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ワイルドボア

 「じゃあ今日はこの依頼にしましょう」


 そう言って彼女が指差したのは、

 【ワイルドボア討伐 銀貨二枚】

 という依頼だった。


 「ワイルドボアって、イノシシみたいなやつか?」


 「そう。」

 「ゴブリンより強いけど、オークほどじゃない」

 「今の私たちなら、十分相手にできるわ」


◇◇◇


 街道を歩きながら、セレナがちらりと俺を見る。


 「それで結局、マントは持ってきたの?」


 「……一応。」


 「まだ諦めてなかったのね。」


 「本当に高かったんだぞ、あれ。」


 「だからって着るのはやめて。」


 「そんなにダサいか?」


 「ダサい。」


 即答だった。


◇◇◇


 そんな会話をしていると、ワイルドボアの生息地に到着した。

 地面には、大きな蹄の跡が残っている。

 セレナがしゃがみ込んで確認する。


 「ワイルドボアのものかしら」


 俺はスマホを取り出す。


 【ワイルドボアの足跡】

 数分前に付いたもの。

 進行方向 東。


 「ああ。近くにいるっぽいな、方向は東らしい」


 俺はそう言って東に向かおうとする。


 「……あなた詳しいわね」


 俺の行動に、セレナは少し驚いている様子だった。


◇◇◇


 ガサッ。

 突然、茂みが大きく揺れる。

 次の瞬間。


 ブモォォッ!!


 巨大なイノシシが飛び出してきた。


 【ワイルドボア】

 戦闘力 70


 コボルトより強い。

 だが、今の俺たちなら勝てない相手じゃない。


 「来るわよ!」


 セレナが剣を抜く。

 陽の光を受けて、銀色の刃が鋭く輝いた。

 俺は思わず目を向ける。


 「その剣……。」


 「気づいた?」


 セレナが少しだけ得意そうに笑う。


 「これ、ミーナさんに紹介してもらった鍛冶屋で買ったの。」

 「前の剣とは全然違うわ。」


 確かに、ゴブリンキング戦の時に使っていたボロボロの剣とは別物だった。


 「ちゃんと買えたんだな。」


 「ええ。」

 「これでもう、仲間に心配をかけなくて済む。」


 ワイルドボアが一直線に突進してくる。

 速いが、今の俺なら避けられる。


 「セレナ!」


 「分かってる!」


 彼女がワイルドボアの側面へ回り込む。

 そして、俺は正面から剣を構える。

 ギリギリまで引きつけ、横へ回避。


 ドンッ!!


 ワイルドボアが木に激突した。

 瞬間、セレナが一気に踏み込む。

 銀色の刃が、空気を裂くように鋭く走る。


 ザシュッ!!


 以前の剣なら、ここまで深く入らなかったかもしれない。

 ワイルドボアの首筋に刃が食い込み、巨体がゆっくりと倒れた。


 森に静寂が戻る。


 「やっぱり切れ味が全然違うわ。」


 セレナが剣を払う。

 血を振り落とした刃は、とても美しく光っていた。


 「前の剣だったら、ここまで綺麗には入らなかったかもな。」


 「ええ。」

 「本当にそうね。」


 その時、奥の茂みが揺れる。

 

 「……また!?」


 茂みから、二匹目のワイルドボアが飛び出してきた。


 【ワイルドボア】

 戦闘力 72


 今回も真正面からの突進。

 セレナがすぐに迎え撃とうとするが、さっきの戦闘直後で踏み込みが少し遅い。


 「任せろ!」


 ガキンッ!!


 俺は前に出て牙を剣で受け流し、そのまま体勢を崩す。

 そこへ追いついたセレナが、一撃で仕留めた。


◇◇◇


 「ふぅ……。」


 俺が息を吐いた瞬間だった。

 ガサガサガサッ!!


 「ケンイチ、後ろ!」


 俺は後ろに振り向く。

 ワイルドボアがすぐそこまで迫っていた。

 俺はとっさに体を捻り、横へ滑り込む。


 「うおおおっ!」


 脇腹に向けて、剣を振り上げる。


 ザシュッ!!


 深い傷が入り、ワイルドボアが大きくよろめいた。


 「今!」


 「ええ!」


 セレナが横から飛び込み、首元を切り裂く。

 ドォンッ!!


 三匹目が倒れた。

 しばらく周囲を警戒したあと、セレナがぽつりと呟いた。


 「……ねえ。」


 「ん?」


 「あなた、前よりかなり動けるようになってない?」


 「そうか?」


 「そうよ。」

 「最初に会った頃なら、今の突進なんて絶対避けられなかった」


 言われてみれば、その通りかもしれない。

 スライム相手に必死だった頃の俺なら、たぶん後ろからもろに喰らっていた。

 セレナは俺をじっと見る。


 「私が入院してる間、本当に何してたの?」


 「まあ、色々だな。」


 「……ふーん。」


 セレナは少しだけ目を細める。

 その表情が何を意味しているのか、俺にはよく分からなかった。

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