13
誰かの家のようである。
部屋の隅にうずくまる小さな女の子の姿が見えた。
「ひっく、ひっく…」
声を押し殺すようにし、震えながら泣いている。
近付いてみると、女の子の足には青や変色して紫になったあざがいくつも見える。
「だいじょうぶ?!」
駆け寄ってしゃがみこむと、女の子がびっくりしたような顔でこちらを見る。
「だ、れ?」
「私のことはいいから!このあざはどうしたの?」
女の子のスカートからのぞく足を見つめる。
女の子はおびえた様子で、あわてて足を隠す。
「ミーナ知らない。こ、これはなんでもないの」
ミーナといった女の子が首を振る。
「知らないことはないでしょう…」
あの数は明かに転んでできたものではない。
まるで誰かに殴られたような…
「まさかお父さんかお母さん?」
ビクリとミーナの肩が揺れる。
その反応に目を見開く。
そうだ、まだ5歳くらいの女の子の足に複数のあざがあって、親が気付かないわけがない。
「許せない…」
自分の子どもなのに。こんなに小さいのに。
夢でも見るほど、この子は日々追い詰められているのだ。
右手に杖、左手はこぶしを握り締め、立ち上がる。
現実に干渉はできない。しかしせめて夢だけでも、ミーナが安らげるようにしてあげたい。
「待って、何するの。お母さんにバレたら余計に…」
ミーナがおびえた声を出す。
どうやらミーナに暴力をふるっているのは母親のようである。
ミーナ自身も自分の失言に気付き、口元を手で覆う。
「大丈夫、私がなんとかするから」
震えるミーナの肩に手を置きうなずく。
依頼人以外の悪夢を取り払ったことはない。
掟で禁止されているからである。
だが迷いはなかった。
一刻もはやくミーナを救ってあげたいし、現実ではミーナがどこの誰かもわからないので、夢わたりを依頼してもらうことができない。
今、ここで悪夢を取り払う。
報酬を払わないのが、他の依頼人に対して不公平ということなら、ミーナの分は自分のお小遣いで補おう。
何にせよ、この状況を見て放っておけるわけがなかった。
「じっとしててね」
フード越しだが、ミーナに微笑みかけ、杖を両手でしっかりと握り直す。
そして思いっきり床に突き刺す。
「きゅう!」
マリムゥが抗議の声をあげる。
「まぁまぁ大目に見てよ」
呪文を唱えようと口を開いた時だった。
「あなた、何しているの!」
甲高い女の声が聞こえ、部屋の入り口に目をやる。
そこにはおびえつつも、敵意むき出しの目でこちらを睨んでいる女がひとり立っていた。
「お母さん!」
ミーナが呼びかける。
この人がミーナを傷付けている張本人。
女の方に向き直ると、彼女は自分を呼ぶミーナのことは見向きもせず、台所に駆けていった。
子どもを置いて、逃げたのか。
ここはあくまでミーナの夢の中であり、母親本人なわけではないが、その行動に呆れる。
しかし、彼女がいても邪魔なだけなので、こちらとしては好都合である。
再び杖を握り直し、口を開く。
「彼の者に救いを。安らかな眠りを与えよ。アトラップ…」
「お姉ちゃん危ない!」
「えっ?」
呪文を最後まで唱える前に、ミーナの悲鳴が聞こえた。
後ろを振り返ると、先ほどの母親が包丁を握り締めて、立っていた。
「なっ!」
「私の家から出ていきなさい!ここは私の家なんだから!私以外の女なんか家に入れない。それなのにあの男…許さないんだから!」
錯乱し、私と関係のないことまで口走っている。
しかしこれはミーナの夢の登場人物としては自我を持ちすぎている。
まさか、この夢はミーナではなく、母親の?
混乱している私におかまいなく、彼女が包丁を握り締めたまま、突っ込んできた。




