64.2/22 バスケットボール対決
「私たちに足りてないのは、運動よ! ということで、スポーツエリアにて待つ!!」
まるで果たし状のようなマリナからのメッセンジャーに、思わず吹き出した。
ちょうど仕事にも区切りがついたところだった。
夕食にはまだ少し早い。
そう考えると、意外と悪くない。
むしろ、夕飯を美味しく食べるためにも、ここはひと汗かいておくべきなのでは?
よし。行こう。
クローゼットを開けたところで、私は固まった。
運動できる服。運動できる服。運動できる服……?
そんなもの、持ってきたっけ?
旅行に持ってきた服といえば、観光用の服に船内で着る服、少しきれいめな服、フォーマル、寝間着。
あとは水着。
スポーツウェアなんて、最初から持ってくるという発想がなかった。
悩んだ末にストレッチパンツとTシャツに着替えた。
『もう、これでいい!』
最低限の着替えを済ませ、髪をまとめる。
部屋を出てスポーツエリアへ向かう。
夕食前の時間だからか、廊下にはこれから食事へ向かう人の姿もちらほら見える。
そんな中を、ストレッチパンツにTシャツ姿で歩いていると、少しだけ場違いな気分になる。
けれど、スポーツエリアが近づくにつれて、聞こえてくる声や足音が変わってきた。
ボールが床に弾む音。
誰かの笑い声。
「こっちこっち!」
聞き慣れた声が響く。
どうやらマリナたちは、もう来ているらしい。私は少しだけ歩く速度を上げた。
自分が最後だろうと思っていたけれど、スポーツエリアに着いてみると、まだ全員は揃っていなかった。
完璧な運動着に身を包んでいるセルヒオとバイロン。そして、私と似たり寄ったりの服装をしているマリナとウィリアム。見渡してみても、アマンディーヌの姿がない。
「あれ、珍しい。アマンディーヌがまだなんだ?」
私が聞くと、マリナがスマートフォンを確認しながら頷いた。
「うん。なんか、あんまりノリ気な返事じゃなかったから、もしかしたら来れないかも。『顔出すだけでも歓迎だよ』とは送っておいたけど」
「そっかぁ。来れるといいね」
せっかく六人揃って遊べると思っていたので、少し残念だ。
とはいえ、無理に誘うものでもない。来られるなら来ればいいし、疲れているなら休んでいてもいい。
そんな話をしていると、「あ!」と、突然バイロンが声を上げた。
「ん?」
全員が一斉にバイロンの視線を追う。
ちょうどこちらへ歩いてくるアマンディーヌの姿があった。
「アマンディーヌ!」
「よかった! 来れたんだね!」
私たちが手を振ると、アマンディーヌもこちらへ手を振り返しながら近づいてくる。
セルヒオやバイロンのようなスポーツウェアではない。観光に出る時と変わらない、動きやすそうなパンツスタイルだ。
「うーん。楽しそうだったから来たんだけど、参加できなかったらごめんなさいね。」
申し訳なさそうに言うアマンディーヌに、マリナがすぐさま手を振った。
「全然問題なし! 私が運動したかっただけだから!」
私も慌ててフォローする。
「私も参加はするつもりだけど、運動苦手だからね!」
「じゃあ、みんな集まったところで、何をする?」
ウィリアムが話を区切るように辺りを見回す。
「ジムばっかりで、このエリアは来ないから、そもそも何があるのやら。」
「俺も初めて来た。」
男性陣もキョロキョロと周囲を見回している。
こうして改めて見るとかなり広い。船の中とは思えないほど開放的なスペースに、いくつものスポーツ設備が並んでいる。
私はサコッシュから船内地図を取り出した。
「ちょっと待って。スポーツエリアのマップが……あった。」
紙を広げると、マリナとアマンディーヌも横から覗き込んでくる。
「えーっと……」
指で地図を追っていく。
「シャッフルボードに、卓球」
「バスケットボールに、ゴルフの打ちっぱなし」
「多目的コートもあるね。あとは、ここじゃないけど、ジムとプールとボルダリング。」
順番に読み上げていくと、私たちは顔を見合わせた。
思ったより色々ある。
ただ、今から全制覇するほどの体力も気力もない。
……というか、私は一つ目で疲れる自信がある。
「その中なら、バスケットボールか?」
バイロンが地図を覗き込みながら言った。
「みんなでできて、運動になるなら、あとは卓球とか。」
ウィリアムが続ける。
「ちょっと確認してくる。」
セルヒオがそう言って、スポーツエリアの奥へと入っていった。
空いているコートや卓球台の様子を確認しているらしく、あちらこちらを覗き込みながら、ぐるりとエリアを一周してくる。
「どうだった?」
戻ってきたセルヒオにマリナが尋ねる。
「その二つならバスケットボールだな。卓球は埋まってた。」
「じゃあバスケ!」
「決まりだな。」
私たちはセルヒオについて、バスケットボールのコートへ向かった。
幸い、一面だけ空いているコートがあった。
少しこじんまりして見えるけれど、ここが船の上だと思えば十分すぎるほど立派だ。床もきれいに整えられていて、ゴールもちゃんと二つある。コートの隅にはバスケットボールが三つ、きれいに並べて置かれていた。
「おお、ちゃんとしてんじゃん。」
バイロンがボールを一つを手に取り、軽く弾ませる。
ポン、ポン、ポン。
小気味いい音がコートに響いた。
そのままボールを腰の高さでドリブルしながら、バイロンが私たちを見る。
「スリーオンスリーでもするか?」
「六人だから、ちょうどいいね」
ウィリアムが頷く。
「チーム分けが難しいか?」
「男女で分ける?」
「それだと、男三人対女三人になるぞ。」
セルヒオが言う。
「……それはちょっと不公平じゃない?」
マリナが腕を組む。
「三人が本気で走ったら、私たち追いつけないよ。」
「俺はそんなに本気でやらないぞ。」
「バイロンは絶対本気になる!」
私が即座に突っ込むと、バイロンが「なんでだよ!」と笑った。
「ごめんなさい、バスケットボールはちょっとできないわ……」
そんなやり取りをしていると、アマンディーヌが申し訳なさそうに片手を上げた。
「爪が割れちゃうの。昨日塗り替えたばかりで、今さら短くできないデザインなの……。」
そう言って差し出された手を見る。
きれいなブルーに染められた爪が、つやりと光っていた。
「うわぁ、きれい!」
思わず別のところに感心してしまう。
「でしょう?」
アマンディーヌが少し嬉しそうに笑う。
けれど、確かにこれでボールを掴んだり、指先をぶつけたりしたら危ない。
ましてやアマンディーヌにとって、爪はただのおしゃれではなく仕事に関わる大事なものだ。
「それはバスケットボールは無理だね。割れたら大変だもの。」
私が納得すると、マリナもすぐに頷いた。
「うん。アマンディーヌはカウント役ね。」
「カウント役?」
「得点とか時間を見てもらえばいいじゃない。」
「それならできるわ。」
女性陣の意見が一致したことで、アマンディーヌはカウント役に決定した。
アマンディーヌもほっとしたように笑った。
どうやら、これで五人での試合になりそうだ。
するとバイロンが少し考え、ボールを脇に抱えた。
「じゃあ、ツーオンスリーにするか。」
「ツーオンスリー?」
「男二人対、男一人と女二人」
「なるほど。」
バイロンが変則的なチーム分けを提案した。
セルヒオが腕を組んで考える。
「それなら、そこそこ釣り合うかもな」
「あら、じゃあ私たち二人と組みたいのは誰かしら?」
マリナが私と肩を組んでニヤリと笑った。
「うーん。釣り合いが取れたほうが面白いよな。男同士腹を割って話してくるからちょっと待ってくれ。」
バイロンがそう言ってセルヒオとウィリアムと肩を組んで少し隅による。
どんな話し合いをしたのやら、とにかくチーム分けが決まったようだ。
「俺とウィリアム対、セルヒオ、サクラ、マリナ。」
「うん、いいんじゃない? セルヒオ、頑張ってね!」
マリナがセルヒオの肩をポンッと叩く。
「いや、二人も頑張ってくれよな。」
「セルヒオ? それは期待しすぎってものよ。」
私の言葉にみんなが吹き出した。
「いや、サクラも頑張ってよ? 私も頑張るから!」
「え〜! バスケットボールなんて大学の必修以来だよ。無理無理。楽しく動ければそれで許して!」
何事にも全力なマリナには申し訳ないけど、運動神経なんて10年以上前に置いてきてしまった。
「怪我しない!が目標だから。」
「一理あるわね。」
アマンディーヌまで口を押さえて笑っている。
「ま、怪我には注意だな。始めるか。」
こっちのコート使うか、と片側のコートに寄っていくみんなの背を見て重大なことに気づいた。
「ね、ルールが曖昧なんだけど⋯。ていうかスリーオンスリーのルール知らないかも。」
「あ、私も知らない。」
「私も普通のバスケットボールしか知らないわ。」
マリナとアマンディーヌも片手を上げた。
「「「あ〜〜〜⋯⋯」」」
男性三人は微妙な声を上げた。
「よし、簡単なルールでいこう。敵からボールを奪ったら、スリーポイントラインの外に一度出ること。」
バイロンが足でトントン、と白い曲線のラインを踏んでみせる。
「で、このラインより中でゴールしたら一点、外なら二点。二十一点先取で勝ち。又は十分経って点が多いほうが勝ち。」
ふんふん、と女性三人が頷く。
「わかった!」
マリナが元気よく返事をする。
「……たぶん。」
私は小さく付け足した。
セルヒオが苦笑しながら言う。
「とりあえず、ボールを持ってゴールに入れればいいんだろ?」
「そうそう。細かいことは気にしない!」
バイロンが笑った。
「じゃあ、怪我しないように楽しもう。」
アマンディーヌがベンチから声をかける。
「時間、測るわね。準備はいい?」
「いつでも!」
マリナが両手を広げる。
こうして、なんともゆるいバスケットボール大会が始まった。
「じゃあ、いくぞ!」
バイロンがボールを持ち上げる。
「スタート!」
アマンディーヌの声と同時に、ボールがコートへ放られた。
最初に飛び出したのはセルヒオ。
「早っ!」
「サクラ、下がって!」
「はい、下がる!」
マリナの声に引かれるようにして動く。
ボールを追いかけているだけなのに、もう息が上がりそうだ。
「サクラ!」
セルヒオからパスが飛んでくる。
「えっ、私!?」
慌てて両手を出す。
ぽすっ。
なんとか受け取れた。
「ナイス!」
「取れた!」
「そのまま行け!」
「えっ、どこへ!?」
「ゴール!」
「それは分かる!」
自分でもよく分からない勢いでドリブルを始める。
ポン、ポン、ポン。
ボールが妙に大きく感じる。
前にはバイロン。
「うわっ!」
思わず方向を変える。
その瞬間、ボールが足に当たった。
「サクラ〜!」
「待って待って!」
転がっていくボールを追いかける。
そのまま拾い上げて、ゴールを見る。
……遠い。
でも、せっかくここまで来たのだ。
「えいっ!」
ボールを投げる。
ぽーん。
ゴールの輪に当たり──
「入った!」
「おお!」
「ナイス!」
思いがけずボールがネットを通り抜けた。
「サクラ、やったじゃん!」
マリナが飛び跳ねる。
「私も入ると思わなかった!」
「結果入ったんだからいいのよ!」
みんなが笑う。
その後も、思った以上に試合は白熱した。
男性二人組はさすがに動きが速い。
けれど、こちらは三人いる。
セルヒオが相手の動きを止め、その隙にマリナが走る。
マリナがボールを奪えば、私がなんとか邪魔をする。
私はほとんど戦力になっていない気がするけれど、それでも時々ボールが飛んでくる。
「サクラ!」
「はいっ!」
「シュート!」
「無理ぃ!」
「いいから!」
「えーい!」
ぽーん。
シューン。
外れた。
「サクラ、惜しい!」
「惜しくないよ!」
それでも笑ってしまう。
気がつけば、コートを走り回っている。
「サクラ、もうちょっと!」
「頑張れ!」
「いける!」
みんなが声をかけてくれる。
楽しい。
楽しいけど──
「はぁ……はぁ……」
息が苦しい。
足が重い。
自分の体なのに、まるで他人のものみたいだ。
「あと何分!?」
「あと三分!」
アマンディーヌの声が飛ぶ。
「三分!?」
「頑張って!」
「三分って長いよ!」
マリナが笑いながら走る。
「サクラ、あとちょっと!」
「もう無理ぃ!」
それでも走る。
転ばない。
怪我しない。
それだけを目標に、なんとか足を動かす。
そして、「時間よ!」アマンディーヌが声を上げた。
ピッ、とタイマーの音が鳴る。
「終了!」
全員が動きを止めた。
「はぁ……はぁ……」
私はその場で膝に手をついた。
「た、倒れそう……」
「あはは、大丈夫?」
マリナが背中をさすってくれる。
「大丈夫……たぶん……。」
アマンディーヌが得点を確認する。
「えーっと……男性チームが十八点。三人組が……」
一瞬、間があった。
「十九点!」
「え?」
「勝った!」
マリナが両手を上げた。
「やったぁ!」
「一ポイント差!?」
バイロンが驚いた顔をする。
「マジかよ!」
ウィリアムも笑っている。
「負けたな。」
「いやぁ、まさか本当に負けるとは。」
セルヒオが私の肩を叩いた。
「サクラの最初のシュートが大きかったな」
「え?」
「一番最初のやつ。あれがなかったら負けてた」
「……」
私はぽかんとした。
そして「やったぁ……!」小さく拳を握る。
「勝ったぁ……!」
嬉しい。
ものすごく嬉しい。
でも。
「……疲れた。」
その場にへたり込みそうになる。
「まだ一試合だよ?」
マリナが笑う。
「……え?」
私はゆっくり顔を上げた。
「もう一試合するでしょ?」
「え?」
「二試合目!」
「ええええ!?」
全員が笑った。
「本当に無理です。まだ十分しか経ってないじゃない、っていう意見はすごくわかるけど、無理なものは無理です。」
私が泣きついた結果、フリースロー対決へ種目変更することに成功した。「それくらいなら参加できそう」とアマンディーヌが言ったことも決定打になった。
「じゃあ、決まり!」
マリナが嬉しそうに手を叩く。
「サクラ、これならそんなに走らなくていいからね。」
「うん……。今の私には『走らなくていい』がものすごく魅力的。」
「じゃあ俺たちはどうする?」
バイロンがセルヒオを見る。
「せっかくだし、コートの半分使ってワンオンワンでもするか」
「いいな」
「二人とも元気だね……。」
私は呆れながら、ゴールの前へ向かった。ウィリアムから「女性はハンデとしてどこからでもいいよ」と言ってもらえたので、基本のラインより前の方だ。
バイロンとセルヒオは反対側のコートへ移動し、すでにボールを追いかけ回している。
「じゃあ、私たちは四人で対決ね」
マリナ、アマンディーヌ、私、そしてウィリアム。
「何本?」
「十本でいいんじゃない?」
「十本……!」
私はゴールを見上げる。
一試合やった後だと、なぜかゴールまでの距離がやたら遠く感じる。
「まあ、フリースローなら大丈夫か。大丈夫であって!」
ウィリアムがボールを持つ。
「順番どうする?」
「じゃあ私から!」
マリナが元気よくボールを受け取った。
「よーし!」
一度深呼吸。狙いを定めて⋯
「それっ!」
ぽーん。
ボールはリングに当たり、ぐるりと回って落ちた。
「惜しい!」
「あとちょっとだったね」
「うーん、残念!」
マリナが笑う。
「次、サクラ」
「私?」
ボールを受け取る。
両手で構え、ゴールを見る。
「よし……」
ぽーん。
ボールはふわりと飛んで、リングの手前に当たった。
そして、そのまま落ちる。
「惜しい!」
「惜しかった!」
続いてウィリアム。
「こういうの苦手なんだよな。」
そう言いながら投げる。
すぽっ。
「入った!」
「ウィリアムかっこいい!」
「たまたまだよ。」
マリナの褒め言葉にウィリアムが照れたように笑う。
「じゃあ次、私ね。」
アマンディーヌがボールを受け取った。
「頑張って!」
マリナが声をかける。
アマンディーヌは軽く笑って、ゴールを見る。
「……」
その構え方が、妙にきれいだった。
足の位置、ボールの持ち方、肘の角度。
「あれ?」
私が首を傾げた瞬間。
すぽっ。
ものすごくきれいな放物線を描いて、ボールがリングを通った。
「…………」
私たち三人が固まる。
「え?」
マリナが目を丸くする。
「今の……」
「うん?」
アマンディーヌは何でもないことのようにボールを受け取る。
「どうしたの?」
「アマンディーヌ……バスケットボールやったことある?」
私が尋ねると、アマンディーヌは少し考えるように首を傾げた。
「あるわよ。」
「あるんだ!?」
「学生の頃にね。結構やってたわ」
「結構!?」
マリナが叫ぶ。
「ちょっと待って! それ先に言ってよ!」
「聞かれなかったから……。」
「そういう問題!?」
思わず全員で笑ってしまう。
コートの反対側から、バイロンの声が飛んできた。
「おい! アマンディーヌ、経験者なのか!?」
「そうよー!」
「先に言えよ!」
セルヒオまで笑っている。
「これは勝負にならないな!」
「いや、まだ十本全部やってないから!」
マリナが妙な対抗心を燃やした。
「次こそ入れる!」
そこからのフリースロー対決は、ある意味で一方的だった。
マリナは入ったり外れたり。
私は入らなかったり、たまに奇跡的に入ったり。
ウィリアムも何本か決める。
そしてアマンディーヌは⋯⋯
すぽっ。
すぽっ。
すぽっ。
「……」
「……」
「……」
三人で無言になる。
「なんでそんなに入るの?」
私が聞くと、アマンディーヌは笑った。
「体が覚えているのかしらね。」
すぽっ。
また入った。
「もうやだ、この人!」
マリナが笑いながら頭を抱える。
最後の一本。
アマンディーヌがボールを構える。
「これが最後よ」
「外して!」
「お願い!」
「頼む!」
なぜか三人で敵のように祈る。
「ふふっ」
アマンディーヌが笑いながら投げた。
すぽっ。
「入ったぁ!」
「圧勝!」
「強すぎる!」
私たちが一斉に声を上げる。
結局、フリースロー対決はアマンディーヌの圧勝だった。
「八本入るって……最初から言ってよ。」
私がぼやくと、アマンディーヌは肩をすくめた。
「だって、久しぶりだったんだもの」
「久しぶりでこれ!?」
「私たちは何だったの……」
マリナが遠い目をする。
その横でウィリアムが笑いながら言った。
「まあ、運動にはなっただろ。」
「なったけど……」
私は汗で張りついた髪を手で払い、ぐったりとベンチに腰を下ろす。
「今日の私はもう十分です……」
するとコートの反対側から、バイロンとセルヒオが戻ってきた。
「こっちはこっちでいい汗かいたぞ」
「そっちはどうだった?」
セルヒオが尋ねるとマリナがアマンディーヌを指差した。
「アマンディーヌが全部持っていった。」
「何を?」
「いいところ!」
「……ああ。」
一人ニコニコのアマンディーヌを見て、セルヒオが納得したように頷く。
私はそんなみんなを眺めながら、水を一口飲んだ。
疲れた。
ものすごく疲れた。
でも、なんだかんだで楽しかった。
「……夕飯、おいしいもの食べよう。」
私が呟くと、マリナが即座に頷いた。
「賛成!」
運動した分だけ、夕飯がおいしくなる。
……たぶん。
そういうことにしておこう。




