最終戦
二人がそれぞれ自分たちの仲間の下へ戻る様子を見て、ようやく観客の声や拍手が聞こえてきた。疎らな拍手を受けながら、オーウェンが仏頂面で戻ってくる。
「お疲れ様です。流石でしたね」
労うと、オーウェンは鼻を鳴らして首を左右に振った。
「……長期戦を狙われたらどうなるか分からなかった。あれだけ厄介な相手は中々いないぞ」
「そうですね。私は剣が使えますが、純粋に魔術だけで勝負すると対応に苦慮するかと」
苦笑しながら答えると、オーウェンは肩を竦めて通り過ぎた。どうやら本人としては不服な内容だったらしい。その様子を横目に見て笑っていると、通路から顔を出していたモアが首を左右に勢いよく振っていた。
「し、信じられません……! まさか、ラムゼイ様まで……!」
驚愕するモアに、フェルターが小さく息を吐いて答える。
「……世界には、想像できないような強者がいる。それを知る良い機会だ」
その言葉に、モアは何も言えずに口を噤んだ。悔しいのか、それとも単純な驚きか。だが、モアの中にあった常識が崩れたのは間違いないだろう。その表情を横目に見て、シェンリーが慌てたようにフォローをする。
「あ、で、でも! アオイ先生やオーウェンさんは別格ですよ! それに、グレン学長もストラス先生もとても強い魔術師なので……」
シェンリーがそう口にすると、ハイラムが乾いた笑い声をあげて口を開いた。
「僕はちょっと信じられないような魔術ばかりで疲れたよ。まぁ、結果として怪我人が出ないでくれているから助かってるけどね」
と、ハイラムは苦笑交じりに言った。治療係として待機しているハイラムは、大規模な魔術の数々に気が気じゃなかったのかもしれない。
「オーウェンとアオイ君は特殊じゃからのう。気にしない方が良いぞい」
続けて、グレンもモアにそんなことを言う。しかし、その直前に十分驚異的な戦闘を見せたグレンが言っても説得力に欠ける。モアも何も答えなかったが、表情がそう語っていた。
皆のやり取りを聞いていると、不意に武闘場の奥から声がした。
「……さて、最後の戦いとなったか。まさか、全敗とはな。これは流石に驚きだ」
それほど大きな声ではないのに、何故か妙に響く声だった。振り向くと、こちらに向かって歩いてくるマッシュの姿があった。マッシュは武闘場の中心に立つと、腰から大きな剣を取り出す。
両刃の大きな剣だ。長さは刃の部分が一メートル程度だろうが、幅が広い。一目でかなりの重量だと分かるが、その剣をマッシュは片手で振ってみせた。まるでナイフを振るように軽く一、二度振ってみせるマッシュに思わず感嘆の声が漏れる。
「凄いですね。身体強化はしていないのでしょう?」
そう告げると、マッシュはもう片方の手で力こぶを作り、笑みを浮かべた。
「鍛えておるからな」
そう言って屈託なく笑うマッシュの腕は、薄皮の下まで筋肉が詰まっているかのようだった。恐らく、上腕部分だけで私の胴ほどの太さがある。ラムゼイと並ぶほどの巨躯であり、ラムゼイを凌ぐほど筋骨隆々とした姿だった。
その鍛え上げられた体を、白銀の鎧が覆っていた。全身を覆う鎧ではなく、胴体部分と肩、手足の部分を保護しているといったものである。何となく、雰囲気でその鎧には何かあると感じた。
マッシュの待つ武闘場の中心にまで歩いていき、鎧を注視する。
「……もしかして、これらは魔術具ですか?」
そう尋ねると、マッシュはフッと息を吐くように笑い、大きな両刃の剣を地面に突き刺した。
「その通りだ。この剣も、鎧も、全て魔術具だ。ブッシュミルズ皇国を建国した初代の国王から伝わる宝具である。この武具を用いて、我が国は敵を排除し、この地を平和なものとしたのだ」
マッシュは胸を叩き、誇らしげにそう述べる。なるほど。古代の魔術具の中でも最上級の逸品。多くの戦いを経ても魔術が発動する魔術具ならば、魔法陣は内側に仕込まれているはずだ。国宝なら簡単には調べることも出来ないだろうが、可能なら是非研究してみたい代物だった。
「……後でこちらも調べさせてもらっても良いでしょうか?」
思わずそう尋ねると、マッシュは目を瞬かせてこちらを見下ろした。そして、噴き出すように笑い出す。
「はっはっは! 良かろう! ただし、余に打ち勝ってからだ! 負けたら見せてはやらんぞ?」
なんと、あっさりと了承を得た。これには俄然、やる気になる。
「絶対に勝ちます」
「うむ! 全力を出すが良い!」
そんなやり取りをして、マッシュは後方に目を向けた。すると、後ろで見ていたラムゼイが頷いて口を開く。
「……これより、マッシュ国王陛下とアオイ・コーノミナトによる最後の戦いを行う! 恐らく、これが世界最高の一戦だろう! 皆、刮目して見よ!」
ラムゼイがマッシュの代わりにそう告げると、武闘場は割れんばかりの歓声に包まれた。そして、マッシュの名が響き渡る。さぁ、最後の戦いだ。




