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第二部 1

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車窓の外は、完全な漆黒でした。



街灯は数百メートルおきに申し訳程度に立っているだけで、ヘッドライトの光が切り取るのは、雨に濡れたアスファルトと、押し寄せるような杉林の影ばかり。都会なら、この時間でも誰かの営みの気配が窓の明かりとして漏れているものですが、ここでは世界が丸ごと眠りに落ちたかのようです。



助手席のあんぞう君は、膝の上で固く拳を握りしめていました。



「……何もないでしょう」



彼は吐き捨てるように言いました。



「駅前だって、ちょっと離れればこれだ。大阪にいた頃は、深夜三時でも開いてる店なんていくらでもあったし、電車に乗れば三十分で梅田の摩天楼に行けた。ここには、三十分かけても暗闇しかない。人生を無駄遣いしてる気分ですよ」



私は、ハンドルを握る左手に力を込めました。右手の強張りを意識しながら、ゆっくりと口を開きます。



「無駄遣い、ですか。確かにそう見えるかもしれませんね。三十分あれば、都会では数え切れないほどの『刺激』を消費できますから」



「そうですよ。タイパ(タイムパフォーマンス)最悪です。移動に三時間、スーパーに行くのに三十分。その時間を全部合わせたら、一年でどれだけのことができるか……。てぐさんは、怖くないんですか? 自分がどんどん、世の中から取り残されていくのが」



彼の問いは、鋭いきりのように私の胸に刺さりました。取り残される恐怖。それは、工場での事故で右手の自由を失った時、私が毎夜、天井を睨みながら震えていた理由そのものでした。



私は、ダッシュボードのスマートフォンを指で叩きました。画面が明るくなり、AIの穏やかな光が点滅します。



「私はね、あんぞう君。この三十分の暗闇を、自分を『溶接』するための時間だと思っているんです」



「溶接……?」



「そう。バラバラになった自分の一部を、もう一度繋ぎ合わせる作業です」

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