初めての魔法
ピコン
焚き火の前で、スマホが小さく震えた。
『エルフと友達になる』
目標を達成。
達成数 3/100。
『報酬を獲得』
「報酬…。」
「魔法のやつか!」
俺はフィアに気付かれないよう、そっとスマホを開く。
すると画面には三つの項目が表示されていた。
選択してください。
『ファイアーボール』
『フリーズ』
『フラッシュ』
やっぱりこの表記、間違いなく魔法だ。
異世界と言えば魔法。
子供の頃、何度ファンタジー作品を読んで憧れたことか。
迷う必要なんてない。
俺は真っ先にファイアーボールを押した。
――エラー
魔力不足
習得できません。
「……は?」
俺はもう一度ファイアーボールを押す
――エラー
魔力不足
習得できません。
……ああ。
そういう感じか。
俺はフリーズを押す。
――エラー
魔力不足
習得できません。
……やっぱり。
残るは一つ。
フラッシュ。
これもダメ元で押してみる。
――習得しました。
え?
次の瞬間。
俺の右手が眩く光り始めた。
「うおっ!?」
周囲を照らすほどではないが、夜の森では十分すぎるほど明るい。
「ケンイチ!」
フィアが驚いた様子で駆け寄ってくる。
「なに今の!?」
「……なんか覚えた。」
「魔法?」
「多分。」
自分でもよく分からない。
ただスマホを押したら覚えていた。
異世界って、そういうものなのか?
「すごい!」
フィアは目を輝かせていた。
「初めて魔法を使って成功したんだね!」
「え?」
「魔法って最初は失敗する人も多いの。だからすごいよ!」
……そうなのか。
俺からすると、ただ光っただけなんだけど。
「でも、それ戦えるの?」
フィアが首を傾げる。
「……。」
俺も首を傾げる。
「分からん」
二人で顔を見合わせる。
「ふふっ」
「ははっ」
どちらからともなく笑い声が漏れた。
どうやら俺の初めての魔法は、派手な攻撃魔法ではなく、ただ光るだけの魔法だったらしい。
まあ、俺らしいと言えば俺らしい。
その夜は焚き火を囲みながら他愛もない話をして過ごした。
異世界に来て二日目。
昨日まで命の危険しか感じていなかったこの世界が、少しだけ楽しいと思えた。
『魔法を使う』
目標を達成。
達成数 4/100。
『報酬を獲得』
◇◇◇
チュンチュン……
鳥のさえずりで目を覚ます。
朝日が木々の隙間から差し込み、昨日の焚き火からは白い煙が細く立ち上っていた。
「おはよう、ケンイチ。」
「おはよう。」
フィアはもう支度を終えている。
さすが森で暮らすエルフだ。
「今日は王国まで行けそう?」
「ああ。今日の夕方には着くはずだ」
「後、一つだけやりたいことがあるんだけど良いか?」
ギルド。
冒険者。
異世界の街。
昨日まで画面の向こうでしか見たことがなかった世界までもう少しだ。
「行こう」
「うん。」
俺たちは荷物をまとめ、森を後にした。
街道へ出ると、土を踏み固めた広い道が真っすぐ続いている。
しばらく歩いていると、向こうから馬車がやって来た。
「おお……!」
思わず声が漏れる。
木製の車輪。
二頭立ての馬。
荷台いっぱいに積まれた荷物。
完全に異世界だ。
「どうしたの?」
「いや……本物の馬車だ。」
「本物だよ?」
フィアは不思議そうに言う。
「毎日見てるから。」
「そうだった。」
俺だけだった。
馬車一台でこんなに感動しているのは。
フィアはそんな俺を見て、くすっと笑う。
「ケンイチって、面白いね。」
「褒めてる?」
「うん。」
少し照れくさくなりながら、俺たちは王都へ向かって歩き続けた。
その先に待つ出会いも、試練も、まだ俺たちは知らない。




