たった一人のクラスメイト
スタンバルト王国が都市に逃げ込んで数百年、人は自由を引き換えに眷獣という脅威から免れ、それに付随し戦争が起こらない国となった。
人は仮初の平和を手に入れたのだ。
そして、それら脅威から晒される事のなくなったスタンバルト王国の人口が着々に増し、太古の魔女に呪いをかけられる以前よりも二倍、三倍になったが、それでも都市には広大な土地が有り余っていた。
それは、スタンバルト王国随一の都市である、第一都市王都アレスも変わらなかった。
いや、随一だからこそ、変化は他の都市よりも顕著だった。
「………」
たとえ、自由を代償に眷獣から逃れても、社会を形成し最低限の生活を営めなければ、生きているとは言えない。
それらが出来てるこの現状、この箱庭にいればある意味自由と言えるかもしれない。
俺たちの自由が効く範囲が世界ならば、この鳥籠にある端っこの墓地は世界の端にあるのだろう。
いささか、いやかなり感傷に浸ってるな。
「バカバカしい。拾えた命をわざと見捨てといて………。
気持ち悪いな」
俺には感傷に浸る権利なんてないのに。
心のうちにこびりついて拭えない、やりきれない思いを抱えながら、空を見上げる。
空模様は、俺の心とは裏腹にーー
「快晴だ。まさに墓参り日和だ」
王都の郊外。
第一都市王都アレスの端。
城壁際の草原に墓地があった。
墓地は盤上ゲームの盤上のように、規則正しく墓石が整列していた。
その先頭の列にある真新しい墓石は、雲一つ遮るもののない快晴の青空から太陽の光を受けてキラキラと輝いていた。
払拭出来ない心のうちは、とりあえず片隅に追いやり、俺は墓石の前で屈むと花束、を手向け手を合わせる。
「……………………………………………………………………………………」
「あら、偶然。あなたも来てたのね、アイト」
それから五分ほどそうしていると、背後から俺を呼ぶ声がする。
振り向くとそこには、グレイスが立っていた。
グレイスは全身白いワンピースに身を包み、髪はこう言ってはなんだか、病人がするようにゴムでひと房に纏めて右肩に流しており、深窓の令嬢然とした装いをしていた。
そして、肌が焼けないようにさしている黒い傘がその印象を更に、加速させる。
それは、普段の苛烈な彼女の雰囲気とは合致しなかった。
「ああ、久しぶり………でもないか。
というかその服、恐ろしく似合わないな」
「うるさいわよ。
これでも私は、いいとこの出のお嬢様なのよ。
あなたのどこの馬とも知れないお家とは違うのよ。
だから、この服装は、何にも間違ってないわ」
「まぁ別に人の服装にどうこう言う気はないけど、そういう差別的なの今のうちに直しといた方がいいぞ。
普通に効くやつには効くからな」
「全くうるさいわね。あなたの家燃やすわよ」
「それしたら、自動的に他の生徒の家も燃えるから止めろ!」
「ふっ、少しはマシな面になったわね」
傘を閉じて鼻で笑う。
なんだ、俺の事を思って…
「いつまでも、女々しい辛気臭い顔でいられたたら、こっちにまで移りそうだし」
ーかは分からないけど、そういうことにしておこう。
「グレイスも墓参りか?」
「当たり前でしょ」
そりゃそうだ。
墓地に来てお花見とかな訳ないよな。
それはサイコパスすぎる。墓地に来たんだから墓参り以外ないか。
グレイスは俺を押し退けて前に出る。
「………………」
「………………」
グレイスが手のひらを合わせて黙祷すること数分。
「守れなかった」
グレイスは呟き漏らす。
俺はグレイスの背後に立つため、表情を伺うことはできないが、その一言には後悔と無力感の色が深く刻まれていた。
「………………」
どんな言葉をかけてやればいいのか分からない。
「聞いてもらってもいいかしら、あの日、何があったのか。
あなたには知っていて欲しい」
今度は先ほどと打って変わって、穏やかに言う。
俺はあの日何故クラスがグレイスを残して、全滅してしまったのか知らない。
正直、知ろうと思えばできた。
事件が起きた後、俺を含めて近衛騎士団主体で事情聴取が行われたのだ。
アイリスに教えて欲しいと迫れば、話しただろう。
それでも、俺は知ろうとは思わなかった。
確かに、友人とは言えないが、決して他人ではなかったクラスメイトたちの死は悲しかったが、ドレイクを殺したところで満足してしまった。
ただ、この話は聞かなければならないと思った。
「あなたたちと別れた後、私たちは森の出口へ向かったわ。
途中、何度もガローに襲われたけれど、誰一人欠ける事なく森を出ることに成功した。
みんな舞い上がっていたわ。
何たって地獄から抜け出せたんだもの。当然よね。
でも、その時みんなは未だ壁の外にいる事を忘れていたわ。
地獄は続いていたの。
森を出てすぐにある平野にべへモードの群れがいた。
ここまで、もう話せば分かるわよね。
その後、学院に入学したての半人前の子供なんかにべへモードが倒せる訳もなく、手も足も出ず、蹂躙されたわ」
「………………一ついいか?
群れって………間違い無いのか?べへモードが平野に、しかも群れでって本当にあり得るのか?」
「ええ、間違いなく正気よ。
クラスメイトたちが踏み潰されるのを何度もこの目で見たわ」
「…そうか」
短く呟く。
グレイスの口から語られる悲惨な内容に思うところはあるが、それよりもべへモードの群れに遭遇したことの方に気を取られていた。
べへモードは俺もあの日、遭遇した。
べへモードの生息域は基本的に深い森の奥だ。
太古の魔女の呪いで眷獣は生まれているとはいえ、生き物だ。
故に、ある程度行動を把握することができる。
俺が遭遇した森の外縁部ですら珍しいのに、平野に群れでいるのは何が何でもあり得ない。
流石におかしい。
壁の外で何が起きてるんだ?
それとも何某かの策略か?
不意に生まれた疑問の解答を求めようと思考する。
「ーート、ーイト、アイト、アイト!」
「ッいた!?」
急に頬にパチンと鋭い衝撃が来る。
「何よ、起きてるじゃない」
「は?」
「何度も声をかけてるのに、返事がないんだもの、辛すぎて気絶したのかと思ったわ」
「おい、否定しずらいことを言うな。あと、何となく不謹慎だからやめろ」
「そうね。今のはちょっと性格が悪すぎたわね」
「それで、引っ叩くほど聞いて欲しいことは何だよ」
「揶揄いで、ハードルを上げられても困るわ。
私が話すのは、高くて自分には超えられないと思ってたハードルが、跳んでみると意外とそんな事なくて、ハードルを越えられたみたいな話よ」
「ちゃんと、ハードル越えれてるじゃないか」
「確かに越えれちゃったけど、そうじゃなくて。
拍子抜けするって事が言いたいのよ。
細かい男は嫌われるわよ」
氷のように冷たい目でグレイスに睨まれる。
逆ギレかよ。
「それで?」
「私たちってどうなるんでしょうね?」
「抽象的すぎる。もっと詳しく話してくれ」
「このように、クイントスクラスは私たち二人になってしまったわ。
このままだと、クラス対抗の行事の時とかに扱い辛いだろうし、どう処理されるのかしらね?」
「確かにな」
グレイスが言った通り、他校との交流戦や行事の時とかに、生徒側の俺たちと運営する学院側、どちらもめんどくさくなりそうだ。
それならいっそ、クイントスクラスを解体して、俺とグレイスを何処かしらのクラスに入れた方が色々と都合が良さそうだ。
でもーー
「特に、変わることはないんじゃないか?クイントスクラスが全滅したわけではないし……。
ラフォールがクラスの形を変えるとは思えない」
「私もそう思うわ。
シアンローズ、ヴァイスリリー、クイントス、ロトアマリリス。
この四つのクラスは名も形も変えず、どの世代も必ず四つ学院設立当初から存在する。
その伝統を破るとは考えずらいわ」
俺は小さく頷く。
どうやらグレイスも俺と同じ意見だったようだ。
「ま、でも、それも明日わかるんじゃないか?」
「ーーーー?」
グレイスは頭上にハテナを浮かべて、首を傾げていた。
「あれ?話通って無いのか?」
「いえ、何も」
心の中でため息をする。
セルーナ先輩はしっかりそうに見えて、意外と抜けてるからな。
それかシンプルにグレイスの事が嫌いか。
それだったら、めんどくさそうだ。
生徒会とはこれから沢山、クラスについての事で関わりそうだし、その度にギスギスすんのは、俺が辛い。
「明日、セルーナ先輩とそのクラス関係で会うんだよ」
「あ〜〜、そういえば、誘われた気がする。私明日予定あるから断ったんだわ」
よかった。
仲が悪いわけではなさそうだ。
とう言うかーー
「断ったのか?
結構大事な話だと思うぞ」
「だって、あなたが行くって聞いたんだもの。私は行く必要ないでしょ」
前言撤回。
全然不仲な可能性あるな。
グレイスとセルーナ先輩、あまり絡みなさそうだけど………ま、女の子は何にもしてくても、人の事嫌いになるからなぁ。
偏見だけど。
「わかったよ。来なくていいよ、俺が話を聞いておく」
どうにも覆りそうにないと、諦める。
グレイスが決定したことは、覆らない。思えば似たような事態は幼少の頃に散々あった。
慣れたものだ。
それに、グレイスがいた所で話される内容に変わりはない。
「やったーー!
それじゃあ、あなたに任せたわ。
私は明日の準備があるし、もう行くわ。
しっかり話を聞いてくるのよ」
グレイスはそう言って、手を振りながら墓を去っていく。
「ハァ」
今度はため息を口に出して、それをグレイスへの返答とした。
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墓参りした次の日、昼下がりの時間帯、第一都市王都アレスの商店街にある喫茶店に足を運んでいた。
第一都市王都アレスは中心に王城が鎮座し、それを囲むように貴族街、商店街、市民街、貧民街、それ以外の土地は全て農地、といった感じで、都市を鳥瞰してみれば、樹輪のような様相を呈している。
また、中心に行けば行くほど階級が高くなる(農地は別だが)。
そして、商店街でも特に内地の一画にある喫茶店に来ていた。
俺は喫茶店の一番奥、周囲を見渡せる四人がけの席に座り、人を待っていた。
周囲を見てみた感じ、身なりがいいものばかりだった。
商店街と貴族街の境界の間近にあるだけあって、富裕な市民や貴族どちらもいる。
「ーーー」
注文は待ち人が来てからにしようと思っているが、先に決めておこうと思い、メニューを開く。
「…………高すぎ」
店の人に聞かれないように、小さく呟く。
コーヒーが一杯800金貨。
富裕層に狙いを定めているだけあり、どれも中々の値段だ。
ま、俺も公務員として給料が支払われているので、コーヒーを払うくらい何ともない。何ならセルーナ先輩の分も奢るくらいの甲斐性はある。
しかし、セルーナ先輩に奢る事は惜しまないが、正直出来るなら注文せず、お冷でやり過ごしたい。
でも、マナーは良くないし、無理だよな。
「う〜〜〜ん」
「こんにちわ、アイト君」
テーブル席を独占して一人唸っていると、俺の名前を呼ぶ声がした。
視線を上げると、そこには制服に身を包んだセルーナ先輩、それともう一人同じくラフォールの制服を着た男子生徒がいた。
男子生徒の身の上を疑問に思いながらも、挨拶に応える。
「こんにちわ」
「ここ座っていい?」
「もちろんですよ。どうぞ」
セルーナ先輩を上座にして、その隣に男子生徒が、そして俺はセルーナ先輩の対面に座る。
「ごめんね、私が呼び出したのに遅れちゃって」
「いえ、気にしないで下さい。
俺が早過ぎるだけですから。
ほら、まだ待ち合わせ時間の5分前です」
懐中時計を見せてフォローする。
口にした通り、俺が来るのが早過ぎたのだ。
待ち合わせ時間の30分前に来ていたのだから、セルーナ先輩には何の非もない。時間通りに来ただけなのだ。
「ありがとう、そう言ってくれると助かるわ。
そうだ!代わりと言っては何だけど、何でも好きなものを頼んでちょうだい!」
「そんな申し訳ないですよ。別に先輩は遅刻した訳じゃないんですし」
「いいの〜〜。
後輩は黙って先輩に奢られなさい」
セルーナ先輩はその豊かな胸を張り、叩くと次は前かがみのように机に乗り出す。
その際に、胸が机に押し付けられ深い深い谷間が出来る。
男として否が応でも目が引き寄せられるが、俺は漢でもある。
目線のやり場に困って、すぐに目線を逸らして、セルーナ先輩の特徴的な眼帯を見る。
先輩はちょいちょいと手招きする。
邪な目で見ていた事を気付かれたかとハラハラしながらも、先輩の手招きに応じて俺も机に乗り出し、セルーナ先輩の口に耳を寄せる。
セルーナ先輩は左手で壁を作ると、小声でーー
「このお店、少し値が張るでしょう。
でも気にしなくていいわ。
私、実家が太いから結構お金持ってるのよ〜」
そう言ってセルーナ先輩は、若干照れながら微笑む。
可愛過ぎるだろォッ!?
あまりの愛らしさに、心の中で狂喜乱舞しながらも、それをおくびにも出さずに返答する。
「それでしたら、ここは先輩のご相伴に預かろうと思います」
「うんうん、もちろんノア君の分も奢るわよ」
「ありがとうございます会長」
隣のノアと呼ばれた生徒は恭しく一礼する。
「もう、礼儀正しいのか堅いのか」
呆れた雰囲気が滲み出ながらも相好は一切崩されていない。
「さ、じゃんじゃん頼んじゃって!」
セルーナ先輩はそう言ってメニューを俺とノアに渡す。
奢って貰うからと言って、高価なものは気が引けるが、安過ぎてもセルーナ先輩に遠慮していると悟られてしまう(安いと言っても、この店での話なんだが)。
ここは、安くもなく高くもない、良い安牌の物を頼むべきだ。
先程、一度見たが、再度メニューを開きざっと見る。
現在は昼過ぎ。
この約束があった為、パン一つで済ましていた。
もちろん、育ち盛りの俺が満足する訳がなく、だからか、字面だけでも食欲をそそる。
でも、ここでガッツリ食事をするのは何となく憚れるし、しっかりした食べ物はちゃんと高い。
でも、何か腹の入れたいし………。
………………。
これにしよう。
「俺はこのコーヒーゼリーでお願いします」
結局、俺は一つ1000金貨のコーヒーゼリーを頼んだ。
「僕はキーマカレーを」
「私はバナナチョコパンケーキにしようかな」
ノアは1300金貨のキーマカレーを、セルーナ先輩は2000金貨のバナナチョコパンケーキを選んだ。
コイツ、好きなもん頼んでんな。いや、別に良いんだけどよ。
「店員さーーん、注文いいですかー?」
子供のように無邪気で陽気な声で店員を呼ぶ。
すると、店の奥から女性店員が現れる。
「はーーい、ご注文はいかが致しますでしょうか?」
「このコーヒーゼリーとキーマカレー、バナナチョコパンケーキを一つずつ下さい」
糖分エグそう。
「かしこまりました。
コーヒーゼリーとキーマカレー、バナナチョコパンケーキを一つずつですね?」
「はい、オッケーです」
「かしこまりました。すぐにお持ち致しますね」
店員は愛嬌のある笑顔をしながら、恭しく一礼して厨房へと引っ込む。
注文が終わると、セルーナ先輩はこちらに向き直り、手を隣のノアと呼ばれた男に向ける。
「そういえば、アイト君にはまだ紹介していなかったわよね。
こちらノア・フィンス君。生徒会副会長を務めてもらっているわ」
「どうも、会長と同じ三年ロトアマリリスクラスのノア・フィンスだ。
会長が言った通り僕は副生徒会長だ。
お前より年上だし、地位もあるからな、しっかり敬語を使って俺を敬えよ」
おいおい、この副生徒会長大丈夫かよ。
先輩が敬語を強要してくるぞ。
「あと、お前、アイトといったか」
「はい」
急に空気が変わる。
ノア先輩は敵意と闘気、果ては殺気を含んだ目で俺を見据える。
「お前、少しツラが良いからって調子乗るなよ?」
「調子に乗るとは?」
「どうやら、先輩とサシで何度か会話しているらしいな?それだけではなく、二人で昼食もとったらしいじゃないか?」
セルーナ先輩とお話しする事が、調子に乗ってるのに繋がるのかと疑問に思ったが、ここは素直に頷いておく。
「え、まぁはい。
セルーナ先輩には何度か助けられたり、色んな事を教えてもらって、感謝してますね」
「もう、気にしないで。先輩なんだから当たり前のことよ」「それだよ!それそれ!『会長、俺のこと気にかけてくれてるけど。もしかして、俺のこと好きなのか?ワンチャン行けんじゃね!』なんて風に勘違いすんなよ!」
セルーナ先輩の声を掻き消すように、ノア先輩は必死に言う。
もう既に何となくだが、ノア先輩のキャラクターを掴んだ。
「あははは。そんな風には思いませんよ。
私のような底辺貴族ではセルーナ先輩は釣り合いません。身の程は弁えてますから」
「ぐっは………やめろ。
底辺貴族なんて言うな。それは俺に効く。
そこまで自分を卑下する必要ない」
底辺貴族の部分がコンプレックスを刺激してしまったみたいだ。
「だが、そっ、そうか、弁えているのか、弁えているならいい。
その上で、君に提案がある」
「えっ、」
急に友好的な雰囲気になり、何かを提案されるとは今の流れから思えず、素っ頓狂な声をあげてしまった。
というか、素直に納得するなんて………バカだな。
本当何だけどな。
ノア先輩はおもむろに制服の懐に手を入れると、一枚の金色のゴージャスそうなカードを取り出し、俺に差し出す。
「ふっ」
その際、ノア先輩はやたらに不敵に笑う。
違法クラブの会員証か?それとも麻薬カルテルのメンバー証とかか?
兎にも角にも怪しいオーラーだ。
「僕は生徒会副会長という肩書きの他に、こういう肩書きもあるんだ」
差し出されたカードを見てみる。
カードの中心には、
ーー『セルーナ先輩しゅきしゅき親衛隊』ーー
と書かれていた。
また、カードの端には『会員番号00004』とあった。
「何ですか?このセルーナ先輩しゅきしゅき親衛隊って?」
「おい、バカ!ご本人がいる前で言うな。
恥ずかしいだろ」
「羞恥心はあるんだ」
「僕には分かる。アイト君には相当な資質があると思うんだ。
君ならいずれ僕と同じ、いや、それ以上の次元に登り詰める事が出来る!!」
ああ、何でかメチャクチャに将来を有望視されてる。
どうしてだよ、今日初対面だぞ。
もしかし、俺たち何処かで会ってますか?
………変に期待を持たせないように、キッパリ断ろう。
「せっかくのお誘い有難いのですが、俺は辞めておこうと思います」
そもそも興味ないが、この組織の欠点を挙げれば「しゅきしゅき」というのがキモすぎる。
少年向けの小説を偶に読むのだが流行りなのか、たびたびこの「しゅきしゅき」という言葉が出てくるが、どんなにどんなに熱中していても、その度に萎えていた。
シンプルに好きじゃない。
R18物だったら素直に受け入れられるのだが……………って俺は何を冷静に気持ち悪い事を考えているんだ。
ノア先輩の熱意に呑まれてる。
こんなアホな会話をしに来たんじゃない。
さっさと切り上げよう。
「そこをなんとか!!」
手のひらを合わせて懇願してくる。
「俺もやる事があるんです!!」
俺も負けじと、勢いよく机に額を叩きつける。
たんこぶが出来た気がする。
するとーー
「おっ、おお、分かった。
頭まで下げられたらな……。
気が変わったら、声を掛けてくれ、君ならいつでも歓迎するよ」
たんこぶの甲斐があってか、ノア先輩は引き下がった。
若干、引いているのが、少しムカついたが、気にしない気にしないと言い聞かせて、怒りをおさめる。
こうして、ノア先輩と会話して分かったのは、とりあえず凄いめんどくさい先輩だと言う事だけだった。
目を付けられないようにしよう。
心の中で密かに刻み込むと、今まで黙っていたセルーナ先輩が口を開いた。
「アホンダラ蛆虫君の話は終わったかしら」
ええ〜〜急な悪口。
今までのセルーナ先輩からは考えられないような単語が出た。
驚きが顔に出ていたのか、セルーナ先輩は俺の顔を見ると、バツが悪そうに口を開く。
「さっき、私とアイト君が一緒に昼食を食べてた事を言ってたでしょ?
私、その事誰にも言ってないのよ。アイト君は他人に言った?」
「いえ、誰にも言ってないです」
あれ、それって、つまり…………。
「そう、つまりこの人たちは親衛隊といいながら、その実態はただのストーカーが群れてるだけなのよ。
勿論、全員が全員そうだとは思わないけどね」
セルーナ先輩は(眼帯で見えないが恐らく)遠い目をして窓の外を見る。
「うわーーー」
俺は蛆虫先輩を冷ややかな目で見下す。
蛆虫先輩は、ただただ席で縮こまっていた。
「ストーカーの群れって地獄ですね。
危害を加えられたら、俺に言って下さい。
どんなことでも協力しますね」
「まぁ、アイト君なら心強いわ。ありがとう」
セルーナ先輩が花のように笑って言った丁度その時、店員が来た。
「お待たせ致しました。
コーヒーゼリー1つとキーマカレー1つ、チョコバナナパンケーキ1つですね。
では、ごゆっくり」
「わーー美味しそう」
プルンプルンのゼリーが目の前に並べる。
シンプルに美味そうだ。
心なしか光って見える。
スプーンをとり、ゼリーに差し込み、口に運ぶ。
しっとりとした苦味の中に確かな甘みがある。
何より味が濃い。
このクオリティなら、この値段でも納得だ。
セルーナ先輩とノア先輩の顔を見てみると、二人とも美味しさに悶絶していた。
それから、俺は食事を再開した。
…………………。
………………………………。
……………………………………………。
皆が食べ終わり、今度は値段を忘れてコーヒーを頼んでいた。
「今日はクイントスクラスの話をしようと思って、君をここに呼んだの。
一名、断られちゃったけどね」
そして、話はようやく本題へと入った。
「端的に言うと1年クイントスクラスは存続することが決まったわ。
おめでとうかしら?」
「ありがとうございます」
めでたい事かは正直分からないけど、適当に答える。
学校側の決定に異論はないが、聞いておかなくてはならない事はある。
「行事などはどうするんですか?
クラス人数二人だと結構都合が悪いと思うんですけど」
「そうよね〜〜。私もそう思うのよ。クイントスクラスは解体して、二人を別のクラスに入れた方がいいって。
でも、クイントスクラスである事で不都合が出ないよう、そこら辺は上手くやりくりしてくれるそうよ」
大丈夫なのか?あまり具体的な話が出てこなけど。
って、そん事関係ないか。学校に入学した理由は他にあるんだから。
「他に何か質問はある?」
「いえ、特にないですね」
「ま、困ったことがあったら、その都度相談して。
生徒会は全面的にあなた達の助けになるわ。
学校側からもそう言われてるしね」
「ありがとうございます」
その後、各々が注文したドリンクを飲み終えると、席を立ち解散した。
最後までノア先輩は重要な話には全く入って来なかった。
ノア先輩は俺の中で、ただファンクラブに勧誘してきた人で終わった。




