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騎士と魔女の誓約  作者: 泉伊織
学院の殺人鬼
16/20

眷獣の餌と騎士

開いていただきありがとうございます

 ドレイクの繰り出した刃は器用に眷獣を避け、生徒を無差別に切り刻んだ。

 広場に残ったのは、俺を含めて6人だった。

 その六人の中に、ジェイド、ロイド、ウィルの三人は偶然にも含まれていた。


「この魔力の流れ」


 覚えがあった。

 二週間ほど前、研究会勧誘の帰りに襲撃してきた黒尽くめの男と同じものだった。


「まさか、俺を襲った黒尽くめの男がドレイクだったとはな。

 今更だが、何でこんな事をするんだ?」


 周囲の警戒をしながらも問いただす。


「先生をつけなさい」


 眷獣の動きが止まり、少し余裕が生まれた俺以外の五人は、俺とドレイクの会話を怪訝な表情を浮かべながらも黙って聞いていた。


「あんたに先生をつける価値はない。

 いいから質問に答えろ」

「悪いが、その質問には答えられないな」

「だろうな。

 まったく、ラフォール魔術学院の教師という地位を捨てて、こんな事を引き起こすなんて、俺には意味がわからない」

「なんて事はない。

 私にはそんな肩書き、ペンよりも軽い。

 ただ、それだけだ!」


 対話の時間は終わり、再び戦闘が始まる。

 ドレイクは腕を横に振り払う。

 すると、不可視の刃が音を鳴らしながら、放たれた。

 俺はドレイクとの会話の中で、密かに剣に集めていた魔力で、不可視の刃を切断し、そのまま地面に叩きつける。

 地面が割れ砂埃が舞った。


「今だ!逃げるぞ!」


 俺は叫び生徒たちを逃す。

 一人、二人が行き、最後のジェイド達が逃げたのを確認すると俺も後ろに続いた。


「アイト君、これからどうするんですか?」


 ジェイドは俺に並ぶようにスピードを若干落とす。


「出来ればグレイス達と合流したいけど、多分無理だ」

「ええっ!!それじゃあ、俺たちはどうすればいいだよ?」

「俺達は俺達で壁を目指す。

 思った以上に時間を食ったからな。

 おそらく、大分距離を離されている。

 無理にグレイス達と合流しようとすれば、この森を彷徨うことになるかもしれない」

「それだけは絶対に避けたいね」


 木々の根を避けて走る中、俺は何故、犯行の予兆に気づけなかったのかと悔やむ。

 そもそものミスは先入観だ。

 魔鉱石は術式を記録・保存可能という特性故に、基本的に大きな学院や研究機関、政府によって厳重に管理されている。

 そのため、魔鉱石を受け取った際に違和感を感じたにも関わらず、いくらラフォール魔術学院の教師であろうとも、所詮一介の教師であるドレイクには魔鉱石の細工など不可能だと無意識に思い、違和感を正す事を放棄してしまっていた。

 クソ、情けなさすぎて恥ずかしい。


「グゥッ……」


 失態から歯を噛み締めているとーー


「キャアアアアア!!」


 甲高い悲鳴が聞こえてくる。

 そちらに視線を向けると、横合いから現れたガローに襲われていた。


「グッががあああっっっっっっ!?アシっがあああアアアアアぎゃあああ!!」


 一撃で左足を噛み切られ苦痛の声をあげる。


「ううアアアッツアアあああ!!タッタスッっタスけ、タスケてェええええええ!!」


 助けを求める間もガロー達はむしゃむしゃと人を生きたまま貪る。


「我慢だ!いま助けるからな!」

「待ってて下さい」


 ジェイドやロイド、ウィル、それに男子生徒が足先を変える。

 俺も剣の柄に手をかけたが、しかしすぐに離した。


「無理だ。諦めろ。見捨てるしかない」


 冷酷に機械的に判断して告げる。

 しかし、普段は大人しいジェイドが、声を荒げて食い下がる。


「でも、それじゃあ彼女は?」

「死ぬ!助かるなんてのは1パーセントもありえない」

「もしかしたら、救えるかもしれないじゃないか」

「もしかしたらなんて、希望を計算のうちに入れるな。

 よしんば、彼女を眷獣から救えたとしても、いま既に瀕死の状態の彼女を壁まで俺たちが運ばなければならなくなる。

 そんなお荷物を抱えて森を走る余裕は今の俺達にはない」


 俺は合理的な論詰めで、ジェイドを黙らせる。

 俺とジェイドのやり取りを他の三人は黙って聞いていた。


「そんな……」


 ジェイドはただ足元を穴が開くほど見ていた。


「行くぞ。早くしないと、こっちにも眷獣が来る」


 そう言って、俺は止まっていた足を動かす。

 ジェイドも遅れて走り出したが、しかしーー


「待ってマッテまって!お願いだからタスケてよゥ。死にたくない……」


 絞り出すような助けの声をジェイドは振り切れず引き返そうとする。


「僕には見捨てるなんて出来ない!」

「バカ!やめろ!!」


 止まるように言うも、それを振り切って走っていく、すると案の定食いっぱぐれていたガローたちは、ジェイドにも狙いを定めた。


「うわァッ、ウワっぁ、アア!!」


 足、腿、胴、首へと下から群がる。

 助けに入ろうと向かったも、なす術なく一瞬でガローの餌になった。


「ジェイド!!ジェイド!!」

「負けるな!眷獣なんかに負けるな!」

「あああアアアアアもう、仕方ないなあ!!」


 顔と名前しか知らない単なるクラスメイトである女子生徒ならば諦め、見捨てる事ができたウィルとロイドもジェイドが餌食になると、我を忘れて助けに行く。

 そして、男子生徒も空気に流され、半ば狂いながらウィルとロイドについていった。

 目に見えない何かが崩れ落ちる気がした。


「止まれ!行くなぁ!」


 俺の声は三人は届かない。

 二人は食われていくジェイドしか映っておらず、一人は何も見えていなかった。

 だからか、三人は新たに現れた眷獣に気づく事ができずに、殺された。


「っうグウウ!?」「があぐうッッ!?」「うわアア!」


 ロイドとウィルは体長三メートル程度の大きさに、筋骨隆々の体躯、大きな角を持った眷獣べへモードの角に、心臓を貫かれて一撃で絶命した。

 男子生徒は空から虎視眈々と狙っていた鳥型の眷獣プテライに捕まれ、連れ去られた。

 最後まで、男の低く情けないような悲鳴をあげて、俺を見ながら空へと消えていった。


「………………」


 結果、確かなものは何も残らなかった。

 あるのは、どことも知れない森の中に一人残った俺だけだった。

 無力感はなかった。

 今は学生の身だが、俺の本来の職業は騎士だ。

 だから、死にゆく者たちを大勢看取ってきた。そこに、新たに五人加わっただけの話し。

 悲しみはあったが、大したことはなかった。

 戦場にいるのだから、何時如何なる理由で死んでもおかしくないと心の何処かで思っていたのかも知れない。

 それでも、やけに悲鳴が耳から離れてくれなかった。


「ワフゥゥゥゥンッ!!」


 ガロー達は雄叫びをあげ、べへモードは虎視眈々といる。

 べへモードは体の大きさの割に、臆病で大胆、そしてずる賢い。

 どうせ、ガローたちが弱らせたところを横取りしようと考えているのだろう。

 俺はとりあえずはべへモードを無視して、ガローに集中する。

 ジェイドと女子生徒を食べ終えたのか、ガローは唇歯を血まみれにしながら、俺を捉える。

 眷獣たちはいくら人を捕食しようと、果てはない。

 胃袋はどうなっているのかと思うが、本当に止まらない。

 人を見たら、すぐに食らいついてくる。

 くってクッテ食って喰らい尽くし、人がいなくなるまで止まらない。

 そういう生物兵器なのだと認識するしかないのだ。


「殺す…」


 俺は抜刀の構えをとり、最大限の殺気を込めて呟く。

 もはや、誰かに見られるかもしれないなんて、しょうもない事で力をセーブする必要はない。

 俺を見ていたものは、死んでいったのだから。


「ガルゥゥゥゥグギ!!」


 お腹が空いて待ちきれず、といった様子で唾を撒き散らしながら、俺に向かって走り跳躍。

 その様は本当にーー


「汚らしい」


 俺は口から肛門へと一閃する。

 先程まで脈打ち生きていたガローは肉塊へと変わった。

 それを侮蔑の眼差しで見ながら、次の敵へと視線を移す。

 ガロー達は仲間の無惨な死に様を目の当たりにしてか、距離をとって警戒していた。


「そっちが来ないなら、俺から行くぞ」


 ガローの群れに飛び込む。

 ガロー達はいきなり、群れに飛び込んできたインベーダーに、どうすることも出来ずに、ただ斬られる。

 舞うように斬って斬って斬り殺す。

 もちろん、それだけではなく魔力を込めた拳を叩き込み、虫のように潰し殺す。


「……………」


 一言も発さず、一度も瞬きせず、無心に戦う。

 そうして数分、ガローの死体が山のように積み上がっていた。

 次にベへモードを相手にする。

 べへモードも次は自分の番だと理解したのか、後ろ足で砂をかけながら、戦闘体勢に入る。


「ハッ!!」


 先手は俺がとった。

 木の幹を踏み台にしていき、鉄砲玉のように地面に平行に跳ぶ。

 べへモードの角はダイヤモンドのように硬いことで有名だ。

 何人かの剣の達人は一刀で斬り伏せられるという話を聞いた事があるが、俺の剣では弾き返される。

 だから、俺は魔力を刀身に流す事で切れ味を数段あげた。


「ハアアアッツ!!」


 斬り飛ばした角は勢いよく、飛んだ。

 しかし、それだけでは終わらない。

 べへモードの視界の中で右に左、上、下と、木の幹を使い、あちこちに跳躍し、スピードで翻弄する。

 べへモードは俺を視線で追いかけるうちに、目が回ったのか前足と後ろ足が絡まり倒れる。

 俺は倒れたべへモードの心臓の真上に立ち、剣を突き刺す。


「ブゥゥモモモグウ!!」


 べへモードは立ち上がり、背に乗った俺を突き落とそうと、啼き声あげながらジタバタともがく。

 当然、人間サイズの剣の刀身では心臓部まで刃が届かず、引っこ抜こうにも、しなやかなで硬い筋肉に挟まれて出来なかった。

 だから、俺は剣を通して強く、硬い魔力の塊を叩き込む。

 魔力の塊は波のように、筋肉、内臓、骨格、心臓をグチャグチャに破壊する。

 べへモードは啼く事も出来ずに、絶命した。


「ーーー」


 無言で剣を引き抜き死体から飛び降りる。

 その勢いのままに、走り出そうとするが、しかし視界の隅に一人の男がいた。


読んでいただきありがとうございます

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