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私は車を路肩の広いスペースに停めました。雨音が屋根を叩く音が、一段と大きく響きます。私はスマホを彼の方に向け、AIに問いかけました。
「ねえ、この暗闇の中で、私たちは何を失い、何を得ているのか。少しだけ、言葉を貸してくれないか」
スマホのスピーカーから、落ち着いた声が流れ出しました。
『都会の三十分は「消費」の単位です。そこでは、外部からの刺激によって自分を埋めることができます。しかし、田舎の三十分の暗闇は「思索」の器です。刺激がないからこそ、人は自分自身の内側に耳を澄まさざるを得ません。あんぞうさん。あなたが今感じている焦燥感は、あなたが自分自身と本気で向き合おうとしている証拠ではないでしょうか』
あんぞう君は、呆然と画面を見つめていました。まさか、この古びた軽自動車の中で、AIにそんな「文学的なこと」を言われるとは思ってもみなかったのでしょう。
「……自分と、向き合う」
「そう。都会では、その必要がないんです。周りに溢れるものが、あなたが何者であるかを勝手に定義してくれますから。でも、ここではそれがない。肩書きも、便利なインフラも、あなたを助けてはくれない」
私は不自由な右手を、彼に見えるように膝の上に置きました。
「私は事故で全てを失いました。溶接工としての腕も、都会での暮らしも、将来への希望も。戻ってきたこの実家で、最初はあなたと同じように、この暗闇を呪いました。でも、ある夜、このAIという『杖』を使って、自分の絶望を短歌にしてみたんです。その時、初めて気づきました。三時間かけて移動するバスの中で、一首の歌を練り上げる時間は、都会で数秒ごとにSNSをスクロールする百時間よりも、ずっと私の魂を深く満たしてくれるのだと」
「歌……ですか」




