犯人
『眷属』を『眷獣』に変えたいと思います。
ややこしくてすみません。
どうやら、休憩時間は終了らしい。
まばらに散っていたクラスメイト達は号令により、ドレイクの前へ集まり列をなす。
ドレイクは一通りクラスの顔を見回すと、頷き口を開く。
「よし、これから壁内へと帰還する………と、行きたいが、そうは行かない。
お前らには、ここで死んでもらう」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「は?」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
意味不明な言葉にクラスメイト達は固まるが、
テオは早く言葉を噛み砕き、尋ねる。
「何かの冗談ですよね、先生?」
「いいや、冗談なんかではない。
お前達には、俺が冗談を言うような奴に見えるか?」
「確かに、先生はユーモアのあるような器用な人には思えません」
テオ以外の生徒達は腰に差した刀に、手をかける。
テオは唇を噛み俯き、続けて問いただした。
「なら、ここで、僕たちを殺すことに何の意味があるのですか?!」
「お前達を殺す事に意味はない。
単に、やれと命じられ、俺がしたくなったから、やるだけだ」
テオ以外の生徒達は、ドレイクが本気だと悟り、みな腰を落として戦闘体勢に移る。
ドレイクは狂っているのではない、全くの正気だった。
しかし、その正気は、どうしようも無くズレているのだ。
「なんなんですか!?正気なんですか?」
「ああ、俺は正気だ。
その、証拠にお前達を殺す手段は、しっかりと準備している」
表情をぴくりとも動かさずに、ドレイクは俺たちに告げた。
それが、引き金となり、生徒とドレイクに敵対関係という構図が出来上がる。
そこからは、速かった。
クイントスクラスの生徒達は、何も決めていないだろうに、息のあった動きで、一瞬にしてドレイクを包囲する。
「さすが、ラフォール魔術学院の生徒だ。
ひよっこの一年生だろうと侮るなかれか。
しっかりと準備しておいて、正解だったな」
「僕たちをどう殺すかは知りませんが、三十対一で勝てるんですか?」
ドレイクは祠にある札を取ると、魔力を流し込む。
すると、札に施されていた魔法陣が起動する。
それに呼応するかのように、俺のポッケに入れていた魔鉱石が紫色に妖しく光だす。
俺は良くない気がして周りを見てみると、皆各々が手に持つ魔鉱石が、俺と同じように紫色に光だしていた。
そして、俺の勘は的中する。
俺の魔鉱石に一筋の亀裂が走ると、それに続くように二、三とヒビが入り、やがて同時に皆の魔鉱石がパリンと割れる。
「………えっ」「おいおい!?どういう事だよ!?」「やめてやめてやめて!割れないで!!」「なんでなんでなんでなんで」「はっはは」「クソがァ!!」「この異常者が!」
一拍の沈黙の後、三者三様に叫ぶ。
地獄を歩くための命綱が、理不尽にぶった斬られたのだ。
この反応は、なんら不思議ではなかった。
そして、生徒達の心に抱いていた決定的な絶望感が、呼び起こされる。
また、絶望感は色んな感情に枝分かれし、表面的な目に焦りと恐怖、困惑と怒りとして宿る。
負の感情で覆い尽くされた視線がドレイクに集まる。
「これなら、勝てるだろう」
しかしドレイクは、そよ風のように受け流す。
テオはドレイクを指差す。
指先はブルブルと震せながらも、啖呵を切ろうとする。
「そうはさせない。
覚悟しろ、ドレイク!お前をーー」
が、最後まで辿り着かず、代わりに盛大な血飛沫が上がった。
森の奥から跳んできた犬型の眷獣ガローの凶爪に、首を引き裂かれたテオは倒れた。
………。
「キャアアアあああああアアアア!?」
テオの最も近くにいた女生徒は、全身に血を浴び、惨状に悲鳴をあげた。
ガローはテオの死体を踏みつけながら、グルルと俺たちを威嚇する。
「ガ、グワァッン!!」
雄叫びをあげると、木々の奥から新たに十匹のガローが姿を現し、ドレイクを囲むように立っていた俺たちを、そのまた囲むようにガローたちはいる。
「形勢逆転だな。
果たして、生き残れるかな?」
ドレイクは淡々と告げると、一斉にガローが襲ってきた。
「イヤああアアアアア!?」「うっわああゝアアアアア!!」「ううワわあああ!!!!」「イヤだ、死にたくないよ〜!?」「クソがクソがクソが!!」「ひギャアアぎゅうう!?」
ガローに狙われた者は、命潰えるその瞬間まで、ただ叫声を上げるだけの、獣の食糧へと成り下がる。
それが広場の至る所で行われた。
俺は剣を抜くと、俯瞰して状況を把握する。
クラスメイトたちは、すでに十数人は食い殺され、残り約二十人。対するガローは十一匹だ。
「………………」
俺はガローを観察する。
ガローは眷獣にしては、比較的常識的な見た目をしている。
骨格は狼に似ているが、それよりも遥かに大きく、逞しい。また、至る所に肉は敷き詰められており、かといって重すぎないように、締まるところは引き締まっている。
そして、それを覆うように鉄線よりも頑丈な漆黒の体毛がある。
「一番オーソドックスな奴か」
強化種などではなく、一般的な種だった。
しかし、だからと言って侮れない。
牙は頭蓋、頸部、鎖骨、脊髄を区別なく、噛み砕く。
爪は胸部、全腕部、大腿部、背部を容赦なく、引き裂く。
どれも、致命傷ほどの傷を与えることが出来、多くの生徒がこの瞬間も殺されていた。
そして、それは目の前でも起きた。
「イヤっ!!
死にたくない!助けて!?」
女子生徒は足に噛みつかれ、転倒する。
ガローの牙が足の深くに突きつけられ、強い力で振り回される。女子生徒の方は地面に指を突き立て、抵抗する。
ふと、女子生徒と目が合った。
必死さの中に恐怖を宿す顔で、女子生徒は俺を見られる。
「待ってろ、俺が助……」
まだ、間に合う。
今の状況なら、生きてる全員を助けられると思い、一歩目を踏むが任務のことがよぎり、二歩目が続かなかった。
ここで、力を見せつけ、ガローを殲滅し、全員を助けたら、否が応でも注目を集める。
そうすれば、任務に支障をきたすかもしれないと、思い立ち止まる。
このまま、女生徒は食われるのかと思っていると、
「今助けるわ!」
しかし、俺が二の足を踏んでいる間に、グレイスが横を通り抜けていった。
グレイスは剣を抜くと、ガローの首を一閃するとー
「剣を抜きなさい!
泣き叫んだって状況は変わらないわ!!
戦うのよ。
私達にはその力があるんだから!!
戦って戦って、生き残るのよ!!」
生徒達に一喝する。
広場に一瞬の静寂が訪れると、どこからか「そうだよな」と賛同する声が上がった。
そして、「やってやるよ!」「うん。私も戦う!」「こいよ、害獣ども」と続く。
「士気が上がった」
現状は何も好転していないにも関わらず、絶望に包まれていた空気を一変させた。
「さすが、クイントスのお嬢様だ」
熱に当てられた。
先程まで、自分一人生き残ることを考えていたが、クラスメイトたちも助けようという、思いが生まれた。
もちろん、任務のことが最優先だが、それに支障をきたさない範囲で行動しようと、グレイスの元に案を提案しに走り出す。
「大丈夫か?」
「あら、生きていたのね?」
「酷すぎだろ。洒落にならねぇよ。
ま、そんなことが言えるなら大丈夫だな」
「何の用で来たの。こっちはあまり、時間がないの。手短にお願い」
「それはこっちも同じだわって、そんな事より早く、この場から逃げよう。
そうじゃないと、今はまだ平気だが、他の眷獣が集まってくるのも、時間の問題だぞ」
「それには私も賛成だけど、どうやってやるのよ?
眷獣の壁は厚いわよ」
グレイスは戦闘を片手間に尋ねる。
俺は意識はグレイスに集中しながらも警戒は怠らない。
「悪いが冴えた案なんてのはない。
力技だ。
先頭をグレイス後尾を俺に、隊列を組む。
隊列って言っても、そんな綺麗なものじゃない。
ほとんど、塊だがな」
「でも、そうなれば守りきれない人が出てくるわ」
「全員は助からない!
もう既に何十人も死んでるんだ!
早く決断しないと手遅れになるぞ!
眷獣どもは、どんなに距離が離れていうようと、人間を嗅ぎつける能力に優れている。
こうしている間にも、他の眷獣が迫ってくるぞ!」
「あああ、もう、うるさいわね!
そんな事は分かっているわよ。
割り切ってやるわよ」
「ああ、それでいい。
壁の外では、死すらも自己責任だ」
グレイスは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに引き締めて、俺たちが座っていた岩の上に立つ。
「戦いながら聞きなさい!
これから、隊列を組み眷獣の包囲網を強行突破するわ。
末尾はアイトが、先頭は私が行くから、それに続きなさい!」
岩から飛び降りると、壁がある方向へ颯爽と駆け出す。
そして、一人二人とそれに続く。
数匹のガローが追うように走っていったが、それはグレイスに任せよう。
「………」
あたりを見回す。
未だ数人の生徒が隊列に乗り遅れていた。
その中には、ジェイド、ロイド、ウィルがいた。
三人は俺のもとへ来るとーー
「僕たちもアイト君と一緒に戦います」
「俺たち、友達だからね」
「諦めなければ、負けはせん」
と言った。
この言葉を聞いて俺は、この三人に言い知れない不快感を覚えた。
しかし、そんな感情はすぐに拭い去りーー
「ありがとう、三人とも」
模範解答を告げた。
「それなら、いま戦っている人たちの支援に向かってくれ」
「分かった」
「オーケー」
「よし」
三者三様の返答。
俺はガローに狙われ、その対処に、いっぱいいっぱいになっていた、女生徒を助けに走り、ガローと女生徒の間に入り込んだ。
「ここは俺が受け持つ。早く行け」
隊列の後を追わせようと促す。
「ありがとうございます」
女生徒はグレイスたちを追っていったが、しかし女生徒は途中で下半身と上半身に割れ、物言わぬ死体へと変わった。
「ハンデは十分だろ」
そう言って、ドレイクは不可視の刃を繰り出した。




