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前編

皆様はじめまして

この作品が初投稿になります

よろしくお願いします

「ディタリー公爵令嬢!君との婚約を破棄する!!」


私、ディタリー公爵家の長女、ジャンヌ・ディタリーがデビュタントの会場に入った途端、いきなり私の婚約者であるフィリップ第二王子殿下が私の前にやってきてこのようなことを言い放ってきました。

この第二王子殿下、私の婚約者であるにも関わらず、デビュタント前日、屋敷にいきなり遣いを寄越してきたと思ったら


「君のエスコートはできなくなった」


という内容を言われ、理由を遣いに伺っても「存じ上げてない」と困惑顔で言われ、それでも食い下がっても同じ言葉を繰り返すばかり。終いには遣いも頭を抱えてしまいました。

本当に存じ上げてないと判断して遣いを返すしかなく、今日のデビュタントは公爵家を継ぐ予定のお兄様に急遽エスコートしてもらって、ついさっき会場に到着した途端にこの発言です。

正直私は馬鹿なことをぬかす第二王子殿下にかなりイラついていました。


「…まだ私はこの会場に到着したばかりですが?それに理由も無くいきなり婚約破棄を宣言されても頷けませんわ?」


 イライラを覆い隠すために扇子を広げながら、私はフィリップ第二王子殿下に言い返しました。


「残念ながら全ての証拠は揃っている。今更言い訳をしても無意味だ」


「証拠と言われましても、言い訳と言われましても、何が原因でこのような暴挙に出たのかが分からない以上先ほどと同様に頷けません。きちんと理由をお話くださいませ殿下」


顔を真っ赤にしながらこちらに向けて吐き捨てるかの如く言葉を続けるフィリップ第二王子殿下に対して、私も少し言葉にイラつきを含ませながら先ほどと同じ返答を返します。

すると今度は覚悟を決めたような顔になりました。心無しか会場の他の貴族の皆様にも緊張が伝わっているようです。さてさて何を言われるのでしょうか?私は特に浮気も姦淫もしていませんが…


「残念だよ。正直に身を引いてくれたらこの場では手荒な真似はしなかったというのに」


「私は手荒な真似をされるようなことをしたと仰られたいのですか?」


「当然だ。この場で言いたくは無かったが仕方が無い。ジャンヌ・ディタリー公爵令嬢」


ここで言葉を切り、殿下は一気に息を吸い込んで言葉を続けます



「君は隣国と内通していたね?」



なるほど、この話が王家にバレましたか。かなり隠密にかつ周到に準備を進めていたのですが、バレたのなら婚約破棄も妥当でしょう。

ですがまだ頷くわけにはいきません。幸いにして殿下は頭に血が上っている様子。元々頭脳明晰というわけでも無いですし、今のように感情的にもなりやすい方です。どの程度バレたのか確かめてからでも遅くはないでしょう。


「全く覚えがございません。殿下は一体何を仰られているのでしょうか?」


とりあえず煽るような口調で言ってみました。すると殿下の頭に更に血が上ったようで、私を指差しながら怒鳴り出しました


「惚けても無駄だ!お前は…いやお前達ディタリー公爵家は思想が違い我々を敵対視しているアーク王国の王家と繋がり、我々王家を打倒してこの国を乗っ取るつもりだったのだろう!」


アーク王家との繋がりはバレていましたか。まあここは基本中の基本ですからね。恐らく最初にバレたのでしょう。


「正義に満ちている文官が情報を収集しているお前を見つけて父上に報告していなかったらこの悪行はバレていなかっただろう!お前も運が無いな!」


とドヤ顔をしながら殿下はホッとしたような表情で話します。

どうやら文官勤めの貴族達の買収を財務担当や外交担当及び軍事系以外後回しにしていた結果、いまだ王家に忠誠を誓っている文官バレたようです。そこは私も運が無かったようです。


「何を仰られているのですか?情報収集は殿下の婚約者として恥をかかないよう、最新の情報を収集し、殿下のお役に立とうとしていただけですわ」


ここでも白を切ります。これで殿下が更に口を滑らせてくれると良いのですが…


「ふざけるな!父上が暗部を使って調査した結果、別の隣国を経由してアーク王国に情報を送っているのを確認したと聞いたぞ!

おまけに別の隣国に口止め料称として多額の金貨を流していたらしいな!我がブルポン王国の民として恥ずかしくないのか!」


…いやいや、暗部を使ってもこの程度しか調査できてないのですか。

話に出てきた別の隣国とは既に今後について詳細に決めていますがそこはバレなかったようです。ここは安心しました。


「今までのが事実と仮定して、このデビュタントの場でいきなり婚約破棄を突き付けてきた理由はどうしてですか?

本日はあくまでも多くの方々が成人を迎えたことを祝われる場。婚約破棄はこの場で言い広めることではありません」


ある程度情報は拾えたので最後に私個人の疑問を一つぶつけます。

言った通りここはデビュタントの場。出入口も使用人用のものを含めれば数か所あるホールです。私が逃げることを考えるならこの場で言うのはリスクがありすぎます。

王宮の奥の適当な部屋に通して逃走防止をしたタイミングで婚約破棄と追求を行うのが一番低リスクなはずです。


「決まっている!一刻も早く婚約破棄することで王家との繋がりを断ち切り、情報がこれ以上アーク王国に情報が流れることを阻止するためだ!」


…はい?


「あの…え?」


思わず素で変な言葉を漏らしてしまいました。隣のお兄様も思わず「このレベルで猪突猛進だったか」という顔をしているのをチラっと確認します


「父上と母上は何故か当分私に秘密にして極秘裏に婚約破棄を進めようとしていたがな。

私はたまたま聞こえてきた父上と母上の会話でお前らが裏切っていたことを知り、一刻も早く事態を好転させるためにお前に婚約破棄を突き付けたのだ!」


そう、この第二王子殿下は正義感は強いのですが、頭の回転が弱いのです。

国王陛下や王妃陛下、王太子殿下は思想を除けば最低限…いえ、他の国に見劣りしないレベルで上に立つ者としての頭はあります。

しかし第二王子殿下は考える頭が致命的に足りません。お兄様の思考通り猪突猛進とでも言うべきでしょうか。とにかくこれと考えたらその通りに突っ走ってしまうのです。

それでも他の王族の方々からしたら弟として可愛く、また駒としても使い道があったのでしょう。多少のトラブルには目を瞑り、王家派と貴族派表向きはどちらにも属さない中立派と目されたディタリー公爵家の長女である私と婚約させ、中立派の取り込みを図りました。

しかし私たちディタリー公爵家は中立派と王家派からは見られておりましたが、実際は貴族派。それも裏のドンとでも言うべき立場なのでした。

この婚約を好機とみたお父様は私にスパイを命じ、密かに情報を貴族派、そしてこれを支援するアーク王国の王家に流しておりました。

まあ私個人としてはこのまま第二王子殿下が自滅するのを不憫に思い、残念ながら中立的に見ても王家派が不利なこと、第二王子殿下だけでも貴族派に鞍替えした方が良いと伝えてまいりましたが


「貴族派の言う『貴族のみが人でありその他は家畜だ』という考え方は好かん。民にも望むように生きる権利はあると思う。

それに貴族派に鞍替えしたらジャンヌとは婚約解消ということになるし、そのまま生きても傀儡の王になる道しか残ってない。それは嫌だ」


と婚約解消後の私を慮るような顔をして言われてしまい、表向き中立派の私は何も言えなくなりました。


思考の海に沈んでいた私は再び目の前の第二王子殿下を見て


「ここまでバレていては何も言い訳もできませんね。遅くなって申し訳ございませんが婚約破棄、承りますわ」


と堂々と伝えました。


「そうか。分かってくれたようで嬉しい。だがこのまま貴公らディタリー公爵家の人間を外に出すわけにはいかないということも理解してくれるな?」


と覚悟を決めたような表情でお兄様に伝えてきました。

それにお兄様は微笑みを浮かべながら


「そうでしょうね。ここで私と妹を見逃したら王家の沽券に関わってくるでしょうな」


とどこか挑戦的な口調で語ります

それに第二王子殿下は少しムッとしたような表情となり


「衛兵、反逆罪の疑いがある二人を確保せよ!」


と遂に叫びました



……


………


「お、おいどうした?衛兵、早く二人を捕らえるのだ!!」


…………


……………


………………


しかしそれでも衛兵は動きません。

まあ当然です。既にブルポン王国軍は貴族派が掌握済みですから。

勿論軍の兵士は大多数が平民、つまり家畜です。しかし王城に勤務している衛兵は騎士…つまり騎士爵を持つ貴族なのです。オマケに大体は貴族の次男三男以降が騎士になっていますので思想は貴族派に近い者が多く、それ以外の者にも陞爵や金を約束したらあっという間に転向しました。お金って便利ですね


「どうしましたか殿下?私たちを捕まえるのではないのですか?」


可笑しそうに笑いながらお兄様はさらに挑発を重ねます。

…心の何処かがチクリと痛んだのは気のせいでしょうか?

そのお兄様の様子に焦りだした第二王子殿下は


「そ、それなら誰か、誰でもいいからディタリー公爵家の者を捕らえてくれ!」


と叫びました。

何人かの転ばせてない王家派貴族が動きましたがあっという間に貴族派貴族が取り押さえました。


「何故だ。どうしてこれだけの貴族がいるのに数人しか動かないのだ…」


第二王子殿下は驚愕していますね

仕方が無いので私が答え合わせをすることにします


「既に私たちディタリー公爵家含め、9割の貴族が貴族派に属しております。王都周辺の数家しか王家派は残っておりませんよ?」


かなり絶望する言葉だと思いますが…

果たして第二王子殿下は顔色が真っ青を通り越して土気色になりガックリと床に膝をつけました


「きゅ、9割も貴族派に転向していたのか。何故だ、何故なのだ…」


「それはあなた方王家が一番理解できるのでは?

民に権利を与え議会を設立させて政治に参加させるなど、我々貴族の存在意義が失われ没落してしまいますからな」


呆れながらお兄様が冷酷な視線を第二王子殿下に向けます


「し、しかし既に貴族のみの政治は行き詰まりを見せ始めているではないか。このままでは貴族だの民だの言っている間に国が滅んでしまうと父上は仰っていた…」


「それは民をもっと締め付ければ住む話でしょう。他国と比べても我が国の民は厚遇されています。もっと税を取り、労役を課せば我が国は安泰となりましょう」


実は我がブルポン王国、民への税は他国と比べると低めに設定されております。また、アーク王国で見られる公共事業への無償での労役などもなく、賃金が支払われています。

税を高くし、無償での労役を課せば現在経済的に行き詰っている我が国はすぐ他国に追い付く。というのが貴族派の主張です。

対して王家の主張は一部の国で成功した事例を鑑みて議会を設置し、民にも政治への参加をよびかける、という民びいきの典型例みたいな政策を取ろうとしています。

このような愚策に多数の貴族が遂に愛想を尽かし、秘密裏にアーク王国と繋がり自らの生き残りを図っているというのが現状でした


「民びいきも結構ですが、民が金を生み出せば我が国はすぐ復活するのに遠回りな政策を取ろうとすれば裏切られるのは当然では?」


床に沈み込んだ第二王子殿下にゴミを見るような視線を向けながらお兄様は言い放ちます

…第二王子殿下に追い打ちをかけるのはやめて欲しいのですがね


「それに今更ながら申し上げますが、王家は何故貴方に裏切りを伝えなかったと思いますか?」


「え…それは私の裏切りを警戒してのことだとばかり…」


狼狽えつつも第二王子殿下は答えます

これにお兄様はフンと鼻を鳴らしました


「まあ、それもあるでしょう。ですが大きな理由は貴方が猪突猛進の馬鹿だからですよ」


「わ、私が馬鹿だと…」


第二王子殿下は更に顔を強張らせ絶望の表情をします。


「今まで表向きの敬意を表すために誰も言ってこなかったのでしょうが…

そうです、貴方は馬鹿です。だから今回のようなバカげた騒動を起こすのですよ。

既に殆どの貴族が敵なのを理解していたので王家は慎重な対応をしようとしていたのでしょうが、貴方に知られたら大騒動を起こすと考えて知らせずにいたのでしょう。

そしてたまたま貴方が盗み聞きでもしたのか知ってしまい、予想通りの大騒動を起こしてしまった。

あーあ、これでブルポン王家は終わりですね。残念です」


お兄様の小馬鹿にしたような発言の意味を察知してしまったのか第二王子殿下は顔を床に向けたまま震えるばかりになりました。

たしかに今回の婚約破棄という騒動をお父様が見逃しになるはずがございません。

公爵家への横暴を大義名分として旗揚げを行うでしょう。そして既に味方が殆ど残ってない王家には抗うことは不可能です。恐らく王家は全員見せしめの為に処刑、本日の婚約破棄を知られた現状で味方になる貴族がいるとは思えませんが味方になった貴族も処刑となるでしょう。ここまで不利だと他国の救援も望めないはずです。

第二王子殿下が動かない中、ポツリ、ポツリと会場外に出ていく貴族が現れ始めました。衛兵は笑いを堪えつつ私たちと第二王子殿下の真ん中に立ち、第二王子殿下が怪しい行動をしないか目を光らせています。これで第二王子殿下が突然何かしら暴走してもすぐに取り押さえられますね。


「では殿下。我々もこれで失礼致します。次に会うのは裁判所か、処刑台か分かりませんがお元気で」


お兄様は第二王子殿下にそう言い放つと私をエスコートしてこの場から歩き出します。足音からして後ろに衛兵が付いてきているようですね。このまま護衛してくれるというならありがたい話です。

チラリと後ろを振り返ってみたら、第二王子殿下が顔を上げて私に何かを言おうとしているのが見えます。しかしかける言葉が思いつかないのか口を開けては閉じてを繰り返すばかりです。

ふと、私の頬を冷たい何かが伝うのを感じました。私は驚きの表情を作ったと思います。何故涙なんかが流れてくるのでしょうか?

そんなことに気付かないお兄様は機嫌よく言います


「これでジャンヌを縛る忌々しい第二王子はいない。ジャンヌ、お前の婚約者は恐らくアーク王家から送られてくるだろう。これでこの国はディタリー公爵家のものだ」


「…はい、理解しております」


この感情が何なのか知らない方がいいのでしょう。いずれにしても私は王妃として新しい体制になるこの国を導いていく義務があります。

余計な過去に縛られている時間などないのですから

縋るような目をしている第二王子殿下に振り返らないようにしつつ私は退場していくのでした

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