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タイル工が異世界転生して鏝一本で世界の崩壊を防ぎ、現場に帰ってきた話  作者: もしものべりすと


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第七章 辺境の砦

辺境ザールの壁は、生きていた。


 叩けば、悲鳴のように鳴いた。


 ヴァルト辺境伯、リネア、グロウブ老、俺。


 四人で馬車を駆って、王都から北東へ三日。


 国境砦バルゾフは、岩山に張り付くように築かれていた。


「これが、夜になると、赤く光るのです」


 砦の城代は、青い顔で説明した。


 外壁は、巨大な石造りの上に、装飾モザイクタイルが帯状に張られていた。


 その帯のタイルが、夜になると、光を放つという。


 俺は、外壁の前に立った。


 昼間でも明らかにいくつかの目地から、薄い赤い光が漏れていた。


「グロウブ殿、これは、魔法の現象ですか」


「魔法ではない。古代の結界の余光だ。タイルが、悲鳴を上げておる」


 グロウブ老は低く言った。


「ここの壁には、千年前、ロウェン師の弟子たちが、結界を施した。タイルの一枚一枚が、結界石なのだ」


「で、それが、剥離しかけてる」


「そういうことだ」


 俺はハンマーを抜いて、壁面を、転がした。


 コロ、コロ、ポコ、ポコ、ポコポコポコ。


 全面、ほぼ剥離していた。


 しかも、剥離面の奥から、古代の結界術が漏れ出して、光と熱を生んでいる。


「これは、急ぐぞ」


 俺は、リネアに告げた。


「リネア、図面を出してくれ。割付け、最初の状態を確認したい」


「はい」


 リネアは、聖堂から持ってきた古代図面を、地面に広げた。


 砦の壁の割付図が、そこに、ちゃんとあった。


「ここの壁は、芯割りで、中心から放射状に張ってあるな。半端は、両端の上下に、均等に逃がしてある」


「はい」


「悪くない、いや、むしろ完璧な割付けだ。なら、剥離の原因は、施工側じゃない」


「では、何が」


「下地のコンクリート、いや、石材の劣化だ。千年経って、石が呼吸を始めて、上のタイルを押し上げている」


 俺はチョークで、剥離パターンを書き出した。


「直すには、剥離部分を全部剥がして、下地を再調整、その上で、密着張りで再施工する。振動を加えて、結界を再活性させる必要がある」


「振動?」


 グロウブ老が、片眉を上げた。


「ヴィブラート工法って言って、専用の振動工具で、タイルを下地に埋め込むように張る。古代の結界術と相性がいいはずだ」


「振動工具など、この世界にはないが」


「グロウブ殿、作れますか」


 俺は、グロウブ老を見た。


 老人は、長い髭を撫でた。


「振動を起こす魔導具なら、原理上、可能だ。半日、時間をくれ」


「お願いします」


 その夜、砦の壁は、明らかに光を強めていた。


 城代が、夜半に俺の部屋へ駆け込んできた。


「拓海殿、外を、外を見てください」


 俺は外に出た。


 壁全体が、赤く脈動していた。


 目地の隙間から、光が、噴き出していた。


 その光は、徐々に夜空を赤く染めていた。


「これは、何だ」


 俺は、光の源を見つめた。


 その時、暗闇の中から、いくつもの影が走ってきた。


 ゴブリンだった。


 光に誘われて、夜目の利く魔物が、集まってきていた。


「来たぞ! 守備兵、構えろ!」


 城代が叫んだ。


 ゴブリンは数十匹いた。


 兵士たちは弓を構えるが、明らかに数が足りない。


 俺は咄嗟に足元のモルタル桶を抱えた。


 昼間、明日の作業のために練っておいたものだ。可使時間内、まだ硬化していない。


 それを、近づいてきたゴブリンの顔面に、ぶちまけた。


 ゴブリンは目が塞がれて、ひっくり返った。


 俺は、クシ目ゴテをひっつかんで、転がるゴブリンの顔を、思い切り、横に薙いだ。


 ゴテのギザギザの先端が、ゴブリンの顔を、深く切り裂いた。


 ゴブリンは血を噴いて、倒れた。


「拓海殿、お下がりを!」


 兵士が叫んだが俺は止まらなかった。


 壁の補修中、邪魔されたら困る。


 モルタル桶を、もう一つ、別のゴブリンに投げつけて、転んだ所を、ハンマーで打診した。


 ポコ。


 ゴブリンの頭蓋が、見事に、剥離した。


 兵士たちが、唖然としていた。


 俺は、正直、現場の感覚で動いていただけだった。


 現場では、何が降ってくるか分からない。常に、足元の道具が、武器になる。


 ゴブリンは、後続の兵士たちが片付けてくれた。


 翌日、グロウブ老が振動魔導具を完成させ、俺は朝から作業に入った。


 剥離部分のタイルを剥がし、下地調整、ヴィブラート工法での再施工。


 密着張りで、振動を加えながら、タイルを下地にしっかり埋め込んでいく。


 古代の結界が、再活性するのが、肌で分かった。


 壁の脈動が、少しずつ、収まっていった。


 三日目の夜、砦の壁は、もう光らなかった。


 静かな、青い夜が、戻ってきた。


 ヴァルト辺境伯は城代と並んで、夜の壁を見上げた。


 それからゆっくりと振り向いた。


「拓海殿」


「はい」


 ヴァルトはその場で、片膝を、ついた。


「我が領を、貴公の名で呼びたい」


 俺は、慌てた。


「やめてください、ヴァルト殿」


「貴公は、我がザールを、救った。これは、辺境伯としての、私の感謝だ」


「いやいや」


「貴公は、断る権利はない」


 ヴァルトは片膝のまま、俺を見上げた。


 俺は、長く、ため息をついた。


 現代日本では、こんなことは、絶対に、起きない。


 でもここは、異世界だった。


 俺は、辺境伯の前で、小さく頷いた。

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