新人祝い
ギルドへ戻ると、受付嬢が笑顔で迎えてくれた。
「依頼達成の報告ですね。」
俺は採取した薬草をカウンターへ置く。
「はい。問題ありません」
「こちらが報酬になります」
受付嬢から小さな革袋を受け取る。
ジャラッ。
袋の中で銅貨が音を立てた。
これが、異世界で初めて自分で稼いだお金。
たった数枚なのに、妙に嬉しかった。
「おめでとう」
隣でフィアが微笑む。
その時だった。
ピコン
スマホが鳴る。
目標を達成。
達成数 6/100
『初めて依頼を達成する』
『報酬を獲得』
筋力 15→20
体力 10→30
俊敏 10
魔力 5
戦闘力 65
「ステータス上がった!」
「どうしたの?」
「ごめん、独り言」
「気にしないでくれ」
◇◇◇
ギルドを出ると、フィアが思い出したように口を開いた。
「そういえば、寄りたいところがある」
「どこ?」
「鍛冶屋」
「鍛冶屋!」
思わず声が大きくなる。
異世界と言えば鍛冶屋。
武器、防具、職人。
一度は行ってみたい場所ランキング上位だ。
「剣を直してもらうの。」
フィアは腰の剣に軽く触れた。
◇◇◇
カンッ。 カンッ。
鉄を打つ音が店の外まで響いていた。
扉を開けると熱気が押し寄せる。
壁には様々な武器。
剣、槍、斧。
男のロマンが詰まっていた。
「お、フィア。」
店の奥から女性が顔を出した。
二十代後半くらいだろうか。
腕まくりをしたまま、こちらへ歩いてくる。
「フィア、久しぶり。」
二人は慣れた様子で話し始めた。
「また無茶したでしょ」
「ちょっとだけ」
フィアは苦笑いを浮かべる。
店主はフィアから剣を受けとり、状態を確認する。
「今日中には直るよ」
「ありがとう」
そして今度は俺を見た。
「で、その子は?」
「ケンイチ」
「昨日知り合った友達」
「へぇ。」
店主の視線が俺の腰へ向く。
「武器は?」
「ありません。」
「……え?」
「でもケンイチは食べ物の魔法を使えるから」
フィアが当然のように言う。
「食べ物の魔法?」
店主が首を傾げる。
「干し肉より長持ちする食べ物を出せるの。」
「そんな魔法聞いたことないけど……。」
店主は半信半疑のまま俺を見る。
「それで武器なし?」
「…はい」
店主は額を押さえた。
「ちょっと待ってな。」
店主は店の奥へ消え、何本か剣を持って戻ってきた。
「好きなの持ってごらん」
俺は一本目を持つ。
重い。
二本目。
短すぎる。
三本目。
長い。
これじゃ槍みたいなものだ。
最後に一本だけ、少し細身の片手剣を握る。
「あ。」
なんだろう。
一番しっくりくる。
「それにする?」
「はい」
店主は少し笑った。
「見る目あるね。」
「初心者なら、そのくらいがちょうどいい」
「いくらですか?」
「銀貨三枚。」
財布を見る。
さっき受け取った銅貨しかない。
「やっぱり無理か……。」
フィアが財布を取り出そうとする。
「私が──」
「待った。」
店主がフィアを止める。
「坊や。」
「はい。」
「今いくら持ってる?」
「銅貨八枚です。」
店主は少し考えたあと、笑った。
「じゃあ、それでいいよ。」
「え?」
「新人祝い。」
「いや、流石にそれは……。」
店主は俺の額を軽く小突いた。
「こういうのは素直に受け取っとくもんだ」
「その剣、大事に使いな。」
「……はい!」
俺は銅貨をすべてカウンターへ置いた。
◇◇◇
店を出る。
俺は腰の剣を何度も眺めた。
初めての武器。
俺は本当の意味で、冒険者になれた気がする。
「そうだ。」
俺はフィアを見る。
「今日は俺が奢るよ。」
「ほんと?」
「ああ。ギルド登録のお礼もあるしな。」
俺は財布を開く。
……
空だった。
「ケンイチ?」
「………。」
「…もしかして、お金ない?」
「…………。」
そういえばさっき、有り金全部置いていったんだった。
「初依頼達成だし、私が払うよ」
「……ありがとうございます」
ちなみにこの後、宿代も借りることになるのは別の話。




