嵐の前の静かさ
朝露に濡れた草を踏みしめながら、四つの足音が静かな森に響いていた。
「第三班はこの辺りを巡回する」
先頭を歩くダインさんが地図を見ながら言う。
「コボルトが多いって話だったな」
「はい」
セレナが頷く。
俺は周囲を見渡す。
静かだ。
鳥の鳴き声しか聞こえない。
「こういう時ほど油断しちゃ駄目」
ミーナさんが言う。
「はい」
俺は返事をした。
◇◇◇
十分ほど歩いた頃だった。
ダインさんが突然しゃがみ込む。
「見てみろ。」
俺たちも近付く。
地面には足跡があった。
「コボルトですか?」
俺が聞く。
「違う」
答えたのはセレナだった。
「この足跡、指が三本」
「コボルトなら四本のはず」
「え。」
全然気付かなかった。
ミーナさんも頷く。
「ええ。この足跡は、ゴブリンよ」
俺もしゃがんでじっくり見るが、あまり分からない。
俺はスマホを取り出す。
【ゴブリンの足跡】
半日以内に付いたもの。
進行方向 北。
「おぉ……。」
思わず声が漏れる。
薬草の件もあったのでやってみたが、やはり鑑定できるようだ。
「どうした?」
ダインさんが聞く。
「いや、その……。」
「なんでもないです」
危ない危ない
◇◇◇
その後も巡回は続く。
途中で足跡を見つけたので、俺は再びカメラを向ける。
【ゴブリンの足跡】
半日以内に付いたもの。
進行方向 北。
「すみません」
「ゴブリンの足跡、ありました」
セレナが少し驚いた。
「もう分かるようになったの?」
「…少しだけ」
「やるな坊主」
「あ…あはは……」
本当はスマホのおかげだけど。
◇◇◇
さらに歩く。
ダインさんが振り返る。
「坊主。」
「はい!」
「ちょっと先頭歩いてみるか。」
「俺が?」
「そうだ」
「危なくなったら俺が止める」
「……分かりました」
少し緊張しながら前へ出る。
前を歩くだけなのに、さっきまでと景色が違うように感じる。
どこから敵が来るか分からない。
自然と耳を澄ませる。
葉の擦れる音。
鳥の鳴き声。
感覚が研ぎ澄まされる。
「……。」
ガサッ。
右の茂みが揺れた。
「!」
反射的に剣を抜く。
「止まって!」
俺は後ろへ手を出す。
全員が止まる。
茂みから現れたのは──
一匹のウサギだった。
「……。」
ダインさんが吹き出した。
「ははは!」
「いい反応だ!」
「すみません……。」
セレナは呆れたように息を吐く。
「ウサギね…」
「はい……。」
恥ずかしい。
するとミーナさんが口を開いた。
「でも、判断は正しい」
「及第点ね」
「……え?」
ダインさんも頷く。
「そうだな」
「その慎重さは良し!」
ダインさんは俺の頭をポンポンとする。
俺は少し安心する。
失敗したが、間違ってはいなかったようだ。
◇◇◇
昼過ぎ。
俺たちは小川の近くで休憩を取ることになった。
水を飲み、一息つく。
その時だった。
ダインさんの表情が変わる。
「……おかしい。」
「どうしたの?」
セレナが聞く。
ダインさんは森の奥を見つめたまま答える。
「静かすぎるんだ」
俺も耳を澄ませる。
さっきまで聞こえていた鳥の鳴き声が、一つも聞こえない。
ダインさんが斧を構える。
「ミーア。」
「ええ。分かってる」
ミーアさんも杖を構えた。
その瞬間。
ピーーーーーッ!!
遠くから甲高い音が聞こえた。
「あれは…救援信号!」
セレナの表情が変わる。
「第三班、移動を開始する!」
全員が一斉に走り出す。
何が起きたのか分からない。
だが、嫌な予感がした。




