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騎士と魔女の誓約  作者: 泉伊織
学院の殺人鬼
15/20

犯人

『眷属』を『眷獣』に変えたいと思います。

ややこしくてすみません。

どうやら、休憩時間は終了らしい。

まばらに散っていたクラスメイト達は号令により、ドレイクの前へ集まり列をなす。

ドレイクは一通りクラスの顔を見回すと、頷き口を開く。


「よし、これから壁内へと帰還する………と、行きたいが、そうは行かない。

お前らには、ここで死んでもらう」

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「は?」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」


意味不明な言葉にクラスメイト達は固まるが、

テオは早く言葉を噛み砕き、尋ねる。


「何かの冗談ですよね、先生?」

「いいや、冗談なんかではない。

お前達には、俺が冗談を言うような奴に見えるか?」

「確かに、先生はユーモアのあるような器用な人には思えません」


テオ以外の生徒達は腰に差した刀に、手をかける。

テオは唇を噛み俯き、続けて問いただした。


「なら、ここで、僕たちを殺すことに何の意味があるのですか?!」

「お前達を殺す事に意味はない。

単に、やれと命じられ、俺がしたくなったから、やるだけだ」


テオ以外の生徒達は、ドレイクが本気だと悟り、みな腰を落として戦闘体勢に移る。

ドレイクは狂っているのではない、全くの正気だった。

しかし、その正気は、どうしようも無くズレているのだ。


「なんなんですか!?正気なんですか?」

「ああ、俺は正気だ。

その、証拠にお前達を殺す手段は、しっかりと準備している」


表情をぴくりとも動かさずに、ドレイクは俺たちに告げた。

それが、引き金となり、生徒とドレイクに敵対関係という構図が出来上がる。

そこからは、速かった。

クイントスクラスの生徒達は、何も決めていないだろうに、息のあった動きで、一瞬にしてドレイクを包囲する。


「さすが、ラフォール魔術学院の生徒だ。

ひよっこの一年生だろうと侮るなかれか。

しっかりと準備しておいて、正解だったな」

「僕たちをどう殺すかは知りませんが、三十対一で勝てるんですか?」


ドレイクは祠にある札を取ると、魔力を流し込む。

すると、札に施されていた魔法陣が起動する。

それに呼応するかのように、俺のポッケに入れていた魔鉱石が紫色に妖しく光だす。

俺は良くない気がして周りを見てみると、皆各々が手に持つ魔鉱石が、俺と同じように紫色に光だしていた。

そして、俺の勘は的中する。

俺の魔鉱石に一筋の亀裂が走ると、それに続くように二、三とヒビが入り、やがて同時に皆の魔鉱石がパリンと割れる。


「………えっ」「おいおい!?どういう事だよ!?」「やめてやめてやめて!割れないで!!」「なんでなんでなんでなんで」「はっはは」「クソがァ!!」「この異常者が!」


一拍の沈黙の後、三者三様に叫ぶ。

地獄を歩くための命綱が、理不尽にぶった斬られたのだ。

この反応は、なんら不思議ではなかった。

そして、生徒達の心に抱いていた決定的な絶望感が、呼び起こされる。

また、絶望感は色んな感情に枝分かれし、表面的な目に焦りと恐怖、困惑と怒りとして宿る。

負の感情で覆い尽くされた視線がドレイクに集まる。


「これなら、勝てるだろう」


しかしドレイクは、そよ風のように受け流す。

テオはドレイクを指差す。

指先はブルブルと震せながらも、啖呵を切ろうとする。


「そうはさせない。

覚悟しろ、ドレイク!お前をーー」


が、最後まで辿り着かず、代わりに盛大な血飛沫が上がった。

森の奥から跳んできた犬型の眷獣ガローの凶爪に、首を引き裂かれたテオは倒れた。

………。


「キャアアアあああああアアアア!?」


テオの最も近くにいた女生徒は、全身に血を浴び、惨状に悲鳴をあげた。

ガローはテオの死体を踏みつけながら、グルルと俺たちを威嚇する。


「ガ、グワァッン!!」


雄叫びをあげると、木々の奥から新たに十匹のガローが姿を現し、ドレイクを囲むように立っていた俺たちを、そのまた囲むようにガローたちはいる。


「形勢逆転だな。

果たして、生き残れるかな?」


ドレイクは淡々と告げると、一斉にガローが襲ってきた。


「イヤああアアアアア!?」「うっわああゝアアアアア!!」「ううワわあああ!!!!」「イヤだ、死にたくないよ〜!?」「クソがクソがクソが!!」「ひギャアアぎゅうう!?」


ガローに狙われた者は、命潰えるその瞬間まで、ただ叫声を上げるだけの、獣の食糧へと成り下がる。

それが広場の至る所で行われた。

俺は剣を抜くと、俯瞰して状況を把握する。

クラスメイトたちは、すでに十数人は食い殺され、残り約二十人。対するガローは十一匹だ。


「………………」


俺はガローを観察する。

ガローは眷獣にしては、比較的常識的な見た目をしている。

骨格は狼に似ているが、それよりも遥かに大きく、逞しい。また、至る所に肉は敷き詰められており、かといって重すぎないように、締まるところは引き締まっている。

そして、それを覆うように鉄線よりも頑丈な漆黒の体毛がある。


「一番オーソドックスな奴か」


強化種などではなく、一般的な種だった。

しかし、だからと言って侮れない。

牙は頭蓋、頸部、鎖骨、脊髄を区別なく、噛み砕く。

爪は胸部、全腕部、大腿部、背部を容赦なく、引き裂く。

どれも、致命傷ほどの傷を与えることが出来、多くの生徒がこの瞬間も殺されていた。

そして、それは目の前でも起きた。


「イヤっ!!

死にたくない!助けて!?」


女子生徒は足に噛みつかれ、転倒する。

ガローの牙が足の深くに突きつけられ、強い力で振り回される。女子生徒の方は地面に指を突き立て、抵抗する。

ふと、女子生徒と目が合った。

必死さの中に恐怖を宿す顔で、女子生徒は俺を見られる。


「待ってろ、俺が助……」


まだ、間に合う。

今の状況なら、生きてる全員を助けられると思い、一歩目を踏むが任務のことがよぎり、二歩目が続かなかった。

ここで、力を見せつけ、ガローを殲滅し、全員を助けたら、否が応でも注目を集める。

そうすれば、任務に支障をきたすかもしれないと、思い立ち止まる。

このまま、女生徒は食われるのかと思っていると、


「今助けるわ!」


しかし、俺が二の足を踏んでいる間に、グレイスが横を通り抜けていった。

グレイスは剣を抜くと、ガローの首を一閃するとー


「剣を抜きなさい!

泣き叫んだって状況は変わらないわ!!

戦うのよ。

私達にはその力があるんだから!!

戦って戦って、生き残るのよ!!」


生徒達に一喝する。

広場に一瞬の静寂が訪れると、どこからか「そうだよな」と賛同する声が上がった。

そして、「やってやるよ!」「うん。私も戦う!」「こいよ、害獣ども」と続く。


「士気が上がった」


現状は何も好転していないにも関わらず、絶望に包まれていた空気を一変させた。


「さすが、クイントスのお嬢様だ」


熱に当てられた。

先程まで、自分一人生き残ることを考えていたが、クラスメイトたちも助けようという、思いが生まれた。

もちろん、任務のことが最優先だが、それに支障をきたさない範囲で行動しようと、グレイスの元に案を提案しに走り出す。


「大丈夫か?」

「あら、生きていたのね?」

「酷すぎだろ。洒落にならねぇよ。

ま、そんなことが言えるなら大丈夫だな」

「何の用で来たの。こっちはあまり、時間がないの。手短にお願い」

「それはこっちも同じだわって、そんな事より早く、この場から逃げよう。

そうじゃないと、今はまだ平気だが、他の眷獣が集まってくるのも、時間の問題だぞ」

「それには私も賛成だけど、どうやってやるのよ?

眷獣の壁は厚いわよ」


グレイスは戦闘を片手間に尋ねる。

俺は意識はグレイスに集中しながらも警戒は怠らない。


「悪いが冴えた案なんてのはない。

力技だ。

先頭をグレイス後尾を俺に、隊列を組む。

隊列って言っても、そんな綺麗なものじゃない。

ほとんど、塊だがな」

「でも、そうなれば守りきれない人が出てくるわ」

「全員は助からない!

もう既に何十人も死んでるんだ!

早く決断しないと手遅れになるぞ!

眷獣どもは、どんなに距離が離れていうようと、人間を嗅ぎつける能力に優れている。

こうしている間にも、他の眷獣が迫ってくるぞ!」

「あああ、もう、うるさいわね!

そんな事は分かっているわよ。

割り切ってやるわよ」

「ああ、それでいい。

壁の外では、死すらも自己責任だ」


グレイスは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに引き締めて、俺たちが座っていた岩の上に立つ。


「戦いながら聞きなさい!

これから、隊列を組み眷獣の包囲網を強行突破するわ。

末尾はアイトが、先頭は私が行くから、それに続きなさい!」


岩から飛び降りると、壁がある方向へ颯爽と駆け出す。

そして、一人二人とそれに続く。

数匹のガローが追うように走っていったが、それはグレイスに任せよう。


「………」


あたりを見回す。

未だ数人の生徒が隊列に乗り遅れていた。

その中には、ジェイド、ロイド、ウィルがいた。

三人は俺のもとへ来るとーー


「僕たちもアイト君と一緒に戦います」

「俺たち、友達だからね」

「諦めなければ、負けはせん」


と言った。

この言葉を聞いて俺は、この三人に言い知れない不快感を覚えた。

しかし、そんな感情はすぐに拭い去りーー


「ありがとう、三人とも」


模範解答を告げた。


「それなら、いま戦っている人たちの支援に向かってくれ」

「分かった」

「オーケー」

「よし」


三者三様の返答。

俺はガローに狙われ、その対処に、いっぱいいっぱいになっていた、女生徒を助けに走り、ガローと女生徒の間に入り込んだ。


「ここは俺が受け持つ。早く行け」


隊列の後を追わせようと促す。


「ありがとうございます」


女生徒はグレイスたちを追っていったが、しかし女生徒は途中で下半身と上半身に割れ、物言わぬ死体へと変わった。


「ハンデは十分だろ」


そう言って、ドレイクは不可視の刃を繰り出した。

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