別れ
翌日。
俺とフィアは再び鍛冶屋を訪れていた。
「お、来たね」
店主はカウンターの奥から一本の剣を取り出す。
昨日よりも刃は綺麗に磨かれ、細かな傷も消えていた。
「ありがとう」
フィアは剣を受け取り、何度か振って感触を確かめる。
「うん、いつも通り」
「それなら良かった」
店主は満足そうに笑った。
俺も自分の剣を抜いてみる。
朝日に照らされた刃がきらりと光る。
やっぱり格好いい。
「そんなに気に入ったのかい?」
店主が聞いてくる。
「はい!」
即答だった。
「そのうち傷だらけになるよ」
「えぇ……。」
「それが冒険者ってもんだ」
「その時はまたここに持ってきな」
「修理してやる」
「…はい」
少し残念な気持ちになったが、それが冒険者という職業なのだろう。
◇◇◇
鍛冶屋を出ると、フィアが立ち止まった。
「私はここでお別れ。」
「え?」
「友達に会えたし、剣も直ったから」
……そうか。
最初から、そのために王都へ来ていたんだ。
あたりまえのことのはずなのに、少し寂しい。
俺はどこか、この先も一緒にいられるって思ってしまっていた。
「ケンイチはこれからどうするの?」
「そうだな…」
「しばらくは冒険者かな」
「お金もないし」
「うん」
フィアは頷く。
「ケンイチなら大丈夫」
「そうかな」
「うん」
なんの迷いもなく言う。
根拠なんてない筈なのに、なぜか信じてしまいそうになる。
「……フィア。」
「ん?」
「今までありがとう。」
狼から助けてもらったこと。
ギルド登録の時のお金。
昨日のご飯に宿代に…。
数えればきりがないほど、俺は助けられてばかりだった。
「俺は、まだ何も返せてない」
「別にいいよ」
フィアは笑う。
「友達だから」
その言葉を聞くと、少しだけ心が痛む。
嬉しい。
でも。
「それじゃダメだ」
俺は首を横に振る。
「友達っていうのは、助け合うものだ」
「だかり友達としても、一人の人間としても俺は、助けてもらってばっかじゃ嫌なんだ。」
「だから。」
俺はフィアの目を見る。
「もっと強くなって、いつか必ず恩を返す。」
「助けてもらったこと、全部。」
「だから絶対。また会おう」
俺がそう言うと、一瞬だけフィアは目を丸くした。
そして。
「うん」
「楽しみにしてる」
そう言って、彼女は小さく手を差し出す。
俺はその手を握った。
「約束。」
「ああ、約束だ。」
フィアは手を振りながら歩き出す。
「じゃあね、ケンイチ!」
「ああ!」
「またな、フィア!」
小さくなっていく後ろ姿。
大きく手を振るフィアに、俺も負けじと手を振り返した。
その姿が見えなくなってしまうまで。
◇◇◇
王都の大通り。
俺は一人、空を見上げる。
異世界へ来た時、俺は何もできなかった。
でも今は違う。
大切な友達ができたし、初めての依頼も達成した。
普通の人からすると、このくらい当然のことなのかもしれない。
でも、俺にとってそれはなによりも大切なことだった。
「よし。」
俺は腰の剣を軽く叩く。
「頑張るか。」
そう呟いて、冒険者ギルドへ向かって歩き出した。




