ゴブリン
開けた場所へ飛び出す。
そこには第一班の冒険者たちがいた。
いや、正確には――。
戦っていた。
「うおおおっ!」
剣士が剣を振る。
ガキンッ!!
鈍い音。
しかし、相手は一歩も動かない。
「硬ぇ!」
その魔物は二メートル近い体格をしていた。
全身が鎧で覆われ、巨大な剣を持つ。
【ゴブリンナイト】
戦闘力 170
推定勝率 10%
「……っ!」
思わず息を呑む。
オークより、明らかに強い。
◇◇◇
「新人は下がれ!」
ダインさんが叫ぶ。
そのままゴブリンナイトへ突っ込んだ。
ダインさんが斧を振る。
ドンッ!!
激しい衝突。
地面が揺れる。
「ミーナ!」
「分かってる!」
魔法が放たれる。
風の刃が次々に命中する。
その時だった。
「ケンイチ!」
セレナの声。
振り向く。
「何ぼーっとしてるの!」
「っ!」
ハッとする。
ゴブリンナイトだけじゃない。
この辺り一帯、ゴブリンに囲まれている。
そしてゴブリンが六匹、こちらへ向かってきていた。
第一班は大型魔物で手一杯。
ダインさんも動けない。
俺は剣を取った。
まだ怖い。
だけど、今の俺なら戦える。
一匹目。
俺はゴブリンが飛びかかると同時に剣を振る。
ザシュッ。
二匹目。
横から飛び掛かってくる。
俺は慌てて剣を構える。
ガキンッ!
衝撃。
重いが、今の俺は筋力も体力も上がっている。
「うおおおっ!」
ゴブリンを押し返す。
体勢を崩したところへ。
剣を振る。
ズバッ。
残り四匹。
しかし、そっちはもうセレナが倒していた。
そしてーー。
「うおおおっ!」
ダインさんがゴブリンナイトに止めを刺した。
「はぁはぁ…無事か二人とも!」
「はい!」
「そうか…良くやった!」
そう言ってダインさんは俺の頭を撫でる。
腕は痛いし、息も切れている。
でも、俺一人でゴブリンを倒すことができた。
俺は、確かな成長を実感していた。
周りのゴブリンは、他の冒険者達が倒してくれている。
「もう大丈夫そうね」
「残りのゴブリン達は私が片付けておくから、ダイン達は下がってなさい」
そう言ってミーナさんは詠唱を始める。
その瞬間。
ガサガサガサッ!!
森の奥から。
新たな足音が聞こえた。
ダインさんの表情から笑みが消える。
「……最悪だ。」
セレナが剣を握り直す。
「嘘でしょ。」
ミーナさんが静かに呟く。
「ゴブリン…キング。」
ぼろぼろのマント。
腰には歪んだ大剣。
赤黒い瞳が、こちらを見下ろしている。
【ゴブリンキング】
戦闘力 300
推定勝率 0%
「っ……!」
背筋が凍る。
あいつを見た瞬間、シャドウウルフと対峙した時の恐怖が蘇った。
◇◇◇
「全員、固まれ!」
ダインさんが叫ぶ。
第一班と第三班が一斉に集まる。
ミーナさんが周囲を素早く確認した。
「また囲まれてる」
「正面突破は無理」
俺も周りを見る。
さっきのゴブリンキングの咆哮で、新しいゴブリン達が集まっていた。
「ああ。だから隙を見て撤退するぞ」
だが、その瞬間。
ゴブリンキングが剣を掲げた。
「ギィィィッ!!」
敵が一斉に動き出す。
「来るぞ!」
◇◇◇
戦いが始まった。
ダインさんが先頭でゴブリンを吹き飛ばす。
セレナも次々と敵を斬り伏せていく。
しかし数が減らない。
一匹倒せば、後ろから二匹出てくる。
「ケンイチ、右!」
セレナの声。
俺は反射的に剣を振る。
ザシュッ!
一匹。
続けて二匹目。
まだ動ける。
でも。
「数が多すぎる……!」
その時だった。
「危ない!」
第一班の若い剣士が叫ぶ。
別のゴブリンナイトが大剣を振り上げていた。
狙われているのは――ミーナさん。
彼女は魔法の詠唱中で動けない。
「ミーナ!」
ダインさんが駆け寄る。
ブシュッ!
ミーナさんを庇い、ダインさんが倒れる。
「ダインッ!」
「うおおおおお!」
俺は反射的に剣を振る。
刃が肩に食い込む。
ゴブリンナイトの体勢がわずかに崩れる。
次の瞬間。
「風刃!」
ミーナさんが魔法を発動する。
鋭い風の刃がゴブリンナイトの首を切り裂いた。
巨体がゆっくりと倒れる。
ドォンッ!!
「ミーナさん?」
「ハァハァ。冒険者は…いついかなる時でも、冷静さを失ってはいけない」
「ダインが動けない今、私がこの班を指揮する!」
◇◇◇
状況は最悪。
ダインさんは倒れ、ミーナさんも疲労困憊だ。
ゴブリンキングはというと、まだ動いていない。
むしろ、こちらを観察しているように見えた。
ミーナさんが言う。
「…みんな聞いて」
「私が残りの魔力を使って道を作る」
「だから全員振り返らずに、撤退して」
…そこにいた全員が、その言葉の意味を理解していた。
ダインさんは大柄な人だ。
そんな彼を背負って逃げるなんて、現実的に考えて不可能。
つまりこの選択は、ダインさんを見捨てるもの。
しかし、誰も何も言えない。
一番苦しんでいるのがミーナさんだって、知っているからだ。
「断ります」
静寂を切り裂くように、セレナはそう言った。
「セレナ?」
セレナは無言でゴブリンキングの元へ歩いていく。
ミーナさんの制止を振り切って。




