第50話 観光
豪華絢爛な馬車での長くも快適な旅を済ませて。
ガーベラ王国の王都であるコーレリアに到着する。
魔塔都市と比べると、落ち着きのある長閑な雰囲気だ。
優雅なひと時を過ごす住人たちを横目にしながら道なりに進む。
石造りの高級住宅街に入ると。貴族のような人たちが。
自分の恰好と比べて、場違いのような居心地の悪さを感じる。
先頭を歩いていたストブリが、すぐ城が見える建物の前で止まる。
「ガーベラ王家御用達の宿泊施設です。みなさまを王宮へご案内するのは二日後になりますので。それまでの間、こちらで長旅の疲れを癒してくださいです! 御用がありましたら、私や近くの者になんなりとお申し付けくださいです!」
ストブリとその後ろで数十人の使用人の方が頭を下げる。
その圧巻の光景に僕は言葉も出せずにいた。すごい厚待遇だ。
案内された宿は、入口から首を真上に傾けてようやく天井が見える高さ。
白く光り輝く石畳の通路に、豪勢なシャンデリア。遥か先まで伸びる庭園。
「あひぃ……照明が眩しすぎて私めは溶けてしまいそうです。こんなの……落ち着かないよぉ、暗闇どこぉ」
フードを深く被り隅っこに避難するコクエン。
僕も同意見。庶民の身体には刺激が強すぎるよ。
「きらきらです! あるじさま、噴水もありますよ! あとで泳いでいいですか!? とろんさんお魚さんが泳いでますよ!」
「……ん、おいし?」
「あったべちゃだめですよ~!」
エルが元気にあちこち走り回り、眠そうにしているトロンを連れ回していた。
「ふむ、私様の王を本気でもてなそうとする気概は感じます。しかし、果たして見えない部分まで誠意が行き届いていますかね? 私様のチェックは厳しいですよ!」
ライブラさんがそう言いつつ、指で埃がないか念入りに確かめている。
「エルもトロンも勝手に遠くにいかない! 迷子になるわよ」
「はーい」
「……うん」
「コクエンも、影が必要なら私かロロアの背中にくっついていなさい」
「ひゃいっ、ご、ご主人様のお背中に……わ、私めが……あ、汗とか大丈夫かな……臭わないかな」
「あるじさま! どーん!」
後ろから飛びついてきたエルが――巻き込まれたコクエンが僕とくっつく。
「ふぎゅうぅぅぅぅ」
鼻血を流しながらコクエンは気を失った。口から黒い煙がぷかぷかと浮かんでいる。
エルが癒しの水を振りかける。その間トロンは僕の肩に顎を乗せてぼーっとしていた。
「もう……大人しくできないの? こういう場で問題を起こせばロロアが責任を取るのよ」
アイギスが保護者としてこの場を取り仕切る。
「むむっ、これは――良い仕事です。悔しいですがケチのつけようがありません!」
「いつまで偉そうに粗探ししてるのよ変態冷血無粋失礼妖精! 王都の中心でロロアに恥をかかせるつもり!?」
「あだだだだだ、つねらないでくださいっ妖精虐待反対!!」
ストブリは二人のいつものじゃれ合い? を微笑ましそうに眺めていた。
「当然です! 国王様は創造主様にとても感謝されていますです。ガーベラ王国は長らく国を代表する優秀な冒険者を探していました。他国の英傑に引けを取らない、その名を歴史に刻むに相応しい存在を。それに加えてレイリアの恩人様ですから。――創造主様に決して無礼がないようにと、厳しく命じられていますです」
レイリアは自分の殻を破り王女としての自覚が芽生えたらしい。
今まで自分を冷遇してきた父親に激しく言い返し。正式な謝罪を求め。
【王女の激励】を利用しようとした兄弟には毅然とした態度で向き合った。
ストブリが嬉しそうに彼女の奮闘ぶりを伝えてくれた。
王宮内でも味方を作り、自分一人の足で歩きだしたのだと。
「あの人間不信のお姫様がねぇ……急成長の理由は間違いなくロロアへの――」
「アイちゃん、それ以上はいけません。私様は断じて認めませんからねっ!」
ライブラさんとアイギスが、じっと僕を見つめてくる。
「どうしたの?」
「気にしないで。自覚を持たれると複雑だし、隣の妖精がうるさいし」
「くすっ、立ち話もここまでにしまして、お部屋までご案内しますです!」
三階建て宿の最上階の一番広い一室に通される。
赤い絨毯の上には巨大なベッドが、コクエンを寝かせる。
窓からは街並みを一望できる。本当に王様になった気分だ。
「こちらの階層すべての部屋を貸切っていますです。自由に使ってくださいです」
「すごいすごーい」
「……とんでもないわね」
「他にお客さんの姿がないと思ったら、僕たちだけなんだ……」
一つの部屋だけで十分過ぎるくらいなのに、王族の人はお金の使い方がとにかく派手だ。
一通り設備の使い方の説明を受けて。ストブリ以外の使用人の方たちが持ち場に戻っていく。
「ロロア、私はコクエンと最新の装備を見て回る予定だけど。貴方はどうするの?」
「僕も用事があるけど。二人は珍しい組み合わせだね」
もそもそと目を覚ましたコクエンが、枕を盾にしながら答えてくれる。
「あ、あの、お爺ちゃ――ケルファに頼まれていまして。王都での流行を調査して欲しいと……懐刀なのに、ご主人様とご一緒できず申し訳ありません……!」
「ううん、自由行動だから好きにしてもいいんだよ。息抜きも大事」
「しくしく……寛大なお言葉。ありがとうございます」
「癒しの水――あれ? こくえんさんが鼻血を出していないです!?」
ギリギリのところで鼻水で止まっている。
お爺ちゃんか。あれからも仲良くしていて微笑ましいなぁ。
以前のコクエンなら、こうして自分の望みを優先する事もできなかった。
確かな心の成長が実感できる。
「王のお膝元だから犯罪に巻きこまれることはないと思いたいけど。私たちがついていなくて大丈夫かしら」
「創造主様には王女の剣である私がついていますから。そこはご安心をです!」
「エルととろんさんも忘れないでください!」
僕の右手をエルが、左手をストブリが握る。
二人とも小さいから年下の妹二人を連れているみたい。
トロンはさっきから僕にくっついたまま器用に眠っている。
「心強いとは思うけど、全員疑うことを知らないから別の意味で心配よね……悪い人間に騙されないかしら」
アイギスがずっと保護者目線で僕たちを見ていた。
「ふふん、そこで私様の出番ですよ。お子様たちの面倒はお任せあれ!」
「いや、貴女が一番の不安要素なんだけど? くれぐれもロロアの負担にならないようにね」
「なんですとー!?」
「心配しないで。僕が責任を持ってライブラさんの面倒を見るから」
「え……ロロアさん……? 私様が一番のお子様扱い……?」
◇
翌日、最高の目覚めと共に準備を整えて。
二手に分かれて僕たちは観光を楽しむことになった。
宿を出て真っ直ぐに賑やかな商業街を目指す。
「創造主様、どちらにご案内いたしましょうか!」
「まずは、魔導銃のパーツを販売しているお店を紹介して欲しいな」
「トロン様の強化をお望みなのです?」
「うん。僕たちの主力を担う子だからね。一度、専門家に見てもらいたいんだ」
魔導銃は訓練を受けていない人間でも簡単に取り扱える武器。
自前の武器を持つ冒険者の多い魔塔都市より、王都での取引が盛んになっている。
国防軍の中には魔導銃兵部隊も新設されるくらい。
つまりトロンの強化パーツを探すのにうってつけの場所。
トロンには事情を説明して一旦魔導銃の姿に戻ってもらっている。
「単属性の古い型だから、魔塔都市だと適合するパーツが少なくて困っていたんだ」
「なるほどです! それでしたらお勧めのお店がありますです!」
王都には魔導銃専門のお店が幾つかあるらしい。
これから案内してもらえるのは、その中で一番人気の所だそうだ。
「あるじさま、とろんさんのパーツは手に入りにくいのですか?」
「魔導銃は異世界の技術だから、未だ解明できていない機構が多くてね。パーツも魔塔で見つかったものを市場に回しているだけで、新規で開発、複製もできない。だからランクが低くても貴重品で値が張るんだ」
今でも研究は進められていて、多少の不備は直せるようになったけど。
大事な基礎部分が壊れると修復が困難になる繊細な武器に変わりはない。
「とろんさんは……繊細なのですね。もっともっと大切に扱います!」
「うん、そうだね」
エルはトロンをぎゅっと胸に抱きしめる。
人も、道具にだって寿命があるから。大切にしないとね。




