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タイル工が異世界転生して鏝一本で世界の崩壊を防ぎ、現場に帰ってきた話  作者: もしものべりすと


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第八章 半端を逃がす

壁の端っこに、薄い半端を残してはいけない。


 それが俺たちの仕事の最低限の矜持きょうじだ。


 ザール辺境の壁を直してから、俺は、この町に少し滞在することになった。


 国境砦の壁を見て、近隣の村や町からも、依頼が殺到していたからだ。


 俺は一日、ザールの町を、歩いて回った。


 奇妙なことに気づいた。


 町の建物の配置が、おかしい。


 道幅が、変な所で狭くなっている。建物と建物の間に、不自然な隙間がある。


 水路の流れが、建物の角で、急に方向を変えている。


 全体が、半端だらけだった。


「リネア、これは、なぜ、こんな配置になってる」


 俺は、同行していたリネアに尋ねた。


「ええと、特に、計画はないと思います。建てられた順に、建っただけなのではないでしょうか」


「割付け、してないのか」


「町の、ですか」


 リネアは、首を傾げた。


「建物に、割付け図が必要、という発想自体がないと思います」


 俺は、しばし考えた。


 現代日本でも町は計画的に作られる。区画整理、用途地域。


 異世界の町は自然発生的に人々が建てたいところに建てた結果、こうなっているのだろう。


 でもそれじゃ、効率が悪い。


 風通しが悪く、水はけも悪い。


「ヴァルト殿、提案があります」


 夕食の席で、俺は辺境伯に話を持ちかけた。


「町を、割付け直したいです」


「割付け、とは」


「タイル張りの考え方を、町に応用するんです。建物を、タイルに見立てる。芯墨を引いて、半端を逃がす」


 俺は、紙に簡単な図を描いた。


 ザールの町の、現在の配置。次に、改修案。


 メイン通りを芯墨にして、両端に、均等に、建物の半端を逃がす。


 水路を、まっすぐ通す。


 風の通り道を、確保する。


 ヴァルトは目を見開いた。


「これは、町を、新しく作るのと同じだ」


「ええ。半端をすべて逃がせば、町は、まったく違うものになります」


「だが、住民の家を、移動させることになる」


「ええ。なので、強制はできません。でも、計画案として、出しておきたい」


 ヴァルトは深く頷いた。


「やってみよう」


 翌日から、俺はリネアと一緒に、町の図面を引き始めた。


 現代日本のCADはない。だから、紙と定規と、目分量で、何度も何度も、線を引き直した。


 リネアは、驚くほど、手伝いがうまかった。


 古代の割付図を見続けてきたのか、半端を逃がす感覚を、本能的に持っていた。


「拓海様、ここの建物、十センチほど、東に寄せれば、水路が真っすぐ通ります」


「お、いいな。リネア、お前、才能あるぞ」


「いえ、私は、ただ、見たことがあるものを」


 リネアは、控えめに笑った。


 数日かけて、町全体の改修案ができた。


 ヴァルトはそれを公示した。


 住民は、最初は戸惑っていたが、辺境伯の信頼の厚さと、町の困りごと(水はけの悪さ、夏の風の通りの悪さ)が、計画通りに改善されると分かると、徐々に協力的になった。


 移動費用は、ヴァルトが負担することになった。


 半月で、町の改修が始まった。


 建物の建て直し、水路の整備、風の通り道の確保。


 一月ほどで、町は、見違えるようになった。


 活気が、明らかに戻ってきた。


 町の広場で、ある日、子供たちが、俺を取り囲んだ。


「ねえ、おじさん、見せてよ、あの『はたんを逃がす』ってやつ」


 俺は笑って、しゃがんだ。


 石畳の上に、チョークで、簡単な図を描いて、子供たちに説明した。


 子供たちは、目を輝かせて、聞いていた。


 俺は、ふと現代日本の現場を思い出した。


 権藤の声を、聞いた気がした。


「お前なんざ、明日にでも替えが来るんだよ」


 俺は立ち上がった。


 あの声は、今、ここにはなかった。


 代わりに、子供たちが、俺の手を引いて、走り回っていた。


 その夜、ヴァルトの居間で、俺は一人、酒を飲んでいた。


 暖炉の火が、静かに揺れていた。


「拓海様」


 リネアが、扉を叩いて入ってきた。


「ああ、リネア、座れよ」


「失礼します」


 リネアは、向かいの椅子に座った。


「拓海様、お聞きしてもよろしいでしょうか」


「うん」


「拓海様の、元の世界には、半端を、どうしていますか」


 俺は、しばし考えた。


「俺の世界では……現場では、半端を、できるだけ逃がす。でも、町全体は、もうずっと前から、計画的に作られてる。半端は、すでに、逃がされた状態だ」


「素晴らしい世界ですね」


「素晴らしいかな」


「はい」


 俺は苦笑した。


 あの世界には、権藤がいる。書類で人を縛り、現場を見ない管理職がいる。打診をサボる現場監督が、いる。


 半端は、別の形で、たくさんある。


 ただそれは、町の話じゃない。人の話だ。


「リネア」


「はい」


「半端を逃がす、ってのは、町だけの話じゃない。たぶん、人も、そうなんだ」


「人も、ですか」


「うん。誰かが、誰かを、半端な所に追いやらないように、芯墨を、ちゃんと引く。誰もが、ちょうどいい場所にいられるように」


「拓海様は、いつも、難しいことを、簡単に、おっしゃるのですね」


 リネアは、小さく笑った。


 俺もつられて笑った。


 その時、扉を叩く音がした。


 従者が、息を切らせて入ってきた。


「王都から、緊急の早馬です。中央聖堂の、主祭壇のタイルが、剥落しました」


 俺の手から、酒杯が、滑り落ちた。

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