お嬢様
三匹目のワイルドボアを倒したあと、俺たちは討伐証明の牙を回収し、王都への帰路についた。
「今日は大漁ね」
「ああ。」
「せっかくだし、帰って美味しいものでも食べよう」
「退院祝いも含めてな」
そんな会話をしながら、森を抜け、街道を歩いている頃だった。
ピコン。
スマホが震える。
俺は画面を確認した。
『馬車に乗ったお嬢様を助ける』
「……は?」
また妙な目標が出てきた。
馬車に乗ったお嬢様を助ける?
こんなの書いてな––––いや、…書いてたか。
ピンチのお嬢様を助けるって、ラノベだと結構ありがちな展開だし…。
そんなふうに俺が呆れていると――
「きゃあああっ!!」
遠くから悲鳴が聞こえた。
セレナが表情を変える。
「今の声……!」
俺たちは顔を見合わせ、すぐに街道の先へ駆け出した。
◇◇◇
視界が開ける。
そこには横転しかけた豪華な馬車があった。
車輪が片側だけ溝にはまり、馬が暴れている。
そして、護衛らしい男が数人、地面に倒れていた。
そして、その周囲には――。
【ワイルドウルフ】
戦闘力 90 × 2
二匹のワイルドウルフが馬車を取り囲んでいた。
それを見たセレナが剣を抜き、一気に飛び出す。
ザシュッ!!
彼女の銀の刃が、一匹のワイルドウルフを斬り払う。
残る一匹がこちらへ向きを変える。
俺は剣を構える。
相手の戦闘力を見るに、恐らく俺の攻撃じゃ倒しきれない。
しかし、まだ距離がある。
なら――。
俺は目を閉じ、呼吸を整える。
雑念を捨てろ。
【明鏡止水】
◇◇◇
世界が静かになる。
狼の視線、重心、呼吸。
すべてが鮮明に見えた。
俺は一歩踏み込む。
ズバァァッ!!
一閃。
ワイルドウルフが両断され、地面に叩きつけられる。
◇◇◇
馬車の扉が、そっと開いた。
中から現れたのは、淡い金髪の少女。
上質な服を身に纏う、見るからにお嬢様といったような人物だった。
彼女は倒れたワイルドウルフを見て、次に俺を見る。
「今の……。」
リリアーナは呆然と俺を見つめていた。
だが次の瞬間、はっとしたように表情を変える。
「ガルド!」
彼女は慌てて馬車から降り、地面に倒れている護衛へ駆け寄った。
「しっかりしてください、ガルド!」
護衛の男――ガルドは腕を押さえたまま、苦しそうに息をしている。
服は爪で裂かれ、血が滲んでいた。
「お嬢様……ご無事で……。」
「私のことはいいです!」
「それより、怪我が……!」
リリアーナの声には、本気の焦りが滲んでいた。
俺はすぐに駆け寄る。
傷は深いが、まだ間に合いそうだ。
「セレナ、押さえてくれ!」
「分かったわ。」
セレナが布で傷口を押さえる。
俺はアイテムボックスからポーションを取り出した。
「これ、飲めるか?」
護衛の男は驚いたように目を見開く。
「ポーション……?」
「いいから、早く。」
俺は瓶を口元へ運ぶ。
護衛がゆっくりと飲み込むと、荒かった呼吸が少し落ち着いた。
「…とりあえず、大丈夫そうだな」
「よかった……。」
少女も胸に手を当て、ほっと息を吐いた。
「ありがとうございます。」
「助けて頂いた上に、貴重なポーションまで…」
「気にしなくていい。」
「無事ならそれで十分だ。」
そう言いながら俺は空になった瓶を見る。
温泉の報酬でもらったポーションが、こんな形で役に立つとは思わなかった。
セレナが軽く息を吐く。
「もう大丈夫よ。」
そう言うと、少女は小さく頭を下げた。
「助けてくださって、ありがとうございます。」
「私はリリアーナ・フォルティスと申します。」
その瞬間。
ピコン
『目標達成』
『馬車に乗ったお嬢様を助ける』
達成数 17/100。




