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25/32

お嬢様

 三匹目のワイルドボアを倒したあと、俺たちは討伐証明の牙を回収し、王都への帰路についた。


 「今日は大漁ね」


 「ああ。」

 「せっかくだし、帰って美味しいものでも食べよう」

 「退院祝いも含めてな」


 そんな会話をしながら、森を抜け、街道を歩いている頃だった。


 ピコン。

 スマホが震える。

 俺は画面を確認した。


 『馬車に乗ったお嬢様を助ける』


 「……は?」


 また妙な目標が出てきた。

 馬車に乗ったお嬢様を助ける?

 こんなの書いてな––––いや、…書いてたか。

 ピンチのお嬢様を助けるって、ラノベだと結構ありがちな展開だし…。


 そんなふうに俺が呆れていると――


 「きゃあああっ!!」


 遠くから悲鳴が聞こえた。

 セレナが表情を変える。


 「今の声……!」


 俺たちは顔を見合わせ、すぐに街道の先へ駆け出した。


◇◇◇


 視界が開ける。

 そこには横転しかけた豪華な馬車があった。

 車輪が片側だけ溝にはまり、馬が暴れている。

 そして、護衛らしい男が数人、地面に倒れていた。

 そして、その周囲には――。


 【ワイルドウルフ】

 戦闘力 90 × 2


 二匹のワイルドウルフが馬車を取り囲んでいた。

 それを見たセレナが剣を抜き、一気に飛び出す。


 ザシュッ!!


 彼女の銀の刃が、一匹のワイルドウルフを斬り払う。


 残る一匹がこちらへ向きを変える。

 俺は剣を構える。

 相手の戦闘力を見るに、恐らく俺の攻撃じゃ倒しきれない。

 しかし、まだ距離がある。

 なら――。


 俺は目を閉じ、呼吸を整える。

 雑念を捨てろ。

 【明鏡止水】


◇◇◇


 世界が静かになる。

 狼の視線、重心、呼吸。

 すべてが鮮明に見えた。

 俺は一歩踏み込む。


 ズバァァッ!!


 一閃。

 ワイルドウルフが両断され、地面に叩きつけられる。


◇◇◇


 馬車の扉が、そっと開いた。

 中から現れたのは、淡い金髪の少女。

 上質な服を身に纏う、見るからにお嬢様といったような人物だった。

 彼女は倒れたワイルドウルフを見て、次に俺を見る。


 「今の……。」


  リリアーナは呆然と俺を見つめていた。

 だが次の瞬間、はっとしたように表情を変える。


 「ガルド!」


 彼女は慌てて馬車から降り、地面に倒れている護衛へ駆け寄った。


 「しっかりしてください、ガルド!」


 護衛の男――ガルドは腕を押さえたまま、苦しそうに息をしている。

 服は爪で裂かれ、血が滲んでいた。


 「お嬢様……ご無事で……。」


 「私のことはいいです!」

 「それより、怪我が……!」


 リリアーナの声には、本気の焦りが滲んでいた。

 俺はすぐに駆け寄る。

 傷は深いが、まだ間に合いそうだ。


 「セレナ、押さえてくれ!」


 「分かったわ。」


 セレナが布で傷口を押さえる。

 俺はアイテムボックスからポーションを取り出した。


 「これ、飲めるか?」


 護衛の男は驚いたように目を見開く。


 「ポーション……?」


 「いいから、早く。」


 俺は瓶を口元へ運ぶ。

 護衛がゆっくりと飲み込むと、荒かった呼吸が少し落ち着いた。


 「…とりあえず、大丈夫そうだな」


 「よかった……。」


 少女も胸に手を当て、ほっと息を吐いた。


 「ありがとうございます。」

 「助けて頂いた上に、貴重なポーションまで…」


 「気にしなくていい。」

 「無事ならそれで十分だ。」


 そう言いながら俺は空になった瓶を見る。

 温泉の報酬でもらったポーションが、こんな形で役に立つとは思わなかった。

 セレナが軽く息を吐く。


 「もう大丈夫よ。」


 そう言うと、少女は小さく頭を下げた。


 「助けてくださって、ありがとうございます。」

 「私はリリアーナ・フォルティスと申します。」


 その瞬間。


 ピコン


 『目標達成』

 『馬車に乗ったお嬢様を助ける』


 達成数 17/100。

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