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第51話 魔導銃技師

「おい、このクソ店主! お前の店の商品はどうなっていやがるんだ! まったく通用しなかったぞ!?」


「どうもしない。ただの実力不足だ。鍛え直してきな。あぁ、道具の方ではなくお前の腕と頭をな」


「ふざけるんじゃねぇ! こちとら安くない金額を支払っているんだぞ!? 客だぞ!」

 

 王都東の工房区。お店同士の境目が見えないほど賑わう表通りから、外れの外れ隅っこの方。

 舗装されていない砂利道の奥の、木々に隠された小さな寂れたお店の前で男の人が叫んでいる。

 

 人混みから弾き出されていた僕たちは、いつの間にか剣呑な空気に巻き込まれてしまった。


「この詐欺師め、金を返しやがれ!」


「己の才能のなさをくたばる前に気付けてよかったな。いい勉強代になったんじゃないか」


「てめぇぶっ殺してやる!!」


 冒険者の恰好をした男の人が物騒な言葉を吐き散らかす。

 脅されている方は腕を組んだまま、冷たい視線を維持していた。


「うるさいゴミが湧いていますね。はぁ……これだから人間は品のない」

 

 ライブラさんがポケットの中でやれやれと首を振る。

 それを言うなら蠅じゃないのかな。あと僕もその人間だよ。


「あのお店の人大丈夫かな……」


 相手は武器を所持している冒険者だ。このままだと流血沙汰になるかも。


「あるじさま、喧嘩を止めにいきましょう!」


「はいです。領地の治安を守るのも王女の剣の役目です!」


「エルエルにブリちゃんも、厄介事に首を突っ込む必要は――っと、行ってしまいましたか……」


「二人とも優しい子だからね。困っている人を見過ごせないんだよ」


「周囲は……見て見ぬ振りをする人間ばかりですが、ロロアさんも落ち着いていますね」


「魔塔で色々経験したから。今さら地上の揉め事くらいでは動じないよ」


 僕もゆっくりとあとを追いかける。

 既に二人が介入していて男の態度が激しくなっていた。


「なにも知らないガキが大人の話に入ってくるんじゃねぇよ!」


 魔塔都市以外でも冒険者として活動している人たちはいる。

 主な仕事は要人警護や盗賊退治などで、地上には魔物が存在しないから。

 所謂何でも屋みたいなところがある。日銭を稼ぐことに重点を置き過ぎて冒険者としての本分を見失い、王都に流れつくのは実力がない人ばかりだと。以前ケルファさんから教わった。


「その子供の前で、大人がみっともなく騒ぐのはどうかと思いますし。これ以上は通報されますよ」


 僕が間に入る。さすがに男も自分が不利であるという自覚があったのだろう。


「っち、このクソ店主が不良品を掴ませやがったんだよ! 金貨三枚でゴミみたいな銃をな!」


 男は手にしていた魔導銃を見せつけるように地面へ叩きつけた。


「なにをするんですか! そんな事をしたら壊れてしまいます!」


「があっ」


 怒ったエルの体当たりを受けて男は同じように地面を転がる。

 トロンと仲が良いエルにとって、友達を傷付けられたに等しい蛮行なんだ。


「道具への八つ当たりはやめてください」


「ぐうっ……先に手を出しておいて、その言い草はなんなんだよ!?」


「最初に手を出したのは貴方の方です。この子が、とても傷付いている」

 

 僕は叩きつけられた魔導銃を拾い確認する。

 外装に少し傷が付いているけど中身は無事だ。

 炎と氷、複合属性のものだ。☆は付いていない。

 

 希少な魔導銃の中では、比較的安価で手に入る物なんだろう。

 ☆のない【擬人化】適応外とはいえ、気分のいいものじゃない。


「頭がおかしいんじゃねぁか? ただの道具だろうが!」


「そのような認識だから、貴様のような男は道具に嫌われ、底辺から抜け出せないんだ」


 店主さんが男に向かって唾を吐きかける。


「てめぇ!?」


 激昂した男が反射的に剣を振り抜こうとした。


「これ以上陛下が治める土地で騒ぎを起こすようであれば、王立騎士を呼びますですよ!」


 ストブリはガーベラ王国の紋章が入った短剣を見せる。

 大賢者ブリュンヒルデが使役していた馬を象った紋章だ。


「げっ、ガーベラ王家の関係者かよ。くそっ覚えていやがれ!」


 国を相手に個人が喧嘩を売れるはずもなく、男は一目散に逃げ去っていく。

 

「子供たち、面倒を掛けたな」


 ずっと腕組みの姿勢を保っていた店主さんが、ようやく僕たちに反応する。


「偶然通りがかっただけなので。お返しします。ここ、傷付いているので治療してあげてください」


 置いていかれた魔導銃を手渡すと、石造のような店主さんの眉が動いた。


「……治療か。お前は、道具をまるで人間のように扱うんだな」


「それっておかしいですか?」


「名うての職人の中には自分の作品を子供のように扱う者はいるが、ただの客がそういう認識でいるのは珍しい。お前は、どうやら道具に好かれる人間のようだな」


 店主さんの評価を聞いて、エルとストブリが嬉しそうにしている。

 【擬人化】の有無に関わらず、道具は大切に扱うべきものだと思うけど。


(ロロアさんが自然になされている事を、できない人間の方が多数派なのですよ)


 なるほど。そして目の前の人は少数派という事かな。


「それがお前たちの魔導銃か。どうやら、魔導銃技師をお探しのようだな?」


 エルの両手に握られたトロンを見て、僕たちの目的を察したらしい。


「お前たちのような客なら歓迎だ。ほら、さっさと入れ。職人の時間は貴重なんだ」


「待ってくださいです。私たちは王都でも一番人気の職人さんに――」


「あんな人気だけが取り柄の偽物技師を紹介するってか? 悪い事は言わない。やめておけ」


 周囲のライバル店舗を人気だけと一蹴した。すごい自信家だ。

 

(この辺りだけ露骨に人が少ない理由が察せますね……)


「せっかくだから寄っていこうよ。商品は嘘をつかないからね」


「はっ、可愛げのない子供だな。その恐れを知らない物言い、気に入ったぜ」


 ◇


 店主さん――イーグルさんに案内されて小さな商品棚を眺める。

 

 本人も自信があるだけに、並べられたパーツの質は確かだ。

 若干嗜好に偏りがあるけど。珍しい単属性パーツが多かった。


 お店に僕たち以外のお客さんがいないのも頷ける。

 まず複合属性に対応したパーツじゃないと需要が少ない。


 商売というより趣味でやっている感じが職人のお店らしさがある。


「最近多いんだよ。自分の不甲斐なさを、道具の責任に擦り付ける馬鹿野郎が」


「さっきのトラブルもなにが原因だったのです?」


「最初に予算を提示されて、俺は実力に合った魔導銃を勧めてやっただけだ。それが奴の想定していたものより安物だったくらいでキレやがった」


「自覚があるのでしたら、差額をお返しすれば穏便に済んだ話なのではないです?」


「嬢ちゃん、これは商売なんだぜ。両者が一度は納得して契約を交わしたんだ。あとから文句を言われる筋合いはないからな」


「今の話に違法性はないですけど、人として褒められた話ではないです……」


(自業自得ではないですか。とんだ迷惑人ですね)


 イーグルさんは性格にちょっと癖のある人みたいだ。


「っと、こんなくだらない長話はいいから、さっさと俺に魔導銃を渡しな」


「あの……あるじさま、どうしたら……」


 エルは大事な友人を託していいのかと戸惑っている。


「いいから貸してみろ。こっちは専門家だぞ、素人じゃないんだ壊しはしない」


 エルからトロンを受け取り、イーグルさんは机の引き出しから片眼鏡(モノクル)を取り出す。


「ほぉ、かなりの年代物だな。市場では価値が付きにくいだろうが、愛好家なら欲しがる奴は多そうだ。こんな骨董品をどこで手に入れたんだ?」


「【星渡りの塔】で、先人の冒険者から。意志を受け継ぎました」


 あまり褒められた行為じゃないけど。一応、認められてはいる。

 魔塔は冒険者が命を懸ける場所だ。多少の倫理観は無視されている。


 死んだ者より生きている者が何事にも優先され。

 残された装備は誰の者でもなくなったという扱いに。


 このルールはあくまで魔塔内での話。もちろん地上では許されない。


「意志を受け継いだか。故人に確かめた訳でもないのに堂々と言うんだな。普通は多少なりとも罪悪感を抱くものだが」


 それはトロン本人が僕を認めてくれているから。

 

「まっ、俺は冒険者ではないから、その辺りの都合はどうでもいい」


 イーグルさんはメモに走り書きをしていく。


「雷属性はその攻撃性から素体となるパーツには頑丈さを求められる。それが単属性となれば尚更。故に拡張性を犠牲にするものだが、コイツには既に何度も改造を施した跡が残っている。ふん、これは素人の扱い方だな。俺ならもっと上手くやれる。安定性と燃費を犠牲に魔力伝導率を引き上げて、威力を底上げするか。こういうのはな、中途半端に両立させるより特化させた方がいいんだよ」


 楽しそうに口元を緩まし、イーグルさんは様々なパーツを取り出していく。


「おい、ロロアと言ったか。コイツを俺にしばらく預けろ。明日には完璧に仕上げてやる」


「ちょっと待ってくださいです。話が早すぎますです! まずは他の技師さんにも相談してから……」


「言っておくが、この国で俺以上の魔導銃技師はいないぜ? 特に単属性に関しては他所は素人ばかりだ」


「ストブリ、今の話は本当?」


「彼は確かに腕はありますです。数年前までは国のお抱え技師であったはずですから。ですが見ての通り性格に難があり、軍の武器に勝手な改造を施して、しかも他の技師との協調性もなく。追い出された経緯がありますです」


「職業病だ。その人間にあった武器を用意し調整するのが俺たち技師の役目。軍隊だからってわざわざ性能を統一させなきゃ許されないなんて、初めから俺ではなく他の素人にやらせろって話だ」


「こんな感じです。彼は融通の利かない根っからの職人気質なのです」


(頭は固いですが、言っている事には納得できる部分がありますね)


 まぁ軍隊には個性を求められないから。こだわりが強い職人と相性が悪そうだし。


「道具は素直だ。真摯に向き合えば同じだけ返してくれる。人間を相手するより気が楽だな」


 カウンターに長い筒のようなパーツが置かれる。


「単属性魔導銃用のロングバレルだ。パーツ自体も貴重品だが、適合する本体が一般流通しておらず。一部の愛好家くらいにしか需要がなかった品だ。俺も武器を扱う商売人、客は選ばさせてもらう。特別に金貨四十枚でお前に譲ってやる。取り付けも俺が責任を持って行おう」


「金貨四十枚です!? ぼったくりです、そんなの普通の人は払えないです!」


 最近は報酬を貰い過ぎて金銭感覚が狂いがちだけど。

 金貨一枚でもそれなりの装備が買えるくらいには価値がある。


 四十枚ともなると、大都市に一軒家を建ててお釣りが出るくらい。


「王族関係者なら安い買い物だろ。命を預ける大切な武器だぜ。出し惜しみはお互いなしだ」


 いつの間にか相手のペースで話が進んでいる。商売上手だ。

 ここで契約を断れば、僕は冒険者としての目利きを疑われるだろう。 

 

 何故なら彼の腕前は本物で、それは商品を見ていてもわかる。

 あのライブラさんですら、実力に関しては疑っていないのだから。


 強化パーツは銃宝珠と違い、取り付けに失敗すれば本体も壊れかねない。

 未だ解析されていない未知の技術を扱うんだ。専門家だろうと確実性はない。

 

「創造主様、どうされますです? 他にも選択肢はたくさんありますです」


 他のお店で補助パーツを買った方が選択肢としては安全で利口だけど。

 そんな逃げの姿勢でいいのだろうか。これからだって魔塔に挑戦するんだ。


 彼の言う通り、命を預ける武器には常に最高の状態であって欲しい。


「四十枚は流石に手持ちにはないけど。今は出せて二十枚かな」


 それも前回の探索報酬ほぼすべてを使い切る。

 フォルネウスの魔石分はまだ貰えていないけど。


「だったら前金で二十枚、残り一週間以内に手数料込みで三十枚。それで手を打とう」


「十枚増えたです! 横暴です!」


 僕は袋に入った金貨を二十枚、カウンターに並べた。


「これだけの大金を支払うんです、最高の仕上がりで返してください。冒険者が命を預ける武器を手放すのだから。当然、貴方も命を懸ける義務があります。ちなみに僕は本気で言っていますよ」


 今日会ったばかりの他人に仲間の身体を委ねるんだ。

 決して失敗は許されないと。強い視線で相手に訴えかける。


「道具に好かれる人間は面構えからして違うな。……技師の誇りにかけて。お前を満足させてやる」


 そう言って、イーグルさんはお店を閉めて工房の方に入っていった。

 僕たちも邪魔にならないよう外に出る。これで僕の王都での用事が一つ済んだ。


「あるじさま……とろんさん、大丈夫ですか?」


「あの人の腕は間違いないよ。いずれ誰かに託す必要があったんだ。僕は自分の判断を信じる」


 素人の僕ではトロンの不調も見抜けないから。

 古い単属性魔導銃を見れる人が他に居るとも思えない。


「ロロアさんの問いかけにも真っ向から返していましたし。性格はともかく、職人としての情熱は私様も感じました。あの者には文字通り命を懸けていただきましょう」


 人間嫌いなライブラさんでも、職人に対しては特別みたいで。

 あとは明日を待つだけだ。高い買い物だったけど後悔はしていない。

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