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騎士と魔女の誓約  作者: 泉伊織
学院の殺人鬼
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魔術学

読んでいただきありがとうございます

 グレイスとの再会から翌日。授業初日の一時限目は魔術学であった。

 思考を空白にする様にボーッと窓の外を見ていたところ、時間になったのか鐘の音がなる。

 それと同時に白髪混じりの黒髪をした六十才前後の女性が教室の扉から入って来ると教壇に立つ。


「おはようございます。これから一年間みなさんに魔術学を教えするベロニカ・ハスターです。よろしくお願いします」


 魔術学。魔術学と言われても全く想像出来ない。

 基本、魔術師の家には悲願があり、その家が持つ直伝の魔術でそれを果そうとしている。

 魔術師は悲願を果たすため、直伝の魔術をより強固に緻密にと完成度を上げていこうとするため、親と子、師匠と弟子という関係でない限りは魔術を教師と生徒の関係で学ぶことは普通はあり得ないのだが、この授業は何をするのだろうかと疑問に思いながら周囲を見ると他の生徒達も疑問が顔に出ていた。


「魔術学ではみなさんに魔術の基礎の部分を学んでもらいます」


 疑問の答えは先生の口から出た。


「先生、質問いいでしょうか?」


 と、手が挙がる。視線を前に向けると昨日は空席だったところが埋まっていた。


「なんでしょうか?グレイスさん」


 先生に指されたグレイスは立ち上がる。

 昨日会った時とは違い長く腰ほどまでにあった金髪はツインテールにされていた。

 おそらく今の髪型がいつもの髪型なのだろう子供の頃はショートで似合っていたが、今の髪型も十分に似合っていた。

 一度考え出すと蓋をしていた満杯の水のように温かくも未熟な記憶が溢れ出すが、それと一緒に汚濁と炎の傷痕が疼く。

 あまり考えすぎるとダメだと思い、数回深呼吸すると治った。


「国内随一の魔術学院であるラフォールに入るにあたって嫌というほど魔術の基礎を勉強しました。そんな私たちに学ぶことがあるでしょうか?」


 まだまだ、心の傷が癒えていないと思い、出来るだけグレイスのことは視界に入れないようにする。

 それにしても、一番知りたいことを率直に言ってくれたな。

 普通は「学ぶことがあるのか」なんて聞けない。グレイスだから聞けたという感じだろう。

 そんな若干失礼な質問に先生は答える。


「確かに皆さんは基礎は一通りマスターしているでしょうが、この授業を持って魔術に対する知識、心構え、身体、技術の精度を上げさらに深く、完璧にしてもらいます」


 ということらしい。

 まあ、ここで何を思って言ったりしても始まらない。それに俺の目的はここで魔術を研鑽することではないのだ。


「それでは魔術とは何かについて始めます。魔術とは科学とは対極にありながら隣り合わせのモノで、物理法則や自然の摂理を軸にこの世界のあらゆるモノを解き明かしていく科学とは違い、魔術は概念や魂、不老不死に超常の存在への到達など人という種の限界を超えるための手段であり、それらを研究、駆使する者達を魔術師と言います」


 ここまではいいですね、そう言って先生は教室を見渡す。


「ただ、魔術を研究しているだけでは魔術師とは言えません。魔術を駆使してこその魔術師なのです。ゆえに魔術師には必ず体のどこかに紋様があります。

 その紋様をなんと言うでしょう?

 テオ・パブリック君。答えてください」

「はい」


 緑髪の少年が立ち上がる。

 テオ・パブリック。

 第三都市出身の中流貴族で、植物を使った魔術を得意とする家柄だ。

 テオ自身も例に漏れず得意ととしている。花や植物が好きで嫌いなものは虫だ。

 俺はこの学院に入ることが決まってから、アイリスに頼み学院に関わりある人や新入生のプロフィールリストをもらい、数日で頭に叩き込んでいた。お陰でこの学院で俺が知らない人はいない。


「魔術痕です」


 淀みなく答える。


「正解です。座ってください」


 テオは正解して当たり前と言ったような雰囲気で席に座る。


「魔術痕は魔術師にとっての命であり、その魔術師の家の象徴です。

 では、その魔術痕の在り方などを説明します。

 魔術痕は産まれながらに備えているというものではありません。

 魔術師と人間には身体機能で違いはありませんが魔術師の家に産まれた子供はすぐに、母親と父親で結合された魔術痕を複写し魂と身体に刻み込むことで、魔術との親和性を高め魔術行使をよりスムーズに行えるようにします。

 そうですね、例えば炎系の魔術が得意なA家の息子に水系の魔術が得意な魔術のB家の娘が嫁ぐ。

 その二人の子供は炎と水、二つの属性の魔術が得意になるといった感じです。

 まあ、現実はこんな単純ではないですけどね。だいぶ大雑把にいうとこんな感じです」


 そして、その魔術痕に家の研究成果たる継承魔術が記録されている。

 だから魔術師は自身と同等、または上の位の魔術師と婚姻を結ぶ傾向にあったりする。

 そこら辺が何年も一緒に暮らしているアイリスからは全く見えてこない。

 アイリスほどの魔術師なら引くて数多だろうに。


「次に魔術師と貴族の繋がりについて話します」


 内容は変わる。


「昔はどうだったか知りませんが、現在は魔術師が支配階級として君臨しています。それには色々な理由がありますが、一つは魔術が今のこの平和を保っているからです。

 魔術学では深くは話しませんが、この国は眷獣によって、何時(いつ)滅ぼされてもおかしくない状況ですが、結界を構築することで人々を守っており、それが魔術師が支配階級であることの正当な理由になっているのです。

 だから、私たちが貴族としてあれるのは人々を守っているからなのだということを胸に留めて置いてください」


 概ねそんな感じで、授業は続きーー


「それでは授業を終わります」


 授業の終わりを告げる鐘が鳴ると同時に先生はそう言って教室を出た。

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