武闘場2
武闘場の内部は思いのほか狭かった。二、三人が並んで歩くのが精いっぱいほどの幅の通路が、弧を描くように続いている。床は石板だが、ところどころひび割れたりしていて長い年月を感じさせた。縦に長い窓が幾つもあり、棒状になった光が通路を照らし出しているが、それでも少し薄暗い。不思議な雰囲気の通路を歩いていると、後ろから声がした。
「な、なんか怖いですね……」
エライザだ。その言葉に、シェンリーが頷いて同意する。
「まるで、戦場みたいです……」
二人のその言葉を聞き、ロックスが肩を竦めて答えた。
「まぁ、あながち間違いではないだろうな。毎年ここでフェルターみたいな戦闘狂が集まって戦っているんだろ? まさに、戦場だろ」
ロックスがそんな感想を口にすると、フェルターが鼻を鳴らす。
「……ブッシュミルズ皇国では誰もが強くあろうとする。その中でも強い者たちが実力を競い合う場というだけだ」
そんなフェルターの言葉に、ハイラムが素朴な疑問を持った。
「皆、身体強化系の魔術を使う人ばかりなの?」
その質問には、先頭を行くモアが答える。
「いえ、極稀にですが、炎や水を使って戦う武闘者もいます。ただ、ほとんどの場合が敗退してしまいます」
モアの返事を聞き、ハイラムはフェルターの横顔を見た。
「……なるほど。力で圧倒するわけか。強引な戦い方だなぁ」
呆れたようにハイラムがそう答えると、思わずモアが反論する。
「ご、強引なわけではありません。身体強化にも様々な種類があり、高度な戦術を用いて放出系の魔術を打ち破ります。炎や水に向かっていく勇気があってこその戦い方ですね。そんな勇敢な戦士たちをブッシュミルズ皇国の国民は尊敬しますし、自分たちもそうなろうと努力します。だから、ブッシュミルズ皇国の国民は我らこそ最も強い戦士であると信じています」
そう言って、モアは胸を張った。ブッシュミルズ皇国で生まれ、武闘場で戦う戦士たちを見て育ったモアは、心からそう信じている。それがしっかりと伝わってきた。しかし、放出系魔術とは、通常の遠距離で効果を発揮する魔術のことだろうか。
「ブッシュミルズを愛しているのですね。素晴らしい愛国心だと思います」
「え? あ、はい! もちろんです!」
自分の胸を叩いて誇るモア。そんなモアの様子に、オーウェンがフッと息を漏らすように笑った。
「確かに、そんな文化を持つならそれぞれ個としての実力は高いだろう。しかし、それは武闘場という場で、一対一で戦う場面に限る。実際に戦争になってしまった場合、想像している通りにはいかないだろうな」
オーウェンがモアに聞こえるような声でそう言い、肩を竦める。それに、モアが驚いたような顔で振り返った。純粋にオーウェンの言葉が信じられないといった様子だが、すぐに私の顔を見て口を噤む。実際に人間である私に負けてしまった為、オーウェンの言葉を否定できないと感じたのかもしれない。
強い者が正しい。そんな常識を持っていそうだ。マッシュが国王のうちは良いが、もし過激な性格の者が絶対強者となった時、ブッシュミルズ皇国はどんな風に変わってしまうのだろうか。もしかしたら、他国へ侵攻する未来もあり得るかもしれない。そんな懸念があった。
いや、考え過ぎだろうか。他の文化を理解できないからと安易に否定してはいけない。
そんなことを思っていると、グレンが額の汗をぬぐいながら困ったように笑った。
「ま、まぁまぁ……ブッシュミルズ皇国らしい考え方とは思うぞい。事実、ラムゼイ侯爵はフィディック学院の上級教員でも簡単には勝てないような武人じゃ。確かに、驚くような実力の者が何人もいるブッシュミルズ皇国は強国じゃのう」
グレンがそう告げると、モアはなんとも言えない顔で頷く。グレンの言葉は優しかったが、モアの主張を全肯定するものではなかったからだろう。そんなモアを見て、フェルターが唸る。
「……モア」
名を呼ばれ、モアが眉を八の字にして顔をあげる。その顔を見据えて、フェルターは一言告げた。
「試合を見ていろ。魔術の奥深さが知れる」
その言葉に、モアは傷ついたような顔をしたが、顎を引いて頷く。
「は、はい……分かりました……」
そう口にして、肩を落として前へ向き直る。通路の奥へ先導するように歩き出したモアに、フェルターは短く息を吐いた。
そうこうしている間に、一つの扉の前に到着した。先ほどの半分ほどの高さの両開き扉だ。モアが片側を開けて中に入り、その後に続く。
すると、そこは様々な武器が並ぶ大きな部屋だった。多種多様な剣や槍、斧、盾などが並んでいる。殆どが専用の置き場のような場所に置かれているが、一部は壁に展示品のように置かれている。その中には魔術具らしき代物もあった。
「……どれを使っても良いということですか?」
そう尋ねると、モアが首肯する。
「基本的にはブッシュミルズの戦士が扱えるような頑丈なものばかりですが、一部は耐久力の低いものもあります。お気をつけください」
と、モアはなんでもないことのように答えた。




