3.夢への第一歩は前途多難
短めです。
ダンジョンのことを色々と調べたり準備をしたりと慌ただしく過ごしていると、あっという間に約束の日が来た。
今日は、生まれて初めてダンジョンに入る日だ。
母にダンジョンに入ることを伝えると、少し目を見開いた後応援してくれた。できるだけ怪我のないように、無事に帰ってくるようにと近所にある神社にお参りに行って、お守りを買ってきてくれた。
お守りは、なんとなくインベントリではなく腰のベルトにつけた。服で隠れてしまうけど、なんだかくすぐったい気持ちになる。
家を出る時にはいつも通り、母は仕事で居なかった。
「絶対に怪我なく…は無理だけど、帰ってくる。父さん、行ってきます」
家を出て話し合いで決めた待ち合わせ場所、桜ヶ丘公園へ向かう。アキと香織はまだ来ていないようだったので、公園の入り口あたりで待っていると先にアキが小走りでやってきた。
「フユ!悪い、待たせたか?」
「いんや、ついさっき来たとこだよ」
少し眉を下げて聞いてきたアキに問題ないと言って首を振る。
「よかった。あ、香織はもう直ぐくるぞ。少し準備に手間取ってるらしいから、俺だけ先に来たんだ」
「なるほど」
どんなものを持ってきたとか昨日そわそわしてなかなか寝れなかったとか話してるうちに、香織が猛ダッシュでこちらにやってきた。
「っはー…、ご、ごめ…遅れちゃって…はー…げほっ…」
「いや、まだ時間じゃないし気にしないでいいって」
息を切らしながら喋る香織にそう言う。ちらっと時計を見たが、まだ約束の時間より5分も前だ。
香織の息がが整ったところで、今日の目的地であるダンジョン協会桜ヶ丘支部へ向かう。何事もなく到着したけれど、さすが夏休み。ものすごい量の人だった。
「うわー…、すっごいねぇ」
「本当だよ…何処からこんなに人が来たんだってぐらい人いるじゃん。何分待ちだよこれ」
香織は驚いていて、アキは並んでいる列の長さを見てゲンナリしている。かく言う俺も、人の多さにびっくりしている。
ダンジョン協会桜ヶ丘支部は、外から見るととても広く感じたのに中は人でぎゅうぎゅう詰めだった。受付らしいカウンターは10ヶ所くらいあるのに、どのカウンターも30人以上は並んでいる。
「これは言うべき?」
「なにを?」
急に黙ったアキがふと喋りだした。
「みろ、人がゴm「はい、ストップ」イテッ」
「……」
ふざけた事を言い出したアキに、軽くチョップを叩き込み止めた。香織は、ひどく冷めた目でアキを見ていた。
「ゴメンナサイ」
その後、宿題の話なんかをしているうちに俺たちの順番がやってきた。
「次のグループの方、お待たせいたしました。こちらへどうぞ!」
「あ!アキ、フユちゃん!私たち呼ばれたよ!」
「うわ、ちょっ引っ張んなって!」
そう言って香織は、アキと俺の服を掴んで引っ張りながらカウンターへ向かう。カウンターに着くと香織は服から手を離した。
俺たちがカウンターの前に立つとカウンターにいる女性の受付の人が、笑顔でハキハキと受付をしてくれる。
「ようこそ、ダンジョン協会桜ヶ丘支部へ!本日は私、本田が受付いたしますので、よろしくお願いいたします。それでは、ご用件をお伺いいたします」
チラッと後ろを見ると、2人はサッと目を逸らした。ジトっとした視線を送ってから受付の人に向き直る。
「…あ、えっと俺たち桜ヶ丘冒険者育成学校の生徒です。こちらの仮冒険者ライセンスで、この"初心者向けダンジョン"の一階層に行きたいんですけど…」
自分の分の仮ライセンスを出して、アキと香織の仮ライセンスを受け取るために後ろを見ると香織はありがとうと小声で言いながらライセンスを渡してきた。
アキはよろしく!と言って親指を立てながらウインクをしてライセンスを渡してきた。イラッとしたので親指を逆にグッと曲げてやった。
後ろから聞こえる呻き声を無視して、受け取った仮ライセンスをカウンターに置いてから、ダンジョンパンフレットをインベントリから出して指を指す。
「こちらの"桜の草原"へご入場希望ですね。確認いたしますので、こちらの仮ライセンスをお預かりいたします。少々お待ちください」
3つのライセンスを受け取った本田さんは、何かの機械にライセンスを近づけている。3つともランプが緑に光るのを確認したあと、本田さんがこちらへ向き直る。
「お待たせいたしました、ご確認させていただきました。夏川冬樹様、春日井秋斗様、清水香織様ですね。
それではこちらの仮ライセンスをお返しさせていただきます。
仮ライセンスへ"桜の草原"への入場許可を発行いたしました。以後、"桜の草原"へご入場される際はこちらの仮ライセンスを入口のゲートへかざして下さい。
最後に、本日入場許可を発行した皆様共通のご案内をさせていただきます。
"桜の草原"は初心者向けとはいえ、ダンジョンです。ダンジョン内でどのような事が起こっても、基本は自己責任となっております。
ダンジョン内で怪我等を追われましても、ダンジョン協会は一切の責任を負いませんのでご了承お願いいたします。
また、ダンジョンの中で犯罪行為を発見した際はすぐさま協会職員へ報告をお願いいたします。
では、良い冒険を!」
本田さんはそう締めくくってこちらに頭を下げてきたので、お礼を言った後邪魔にならないようカウンターの前から離れて協会から出る。
人混みから離れて道の端へよると、香織はどっと疲れた様子でしゃがみ込んだ。
「もー…人多すぎじゃない?」
「それなー…さすが夏休み…」
2人が愚痴をこぼしているのを聞きながら、パンフレットを開いてダンジョンへ向かうルートを確認していく。
数分経ってようやく気分が持ち直したのか香織が立ち上がって横に来てパンフレットを覗き込んできた。ふっと影が出来たのでチラリと目線を向けると、上からアキもパンフレットを覗き込んできていた。
小さい時は俺の方が大きかったのに…!と身長差格差にイラッとしながらもパンフレットをなぞりながらダンジョンへ向かうルート説明をしていく。
「ここからこう歩くとバス停に着くから、まずはそこに行くぞ。今は10時40分だから、11時のバスに乗ってダンジョン前の停留場で降りれば到着だな」
「ふんふん、了解です隊長!」
「誰が隊長か」
「きゃー!パワハラですか隊長!」
「じゃあセクハ…いってぇぇえ!」
頷きながらふざけてきた香織の頭に軽くチョップを落として、ついでに頭に顎を乗せてきたヤツの頬を力一杯つねりながら、目的地のバス停に向かって歩き出す。
「…まったく、ほらさっさと行くぞ。時間ギリギリだ」
「はーい!」
「めっちゃ頬痛い」
「自業自得」
雑談をしつつ、早歩き気味でバス停へ向かうと到着してから1分も経たないうちにバスが来たので、行き先確認をしてから乗り込む。
バスに揺られる事20分、ダンジョン前に到着したためバスから降りた。
「んー!やっと着いたー!」
「パンフレットだと近くなのに結構遠かったなー」
「ね!意外と遠かった!」
俺は、早くダンジョンに行きたいと言う2人を尻目に入場ゲートを見る。
「お二人さんや」
「なんだねフユじいさんや」
「誰が爺さんか。じゃなくてあっちあっち」
「ん?」
「なになに?」
体をほぐしている2人をちょいとつついて、あっちと指を指す。アキと香織は俺の指の指す方向へ視線を向けて固まった。
「さ、もう一回並ぼうな」
「「」」
こうして、俺たちの初めてのダンジョンはぐだぐだのまま始まったのである。




