勝負することに
色々と心配になることはあったが、話は決まった。まぁ、単純に王の条件を呑むしかなかっただけではあるが。
「それでは、勝負は明日としよう! 気になるなら武闘場を確認してもらっても良いぞ」
戦えると思い、上機嫌にそんなことを言うマッシュ。日時も場所も決まってしまっているようだ。しかし、また翌日となると、オーウェンが我慢できないかもしれない。そっと横目で見てみると、まさにオーウェンが文句を言おうとしているように見えた。
その様子に、慌ててマッシュへ意見をさせてもらう。
「申し訳ありませんが、あまり学院を長く休むわけにもいかず……できたら、すぐに勝負とやらをすることはできますか?」
「なに?」
尋ねると、マッシュは眉根を寄せて聞き返してきた。意見をしたことで怒らせてしまったかとも思ったが、どうやら違うらしい。マッシュは口の端を上げて面白そうに笑みを浮かべた。
「……本当の戦士はどんな時でも戦う準備が出来ている。その覚悟を試したいということだな?」
「え? いえ、そういうわけでは……」
「良い。分かっておる」
戸惑いつつ勘違いを正そうとしたが、聞いてもらえなかった。マッシュは不敵な笑みを浮かべ、ラムゼイ達を順番に見る。
「戦えない者はおらんな? どうだ、ラムゼイ」
「もちろん、今すぐにでも」
マッシュの問いに、ラムゼイは獰猛な笑みを浮かべて答えた。それに満足そうに頷き、他の者たちへも声を掛ける。
「マーティン、ニニック、プルトニーはどうだ」
そう口にすると、三人の騎士は力強く頷いて口を開く。
「問題ありませんな」
「楽しみなくらいです」
「お任せください」
三人はそれぞれ自信たっぷりに答えた。それを見て、オーウェンも軽く頷いている。どうやらすぐに結果が出そうだと安心したようだ。
とりあえず、面倒なことにならずに済んだことにホッとしつつ、グレンとストラスにも目を向ける。
「すみません。オーウェンが我慢できないかと思って……お二人は大丈夫ですか?」
そう尋ねると、グレンは小刻みに震えつつ頷き、ストラスは少し緊張した様子で答えた。
「……全力を出そう」
ストラスの言葉に笑顔で頷き返し、フェルターを見る。聞くまでもないと思っていたが、予想通り、やる気満々といった表情である。
双方問題ないと判断したのか。マッシュは再び口を開いた。
「それでは、早速今から武闘場に移動する! モア、案内せい」
「は、はい!」
突然名を呼ばれて跳びあがるほど驚くモア。その返事を聞いて笑い、マッシュは立ち上がった。
「試合形式は一対一での戦いを五回とする。これは戦士の儀式だ。たとえ勝てずとも、十分な力を見せれば許可は出してやろう。安心して全力を出すが良い」
それだけ言い残すと、マッシュは声を出して笑いながら謁見の間から出ていく。その背を見送ってから、ラムゼイが立ち上がって振り返った。
「……面白いことになったな」
「ラムゼイさんも楽しそうですが」
「はっはっは! それはそうだろう! ようやくアオイに勝てると思ったら楽しくもなる!」
ラムゼイは威圧感のある笑い声をあげてそう言い、私を見下ろす。その言葉に、マーティン達が驚愕した。
「なんと! ラムゼイ様が負けたのですか!?」
「……信じられん」
「こんな子供が、本当なのか」
と、三人はそれぞれ驚きと若干不愉快な反応を示した。
「私は成人しております。そして、フィディック学院の教員です」
大柄の三人の騎士を真っすぐに見上げてそう告げると、三人は居心地悪そうに頭を下げた。
「おお、それは……」
「いや、申し訳ない」
「小さいが、大人なのか」
プルトニーはどうも私が子供にしか見えないようだ。まぁ、ブッシュミルズ皇国に来て子供以外は大体体格が良い者ばかりだったから、そんな光景に見慣れていたら私が極端に小柄に見えるのかもしれない。
とはいえ、納得は出来ない。
少し不貞腐れながら三人を睨んでいると、フェルターが鼻を鳴らして口を開いた。
「……爺の相手は俺だ。アオイは陛下と戦うに決まっている」
そんな発言を聞き、ラムゼイが眉間に深い皺を刻んだ。
「な……っ! そ、そうなるか……確かに、陛下は最も強い者と戦いたがるだろう。そうなると、アオイは陛下と戦うのか」
とても残念そうにラムゼイは呟きつつ、ふと何かに気が付いたような表情で顔を上げる。
「いや、待て。オーウェン殿がおるではないか。アオイの師匠なのだろう?」
ラムゼイがそう言うと、オーウェンは笑みを浮かべた。
「その通り。アオイに魔術を教えたのは私だ」
得意げな顔でそんなことを言うオーウェンに、ラムゼイは機嫌を取り戻す。
「おお、それを聞いて安心したぞ。ならば、オーウェン殿と戦うとするか」
ラムゼイがくつくつと笑いながらそう言うと、フェルターが不機嫌になる。
「……逃げる気か」
「抜かせ、小僧。十年早いわ」
フェルターが怒気を滲ませて不服を伝えたところで、ラムゼイは一切相手にせず笑っていた。確かに、まだまだ格が違うのかもしれない。
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