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誰かの家のようである。

部屋の隅にうずくまる小さな女の子の姿が見えた。


「ひっく、ひっく…」


声を押し殺すようにし、震えながら泣いている。

近付いてみると、女の子の足には青や変色して紫になったあざがいくつも見える。


「だいじょうぶ?!」


駆け寄ってしゃがみこむと、女の子がびっくりしたような顔でこちらを見る。


「だ、れ?」

「私のことはいいから!このあざはどうしたの?」


女の子のスカートからのぞく足を見つめる。

女の子はおびえた様子で、あわてて足を隠す。


「ミーナ知らない。こ、これはなんでもないの」

ミーナといった女の子が首を振る。

「知らないことはないでしょう…」


あの数は明かに転んでできたものではない。

まるで誰かに殴られたような…


「まさかお父さんかお母さん?」


ビクリとミーナの肩が揺れる。

その反応に目を見開く。


そうだ、まだ5歳くらいの女の子の足に複数のあざがあって、親が気付かないわけがない。


「許せない…」


自分の子どもなのに。こんなに小さいのに。

夢でも見るほど、この子は日々追い詰められているのだ。


右手に杖、左手はこぶしを握り締め、立ち上がる。

現実に干渉はできない。しかしせめて夢だけでも、ミーナが安らげるようにしてあげたい。


「待って、何するの。お母さんにバレたら余計に…」


ミーナがおびえた声を出す。

どうやらミーナに暴力をふるっているのは母親のようである。

ミーナ自身も自分の失言に気付き、口元を手で覆う。


「大丈夫、私がなんとかするから」


震えるミーナの肩に手を置きうなずく。

依頼人以外の悪夢を取り払ったことはない。

掟で禁止されているからである。


だが迷いはなかった。

一刻もはやくミーナを救ってあげたいし、現実ではミーナがどこの誰かもわからないので、夢わたりを依頼してもらうことができない。

今、ここで悪夢を取り払う。


報酬を払わないのが、他の依頼人に対して不公平ということなら、ミーナの分は自分のお小遣いで補おう。

何にせよ、この状況を見て放っておけるわけがなかった。


「じっとしててね」


フード越しだが、ミーナに微笑みかけ、杖を両手でしっかりと握り直す。

そして思いっきり床に突き刺す。


「きゅう!」


マリムゥが抗議の声をあげる。


「まぁまぁ大目に見てよ」


呪文を唱えようと口を開いた時だった。


「あなた、何しているの!」


甲高い女の声が聞こえ、部屋の入り口に目をやる。

そこにはおびえつつも、敵意むき出しの目でこちらを睨んでいる女がひとり立っていた。


「お母さん!」


ミーナが呼びかける。

この人がミーナを傷付けている張本人。


女の方に向き直ると、彼女は自分を呼ぶミーナのことは見向きもせず、台所に駆けていった。

子どもを置いて、逃げたのか。


ここはあくまでミーナの夢の中であり、母親本人なわけではないが、その行動に呆れる。

しかし、彼女がいても邪魔なだけなので、こちらとしては好都合である。


再び杖を握り直し、口を開く。


「彼の者に救いを。安らかな眠りを与えよ。アトラップ…」

「お姉ちゃん危ない!」

「えっ?」


呪文を最後まで唱える前に、ミーナの悲鳴が聞こえた。

後ろを振り返ると、先ほどの母親が包丁を握り締めて、立っていた。


「なっ!」

「私の家から出ていきなさい!ここは私の家なんだから!私以外の女なんか家に入れない。それなのにあの男…許さないんだから!」


錯乱し、私と関係のないことまで口走っている。

しかしこれはミーナの夢の登場人物としては自我を持ちすぎている。


まさか、この夢はミーナではなく、母親の?


混乱している私におかまいなく、彼女が包丁を握り締めたまま、突っ込んできた。


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