↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/3

2.夢への一歩

更新は不定期となります。

教室に入って、自分の机に鞄を置き席に着いた途端背中にバシッと軽い衝撃が走る。

こんなことするやつはあいつしかいない。ジト目で振り返ると、爽やかな笑みを浮かべた幼馴染。春日井秋斗がいた。



「はよーっす!元気かー?フユ!」



「やっぱしお前か…。…おはよう、アキ」



少しジン…とする背中をさすりつつ言った。改めてこいつは俺の赤ん坊の頃からの幼馴染の春日井秋斗(かすがいあきと)。お調子者なところはあるが、いざという時は頼れる…まあ、親友である。



「まったく…。いきなり叩くなよ、びっくりする」



「ははっ!すまんすまん!」



「お前…、ちっとも悪いと思ってないだろ…」



そうぼやきながらアキを見ると、さっきと変わらず悪びれることもない爽やかな笑顔のままだ。…今日のアキはいつもより何割か増しのじっとりとした笑顔でこちらを見ている。



(なんか嫌な予感がするぞ…)



こういう時は何かしら面倒ごとに巻き込まれる予兆なのである。何かしらに巻き込まれる前に、断りを入れようと口を開くとアキも同時に何かを言おうとしたようで、タイミングよく声が重なる。



「なぁ、アキ、お前…また」

「なぁ!フユ、俺さ!実は…」



「おはよう、全員揃ってるかー?」



と同時に、ガラリと教室の扉を開けて担任が入ってきた。心の中で担任にこっそりナイス!と囁いて、声を潜めながらアキに席に戻るよう伝えると少しムッとしてから自分の席へ戻っていった。



「お…、フユ!また後でな!」



「おー」



ヒラヒラとアキに手を振り見送って、前を向く。他のクラスメイトたちもガヤガヤと自分の席へ着席していき、教室の中は担任の話を聞くために静かになった。



「あー、おはよう。朝のホームルーム始めるぞー。まず連絡事項から…」



そこからいくつかの連絡を聞く。と言ってもこれから夏休みが始まるため、くれぐれも人様に迷惑をかけるようなことはしないように、また宿題は忘れずにやっておくことなどと言った当たり障りのない内容であった。



「はい、じゃあ今日のホームルームはこれで終わりだ。…ああ、そうそう。夏休みの間に冒険者としてダンジョンに潜りにいく奴もいるとは思うが、先生から言いたい事は一つだけだ。



決して引き際を間違えないこと。



この学校で実践訓練なんかもやった。が、それはあくまでも訓練。訓練気分でダンジョンへ行けば絶対に怪我をする。あそこは正真正銘、命のやり取りをする場所だ。成績だけで過信して、足元を掬われないように気をつけること。



無事ここにいる全員が欠けることなく、新学期を迎える事ができるように先生は祈ってるからな。



はい、説教くさくなったけど俺からのお話はおしまい。



じゃあ、ホームルーム終わり。今日の当番、挨拶頼む。」



先生がダンジョンについての話をした時、夏休みへの期待で浮ついていた教室の空気がピリッとした、緊張感のあるものへ変化した。



命のやり取り。過信はするな。この言葉で、先ほど夏休みはダンジョンに潜ろうと計画を立てていたらしいグループが少し顔を強張らせていた。



俺も少し、目を伏せた。実は夏休みの間、潜れるのであればダンジョンに入ってみたいと少し考えていたのだ。もちろん深く潜るつもりは全くないが。



学校を卒業したら、俺はたとえ成績が悪くても冒険者になろうと考えている。インベントリというスキルを持っているからだ。



安全が比較的保障されている一層の素材を持ち帰るだけでも、繰り返せば、インベントリ持ちはそこそこ稼げたりはする。



ダンジョンの一層の様子見だけでも、と考えていたのだがやめたほうが良いだろうか。また、母にバイトをしても良いか交渉をしてみるほうがいいだろうか。



そうこう考えているうちに、挨拶を済ませた担任はこの後は全校集会で体育館に行くから、手洗いを済ませておくように、とだけ言い教室から出ていった。



担任が出ていってから、教室に話し声が聞こえ始めた。



頬杖をつきながら窓の外を眺めていると、肩をつんつんとつつかれた。見てみると同じ委員会に所属している、もう一人の幼馴染である清水香織(しみずかおり)がニコニコしていた。後ろには何故かアキもいて、こちらもニコニコしている。



猛烈に嫌な予感がした。眉間にぐっと皺が寄ったのが自分でも分かった。しかし二人はそんなことを気にするようなか弱い精神を持っているわけではない。



「おはよ、フユちゃん!」



「…うん、おはよう。………なに?二人してそんなニコニコして、俺に何か用事でもあるの?」



脳内で警戒アラートが鳴り響いているけれど、二人ともとても良い笑顔のままこちらを見てくるだけ。仕方なく問いかける。



「うん、よくぞ聞いてくれました!実はね、秋斗と色々考えて計画してた事があるんだけど…。フユちゃん、放課後少しだけ時間ちょうだいね!」



「…計画?…ちなみに、アキがさっき言おうとしてたことも一緒の内容?」



「そう、そうなの!だから後でお話聞いてくれると嬉しいな」



「終業式が終わったら、伝えるな!じゃあまた後でな!」



問いかけると、香織は手をパンと合わせ嬉しそうに言った。計画、という響きがとても気になる。もちろん嫌な意味で。



顔に嫌ですとデカデカと書いてあると思うのだが、一ミリも気にする事なく、二人は自分の席へ戻っていった。



計画とは?俺は何に巻き込まれるのだろうか。小さい頃から二人によく巻き込まれてきた。粘着テープトラップを作成したり、家を水浸しにしたり、餅合戦だったりと、全部に何故か巻き込まれて一緒に怒られた。



今度はなんだ、学校の窓ガラスを全て同時破壊とかぶっ飛んだことを考えているのでは?と考え込んでいると、担任が教室に来たので番号順に並んで体育館へ向かった。



校長の長い話を聞く。要約すると、朝担任が言っていた内容そのままだ。それをとても分厚い装飾で包んでとても長い話にしている。



不定期にコクリと揺れるアキの頭を見ていると、ついにカクンと落ちた。ところで校長の話は終わり、教室へ戻る。



「…はい。じゃあこれで、今学期最後のホームルームはおしまい。じゃあ、夏休みしっかり節度を守って楽しめ!」



挨拶もそこそこ、担任は教室から出ていった。さて、俺も帰るか。



帰ろうと思い立ち上がろうとすると、ぐっと肩に重みが加わって浮いた腰が椅子に着地する。



「どこに行くつもりかな?フーユちゃん?」



「そうそう!俺らのお話聞いてくれる約束だったよなー!」



「いや、約束した覚えは一ミリもないんだが??」



どうやら、二人に肩を抑えられたようだ。嫌ですオーラを出しながらいうが、ちっとも話を聞かず二人は計画とやらを話し始めた。



「で、お話っていうのはねー」



「おいコラ」



「夏休み、この3人でダンジョンに潜ろうよ!私と、秋斗とフユちゃんの3人で!」



「…え」



何かしら悪戯系の内容が出てくると思っていたのだが予想外の内容で、思わずぽかん、としてしまった。



二人の話を聞くとこういう事らしい。アキも香織も、卒業後は冒険者として、ではなく冒険者を“サポートする側”になりたいのだそうだ。



この時点で、意外すぎて目が点になってしまった。そして二人でサポートとは何をすれば?という話になって、色々と調べたところ、最近とても流行っているダンジョン配信を利用してはどうかとなったらしい。



「なんでサポートしたい!で、そこに不時着したんだよ…」



ダンジョン協会とか、冒険者保険会とか色々あるじゃないかと問うと二人が言うに、なんか違うらしい。



二人は、幼馴染としての贔屓目を除いても実技の成績はかなり上位の方だ。二人ともチームワークも抜群だし、冒険者としても有用なスキルをいくつも持っている。



正直、二人が組んで冒険者になったほうがよっぽどいいと思うのだが。



「確かに香織とチームで、冒険者になってもいいとこ行けるんじゃないか?って考えたことはあるんだけどよ…」



アキが視線をうろうろさせて、少し話しづらそうに言った。



アキ曰く、常に冒険者は怪我と隣り合わせだ。遠い親戚の人が冒険者だったそうだが、ダンジョン挑戦中に仲間を庇い大怪我をしてしまって冒険者への復帰は難しいらしい。



「俺、その話を聞いて、情けない話だけど…。怖くなったんだよ…、冒険者になるのが。



幸い、今回は命は助かったみたいだけど次の保証はない。実際に聞いてみて実感したんだ」



いつも陽気なアキが、こんな落ち込んだ顔をするだなんて…。香織も心配そうにアキを見ていた。



怪我をした親戚は、ダンジョンへは潜れなくなったため怪我が治った後に、仕事を探したそうだがなかなか見つからないらしい。



30年近く冒険者一筋だったので、冒険者教会のアドバイザーなんかも受けたのだが、同じような境遇の人はこのご時世、割といる。



競争率なんかも高く、全然仕事が見つからないそうだ。今は冒険者として貯めてあった蓄えを切り崩して生活しているらしい。



聞けば、香織の方も親戚で似たような事があったらしく、そんな、怪我によって社会復帰が難しくなっている冒険者を助けるための何かができたらと考えたらしい。



「私も、叔父さんがダンジョンで片腕無くなっちゃったらしくて…



怖くなってね、アキと色々話してたの。



しかも、叔父さんが怪我したのって一層の安全性の高い場所だったから…。



それに、叔父さんお仕事がなかなか見つからなくて困ってるみたいなの。



だから、そんな人達が冒険者だった経験を活かして働ける場所をもっと増やそうと思って二人で考えたの!



で、二人で色々調べて、ダンジョン配信はどうかってなったのよ」



「いや、二人とも親戚の人のこと考えてて凄いなとか思ったのに、どうしてそこに不時着しちゃったんだよ」



曰く、ダンジョン配信で"モンスターの生態や、攻略法"を配信して行きたいとのこと。



二人でダンジョン配信サイトや、掲示板、モンスター生態の本などを調べたそうだ。その結果、この場所には、モンスターについてこんなものが載っていて、あっちにはこんなこと載っている。



と言った具合で、一つのモンスターだけでも情報が色々なところに点々としている状態らしい。



だから、モンスターについて調べても掲示板しか見なければ、掲示板の情報だけを鵜呑みにして、生態系の本に載っている危険な行動の前兆を知らずにモンスターに挑んでしまう。



その結果、モンスターによる被害を受けるということが非常に多いらしい。実際、香織の叔父さんはモンスターから初心冒険者引率中、掲示板をみて知ったかぶりをした初心冒険者を庇い事故に遭ったそうだ。



そんな人たちを少しでも減らすために、怪我をして引退した冒険者にどのようなモンスターに、どのような行動で攻撃されたかなどを聞いていく。


そして、一つのモンスターについての情報を調べ、バラバラに点在していた情報を一つにまとめて、完全とまではいかないけれど、この配信を見れば特定のモンスターのことが理解できる。



そんなモンスターの生態配信をしたいそうだ。話をしてくれた冒険者には、情報料を払いうことで少しでも冒険者のその後の生活をサポートできたらと考えているとのこと。



また、モンスターについての解説なども実際の元冒険者の人にやってもらうことで出演料を出したり、なんてことをして行きたいという。



「…意外と色々と考えてるんだな、二人とも」



「んなっ…、俺たちだってちゃんと色々考えてるよ、失礼な!…まあ、気を取り直して、ダンジョンに行こうっていうのにももちろん理由はある。」



「理由?」



意外にも、とても真面目な内容だったため、ダンジョンに行きたいという理由もきちんと聞く事にした。



「そうなの」



まずは、その考えたモンスター生態配信の一歩を踏み出すための資金稼ぎ件、モンスターの生態情報を現地で確認したいとのこと。



二人が第一号として目をつけたのは、ダンジョン最弱の称号をほしいままにするモンスター、スライム。



最弱ではあるが、それでもモンスターはモンスター。被害はゼロではない。スライムは基本はどこにでもいるモンスターで、魔核をつくと簡単に倒せる水饅頭のような見た目だ。



まずは、スライムの情報を調べて行きたいそうなのだが、二人でダンジョンへ行くのは、第一層で安全性が高いとはいえ少し恐怖心がある。



なので、俺を誘ったとのこと。



「…話はわかった。でも、行くのはいいけど、俺全然役には立てないと思うぞ」



そうなのだ。俺はスキルはあるが、使えない。目の前の幼馴染二人の方が絶対に強い。



「ううん、フユちゃんがいてくれるだけでも心強いよ。



フユちゃんって、私たちがパニックになったら、いつも声をかけてくれたりしたじゃない?



なんていうか、その安心感がいいの。いるのとないのじゃ全然違うんだ。」



「そうそう、気持ちの問題的な!



しょーじきな話さ、俺ら二人だけだったら、たとえ簡単に倒せるモンスターだったとしても、予想外なことが起こったら事故りそうでさ。



ちゃんと冷静に見れるフユがいると安心するんだよ。



それに、一緒にダンジョンに行くのは最初の一回だけで良いんだ。



その、俺ら2人とも…ダンジョンに潜るのが初めてだからさ、ちょっと怖いんだ…。でも、一回潜って、どんな感じかわかれば次は多分大丈夫!」



「だから、お願い。



一度だけで良いの。



一緒にダンジョンに行けたら嬉しい」



2人は真剣な顔をしてこちらを見ている。なんとなく、ふんわりと、将来冒険者として働こうと考えていた俺よりも、2人の方が色々と考えていた。



2人とも真剣に考えて、出した答えがこれなんだろう。明確に目標ができた2人を羨ましく思う。俺にもいつか、こんなふうに目標が見つかるだろうか。



顎に手を当て考える。



2人とダンジョンに潜るのは一回きり。一度もダンジョンへ潜ったことがないから、どんな空気なのかは気になっていた。



見知らぬ人と潜るわけでもなし、2人とも俺よりも実力がある。俺にとっても、良い経験になるかもしれないし、断る理由はなかった。



「足手纏いにしかなれないけど…。それでも良いなら行くよ」



2人は、俺の答えを聞くと顔を見合わせ、嬉しそうに笑って「ありがとう」と言ってくれた。



目の前で2人は、断られたらどうしようかと思ってただの、フユは優しいから大丈夫だと思ってたぜ!だの、好き勝手に言い始めた。



2人にとっての、夢の第一歩。少しでも、その力になれることが心底嬉しかった。



その日は、夏休みのいつにダンジョンに潜るのか、必要な道具についてなどを話し合い、解散した。



帰宅して、用事を終えて後は寝るだけと言ったところでベットの上に寝転がる。



「3日後には、初めてのダンジョンかぁ…」



色々と不安はあるけれど、俺にとっても最初の一歩になる。少しでも、2人が安心してダンジョン入れるよう、俺は俺で下調べをしよう。



そう考え、眠りについた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。