オーウェンの力
「次は第四戦だ! 我が国最強の戦士の一人、ラムゼイ・ケアン侯爵! 黄金の獅子の力を見せてもらおう!」
マッシュがそう叫ぶと、武闘場は再び大歓声に包まれた。そして、中には悲痛な声も混じっている。
「ラムゼイ様!」
「勝ってくれーっ!」
応援というよりは、祈りにも近い叫びだ。そんな声に、ラムゼイは片方の拳を振り上げて応える。歓声を背に武闘場の中心まで歩いてきたラムゼイを見て、オーウェンがフッと息を漏らすように笑い、目を細めた。
「……さっさと終わらせるぞ」
「油断しない方が良いですよ?」
「ふん。私の力を忘れたか」
ラムゼイの実力を知っているので一言だけ注意をしたが、オーウェンは鼻を鳴らして歩いて行った。まぁ、オーウェンの実力も知っているので、それ以上なにか言うこともない。
まるで散歩でもするように軽い足取りで武闘場の中心にまで歩いて行き、ラムゼイを見上げる。対して、ラムゼイも自然体でオーウェンを見下ろした。
「アオイの師匠と聞き、是非とも戦いたいと思っていた。全力でやらせてもらう」
「後悔しないようにすると良い」
オーウェンが端的にそれだけ言うと、ラムゼイは声を出して笑う。
そんな二人の様子を確認してから、マッシュは口を開いた。
「……では、第四戦を始める! ラムゼイの相手はオーウェン! さぁ、始めよ!」
試合開始を宣言され、ラムゼイがオーウェンを見下ろしたまま口を開く。
「……黄金の獅子」
そう呟いた瞬間、ラムゼイの魔力は金色の光を伴って体の周りを包み込む。瞬く間に完成した最上級の身体強化の魔術。それを見て、オーウェンはパッと飛翔の魔術を行使した。
ふわりと空中に浮かび、地面へ視線を向けるオーウェン。それを見上げ、ラムゼイは笑みを浮かべた。
「面白い。空飛ぶ敵というものも今後は想定せねばならんな」
そう言うと、ラムゼイは地を蹴った。身体強化した状態での全力の跳躍だろう。オーウェンの場所まで四メートルはあったはずだ。だが、その高さまで一瞬で跳躍したラムゼイ。そして、恐ろしい勢いで迫りながら拳を構えるラムゼイに、オーウェンは片手を向けた。
「……炎竜」
オーウェンが放ったのは特級の魔術だ。自分で作成した魔術具の力を使い、上級以上の魔術であっても即座に発動することができる。まるで巨大な火炎放射器での火炎放射にも似た火炎。
武闘場にいるだけで熱気を感じるほどの高温だ。その炎を見て、ラムゼイは拳を振った。
「ふんっ!」
力の籠った一撃が空を切る。その勢いで大気は切り裂かれ、巨大な火炎の半分近くを吹き飛ばした。それを見て、オーウェンも笑みを浮かべる。
「ほう」
楽しそうにそう呟くと、再び口を開く。
「……雷嵐」
オーウェンが一言発すると、ラムゼイに向けられた手のひらの先に小さな黒い塊が生まれた。黒い塊は激しく明滅し、瞬く間に小さな黒い雷雲となる。
拳で弾くことができない雷の魔術だ。オーウェンの判断は的確である。だが、ラムゼイも冷静だった。オーウェンの行動を見て、すぐに腰に差していた長剣を手に持つ。
「……知っているのか」
「勘である」
ラムゼイの行動を見て、オーウェンが少しだけ目を見開く。その問いかけに笑みを以て答えるラムゼイを見て、オーウェンは軽く笑って魔術を行使する。
「ならば、受けてみよ」
オーウェンがそう口にした瞬間、雷雲は放たれた。ラムゼイの頭上に向かいながら、雲は弾けて雷鳴を轟かせ、激しい雷がラムゼイに向かって飛来する。
雷が発生する少し前。黒い雷雲がオーウェンの手を離れる頃にはラムゼイも動き出していた。剣は地面に突き刺されており、その少し後方で姿勢を低くするラムゼイ。
雷は鼓膜に突き刺さるような轟音を鳴り響かせ、地面に突き刺さった剣を伝って地面へと流れ込む。
「お、おお……!?」
即席で作った避雷針で回避に成功したラムゼイだったが、空気中で起こる放電に驚いて声を上げる。壁際から見ていてもピリピリと感じる静電気。それを間近で浴びて、ラムゼイの毛という毛が逆立った。その様子を見て、オーウェンは笑みを浮かべて次の魔術を放つ。
「面白い格好になったな。戻してやろう……流水」
魔術名を口にした瞬間、先ほどグレンが発動させた水の魔術以上の体積の水がラムゼイを襲った。圧倒的な水量と勢い。まるで津波のようだった。だが、どうしてかラムゼイは流されなかった。
腰を落として水流に耐えながら、ラムゼイは両手を頭の上に持ち上げて、勢いよく振り下ろす。
「ぬん!」
気合いの入った声を上げて、ラムゼイの両手が水面に叩きつけられた。直後、水面が爆発するような音と衝撃と共に、巨大な水柱が発生する。
激しい飛沫が雨のように周囲に降り注ぐ。その中心にはラムゼイの姿があった。笑みを浮かべたラムゼイは、全身を濡らした状態でオーウェンを見上げている。




