表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タイル工が異世界転生して鏝一本で世界の崩壊を防ぎ、現場に帰ってきた話  作者: もしものべりすと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/20

第十六章 世界の打診

聖堂の床全面に墨出し線が引かれた。


 世界の地図が、現場図面に変わった瞬間だった。


 五日目の朝、いよいよ再施工が始まった。


 俺はロウェン師の古代割付図を、聖堂の床に広げた。


 千年前の、聖堂中央の、本来の配置。


 それを、現代の聖堂に、復元する。


「皆さん、芯墨から、芯割りで、始めます」


 俺は職人たちに説明した。


「中央のタイルを、まず、ぴったり、芯墨に、置く。そこから、放射状に、外側へ、貼り進めていく」


「半端は」


「全部、外周に、逃がす。途中で、半端なタイルが、出ても、絶対に、中央には、置かない」


「了解だ」


 俺は、まず、最初の一枚を置いた。


 古代の青い線が入った、特殊なタイル。


 ロウェン師の時代から、保管されていた、本物だ。


 それを、芯墨の交点に、ぴったり置く。


 手がわずかに震えていた。


 現代日本の現場でもここまで緊張する瞬間は、なかった。


 モルタルを塗布する。


 タイルの裏面にも、塗布する。


 改良圧着張り。


 でもその上で、ヴィブラート工法を、加える。


 グロウブ老が残していった、振動魔導具を、使う。


 タイルを押し付け、振動を加える。


 モルタルの中の、空気が、抜けていく感覚。


 接着面が、ぴったり密着する。


 俺は息を吐いた。


 最初の一枚が、嵌まった。


 その瞬間、聖堂の空気がわずかに、動いた。


 目に見えない何かの流れが、戻り始めていた。


 俺は手を止めずに、二枚目、三枚目と貼り進めた。


 職人たちが両側から外周へ、貼り進めていく。


 半径一メートル、二メートル、三メートル。


 時間が過ぎていった。


 午前中で、半径五メートルまで、進んだ。


 昼休みを取って、午後、再開。


 午後だけで、半径十メートルまで、進んだ。


 夕方、半径十五メートル。


 俺たちは休まずに、夜まで続けた。


 二日目の朝、半径二十メートルまで、到達した。


 最後の、外周のタイルを、貼り始めたその時。


 聖堂の入り口で、再び騒ぎが、起こった。


 今度は、バルティス枢機卿、本人が、来ていた。


 深紅の祭服。鋭い目。手には、笏杖。


 その後ろに、教会騎士団が、二十人ほど、立っていた。


「やめろ、壁屋!」


 バルティスは叫んだ。


「これは、神聖冒涜である! 貴様の作業を、即刻、中止せよ!」


 ヴァルトの私兵が、立ちはだかった。


「猊下、立ち入りはご遠慮を」


「退け! 貴様らごとき、私兵の手で、教会の意思は、止められぬぞ!」


 バルティスは笏杖を振るった。


 その先端から、薄い、光が、放たれた。


 魔法だった。


 光が、ヴァルトの私兵の、武器を、弾き飛ばした。


「枢機卿、貴様、本気で、ここを、止める気か」


 ヴァルトが、剣を構えた。


 俺は、作業の手を止めなかった。


 残り、外周の、最後の数メートル。


 ここで止めたら、世界は、繋がらない。


「リネア、援護を、頼む」


「はい!」


 リネアが、両手を、組んだ。


 彼女から、薄い、光が、放たれた。


 聖女の、結界術。


 聖堂の中央、半径二十五メートル四方が、光の壁で、包まれた。


 バルティスの魔法が、結界に、阻まれて、消えた。


「聖女、貴様、教会に、逆らう気か」


「猊下、私は、世界の意思に、従っております」


 リネアの声は、震えていなかった。


 俺はその背中を見つめた。


 彼女は、もう最初に出会った、震える少女では、なかった。


「リネア、強くなったな」


「拓海様の、おかげです」


 俺は、笑って、作業に、戻った。


 残り、五メートル。


 ヴィブラート工法で、振動を、加えながら、貼り進める。


 モルタルが下地にしっかり、食いつく。


 古代の結界術が、再活性するのが、肌で、分かった。


 聖堂の床がわずかに、温度を変えた。


 冷たかった石が、生き物のように、温かくなった。


 その時、結界の外で、騎士団が突入を試みた。


「リネア、間に合うか」


「はい、あと少し」


 リネアの結界が震えていた。


 彼女の額に、汗が流れていた。


 俺は作業を加速した。


 残り、二メートル。


 最後の数枚を、貼る。


 モルタル塗布、タイル設置、振動。


 モルタル塗布、タイル設置、振動。


 外で、結界が、亀裂を、入れ始めていた。


 俺は最後の一枚を手に取った。


 古代の青い線が、入った、終わりのタイル。


 半径二十メートル、外周の、最後の一枚。


 半端は、最初から、ない。


 ロウェン師の図面通り、ぴったり嵌まる、サイズだった。


 俺はそれをゆっくり置いた。


 モルタルを塗布する。


 タイルの裏面に、塗布する。


 所定の位置に、置く。


 振動を、加える。


 ぴったり嵌まった。


 その瞬間。


 聖堂全体が、震えた。


 いや、震えたのは、聖堂じゃない。


 世界、そのものだった。


 千年前から、剥がれかけていた、世界の中心の、目地。


 それが、今、この瞬間、繋がった。


 空気が、変わった。


 光が、変わった。


 ステンドグラスから、差し込む光が、急に、鮮やかに、なった。


 外で、騎士団の足音が、止まった。


 バルティスの笏杖が、力を、失って、床に、転がった。


 彼は、呆然と、聖堂の中央を見つめていた。


 俺は立ち上がった。


 全身が汗で、濡れていた。


 手が震えていた。


 でも笑っていた。


 まるで現代日本の現場で、難しい施工を終わらせた時と、同じ、笑顔だった。


「終わった、リネア」


「はい、拓海様」


 リネアの結界が、ゆっくり解けた。


 彼女は、よろめいた。


 俺は彼女を支えた。


「終わったぞ、リネア。世界の、目地が、繋がった」


 リネアは俺の、胸に額を預けた。


 彼女の肩が震えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ