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新型攻撃原潜

 マホガニーの赤茶色の大きな扉の前で青色の作業服の袖を見つめながら扉を3回ほど軽くノックする。

 中から若い女性の声が扉越しにくぐもって帰ってきたのを確認して、真鍮製の磨き込まれたノブを回して中に入ってから、右肘を真横に張りながら右手先を眉の前に持っていき、敬礼を行う。


「天城イオリ軍曹、及びリデル護衛任務に着任していた3名、帰還致しました」


 その報告を聞き遂げると目の前のレミリア・レキシントンは、手にしていたタブレットを執務机の上に置き、顔を上げてこちらの目を見上げてきた。自分はそれから目を上にそらし、両足を肩幅まで開いて両手を後ろで組んで直立不動の姿勢で彼女の言葉を持つ。


「任務ご苦労様でした。レポートも読みました。問題はありませんでしたよ」

「恐縮です」


 まずはじめに実務的な前口上が彼女から告げられる。しかし、ここで執務室からは出ない。本来、この場にはこの任務の専任部隊の最先任下士官であるアデルがいるべきだが、眼の前の彼女が直接自分を指名してきたということはやはり、あの事でしかないだろう。


「さて、本題に入りましょう」


 予想していた展開となり、わずかに構える。これは部隊、シー・ボーイだけの問題ではない。ファントム大隊という組織、果ては諸国家に対しても重大な脅威となる問題である。


「あなたが搭乗したFA18F 4号機は先の戦闘終了後、高度30000フィートを巡航中に突如FCSの照射を受け、SAM二発の攻撃を受けた。幸いにも被弾は無し。間違いありませんね?」

「はい、その内容で間違いありません」


 きっぱりとそう答えると、彼女はあごに右手を当てて視線を下げる。


「その後、目視した敵潜の形は?何か特徴的な構造物は?」

「いえ、特に。距離が遠かったのではっきりとは見えませんでしたが、至って普通の現代型原潜と変わりありませんでした」

「なるほど……ということは恐らくVLS搭載艦……もちろん喫水下の構造に何かある可能性もありますが……」


 そうして彼女は独考どっこうへとる。その目は執務室の隅へと向けられ、かといって焦点も合っていない。


「水面下での活動が主たる原潜にVLS……攻撃原潜だとしても中距離SAMは過剰能力……しかもわざわざ搭載していたということは既に作戦任務に就いている……個艦防空システムで対応する以上の脅威の下で戦闘する必要がある原潜……」


 そこまでくると、彼女はハッとしたように目を見開く。


「まさか、SSCVN-1のような強襲揚陸能力が……?もしくは……潜水艦隊でも作ろうとしているのかしら……?」


 彼女の表情は段々と深刻になり、言葉数も少なくなってきて、姿勢が前のめりになって前後に揺れ出す。その様子から、彼女は相当な熟考に入っていることが分かる。


「ありがとうございます、アマギ軍曹。ここからは私が処理しておきます。……、どうやら、もっと重大なことになりそうだから」

「はっ、了解です。では、これで失礼します」


 暗い顔をする彼女に向かって、気をつけから敬礼をしてから執務室を退出しようとすると、後ろから彼女に引き止められた。

 振り返ると、彼女は無理そうに笑顔を絞り出してこう言った。


「姫殿下の所にも顔を出してあげて。今は状況が分からなくて不安がっているだろうし、あなたの方が彼女も安心できるだろうから」

「はっ、了解です」


 直立不動に直してからそう答えると、彼女は疲れたような苦笑いをした。


「命令じゃないのよ」


 × × ×


 彼からの報告が本当だとすれば、私たちは今この瞬間から認識を変えなければならない。その情報が、“それ”が存在するということが、この戦局においてどれほどの意味を持つのか、いくら思考を重ねても推し量ることはできない。

 だが、ただ一つ確かなのは、連中は確実にヤル気で、未知の一手を、私たちの予想だにしない展開を持ち合わせている。

 一つ目の仮説。あの原潜がSSCVN-1と同じ強襲揚陸原潜であるということ。長く水上に身を晒さなければならない強襲揚陸原潜は、必然的に個艦防空システム以上の防空能力が求められる。だから中距離SAMを運用することは十分考えられることだ。

 だがしかし、彼の証言では目立った艦上構造物はなかった。ということはつまり、何かを射出する、または水上に出すためのカタパルトやハッチ、エレベーターなどは存在しないということになる。SSCVN-1のようにカタパルトを格納し、ハッチを甲板に埋め込んでしまえば可能だろうが、可能性は低いだろう。SSCVN-1は現代技術の粋を凝縮した艦だ。そのため、単価が小国家の国家予算の半分にも匹敵してしまった。もちろん、これは隅から隅まで先端技術を応用したせいであり、強襲揚陸という目的だけで言えば、費用の抑えようもあったのだが、それでもおいそれと建造できるような艦ではない。

 それほどまでの巨額の金の流れを秘したまま、どこの諜報機関にも気取られずに建造してのけたとは考えにくい。

 二つ目の仮説。潜水艦というよりは潜水して身を隠すことのできる水上艦であるということ。敵に気付かれぬ間に接近し、必殺の間合いからSSMの飽和攻撃を浴びせかける。そんな戦術が可能なのであれば、ロシアのドクトリンが、潜水艦の戦いが大きく変わる。

 回避不能の間合いから放たれる大量のSSMに、密集陣形を取る水上艦隊はなすすべもなく壊滅させられる。技術的にはまだ試験段階プロトタイプだろうから不完全なものであろうが、完成してしまえば重大な脅威となる。

 そして、パッシブソナーのみ使用していたせいでもあるが、例の潜水艦はそれなりの静音性を獲得しているのは確実だった。

 どちらにせよ、警戒が必要か。


「はい、少将に繋いで下さい。ええ、重要な要件です」


 私は子機を手に取った。

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