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平穏

 早朝、俺は王都の門の前にいた。

 いつもの剣を腰に携え、リュックを背負い、手には地図を持っている。

 そしてスマホの画面には、今日の目標。


 『山登りをする』


 「異世界に来てまで山登りか……。」


 思わず苦笑する。

 だが今は、できることをやるときだ。

 俺は小さく息を吐き、山道へ足を踏み入れた。


◇◇◇


 山道。

 少し涼しい風を受けながら、俺は順調に進み始める。


 「なんだ、ちょっとしたハイキングじゃないか」

 「このペースなら昼前に終わるかもな」


 そう思っていた。


 「はぁ……はぁ……。」


 坂がきつい。

 というか、山道ってなんか長くない?

 いったいいつまで続くんだ?

 途中で何度も立ち止まり、水を飲む。

 アイテムボックスに水を入れといて、本当に良かった…。

 そうして俺は、何度も曲がり角を越えながら、ひたすら山道を登り続けた。


◇◇◇


 もうどれくらい歩いたか分からなくなってきた頃、ふと道の木々が途切れた。

 俺は前かがみになっていた体を起こす。


 目の前に広がったのは、王都を一望する眺めだった。

 石畳の道に、活気のある市場。

 そして、赤いレンガの街並みの中心にある大きな王城。

 その向こうには、さらに大きな山々が連なっていた。


 「おお……。」


 思わず声が漏れる。

 その時、スマホが震えた。


 『山登りをする』


 目標達成。

 達成数 8/100。


 『報酬を獲得』


 筋力 20

 体力 30→40

 俊敏 10

 魔力 5


 戦闘力 75


 「よし。」


 少しだがステータスが上がった。

 この調子でこつこつ報酬を獲得しよう。

 俺は岩の上に座って休憩をする。

 そして、ふと思い出した。


 『山の上でヤッホーをやる』


 「……こんなの書いてたのか、俺。」


 少し恥ずかしい。

 俺は周りを見渡し、人がいないことを確認する。


 「…まあ、今しかないか。」


 俺は大きく息を吸い込んだ。


 「ヤッホーーーー!!」


 山に声が響く。


 「ヤッホーーーー……」

 「……ヤッホー……」


 綺麗に反響した。


 「おお、返ってきた!」


 ちょっと感動する。

 その瞬間。


 『山の上でヤッホーをやる』


 目標達成。

 達成数 9/100。


 『報酬を獲得』


 『アイテムボックスに拡声器が追加されました』


 …拡声器?

 ………何に使うんだ?

 俺は思わず心の声を口にしてしまった。


◇◇◇


 山を下りている途中。

 ふと、木の看板が目に入った。


 【湯煙の里 →】


 「……温泉?」


 ピコン

 スマホが鳴る。


 『温泉に入る』


 「これは行けってことだよな」


 俺は、少し寄り道していくことにした。


◇◇◇


 湯煙の里は、小さな露天風呂だった。

 入浴料を払い、服を脱いで湯に浸かる。


 「……っ。」


 …気持ちいい。

 全身の疲れが、湯に包まれてじわっと溶けていく。

 ゴブリンキング戦からずっと張っていた体の力が、ようやく抜けていく気がした。


 「生き返る……。」


 近くに置いたスマホが鳴る。


 『温泉に入る』


 目標達成。

 達成数 10/100。


 …これで十個か。

 ここまで、色々なことがあった。

 スライムを倒して、フィアと友達になって、セレナとパーティーを組んで…。

 俺はこれまでの記憶を思い出す。


 「そういえば、魔法を使う目標とパーティーを組む目標に関しては、報酬もらってないんだよな。」

 「貰えるやつと、貰えないやつがあるってことなのか?」


 報酬も目標によって全然違うので、あり得るかもしれない。

 …さっきなんて拡声器出てきたし。

 俺はそんなことを思いながら上を向く。

 見えるのは、青い空にゆったりと流れる雲。


 「……まあ、良いか」


 温泉に入っていると、そう思えた。


 ピコン

 『報酬を獲得』


 アイテムボックスにポーションが追加されました。

 アイテムボックス拡張されました。

 3kg→5kg


◇◇◇


 温泉を出て、俺は川辺を歩いていた。

 朝早く王都を出たので、まだ外が明るい。

 俺はスマホを見る。


 『魚を釣る』


 「……今日中に終わらせるか」


 俺は近くの店で、簡易的な釣り竿を借りることにした。


 「初心者か?」


 店主が聞く。


 「はい」


 「なら、エサは多めに持ってけ」

 「最初はだいたい全部流される」


 そんなに難しいのか?とも思ったが、一応持っていくことにした。


 「ああいう助言は、素直に聞いておいたほうがいいからな…。」


 俺は川辺に座り、釣り糸を垂らした。

 風が静かに吹く。

 戦いも、依頼も、何もない。

 ただ、川の流れる音だけが聞こえていた。


 「……こういう異世界も、ありだな」


 そうしている内に、一時間経った。


 「……。」


 二時間。


 「……………。」


 三時間。


 「………………………釣れねえ。」


 本っ当に引っかからない。

 ずっと餌も付け替えてて、完璧なはずなのに。

 ちょっと釣りのことを舐めていたかもしれない…。


 「お兄さん、全然釣れないね」


 少し後ろからそんな声が聞こえた。

 俺は振り返る。

 そこには、不思議な雰囲気を持つ青年が立っていた。


 「ちょっと釣竿貸してくれない?」


 「あ、ああ。」


 俺は言われるがまま釣竿を渡す。


 「釣りはね、集中が大切なんだ」

 「こんな……ふうにね」


 バシャッ


 青年はそう言って魚を釣り上げた。

 そして、釣竿をまた俺に返す。


 「ほら、やってみて」


 俺は釣竿を受け取る。

 集中が大事…。


 ピクッ。

 竿先が、ほんのわずかに震えた。


 「……ん?」


 グイッ!


 「うおっ!?」


 竿が引かれる。


 「来た! 本当に来た!」


 俺は慌てて立ち上がり、必死に竿を握る。

 引っ張られる。

 でも、離さない。


 バシャン!


 銀色の魚が川から飛び出した。


 「やったあああ!!」


 俺は魚を両手で掲げる。


 「やったぞ……。」

 「あれ?」


 俺が後ろを見ると、青年の姿は、もうなかった。


 『目標達成』

 『魚を釣る』


 達成数 11/100。


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