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中編

鉄格子の外から漏れる微かな陽射しに反応して私は目を醒ましました

頬には流れ出た涙の跡が残っています。またあの時の…デビュタントの時の夢を見たのですね。

ボロボロの貫頭衣を身に着けた私は牢屋の中の粗末な藁敷きから上半身を起こすとまた何時もの自問自答を始めました




ブルボン王家との戦争自体は戦争とも呼べないレベルでした。

恐らくはブルボン王家側から指示されていたのでしょう。圧倒的不利な状況でも相手側に付くと思われていた数家の貴族家も領都の門の上に白旗を揚げ、身柄の安全を条件に無血開城しました。

後々、総大将として率いていたお兄様は


「連中は所詮その程度の忠誠心しか残ってなかったということだ」


と嘲笑していました。今となってはせめて犠牲を最小限にしようとした努力なのだと思いますが…


そのまま王都まで破竹の勢いで行進していった貴族軍は、民が逃げて無人と化していた王都を焼き払い、そのまま王城に突撃してブルポン王家の面々を全員確保しました。

そのまま貴族軍に客将として赴任していたアーク王国第5王子がディタリー家を新王家として認め、またディタリー王家との同盟及び私との結婚を宣言しました。

これによりブルボン王国は滅び、ディタリー王国が新生しました。そして私はアーク王国の第5王子と結婚しました。


最初は「これでよかったのだ、これでディタリー家は安泰だ」と自分自身に言い聞かせていました。事実将来の王父の旦那様は優しく、王となった父上、王妃となった母上、王太子となったお兄様も以前より笑顔でいることが増えて、私も釣られて笑顔になることが多かったです。

しかしその幸せも数年しか続きませんでした。


ある日、ふとした気分で数年ぶりに王城から市井に出てみました。

侍従は一瞬怯えたような顔をしましたが、覚悟を決めた表情で頷いてくれました。

当初私は「何故市井に出るだけでそんな顔をするのかしら」と疑問に思いましたが平民街に出てすぐに理解しました。

街の雰囲気が最後に来たときとは比べ物にならない程に変わっていたのです。

馬車に乗りながら外に出たのですが、車内にいながらも漂ってくる悪臭に私は鼻を顰めました。王城の周囲は貴族街で固めていたので全く気づきませんでした。

建物も道も長い間修繕されてないのでしょう。平民街に入った瞬間から馬車のスピードが落ち、ガタガタ跳ねるようになりました。更に建物に穴は空き、噴水は枯れてボロボロ、まるで戦場になったかのようです。

更に大通りであってもそこらに浮浪者で溢れています。中には遺体も混ざっているようです。

先触れの騎士達が物乞いを強引に退かしている声が聞こえてきます。どうやら彼らは物乞いをしているようです。

「来るんじゃなかった…」そう後悔していると、ふと悪臭が混ざって肉を焼く匂いがしてきました。

「飲食店でもあるのかしら?」と思って匂いのした方向を向いた私は更に後悔しました。

記憶の通り、そこはかつて青空市場を開いていた場所でした。

しかし今は大量の遺体を荼毘に付す火葬場として使用されています。

私が顔を向けた丁度その時、一人の男性が痩せこけた女性の遺体と赤ん坊の遺体を焼き始めたところでした。

恐らく私の視線に気付いたのでしょう。男性が視線だけこちらに向けてきました。

その目に私は恐怖しました。男性の目は全てを恨むかの如き悪魔の目線をしていたのです。本能的な恐怖を感じた私は馬車のカーテンをさっと閉じると、御者に王城に戻るように頼みました。

王城に帰るまでの間、私は生きた心地がしませんでした…


王城に帰った私は、夕食時を狙って今日見てきたものを家族に訴えることにしました。

建物も道も修繕されてないこと、浮浪者が溢れかえってること、死者も続出している可能性が高いこと、そして奥様と子供と思われる二人を茶毘に付していた男性のこと…

私は家族が現状を知ればすぐに改善に向かって行動すると思ってました。何故なら貴族は平民をきちんと生かす義務があるからです。家畜にも最低限の衣食住は確保しなければなりません。

しかし帰ってきた答えは私を仰天させました。


「家畜に同情するとは…。我が娘ながら恥ずかしいぞ」


「そうね。どこで育て方を間違えたのかしら…」


「家畜がいくら死んでも我らには関係ないんだよ。ジャンヌならわかるよね?」


父と母からは軽い失望を、兄は呆れながらも場違いな説教をしてきました。

いえいえ、このままでは貴族以外が全滅する勢いで市井は悪化しているのです。何を呑気な事を言ってるのでしょうか。

私は最後の希望を賭けて旦那様に首を向けました。旦那様ならきっと、きっとわかってくれる…

旦那様は私に笑顔を向けながら言いました


「心配しなくても、家畜は勝手に増えるから大丈夫さ。何も問題ないよ」


私の賭けは失敗したようです。

旦那様は父の方を向きました


「陛下、連中は蛆虫の如く湧き上がってきます。下手に甘い対応をしたら湧きすぎて手がつけられなくなるでしょう」


「うむ、家畜共は更に締め付けねばな。

ところでこのアーク王国原産のフォアグラとやら、美味だな。うむ、気に入ったぞ」


父上はここ数年で出てきた贅肉を揺らしながらご機嫌のようです。


「ありがとうございます。こちらのフォアグラ、異世界の知識を持つ者が再現したものでございまして…」


父上と旦那様が今日の夕食のメインとなった料理について談義し始めた時に、私は食卓から立ち上がり退席しました。脳内は絶望の二文字でいっぱいです。

あてもなく城内を彷徨っていました。歩いている間に昼間に見た男性の光景がまた脳内で再生されます。怨念と憎悪のみで作られたかのごとき悪魔の目がずっとうかんできます。

あの親子はどうして亡くなったのか。政策を間違ってしまったのか。フィリップ殿下の言う通りにしていたらあの親子はなくならなかったんじゃないか…

思考がグルグルしている間に王城の端までたどり着いたようです。

外を見ると、貴族街の先にある庶民向けの地区が少し明るく、まだ煙が上がっているのが見えます。この時間にも火を絶やさないということは、恐らく夜通し火を保っているのでしょうね…

ふと、城内の少し先から人の気配がしました。誰かがこちらに向かってきているようです。何故か私は咄嗟に近くの柱の後ろに隠れてしまいました。

2人組だったらしく、やがて話し声が聞こえてきます。その内容は聞き捨てならないものでした。


「…というか今日も王族は普通に食事を採っていたわね」


「肉はともかく野菜を食べる気がしないわ。だってあの野菜…」


「聞かせないで頂戴。おぞましくて聞きたくもないわ」


「ごめんなさい。私も食べる気が失せているのは一緒よ」


「だから私達は痩せていっているのに連中はちっとも気づきやしないわ」


「あの人達にとって私達は貴族として扱いたくないのでしょうね」


「ああ、前陛下や殿下が恋しいわ」


「それは聞かれたら斬首刑よ…」


先にある廊下を曲がったメイド服の二人組を確認してから私は隠れるのをやめました。

我ながらよく隠し通せたなと思います。最初の会話がずっと反芻し、動揺していたからです。

あの会話から色々察せます。使用人たちは野菜を摂るのを躊躇している、野菜を作るには肥料が必要、昼に見た火葬場には骨を積んでいた馬車があったこと…

動揺しつつ、どうしようもない現実に絶望しながら、私は旦那様との部屋に戻ることにしました。



その知らせが飛び込んできたとき、私は乳母から預かった子供を家族全員で囲みながら団らんをしていました。

つい1か月前に生まれた子供の名前を皆で色々考えていたところで、ドアをガンガン叩く音が鳴ります


「陛下、失礼します! 緊急の報告です ! 」


飛び込んできた宰相に対し、父上は苛立ちながら返答します


「騒がしいぞ宰相。一体どうした?」


「つい先ほど、ダーヴォエール伯爵からアルベール辺境伯領が陥落したと伝令が飛び込んで参りました!」


その知らせを聞いて、私たち家族は動揺しました。

アルベール辺境伯は私たち貴族派とも旧王家の王族派とも異なる中立派だった貴族で、独立した派閥を作れるくらいには武力を保有していました。

その彼が敗れた、という事実だけで事態の深刻度が測れます。


「アルベール辺境伯領を襲ったのはどこの国だ?」


父上は敢えて平坦に尋ねます。


「国ではございません!賊は『ブルポン人民共産党』と名乗っております!!」


宰相のこの言葉に皆困惑の表情を浮かべます。共産党?とは一体何なのか?とみんな思ったはずです。


「どのような賊なのか知らんが、我らディタリー王国に弓引くとは愚か者め!直ちに騎士団を派遣しろ!賊共の首を持って返ってくるのだ!」


宰相が命を受けて退出した後、部屋には安穏とした空気が流れ出しました。


「家畜に所領を奪われるとは、アルベール伯も落ちたものですね」


お兄様が半分笑いながら父上に話を向けます


「そうだな。アルベール伯は親族諸共罰を与えねばな。領には今後、別の貴族を派遣せねばならん」


父上は呆れながら椅子にドカッと座り込みます。

しかし私はどこか嫌な予感を感じながらも、子供をあやすのに戻ることにしました



そしてその予感は的中することになります


「騎士団が全滅しただと!!」


父上の怒号が玉座の間に響き渡ります。

ボロボロの鎧に身を包んだ騎士が言うには、賊と交戦したものの、平民も辺境伯の兵士も大量に賊に合流しており、数に圧倒され敗北したとのことです。


「ええい、団長はどうした!なぜ私に報告に来ない!!」


父上が報告に来た騎士に八つ当たりをします


「残念ながら団長は、敵の火炎魔法に全身を焼かれてしまいました。生きてはいますが意識もなく、長くは保たないだろうと…」


魔法。ここ最近、この世界に生まれた謎の技。

一部では神の御業とか言われていますが、我がディタリー王国とアーク王国では平民が所持している場合、問答無用で処刑というのが法となっています。


「ふざけるな!貴族の誰かが裏切ったというのか!!」


父上が更に激昂しますが、怒っていても仕方がありません


「陛下、落ち着いてください。騎士団が敗走した以上、賊が勢力圏を広げ、王都に向かってくるのも時間の問題です」


お兄様が父上を諌めます。


「クソッ、この国は私の物だ。賊などに渡してたまるか!」


父は少し怒りを抑え込んだようです。そして命を下しました


「貴族の中で魔法が使える者を全員招集しろ!王国の威信にかけて、総力をもって賊を葬る!私も出陣する!!」


王国の存亡を賭けた、総力戦の幕開けとなりました



父上が出陣する前日、私は子供の乳母と残存した騎士団の中から手練を密かに呼び出しました


「殿下、只今参上致しました。ご用命を」


呼び出された顔で何となく察した様子の二人に対して、私は恐らく予想通りの命を出しました


「予想できるかと思いますが、命令します。私の子供を連れてアーク王国まで逃げてください。陛下の許可も受けてます」


今回の戦い、仮に負けたらディタリー王国を防衛するのは困難になります。ここまで来たら万一に備えなければなりません。

幸いにもこの子はアーク王家の血も引いてます。逃げ込んでも殺されることはないはずです。


「では殿下も共に参りましょう。この子には母親が必要です!」


乳母がかなり強気な表情で意見してきます。ですがこの意見を受け入れるわけにはいきません。


「駄目です。ここで私も逃げ出したら、この子も逃げていることを察せられます。そうなったらこの子の命が危険です。だから私はこの城に残ります」


私の身柄を利用して、この子が逃げる時間を稼ぐ。これが一番ベターな方法です。

呼び出した手練も覚悟を決めたのか、敬礼を返してきました


「御意。必ずや殿下を無事に逃がしてみせます」


乳母も、手を強く握り耐えるような表情をしてますが、頷いてくれました。


「ありがとうございます。お金も装備も好きなのを持っていっていいと陛下から言付けを受けてます。準備が済み次第、すぐに出発してください。戦に無事勝てたら、すぐに迎えに行きます」


こう言いましたが、迎えに行けるのか正直心の中は不安でした



そして父上、魔法が使える貴族、動員できる兵士と騎士すべてを動員した会戦が行われました。

私は父上の勝利を信じて、旦那様と城で待機しておりました。

ただ祈ることしかできない己の無力さを噛み締めつつ、賊の討伐が終わるように願い続けてました。

そんな日々を過ごして数日、祈りつつ過ごしていると、城門の見張り台から鐘の音が鳴り響きます。

父上が勝利を収めたのかと思いましたが、鐘の音が止まらず、断続的に響いてくるのを聞いて、旦那様と顔を見合わせました。旦那様の顔は強張ってました。


「これは、非常事態を告げる鐘の鳴らし方だぞ」


旦那様の言葉に一瞬倒れそうになりましたが、とにかく様子を見ようと窓の方に向かいました。

外の様子を見た途端、恐怖と緊張で自分の顔が強張るのを自覚しました。

城門は普段から扉で閉ざされていたはずですが、今やその扉は壊され、多数の住民が城の敷地の中になだれ込んできています。守備隊として残留していた僅かな騎士と兵達が攻撃していますが、数の暴力に押されてどんどん後退していってます。

突破されるのも時間の問題、ということに気づき体も恐怖で震えだした時、部屋の扉を強く叩く音が聞こえました


「王女様!王子様!敵が城内に進入してきてます!!早くお逃げください!!!」


旦那様はすぐにドアに駆け寄りドアを開けます。そこには汗だくになった近衛騎士の一人が真っ青な顔で立っていました。


「何がどうなっている!何故民衆が城になだれ込んできている!!」


「逃げながらご説明します、とにかくすぐにお逃げする準備を!」


被せ気味で回答されて旦那様は不満気でしたが、私はすぐに万一の時用に纏めていた荷物を取りに行き、旦那様に渡しました。それを確認した近衛騎士はすぐに謁見の間に向かい走り出しました。既に正門からの脱出は無理なので秘密の脱出路に向かうのでしょう。私たちはそれに付いて行きながら、質問します。


「何故民衆が城内になだれ込むのだ?他の兵たちはどうしていたのだ!」


「それが1時間ほど前、王都中に突如としてビラが撒かれ始めました。内容はどれも『軍は打ち破った!』という内容で、我々に協力すれば次期政権でも生かす、抵抗するか行動しなければ殺す、という文面でした」


この報告に私は旦那様と顔を見合わせました。本当に王国軍は敗れたのでしょうか…


「…軍は、父上の情報はありますか?」


私は声が震えるのを自覚しましたが、それでも聞くしかありませんでした。


「まだ早馬も何も帰ってきてません。とにかく脱出後に軍と合流しましょう!」


これを言い終わると近衛騎士は走る速度を早めました。正直私も旦那様も付いて行くのに精一杯でしたが、命の危機です。捕まればどんな目に遭うかわからない、という恐怖でとにかく足を進めました。

そうして謁見の間まで到達し、玉座の裏に隠されている脱出路に向かおうとしたとき


「いたぞ!!」


という声が聞こえました。咄嗟に声のした方向に顔を向けると、暴徒と化した民達が鬼気迫る表情をこちらに向けているのがわかりました。近衛騎士達が必死に押しとどめようと剣をふるってますが、人が倒れても倒れても前に進んできます。

血が流れ、味方を踏み潰す様に吐き気がし、思わず口を抑えますが


「殿下、早くこちらへ!!」


という先導してきた近衛騎士の言葉に、また足を進めます。

旦那様は既に一人で脱出路の隠されている赤幕の裏に向かってます。私を置いて一人で逃げようとする旦那様にイラつきますが、今は文句を言っている場合ではありません。

とにかく必死に足を進め、赤幕を潜り、脱出路の中に入りました。

中は真っ暗で、ジメジメしたあまり居心地のいい空間ではありません。でも後ろに暴徒がいる以上、進むしかありません。

近衛騎士の先導で、目が慣れた暗闇をひたすら進みます。追いつかれたら死ぬ、という恐怖心でとにかく進みました。

30分ほど歩き続けると、ようやく出口の光が見えてきました。

ホッとしたのも束の間、後方から小さな怒鳴り声が聞こえてきました。暴徒がこの隠し通路に気づいたようです。


「早く脱出しましょう!出口の近くに厩舎がありますので、そこで馬を確保して逃げます!」


「わ、私は馬に乗ったことがないのだぞ!」


と、旦那様が狼狽えます。


私は乗れます。騎士様は旦那様を載せて二人で駆けてください」


まさかこんなところでかつて旧王家に教わったことが活かせるとは思ってませんでしたが、今は生き延びるのが先です。

旦那様と近衛騎士の三人で出口に向けて走ります。問答をしてたため、暴徒が割と近くまで迫ってきていそうです。

息を上げながら出口を通過しました。しかしそこで私たちは立ち止まることになりました。

出口はなんと既に民衆が囲んでいました。

皆、憎悪を目に滾らせ、包丁やら木材やらの武器で武装してます。

近衛騎士が剣を手に立ち向かおうとしてますが、こちらは1人、相手は100人以上です。どうあがいても勝ち目はありません。

ふと、民衆の中央の方にいる人と目が合い、戦慄が体を走ります。

その人は以前、私に悪魔のような目を向けてきた男性その人でした。あの時の感情に加えて更に興奮の色を浮かべている目をみて、私は逃げられないことを悟りました。


「貴様ら、無礼だぞ!私がディタリー王国の王族と知っての愚行か!!そこを通せ!!!」


旦那様が虚勢を張り、声を上げます。

しかしその声に民衆は狼狽えるどころか、嘲笑がどこかから漏れてくる始末です。


「おのれ!王族に対して家畜どもが侮蔑すると!!そこをどかないかゴミどもグフッ」


更に虚勢を張っていた旦那様に対し、民の一人が走ってきていきなり顔にストレートパンチを食らわせした。

旦那様はいきなりのパンチに吹っ飛び、地面に仰向けに倒れこみます。震える顔で旦那様を見ると、鼻が折れていて、血が出ています。

もう私たち王族は民にとって尊敬する存在ではない、ということを強く印象付けました。

殴った民が追加で旦那様を殴ろうと一歩踏み出したとき、静止する声が届きました


「やめなさい、今殴っても貴方しかスッキリしませんよ。同志全員がスッキリしなければ意味がない」


私たちを囲んでいる民衆をかき分け現れたのは、胡散臭そうな表情をした、飄々とした男性です。服はそこらの民と変わりませんが、民とは何か違う、そんな雰囲気がします。


「同志諸君、諸君の怒りは最もです。私もこの連中に怒りを感じています。しかし新たな社会では感情的な行動は不要です。そうでなければ理想的な社会は作れません」


この言葉に殴られた民は、私たちを囲む円に戻ります。しかし状況は変わりません。

この一連の流れの間に、隠し通路から民衆が出てきました。物理的にも私たちに逃げ場はなくなりました。


「さて、一応ご挨拶を。私はウラジーミルと申します。短い付き合いですが覚えて頂けると嬉しいです」

胡散臭い笑みを浮かべて自己紹介するウラジーミルに対し私は話しかけます。


「ここで私たちを殺さないのですか?お父様達がどうなったのか知りませんが、少なくとも私たちを生かすメリットはないでしょう?」


「メリットならあります。貴方たちの処刑を民に公開するというメリットがね。貴方たちの処刑を通して同志諸君が国を支配する、という印象を与えられるではないですか。」


ウラジーミルは相変わらずの笑顔で続けます。


「そしてそれくらい、貴方の立場ならわかるはず。それでもこの問いをしたということは、何か隠し玉がありますね?そういえばご子息が見えないようですが」


その言葉にドキッとします。私の子供は無事にアーク王国までたどり着けているでしょうか。


「まあ、逃がした先は見当が付きます。そしてそちらの国もまもなく転覆する。全てはj共産主義社会に生まれ変わるのですから」


読まれてる…いいえ、読むのが簡単というべきでしょうか。我が子を逃したのは失敗だったかもしれません。


「さて、せっかくここまで運動してもらってなんですが、城にお戻り頂きます。ま、部屋は今までと同じではなく、地下牢ですがね。誰か、地下牢までお連れしなさい」


その言葉を聞いた瞬間、私はスカートの中に隠してた短剣を取り出す為にスカートを破ります。ここで自害しなければ、恥を晒すことになります。そんなことは耐えられません。

しかしスカートを破いた瞬間、ウラジーミルは私に突進してきました。無防備だった私は地面に倒れこみます。

地下牢に連れていかれた後に自害すればよかった、と己が短絡さに後悔している間に短剣を取り上げられます。


「貴方には王族の資格があるようですね。少なくとも戦場でふんぞり返ってたデブとオロオロしてた間抜けに比べれば素質はある。まぁ本物ならば潔く処刑を受け入れるべきでしょうがね」


半ば嘲るような口調に、私は反論ができません


「さて、彼女のエスコートには…そこの同志、君が連れていきなさい。ああ、まだ殺してはダメですよ。処刑は公開でしなければなりませんから」


そうして連行役に選ばれたのは、例の男性でした。彼は私の手を乱暴に掴むと、そのまま引きずり出しました。抵抗してみますが、力が強くて上手くいきません。そのままズルズルと引きずられます。

後ろを見てみると旦那様も、別の民に足を掴まれ引きずられてます。

最早逃れることはできません…私たちは城に引きずられて戻っていきます。

私たちの未来を暗示するような真っ暗闇の隠し通路に入る直前、ウラジーミルの勝ち誇った演説が耳に入ってきました


「同志諸君!今ここにディタリー王国は滅んだ!人民の勝利であり、自由の勝利だ!!」

共産主義者もどきってこんな感じでいいんでしょうか…

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