私の相棒
「待ちなさい、あなたじゃ……」
ミーナさんの制止を振り切り、セレナは前へ進む。
ゴブリンキングはゆっくりと剣を構えた。
「セレナ、戻れ!」
俺は叫ぶ。
しかし、セレナは止まらない。
◇◇◇
ゴブリンキングが動いた。
ドンッ!!
地面を踏み砕くような踏み込み。
速い。
セレナは横へ飛ぶ。
ゴブリンキングの大剣が木を両断する。
バキィッ!!
セレナの剣がゴブリンキングの脇腹を狙う。
だが。
ガキンッ!!
ほとんど通らない。
ゴブリンキングはそのまま肘を振り払う。
ドンッ!!
セレナの体が吹き飛んだ。
「セレナ!」
木に叩きつけられ、彼女は膝をつく。
しかし、それでも立ち上がる。
「まだ……!」
再び剣を構える。
だが、誰の目にも分かっていた。
勝てない。
◇◇◇
「ケンイチ君。」
「ダインをお願い。」
ミーナさんが低い声で言う。
「え?」
「撤退して」
そう言ってミーナさんはセレナの元へ向かう。
俺はダインさんを見る。
背中の傷が、かなり深い。
このままじゃ危険だ。
頭では分かっている。
でも、視線の先では、まだ戦っている人がいる。
俺はどうすればいい?
◇◇◇
不意に、昔の記憶が蘇った。
高校時代。
クラスメイトがいじめを受けていた。
机を蹴られて、笑われて。
俺は、それをただ見ているだけだった。
怖かったんだ。
何か言えば、次は自分が標的になるかもしれない。
そう思って、俺は目の前の現実から目を逸らした。
結局、そのクラスメイトはしばらくして学校に来なくなった。
俺は、何もできなかった。
◇◇◇
現実へ戻る。
セレナがゴブリンキングと戦っている。
ミーナさんも、魔法を放ちながら援護していた。
また、俺は逃げるのか?
俺は自分に問う。
俺はラノベの主人公のように、力がある訳でも、特別勇気がある訳でもない。
ただ弱虫なだけの、一人の人間だ。
でも。
「……嫌だ。」
小さく呟く。
俺は、もう嫌だった。
あの時と同じなのは。
◇◇◇
セレナは荒い息を吐いた。
「はぁ……っ。」
腕が痺れる。
ゴブリンキングは無傷に近い。
対してこちらは、何度も攻撃を受けている。
「はぁはぁ……まだ…立てる?」
後ろからミーナの声が聞こえる。
「当然……!」
そう答えたものの、自分でも強がりだと分かっている。
でもここで止まれば、後ろのみんながやられる。
ゴブリンキングが剣を振り上げる。
疲労で足が重い。
完全には避けきれない。
ブンッ!!
衝撃。
「っ……!」
痛みが走る。
一度距離を取ろうとするが、ゴブリンキングはすぐに追ってくる。
やっぱりこんなの、一人でどうにかできる相手じゃない。
◇◇◇
私は一瞬だけ後ろを見た。
ダインは動けない。
ミーナの魔力も、もう限界に近い。
そして――賢一。
彼の姿が見えない。
(逃げたのかな。)
そう思った。
しかし、責める気にはなれなかった。
普通に考えて、来るはずがない。
分かってる。
でも少しだけ、彼のことを頼りにしてしまう自分がいた。
◇◇◇
ゴブリンキングが再び踏み込む。
避けようとするが、もう、間に合わない。
大剣が振り下ろされる。
私は目を閉じた。
その瞬間。
「フラッシュ!!」
目を閉じていても分かる眩しい光が、聞き覚えのある声と共に放たれた。
「グオオオォ!!」
ゴブリンキングがうめき声を上げる。
私は目を見開く。
そこには、私の頼りない相棒――ケンイチがいた。
「うおおおお!!」
グサッ!
ケンイチの剣が、ゴブリンキングの腹を貫く。
「グォォォ!」
ゴブリンキングが苦痛の咆哮を上げる。
初めてだった。
この怪物が、はっきりと傷を負ったのは。
ケンイチは剣を押し込んだまま叫ぶ。
「セレナ! 今だ!」
「っ!」
私は反射的に地面を蹴った。
まだ動ける、まだ戦える。
ゴブリンキングはフラッシュの光で目を潰され、ケンイチに意識を向けている。
今しかない。
私は剣を握り直し、一気に踏み込む。
「はあああああっ!!」
ズバァッ!!
渾身の一閃。
刃がゴブリンキングの胸を深く切り裂いた。
巨体が大きくよろめく。
しかし、それでも倒れない。
化け物みたいな生命力だった。
ゴブリンキングはケンイチに掴み掛かる。
「ケンイチ、上!」
「俺達のこと、忘れてもらっちゃ困るぜ!」
ガキンッ
ゴブリンキングの腕が弾かれる。
A班の人達が、ケンイチを守っていた。
そして。
「ああ…。新人に……格好つけさせてばっかじゃいられねぇよなぁ!」
血だらけのダインが、斧を両手で振り上げる。
「うおおおおおおおっ!!」
渾身の一撃が、ゴブリンキングの首へ叩き込まれた。
ドゴォンッ!!
巨体が崩れ落ちる。
森が、静まり返った。
そして。
「……勝った?」
第一班の剣士が呟く。
その瞬間、張り詰めていた空気が一気に緩んだ。
私はその場に座り込み、荒い息を吐く。
視線の先では、ケンイチが仰向けに倒れていた。
私は思わず笑ってしまう。
「はは……。」
「本当に、手のかかる相棒ね。」
そう言いながら、私は彼の方へ歩き出した。




