<第34話>エピローグ
「んー、落ち着く」
拓途が、とっても幸せそうに息をつく。
彼は今、私の胸に顔をうずめているの。夢中で、サマーニットの胸元へ顔をこすりつける拓途。ぜんぜんエッチな感じじゃなくて、ちっちゃな子どもみたいでかわいく見えるし、別にいいの。周りには誰もいないから、いいんだよ。でもねえ。
「そろそろ、はるを迎えに行かないと」
私は、彼の肩に手をかけて、身体を離そうとした。
今日は仕事だったんで、娘のはるを保育園に預けているから、急がなきゃ。
「もうちょい延長! さっき、やっとハグできたばっかりだろ」
拓途の腕に、力がこもる。彼は、私の背中に手を回しているから、抜け出せなくなっちゃう。
ここは、公園のベンチ。保育園はすぐ近くだけれど、19時を過ぎるとまずい。あと7分しかない。
「ダーメ! お迎えが遅れると、保育料が余分にかかっちゃうの。そうしたら、夕飯は、生姜焼きのお肉を減らさなくちゃね」
私は、キラーフレーズを使う。
拓途は、豚の生姜焼きが大好物みたいで。この一言が、すごく効くんだよ!
「それ困る!」
拓途が、あわてたように顔を上げた。
彼はちょくちょく、うちで夕飯を食べるようになったの。拓途のお母さんが、お仕事で、夜に留守にされる日だけだよ。今のところは、平日ばっかりだからお泊まりはなし。
うちの母や、弟のケースケには、彼をまだ紹介していないんだよね。
それに、彼のお姉さんのサツキちゃんとは、職場で毎日のように会っているけれど、拓途とつきあっていることを言えないままだし。
拓途が18才になるまでは言い出しにくくてね。あと2年。それまでにダメになるような関係なら、結婚なんてできないもん。
「あとで、家でゆっくりしよう」
「ええっ! なつはいつもそう言うけどさ、家に帰ったら、ずっと忙しそうにバタバタ走ってるだろ? はるちゃん迎えに行く前しか、こーしてる時間ないし」
拓途は、手を放してくれない。
「俺、ここで充電しないと、生きていけないかも」
拓途が、私の胸にあごを乗せた。
「スマホと同じでさ、どこでも充電できるってわけじゃないし。充電器の型が合わなきゃダメなんだよ」
彼は、照れくさそうにニヤッと笑う。
「なんかここ、顔が置きやすい。めっちゃぴったり」
「そっか。じゃあ、今日は一緒にお風呂に入ってくれる?」
私は、拓途をからかってみた。
「えーーーーーーーっ! いいの? なつと一緒?」
「違ーう! 拓途がはると一緒にお風呂へ入ってくれたら、その分、時間が空くでしょ」
「そっちか!」
拓途は、苦笑いをしている。
「3人いっぺんに入った方が、時間もっと節約できるんじゃないの?」
「無理! うちのお風呂、狭いもん」
私は、断った。
「ほら、はるのお迎えに行くよ! 急いで」
それから、拓途の背中をポンと叩く。
「19時までに保育園へ着けたら、生姜焼きにサービスで目玉焼きを乗っけちゃうよ!」
「よっしゃ、走るぞ」
拓途は、ものすごい速さでベンチから立ち上がる。
「先に保育園、行っとくから!」
彼は、私を置いてサッと走り出す。
「えっ、ちょっと!」
私はあわてて、拓途を追いかける。
保育園は近いけれど、ビルの2階にあるの。フルスピードで階段を上がるのは、三十路のおばさんにはきつい。女子高生に変身したら、楽勝なのに――
――あれ? そういえば最近、ぜんぜん変身していない。
いつから? ……ええと、最後に15才になったのは……拓途の家へ泊まったときだ!
もしかして、変身しなくなったの? あれから、2週間ぐらい経つもん。わあ、そうだったら嬉しいな!
今夜は、とりあえずノンアルチューハイで乾杯しちゃおうかな。拓途とはるは、ジュースでね。
ちょくちょく女子高生になっちゃうせいで、困ったこともいっぱいあった。でも、私がずっとおばさんのままだったら、拓途には出会わなかったもん。
どうして変身したのかわからないけれど、彼と出会えた奇跡にありがとうって言いたい。
息が切れちゃったから、保育園の前で、足を止める。
空はきれいなオレンジ色に染まっていた。
そういえば、拓途と初めて会ったときも、夕日がきれいだったな。
読んでくださった皆さま、ありがとうございました!
連載を始めてからちょうど1年、皆さまのアクセス、ブックマーク登録、感想、評価に励まされながら、何とか止めずに完結できました。
どこか一部だけでも、楽しんでいただけていたら幸いです。
【10/8追記】
完結後に、アクセス、ブックマーク登録、評価してくださった皆さまも、感謝しています。本当にありがとうございました!




