強者
ラムゼイの姿を見て、オーウェンは呆れて肩を竦める。
「……全て力づくで解決するつもりか」
「ケアン侯爵家の男はまっすぐに突き進むのみ」
「……中々面白い家訓だな」
試合中にも関わらず、二人はそんな呑気な会話をして、どちらともなく笑みを浮かべた。一瞬の間が空いたことで、放心状態だった観客達も目を覚ましたように驚きと賞賛の声を上げた。
オーウェンの派手な魔術もそうだが、それらを全て防いでみせたラムゼイの姿に熱狂しているのだろう。
大歓声に包まれる中、ラムゼイが拳と拳を強く合わせて大きな音を立てた。
「次はこっちの番だな」
そういうラムゼイに、オーウェンは片手の手のひらを向けて口を開いた。
「攻守は変わらない……こちらが一方的に攻撃するだけだ。好きなだけ防いでみるが良い」
それだけ告げると、オーウェンは次の魔術を放とうとする。しかし、ラムゼイはその前に動いた。
ラムゼイがいたはずの場所に粉塵が舞い、姿が消える。地を蹴って素早く移動したのは分かったが、その姿を目で追うのも難しいほどの速さだ。瞬く間にオーウェンの斜め下を走り抜けるラムゼイ。それに、オーウェンは広範囲の魔術で応えた。
「そんなものは古来からある対処法だな。白い竜巻」
オーウェンはそう言って、氷と風の竜巻を生み出した。激しく吹き荒れる竜巻の暴風内に水球が無数に飛び、それが凍てつくような風で凍り付いていく。その暴風だけでも抗うことは困難だというのに、その内部ではボーリング玉のような大きさの氷の塊が高速で飛来している。
しかし、そんな恐ろしい竜巻の中をラムゼイは物ともせず突き進んだ。跳躍して風の流れに身を任せ、飛んでくる氷を叩き壊したり、足場にして空中で方向転換をしている。
飛翔魔術を使っていないことを考えると、ラムゼイも十分に化け物だと言えた。もしかしたら、ラムゼイの使っている身体強化の魔術には、動体視力や反射神経を向上させる効果もあるのかもしれない。そんなことを思いながら眺めていると、ついにラムゼイは白い竜巻の上に立つオーウェンを捉えた。
「……もらった!」
ラムゼイが笑みを浮かべて迫り、身体を回転させる。氷の塊を蹴り抜き、その勢いで飛んでくるラムゼイは、身体を捻って空中で回転し、恐ろしい勢いで蹴りを放った。
「積層氷壁」
オーウェンは即座に強固な防御魔術を展開する。五層にも及ぶ高密度の氷の壁だ。上級の攻撃魔術でも破壊することは困難な壁である。しかし、ラムゼイの蹴りはそれを真っ二つに叩き割った。
流石に勢いは失われたが、それでもあの防御魔術を一撃で貫いたのは驚愕である。真っ二つに割れた氷の隙間から、一瞬だけオーウェンとラムゼイの視線が交錯する。
すぐにラムゼイは地上へと降りることになったが、確かにラムゼイの手はオーウェンのすぐ目の前に迫ったはずだ。もちろん、同様の手段でオーウェンに接近することは出来ないだろうが、それでも期待感を持たせるには十分な特攻だった。
地上に落下したラムゼイを見下ろし、今度はオーウェンが先に動く。
「流砂」
その一言で、武闘場の中心に流砂が生まれる。現実としては地下に空洞があるわけではないが、中心に向かって砂が流れて底の部分で外側へ流れるという循環を行っているのだ。
結果、地面に降りたばかりのラムゼイは回避することが出来ずに砂の中に飲み込まれていく。蟻地獄に囚われたように見えるが、ラムゼイなら拳の一振りで砂を弾き飛ばして脱出できそうだ。
しかし、そうはならなかった。
「ぬん!」
力強く拳を振り下ろすラムゼイだったが、水のように流れる砂が衝撃を受け流してしまっている。むしろ、普通の水面を殴る方が楽なくらいだろう。あまりにも不自然にラムゼイの拳を呑み込む流砂を見て、オーウェンの緻密な魔力操作に驚嘆する。相手の動きに合わせて砂の動きを変えているのだが、あの驚くほど速いラムゼイの動きに合わせて砂を動かしているということが信じられない。
魔力量は私の方が多いが、魔力の操作する技術はオーウェンの方が遥かに卓越していると言えた。
感心しながら眺めていると、ラムゼイが腕を組んで唸る。すでに腰よりも高いところまで砂に埋まってしまっていた。
その状態で、ラムゼイは深く頷いてから顔を上げる。
「……うむ! 完敗だ!」
その一言を聞き、オーウェンは魔術を途中で中断した。流砂の動きが止まり、ラムゼイは砂の中から這い出てくる。一方、オーウェンは静かに地上へと降りてきた。
二人が並び立ったのを見て、マッシュが片手を挙げて結果を告げる。
「……勝者は、オーウェン!」
マッシュがそう宣言したが、会場は静まり返っていた。ラムゼイが負けたことが信じられないといった空気の中、ラムゼイはオーウェンに笑いながら話しかける。
「魔術の神髄、しかと拝見した! まさか、速さも力も通じぬとは恐れ入ったぞ! 次に会うまでに空を飛べるようになるとしよう!」
「……飛翔の魔術はアオイに習うと良い。ただし、空を飛べるようになったなら戦わないぞ。ずいぶんと面倒くさそうだ」
オーウェンが嫌そうにそう答えると、ラムゼイは声を出して笑ったのだった。




