガの役割を尋ねた。
「では、ヘルガさんの役割は?」
「正面を進んで警戒する者の補助が主です。ですが、万が一の際は貴女の盾となります」
細かくは答えずに大まかな役割を答えれば、聡明なセレスティア王女は自分の為に3人が自分の生命を投げ打ち、護ってくれる事を理解した。
それ故に申し訳無い気持ちが湧いてしまった。
「私の為に生命を賭すのですね」
「ソレが私や彼等の仕事なのです。もし、申し訳無い気持ちがあるならば、勝手な行動は慎んで戴けると大変助かります。あ、何かしらの要望がある際は一声掛けて貰えると、やはり助かります」
「解りました」
セレスティア王女が真剣な面持ちで承諾すると、ヘルガは少しだけ護衛任務の難易度が下がった様に感じた。
この娘、キチンと理解して本心から従ってくれる。
他の護衛頼んでくれる連中も見習って欲しいわ。
過去に護衛した者達と比べ、セレスティア王女は護衛対象として優秀と言えた。
それ故にヘルガは護衛を頼んで来る者もセレスティア王女を見習って素直に従って欲しいと、高望みをしてしまう。
そんなヘルガを他所にセレスティア王女はメモ帳とペンを手にすると、尋ねる。
「ヘルガさんは何故、冒険者となったのですか?」
取材する様に尋ねられると、ヘルガは警戒しながら答えた。
「面白そうだったからよ」
「面白そうですか?」
返って来た答えにセレスティア王女が首を傾げると、ヘルガは続ける。
「見ての通り、私はエルフでしょ?故郷の森は退屈だった。だから、外の世界に飛び出して色んな所へ行きながらもお金を稼げる冒険者になったのよ」
正直に冒険者になった理由を答えると、セレスティア王女はその答えをメモ帳に認めていく。
メモ帳に認め終えると、セレスティア王女は次の質問をぶつけて来た。
「ヘルガさんの持ってる武器である銃とやらは、どう言う物なのですか?お兄様からは、ヘルガさんの持ってる武器が当たり前の世が訪れれば剣士や魔法遣い等が居なくなると聞いたのですが……」
その問いに対し、ヘルガはどう答えるべきか?悩んでしまう。
一頻り悩み、どう答えるべきか?決まると、ヘルガは答える。
「トミーの言った事は間違いではないんでしょうね。私がスキルで召喚出来る異なる世界の武器である銃は、使い方如何で凄腕の戦士や魔法使いを簡単に殺せると言う意味では」
肯定する様な答えにセレスティア王女が益々驚くと、ヘルガは更に続けた。
「でも、銃も剣や魔法と一緒で一朝一夕で身に付く技術じゃないわ」
「そうなのですか?お兄様は誰でも扱えて、誰でも簡単に相手を殺せる武器と仰られていたのですが……」
セレスティア王女がトミーから聞いた言葉を思い出す様にしてヘルガの答えに疑問を呈すると、ヘルガは否定しなかった。
「確かにトミーの言葉も間違ってないわ。幼い子供や老人であっても歴戦の猛者を殺せる力を得られると言う意味ではね」
肯定する様に返すと、ヘルガは「でもね」そう前置きしてから更に続ける。
「さっきも言った様に銃があるだけでは本当の力を発揮出来る訳じゃないわ。整備を含めた使い方を学び、戦い方も知らなければならない。それに……」
「それに?」
「銃と言うのは使い手が独りじゃ、真の恐ろしさと強さを発揮出来ないのよ」
ヘルガが本心から正直に忌憚のない持論を答えると、セレスティア王女は首を傾げてしまう。
「お兄様を助けた時、貴女は独りでした。貴女は独りで叛乱を企てた領主の軍を銃で退け、お兄様を助け出した武勇を聞き及んでいるからでしょうか……貴女の言葉が矛盾している様に感じてしまいます」
本心から疑問を覚えたセレスティア王女が言えば、ヘルガは正直に当時の事を答えた。
「正直言うと、あの時は運が良かっただけなのよ。相手は数百、下手すれば千の兵を差し向けていて、私は実質独り……今でも生きて帰れたのが驚きだし、その理由も私自身解ってない奇跡みたいなものなんだから」
誇るべき武勇を持つヘルガの口から英雄とは似つかわしくない答えが返って来ると、セレスティア王女は自分の中にあったヘルガと言う兄の命の恩人にして、冒険者として最高位の白金等級を持つ凄い存在のイメージが崩れてしまった。
だが、ヘルガは気にする事無く話を戻す様に続ける。
「話を戻すけど、英雄譚として語られる程の大きな活躍をした戦士や魔法遣い。それに勇者にだって仲間が居るでしょ?」
ヘルガから突然問われる様に言われると、セレスティア王女は肯定する様に頷く。
「言われると確かに物語となった英雄には素晴らしい仲間が居て、その仲間と共に活躍してます」
「それと同じよ。それに……」
「それに?」
「貴女の護衛だって、そう……私独りで貴女を護り切るなんて不可能と言っても過言じゃない。だから、私はトミーに願ったのよ。人手を寄越せと……」
ヘルガの言葉にセレスティア王女はハッとした様子で理解すると、前を進む護衛を見て、後ろを振り返って自分の後ろを警戒する護衛を見れば納得。
そんな納得した様子のセレスティア王女にヘルガは言う。
「人間、独りで出来る事は多くない。寧ろ、少ないと言っても良い……ソレは銃に限らず、全ての事で言えるわね」
「成る程」
納得した様子のセレスティア王女にヘルガは補足する様にして締めた。
「でも、だからといって出来る事を増やさないのは論外よ?何も出来ないよりは、出来る事を1つでも多くする方が結果的には生きて帰れる可能性が増すし、仲間を助ける一助になるし、仲間の負担も減らせるからね」
その締め括りにセレスティア王女は益々納得した様子になると、ヘルガに対して少しだけ驚いていた。
この方は武勇だけの方じゃない。
本質を見極めるだけの高い知性や視点も持っている。
お兄様が深く気に入るのも納得せざる得ない。
トミーがヘルガの事を大層気に入り、対等の友として扱ってる理由の一端を深く理解すると共に納得したセレスティア王女は次の話題に移る様に尋ねる。
「ヘルガさんの冒険の話を聞かせて下さい」
「私の冒険?そうね……一昨日まで居たシレーラスの事でも良いかしら?」
シレーラス。
未だに踏破されていないダンジョンの名を聞くと、セレスティア王女は興味津々な様子で「是非お願いします!」そう興奮気味に頼んで来た。
そんなセレスティア王女にヘルガは自分が3日掛けて27階層の途中まで探索した事を語ると、セレスティア王女はふと思った事を尋ねる。
「ヘルガさんなら其処から更に先まで進めると思うのですが、何故に27階層の途中で引き返して帰ったのですか?」
トミーから聞いたヘルガの実力ならば、更に奥へと進む事が出来た筈。
そう感じるからこそ、純粋に疑問を覚えた。
そんなセレスティア王女にヘルガは正直に答える様に語る。
「貴女の言う通り、更に奥まで進む事が出来たかもしれない。だけど、食糧と水の残りが心細い状態の中で無理は出来なかった」
「つまり、食糧と水に余裕があったら進んでいたと?」
「半分はね」
ヘルガが半分だけ肯定すると、セレスティア王女は残り半分に触れた。
「それ以外にも退いた理由があるのですか?」
「冒険者というのはね、結果がどうあれ、生きて帰って来るのが仕事なのよ」
その意味が少し理解出来ずに首を傾げると、セレスティア王女は素直に尋ねた。
「と、言いますと?」
「シレーラスは未だに誰も踏破してないダンジョン。私が到達した27階層の途中は現段階に於いて最高の到達点でもある」
其処で言葉を留めて一息入れると、ヘルガは続ける。
「その27階層の途中までの大まかな道筋を私はマッピングで作った。更に其処から先もある事も判明してる。だからこそ、敢えて戻る事を選び、27階層の途中までの道筋と其処から先も存在する事を冒険者ギルドに報告した。そうする事で冒険者ギルドは私のマッピングを元に大まかながらも地図を作り、他の冒険者達に情報共有出来る様になった」
「つまり、他の冒険者達の為なのですか?」
「半分はね。でも、一番の理由は死にたくないから……と、言うべきね」
死にたくない。
そんな答えをヘルガから聞くと、セレスティア王女はまたも意外に感じてしまった。
ヘルガはそれを察すると、当然の様に告げる。
「私だって死ぬのは恐いわ。死んだら、元も子もないから……でも、その御蔭でギルドは27階層の途中までの道筋を含めた情報を得る事が出来て、その情報を腕自慢の冒険者達に与える事が出来た。そうする事でシレーラスと言う未踏破のダンジョン攻略成功の可能性が増えた」
語られた言葉にセレスティア王女は聡明であるからこそ、理解と共に納得した。
同時に自分の認識が間違っていた事も知った。
「冒険者と言うのは危険に率先して突き進むものとばかりに思ってましたが、実際は違うのですね」
「違うと言うよりは半分正しい。そう言うべきかしらね……私の考えや遣り方は」
半分だけ正しいと返すと、ヘルガは更に続けて語る。
「大概の冒険者は貴女の言う通り、危険に自ら率先して突き進む。で、運の無い奴や無謀な奴は死ぬ。中には運良く生きて帰って栄誉や富を手にする奴もいるけど、大概は死んでる」
現実を解らせる様に事実を語ると、セレスティア王女は真剣な面持ちで続きに耳を傾けていく。
「さっきも言ったけど、死んだら元も子もない。臆病と言われたら、否定しないけど、結局の所として冒険者として長生きしたいなら、臆病と言われようとも慎重かつ用心深く立ち回らないとならない。例え、それが敗北を意味するにしてもね」
「敗北を意味するにも関わらず、生きて帰る事を選ぶのは何故なのですか?」
「単純な話よ。生きていれば、次がある。で、その次で勝てば、敗北を帳消しに出来る……ただ、それだけの事でしかないわ」
そう答えると、先行してる護衛が王都を取り囲む城壁にある門が見えて来た事を伝えて来た。
それにヘルガが「了解」そう返すと、セレスティア王女は会話しながら纏めたメモを見詰めて冒険者と言うのは何なのか?改めて疑問に感じてしまう。
そんなセレスティア王女を他所に王都を後にすれば、ヘルガは2人の護衛とセレスティア王女を連れてソグルスへと歩みを進め続けるのであった。




