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廊下の片隅。
向かい合ったアイザックが思い出すように目を細める。
「俺さ、あのあと何度か廊下ですれ違ったレアリゼさんに声かけようと思ったんだ」
「えっ?」
驚いて顔を見ると、てれくさそうに笑う。
どうして私と話そうと…
胸が高鳴る。
私とまた話したいと思ってくれていたのだろうか。
「お礼を言いたくて…だけどあの時の俺は熱で朦朧としていて、レアリゼさんだったのか自信がなくて」
期待に満ちた私にアイザックはあっさり言う。
「あ、そうだよね…」
少しがっかりしてしまう。
保健室での出来事を覚えていてくれたのはうれしいが、私だとしっかり認識されていたわけではないのか。
名前も名乗っていないのだから当たり前である。
ましてやあの時のアイザックは高熱でたしかに意識がはっきりしていなかっただろう。
「でもレアリゼさんと目合わないし、レアリゼさんじゃなかったのかと思って。もちろん忘れているか、そもそも名乗ってもいないから、俺のこと知らないという可能性もあるなと。それで声かけられなくて」
違う、目はたしかに合っていないけど、それは私が恥ずかしかったからである。
いつも彼が横を通り過ぎるときは意識していたし、通り過ぎた後、背中を見つめていた。
「せっかくクラスも一緒になったし、また話そう」
アイザックはいつもの太陽のような笑みを浮かべると、去っていく。
「あっ…」
言えなかった。夢のことは何一つ。
追いかけるか迷ったが、彼も用事があって廊下に出たのだろうし、これ以上追いかけることは不自然である。
やはり私が直接言うことは難しい。
アイザックを目の前にすると、どうしてか胸がいっぱいになってうまく言葉が出てこないし。
何か別の方法を考えないと。
ため息をつきながら、廊下の窓に目をやると下駄箱が見えた。
「そうだ」
下駄箱を見て、ひとつの案が思い浮かんだ。
これなら私でもできる。
そうと決まれば準備しなければ。
今来た道を引き返し、教室にわくわくしながら戻った。
放課後、緊張しながら下駄箱に向かう。
授業中に先生にばれないようにせっせっと準備したものを、休み時間に入れたのだ。
アイザックの靴箱に。
友人たちと帰ろうと話しながら、靴箱の扉を開くアイザックの姿をよく見るために、何気なさを装って自分の靴箱に近づく。
「なんだこれ」
靴箱を開けたアイザックが声を漏らす。
ドキリとしながらできるだけ自分の動作をゆっくりして、彼の様子に全神経を集中させる。
「おっ、ラブレターか、アイザック!」
からかうように男子たちが囲んで、アイザックがつかんでいる紙を覗き込む。
その紙こそ、まさしく私が授業中に作り上げた夢わたりを宣伝するチラシである。
「あなたの悪夢取り払います?」
男子たちが首をかしげる。
どうか、この言葉に反応して。
いろいろ考えた結果、ストレートに悪夢をなくせる旨を伝えようとして考えたキャッチフレーズである。
祈るようにして、様子をうかがっていると男子の一人が声をあげた。
「えっ、こわ。これアイザックを好きすぎるあまり、あやしげな方法で近づこうとしているんじゃね」
ええ?!そうなるの。
思わず、間に入り込みたくなるが、私が書いたとばれるわけにはいかない。
ぐっとこらえて靴を履く。
「だよな。おまじないこえて呪術的何かでお前の心を手に入れようとしているのかも」
男子たちはそう結論付けると、アイザックの手からチラシを抜き去り、くしゃくしゃと丸めた。
「あっ」
それを見て声が漏れる。
慌てて口を押えるが、男子たちの視線は私に集中していた。
「うわっ、レアリゼさん!俺らポイ捨てしようとしたわけじゃないから」
「そうそう、そんな悪いことしないし。えっとまた明日!」
男子たちの方が慌てたように顔を真っ赤にして、去っていく。
いや、そんなことを注意しようとしたんじゃなくて。
アイザックはこちらを見て、なにか言いかけたが、男子たちに引きずられていく。
「そりゃ自分の靴箱だけに入っていたら不気味か」
己の作戦の稚拙さにため息を吐き出した。




