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反転攻勢

 先ほどの加速とは比べ物にならないほどの、本物のジェットエンジンによる猛烈な重力加速度が胸を締め付けてくる。コンマ数秒後に前輪がカタパルトのレールから豪速で放たれ、ガクンという衝撃と共に機首が空へと向き、キャノピーからの視界から甲板が消え、蒼一色に染まる。

 海面からわずか3メートルの高さを、スーパーホーネットが駆け抜ける。ジェットエンジンの猛烈なジェットにより海面が切り裂かれ、しぶきによるV字の双璧が築かれていく。

 主翼によって生み出される揚力に抗い続けている機体が、ガタガタと震え、安定しない。スロットルを全開にしたまま、操縦桿を引いて高度を100メートルまで取る。

 先行していたアデル機の左後方に機体を寄せて付けた。


『ライノ2、第一目標は駆逐艦(デストロイヤー)二隻、第一目標を攻撃後、第二目標の巡洋艦(クルーザー)を同時に攻撃する。送れコピー


 ヘッドセットからくぐもり、音質が劣化したアデルの声が聞こえてくる。アデル機の方を見やると、アデルが左手で遠くに見える敵艦隊を指差していた。


「ライノ2、了解(ラージャ)

『ライノ2、これより離散。その後の判断は貴機に任せる。死ぬなよ』

「ライノ2、了解。幸運を」


 そう返すと、アデル機は遠くに小さく見える巡洋艦の方向へ機首を向け、機首を上げて陽光を背にして高空に消えていった。


「俺らも行くぞ、イオリ」

「ああ」


 速度計を見て、十分な速度に達していることを確認してから操縦桿を引く。シートが下から自分の尻を突き上げ、背もたれと共に高空へと向けて体を押し上げてくる。


「ゴッド・スピード。クレマンソー」

「ああ、生き残れるといいな」


 クレマンソーの返事はどこか浮ついたものがあった。


 × × ×


「攻撃隊、全機発艦しました!」


 甲板を管理する艦橋要員の男が叫ぶ。すると同時に、けたたましい警報音が艦橋内に鳴り響く。


「敵巡洋艦よりレーザー照準されています!」

「レーダーに感!SUM(対潜ミサイル)、4!」


 ロシア艦隊の動きは素早い。こちらが攻撃隊を発艦させている間に照準し、もう対潜ミサイルを撃ってきた。


「電子戦用意!」

「イルミネーター起動、ジャミング始め!」


 艦橋要員の一人が叫び、液晶パネルに表示されたUIに触れる。


「トラックナンバー1678ロスト!1677及び79、80更に接近!」


 艦橋前方の液晶パネルに映し出された対空レーダーの画像が更新され、四つあった赤いアイコンのうちの一つが消える。


「魚雷を展開される前に落とすのよ……次、シースパロー撃ち方始め!」

「1番から3番VLSハッチ解放」

「CIC指示の目標、トラックナンバー1677、79、80。ESSM撃ち方始め」

「リコメントファイアー!」


 CICと一体化した艦橋にいた射撃員と射撃管制員が直ぐに対空ミサイルの発射用意を整え、打ち上げる。艦橋からは外部の映像は見ることができないが、しばらくしてレーダーを映したモニターに三つの青いアイコンが出現する。


「インターセプトまで2秒!」


 射撃管制員がそう言った後、僅かな間が訪れる。その間にレーダーを映したモニター上で赤と青のそれぞれ三つずつのアイコンが互いに向かって距離を詰めて行く。

 モニター上だと僅かな距離でしかないが、現実では接近する敵対潜ミサイルと50キロメートル以上離れている。


「マークインターセプト!」

「目標全てロスト!……レーダーに感なし、撃墜したと思われる!」


 艦橋の空気が一瞬緩む。しかし、レミリアは間髪入れずに次の指示を繰り出した。


「下げ舵10、急速潜航!敵戦略原潜との戦闘に移行!」

「下げ舵10、急速潜航!」


 すかさずにグラーフが復唱する。


「下げ舵10!全バラスト注水」

「第四戦速、宜候!」


 航海士と航海科の要員一人が言うと、シー・ボーイは今度は艦首を下にして海の中へと潜りだした。艦内の人間全てが艦尾へと体を傾ける。

 一分もしない内に、シー・ボーイは完全に海面下へと姿を消した。ロシア連邦海軍の巡洋艦と駆逐艦二隻はこの潜水艦への攻撃を諦め、その任を同じく海面下の戦略原潜に託し、その狙いを高空から忍び寄る二機の戦闘機に変えた。


 × × ×


 雲ひとつない蒼天を駆け抜けていく。視線の先には先頭を航行する巡洋艦と、間隔を大きく開けて航行する二隻の駆逐艦がいる。高度30000フィート、飛行高度としてはそこまでも高くないが、狙うべき敵艦の姿ははっきりと見える。

 狙うべき、この両翼の下に懸下したハープーンミサイルを当てるべき、殺すべき相手。その内の一隻、巡洋艦の後方左にいる駆逐艦を見据え、操縦桿を握り、ラダーを調節する。速度は毎時752km、徐々に増え続けている。液晶パネルに表示されたレーダー画像では、目標との距離は147kmと表示されている。

 懸下しているAGM84Jの射程距離は124km。しかし、射程距離に突入した瞬間に発射しても、必中を狙えるかはわからない。100kmのラインまで耐えきってみせる。

 HMDヘッドマウントディスプレイに緑色の数字で表示された速度が毎時760kmを超えた。目標の駆逐艦まで接近する間、ひたすらにレーダーと周辺の空に目を凝らさなければならない。既に敵巡洋艦の対空ミサイルの射程内に入っている。敵艦の僅かな所作にさえ気を配らなければ、初動が遅れて堕とされる可能性がある。


「アラート、方位337!SAM四発!」


 コックピットに響き渡るアラート音と同時に、クレマンソーが叫ぶ。レーダーを見れば、敵巡洋艦のアイコンから二つの赤いアイコンが現れ、それぞれ別の方角へと直進していた。二発の進路の延長線上にこちらの進路の延長線が被っていた。そしてもう二発はアデルとマイクの機体の進路の延長線目掛けて飛翔していた。


「こっちは二発だけだ」


 アデルはアデルで対処するから放っておいても問題ないだろう。今は自分の喉元を目掛けて飛んでくるナイフに集中せねばならない。

 今、この機体の両翼下の11のパイロンには、四発のハープーンミサイルと、中距離AAMスパロー五発、短距離AAMサイドワインダーが二発、両翼端に懸下されている。


「クレマンソー、敵SAMを目視した」

「ああ、俺も見つけた」


 HMD上でオレンジ色のひし形が被さって見える敵対空ミサイルは、この機体の正面の方からこちらに向かって真っ直ぐに飛翔してきている。これならば後席のクレマンソーが敵ミサイルを見続けるだけで敵ミサイルを捕捉し、スパローを撃つことができる。これというのも、米軍が開発したJHMCSのおかげだ。


「敵ミサイルとの距離、119」


 このスパローは、キーロフ型のS300Fフォールト防空システムの長距離SAMよりも射程が短い。今回のミッションでは、そもそもの敵との距離が150kmと比較的近く、長距離AAMは機体重量を増すだけであったために搭載されなかった。

 しかし、このスパローの射程は70kmだ。敵ミサイルを捉えるにはもっと引き付ける必要がある。幸いにして、敵は三発目のSAMをまだ発射していない。このまま引きつけ、射程内でスパローを撃つ。

 敵ミサイルとの距離が100kmを切る。操縦桿に当てた右手とスロットルに当てた左手を動かさず、静かにその時を待つ。この時に慌てれば、呼吸を乱し、ミスの原因になる。

 被捕捉の警告音が鳴り続けているが、無視して前方の敵ミサイルを睨みつける。

 敵ミサイルとの距離が80kmを切った。あと少しでスパローの射程内である。僅かに呼吸が上がる。自然と操縦桿とスロットルを握る手に力が入るのが感じられた。それに気づいて、一度操縦桿とスロットルを握り直す。だが、握り直したその感触は、握り直す前とは違い、僅かな違和感がした。

 一度、大きく息を吸い直して素早く他の空域を見回す。酸素マスクのせいで音がくぐもり、ダースベイダー卿のような音がした。何度もシミュレートして、何度も模擬空戦で経験して、実戦でも生き残ってきた状況シチュエーションだ。

 今更恐れることは無い。ただただ、堅実に事に当たる。それが生き残る最大の秘密だ。


AIM7スパロー発射ファイア!」


 敵ミサイルとの距離が70kmを切る。同時にクレマンソーが叫び、液晶パネル横のスイッチを一つ押した。両翼付け根に懸下された二つのスパローが点火し、炎を噴き出し始めたあと、宙に放り投げられて蒼天を一直線に駆け抜けていく。コックピットからは、両翼の付け根の下からスパローが飛び出してきたように見えた。

 二つのスパローは機体の進路の延長線から僅かに左に逸れながら、敵ミサイルに向かって駆け抜けていく。そして、やがて目線の先の空中で二つの爆発が起きたのが見えた。


「Good shot」


 クレマンソーに向けて言う。クレマンソーがサムズアップした姿がコックピットに取り付けられたバックミラーに映った。

 そうこうしている内に、敵駆逐艦との距離が100kmを切った。十分にハープーンの射程内である。


「AGM84J、発射ファイア!」


 右翼下、翼端から数えて二番目のパイロンに懸下されたハープーンミサイルに火が点き、直後に飛翔していく。


「クレマンソー、時間差で二発目を撃て。今度は低空からやる」

了解ラージャ


 ハープーンミサイルのロケットエンジンが描く軌跡を見やりながら、操縦桿を倒し、左にバンクしながら降下し始める。最初の一発は敵SAMを引き付けるおとりであり、本命は二発目だ。このミサイルは必ず当てる。その為、レーダーが捕捉しづらい低空からミサイルを撃つ。

 HMDに表示された高度計は現在、1000フィートにまで下がっている。その反面、速度が亜音速にまで近づいている。

 猛烈な速度で飛行しているせいで、機体の通った後の300m下の海面に主人のいない航跡が出来上がっていた。


「AGM84J、発射ファイア!」


 左翼、翼端から二つ目のパイロンからハープーンミサイルが撃ち放たれる。直後、操縦桿を引き上げ、高度を上げる。亜音速下で機首を引き上げたせいで、猛烈な重力加速度が襲いかかってくる。それに抗いながら、上空を睨みつけ、高度20000フィートまで駆け上がる。そこから機首を水平に戻し、目標駆逐艦と、二発のハープーンミサイルを監視する。

 案の定、初弾に向けてSAMが発射される。まず巡洋艦から一発の中距離SAMが発射されたが、初弾から逸れて僅か後方で爆発し、初弾は無事だった。次に駆逐艦から二発の短SAMが発射され、初弾の前後で命中し、初弾は空中で爆散した。

 しかし、二発目のハープーンミサイルがその間に接近し、近距離で急に高度を上げ、高空から敵駆逐艦の舷側目掛けて急降下ダイブする。

 敵駆逐艦の左舷にハープーンミサイルが突き刺さり、爆発する。黒煙が立ち上がり、高度20000フィートからもはっきりと見えた。同時に、奥の駆逐艦からも黒煙が立ち上がる。

 こちらのハープーンミサイルが直撃した駆逐艦は、左舷に傾きだしている。これではいずれ沈むか、転覆するだろう。

 ともあれ第一目標は達成した。次は残った巡洋艦の始末だけだ。

 ラダーを操作して、機首を左に回頭させ、敵巡洋艦の左舷側の船首を正面に据える。

 何者かと、目があったような気がした。その視線に乗せられた激しい憎悪と殺意に、冷たい殺意で応える。

 待っていろ、今殺す。

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