武闘場
その後、皆で武闘場に案内されて驚いた。武闘場は街の外れにあったのだが、見た目は完全にコロッセオだ。古代ローマ時代に建設された巨大闘技場である。円形の石作りで、巨大な壁、柱が並んだ闘技場だ。その大きさも圧倒的だが、数々の戦いが繰り広げられた会場だからなのか、奇妙な迫力があった。
ラムゼイ達は準備の為に陛下の下へ行ってしまった為、案内はモアが一人でしてくれている。武闘場を見上げて感嘆の声を上げている我々を振り返り、モアが大きな門を指し示した。
「あちらから中に入ります」
「あ、分かりました」
代表して返事をすると、モアは心配そうに眉根を寄せて俯く。
「……怖いですよね。対戦される方々は、間違いなくブッシュミルズ皇国で最強の戦士たちです。不安になる気持ちは痛いほど分かります」
と、モアは伏し目がちに言った。どうやら、闘技場を見上げて驚く我々を見て、戦うことに不安になっていると思われたようだ。
「あ、いえ、この武闘場の威容に感動して……」
そう言おうとしたが、モアの耳には入らなかった。モアは真剣な表情で胸の前で両手の指を絡めて祈るようなポーズを作り、顔を上げた。
「でも、ご安心ください。これはあくまでも試合形式となります。相手に重傷を負わせるようなことは滅多にありませんし、死んでしまうこともまず無いと……」
「……それなりに危険そうだとしか聞こえなかったが」
モアの励ましの言葉に、まさかのストラスが突っ込む。自分が今から戦うということで、モアの言葉が気になってしまったのかもしれない。ストラスは確かに緊張していそうだ。
それを見て、苦笑しつつモアに返事をする。
「そうですね。我々も精いっぱい頑張るとしましょう」
そう答えると、モアは真剣な表情で頷き、門を守る門番らしき兵に声を掛けた。なんと、兵は若い女性だった。
「あ、これから武闘場を使わせていただきたいのですが……」
モアがそう声を掛けると、門番は振り返って驚きの声を上げた。
「あ、も、モア!? 最年少武闘者のモア・ボア……!」
なんと、門番はモアのことを知っていたようだ。それに、どうやらモアは有名人のようである。そのことに驚いてモアを見ると、耳まで真っ赤にしたモアが両手を振りながら否定の言葉を口にしていた。
「も、もう最年少じゃないですから! 最年少で出場して四年も経ってますから!」
慌てて門番の間違いを訂正しようと声を上げるモアに、門番は首を左右に振って敬礼をした。
「いえ! モア様は我々の憧れですので! あの素晴らしいオリジナル魔術! モア様は天才です!」
「そ、そんなことないですから……」
門番の女兵士はモアの大ファンだったらしい。ものすごい勢いでモアの魔術を称える門番の言葉に、モアは真っ赤になって俯いてしまった。完全に照れて動かなくなるモアに苦笑しつつ、門番の女兵士に声を掛ける。
「すみません。これから、武闘場を使う予定なのですが、開けてもらえますか?」
そう尋ねると、門番は眉根を寄せて首を傾げる。
「これから、ですか? まさか、人間の……いえ、人間とエルフが戦士の儀式を……?」
不審そうな様子でこちらを見てくる門番に、モアが慌てて顔を上げた。
「こ、こちらの方々は陛下とラムゼイ様に特別に認められた方々です。あのフィディック学院の学長であるグレン侯爵と上級教員のアオイさんもいらっしゃいます」
モアがそう言ってフォローすると、門番は目を細めてこちらを観察するように眺める。
「……モア様がそう言うなら」
納得はできていないようだが、門番はモアの顔を立てて扉を開けてくれた。重厚な雰囲気の扉は鉄製に見えた。重そうな扉だが、それを若い女の門番が片手で開けてみせる。
「……どうぞ。陛下がお見えになるなら、皆様は右手に進んでください。武闘者の控室がありますので、そちらで準備をしてから入場となります」
「ありがとうございます」
案内を受け、一礼してから門を潜った。モアは先行して案内しようと小走りに先に通路の中へ入ったが、少し不満そうに頬を膨らませている。
「いくら人間とエルフの皆さんだからといって、今のは良くありません。武闘場で戦う資格を持つ戦士は皆、実力者です。そんな皆さんの実力を疑うような態度を……」
そう言って怒るモアだったが、その言葉の端にはブッシュミルズ皇国の文化が滲んでいた。そもそも、獣人よりも人間やエルフは個の力が劣っていると思っているようである。中には強者もいるが、基本的には獣人の方が戦闘面において優れていると考えていそうだった。
とはいえ、大国の中には獣人やエルフ、ドワーフを差別する国もある。種族が違うと必ず起きてしまうことなのかもしれない。
「どうせなら、この勝負を見てもらって、人間やエルフへの偏見も無くなると良いですが……」
私は小さくそう呟き、モアの後に続いて通路を歩いた。
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