表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/118

第51話 魔導銃技師

「おい、このクソ店主! お前の店の商品はどうなっていやがるんだ! まったく通用しなかったぞ!?」


「どうもしない。ただのお前の実力不足だな。鍛え直してきな」


「ふざけるんじゃねぇ! こちとら大金を支払っているんだぞ!? ぶっ殺してやる!」

 

 人気店がずらりと並ぶ、工房区の隅っこの方。

 木々に隠れた小さな寂れたお店の前で男が叫んでいる。

 

 店主さんの胸倉を掴んで、物騒な言葉を吐き散らかす。

 脅されている方は腕を組んだまま、冷たい視線を維持していた。


「うるさいゴミが湧いていますね。はぁ、これだから人間は品のない」

 

 ライブラさんがポケットの中でやれやれと首を振る。

 それを言うなら蠅じゃないのかな。あと僕もその人間だよ。


「穏やかじゃないね。どうしたのかな?」


「あるじさま、店主さんがお困りのようです、助けに行きましょう!」


「はいです。領地の治安を守るのも王女の剣の役目です!」


「エルエルにブリちゃんも、自ら厄介事に首を出しては――っと、行ってしまいましたか……」


「二人ともいい子だからね。困っている人を見過ごせないんだよ」


「それで済ませるロロアさんの成長具合にも驚かされますが」


「魔塔で色々経験したから。今さら地上の揉め事くらいでは動じないよ」


 僕もゆっくりとあとを追いかける。

 既に二人が介入して男の態度が激しくなっていた。


「何も知らないガキが話に入ってくるんじゃねぇよ!」


 男は格好からして冒険者だ。魔塔都市以外でも活動している人はいる。

 主な仕事は要人警護や盗賊退治などで、地上には魔物が存在しないから。

 何でも屋みたいなところがある。あとは、あまり実力がない人が多い印象。


 魔塔都市での競争に敗れた人が、食い扶持を探して王都にやって来た感じかな。


「その子供の前で、大人がみっともなく騒ぐのはどうなんでしょうか?」


 僕が間に入る。こちら側の人数が多いからか男も大人しくなる。


「っち、このクソ店主が不良品を掴ませやがったんだよ!」


 男は手にしていた魔導銃を見せつけるように地面に叩きつけた。


「何をするんですか! そんな事をしたら壊れてしまいます!」


「があっ」


 エルの体当たりを受けて男は同じように地面を転がった。

 壊れたら直せないと知っているから、エルの怒りは相当だ。


「……まずは落ち着いて。道具への八つ当たりはやめてください」


「ぐうっ……先に手を出しておいて、その言い草はなんだよ!?」


「いいえ、手を出したのは貴方の方です。この子が、とても傷付いている」

 

 僕は叩きつけられた魔導銃を拾い確認する。

 外装に少し傷が付いているけど中身は無事だ。

 炎と氷、複合属性のものだ。☆は付いていない。

 

 高価な魔導銃の中では、安く手に入る物なんだろう。

 ☆のない【擬人化】適応外とはいえ、気分のいいものじゃない。


「頭がおかしいんじゃねぁか? 傷付いているってただの道具だろうが!」


「そのような認識だから、貴様のような男は道具に嫌われ、底辺を彷徨うんだ」


 店主さんが男に向かって唾を吐きかける。


「てめぇ!?」


 激情した男が剣を振り抜こうとする。


「これ以上国王陛下が治める土地で騒ぎを起こすようであれば、王立騎士を呼びますですよ!」


 ストブリはガーベラ王国の紋章が入った短剣を見せる。

 大賢者スフィーダが使役していた黒い狼を象った紋章だ。


「げっ、ガーベラ王家の関係者かよ。くそっ覚えていやがれ!」


 流石に国を相手に喧嘩は売れないようで、男は一目散に逃げ去っていく。

 

「そこの子供たち、面倒を掛けたな」


 ずっと腕組みの姿勢を保っていた店主さんが僕たちに反応する。


「偶然通りがかっただけなので。お返しします。ここ、傷付いているので直してあげてください」


 置いていかれた魔導銃を手渡すと、石造のような店主さんの眉が動いた。


「……直してあげてくださいか。お前は、道具をまるで人間のように扱うんだな」


「それっておかしいですか?」


「名うての職人の中には自分の作品を子供のように扱う者はいるが、ただの客がそういう認識でいるのは珍しい。お前は、どうやら道具に好かれる人間のようだな」


 店主さんの評価を聞いて、エルとストブリが嬉しそうにしている。

 【擬人化】の有無に関わらず、道具は大切に扱うべきものだと思うけど。


(ロロアさんが自然になされている事を、できない人間の方が大多数なのですよ)


 なるほど。そして目の前の人はその少数派という事かな。


「ソイツはお前たちの魔導銃か。どうやら、魔導銃技師をお探しのようだな?」


 エルの両手に握られたトロンを見て、僕たちの目的を察したらしい。


「お前たちのような客なら大歓迎だ。ほら、さっさと入れ。職人の時間は貴重なんだ」


「待ってくださいです。私たちはこの先にある有名な職人のお店に用が――」


「あんな人気だけしか取り柄の無い偽物技師を紹介するってか? 悪い事は言わない。やめておけ」


 周囲のライバル店舗を人気だけが取り柄で切り捨てるって、すごい自信家だ。

 

(この辺りだけで露骨に人が少ない理由が察せますね……)


「せっかくだからお邪魔してみようよ。商品は嘘をつかないからね」


「はっ、可愛げのない子供だな。その恐れを知らない物言い、気に入ったぜ」


 ◇


 店主さん――イーグルさんに案内されて小さな商品棚を眺める。

 

 本人も自信があるだけに、並べられたパーツの質は確かだ。

 若干嗜好に偏りがあるけど。珍しい単属性パーツが多かった。


 お店に僕たち以外のお客さんがいないのも頷ける。

 まず複合属性に対応したパーツじゃないと売れないから。


 商売じゃなく趣味でやっている感じが職人のお店らしさがある。


「最近多いんだよ。自分の不甲斐なさを、道具の責任に擦り付ける馬鹿野郎が」


「さっきのトラブルも何が原因だったのです?」


「最初に予算を提示されて、俺はソイツの実力にあった魔導銃を渡してやっただけだ。それが奴の想定していたものより安物だったくらいでキレやがった」


「安いと自覚があるのでしたら、差額をお返しすれば穏便に済んだ話なのではないです?」


「嬢ちゃん、これは商売なんだぜ。両者が一度は納得して契約を交わしたんだ。あとから文句を言われる筋合いはないからな」


「今の話に違法性はないですけど、人としては褒められた話ではないです……」


(自業自得ではないですか。とんだ迷惑人ですね)


 うーん。イーグルさんはちょっと癖のある人みたいだ。


「っと、こんなくだらない長話はいいから、さっさと俺に魔導銃を渡しな」


「え、あの……あるじさま、どうしたら……」


 エルは大事な友人を手放していいのか戸惑っている。


「いいから貸してみろ。こっちは専門家だぞ、素人じゃないんだ壊しはしない」


 エルからトロンを受け取り、イーグルさんは片眼鏡(モノクル)を付ける。


「ほぉ、かなりの年代物だな。それでいて動力部の劣化が少ない。市場では価値が付きにくいだろうが、愛好家なら欲しがる奴は多そうだ。こんな骨董品をどこで手に入れたんだ?」


「【星渡りの塔】で、先人の冒険者の遺体から。意志を受け継ぎました」


 あまり褒められた行為じゃないけど。一応、認められてはいる。

 魔塔は冒険者が命を懸ける場所だ。多少の倫理観は無視されている。


 死んだ者より生きている者が何事にも優先され。

 残された装備は誰の者でもなくなったという扱いに。


 このルールはあくまで魔塔内での話。もちろん地上では許されない。


「意志を受け継いだか。故人に確かめた訳でもないのに堂々と言うんだな。普通は多少なりとも罪悪感を抱くものだが」


 それはトロン本人が僕を認めてくれているとわかっているから。

 

「まっ、俺は冒険者ではないから、その辺りの都合はどうでもいい」


 イーグルさんはメモに走り書きをしていく。


「雷属性はその攻撃性から素体となるパーツには頑丈さを求められる。それが単属性となれば尚更。その為に拡張性は少ないとされている。コイツは既に何度も改造を施した跡が残っているが、ふん、これは素人の扱い方だな。俺ならもっと上手くやれる。安定性と燃費を犠牲に魔力伝導率を引き上げて、威力を底上げするか。こういうのはな、中途半端に両立させるより特化させた方がいいんだ」


 楽しそうに口元を緩まし、イーグルさんは様々なパーツを取り出していく。


「おい、ロロアと言ったか。コイツを俺にしばらく預けろ。明日までには完璧に仕上げてやる」


「ちょっと待ってくださいです。話が早すぎますです! まずは他の技師さんにも相談してから……」


「言っておくが、この国で俺以上の魔導銃技師はいないぜ? 特に単属性に関しては素人ばかりだ」


「ストブリ、今の話は本当?」


「彼は確かに腕はありますです。数年前までは国のお抱え技師であったはずですから。ですが見ての通り性格に難があり、軍の武器に勝手な改造を施して、しかも他の技師との協調性もなく。追い出された経緯がありますです」


「職業病だ。その人間にあった武器を用意し調整するのが俺たち技師の役目。軍隊だからってわざわざ性能を統一させなきゃ許されないなんて、初めから俺ではなく他の素人にやらせろって話だ」


「こんな感じです。彼は融通の利かない根っからの職人気質なのです」


(頭は固いですが、言っている事には納得できる部分はありますね)


 まぁ軍隊には個性を求められないから。職人と相性が悪そうだけど。


「道具は素直だ。真摯に向き合えば同じだけ返してくれる。人間を相手するより気が楽だな」


 カウンターに長い筒のようなパーツが置かれる。


「単属性魔導銃用のロングバレルだ。パーツ自体も貴重品だが、適合する本体が一般流通しておらず。一部の愛好家くらいにしか需要がなかった物だ。俺も武器を扱う商売人、客は選ばさせてもらう。特別に金貨四十枚でお前に譲ってやる。取り付けも俺が責任を持って行おう」


「金貨四十枚です!? そんなの普通の人は払えないです!」


 最近は報酬を貰い過ぎて金銭感覚が狂いがちだけど。

 金貨一枚でもそれなりの装備が買えるくらいには価値がある。


 四十枚ともなると、都市に一軒家を建ててお釣りが出るくらい。


「王族関係者なら安い買い物だろ。命を預ける大切な武器だぜ。出し惜しみはお互いなしだ」


 いつの間にか相手のペースで話が進んでいる。商売上手だ。

 ここで契約を断れば、僕は冒険者としての目利きを疑われるだろう。 

 

 何故なら彼の腕前は本物で、それは商品を見ていてもわかる。

 あのライブラさんですら、実力に関しては疑っていないのだから。


 強化パーツは銃宝珠と違い、取り付けに失敗すれば本体も壊れかねない。

 未だ解析されていない未知の技術を扱うんだ。専門家だろうと確実性はない。

 

「創造主様、どうされますです? 他にも選択肢はたくさんありますです」


 他のお店で補助パーツを買った方が選択肢としては安全で利口だけど。

 そんな逃げの姿勢でいいのだろうか。これからだって魔塔に挑戦するんだ。


 彼の言う通り、命を預ける武器には常に最高の状態であって欲しい。


「四十枚は流石に手持ちにはないけど。今は出せて二十枚かな」


 それも前回の探索報酬ほぼすべてを使い切る。

 フォルネウスの魔石分はまだ貰えていないけど。


「だったら前金で二十枚、残り一週間以内に手数料込みで三十枚。それで手を打とう」


「十枚増えたです! 横暴です!」


 僕は袋に入った金貨を二十枚、カウンターに並べた。


「これだけの大金を支払うんです、最高の仕上がりで返してください。冒険者が命を預ける武器を手放すのだから。当然、貴方も命を懸ける義務があります。ちなみに僕は本気で言っていますよ」


 今日会ったばかりの他人に仲間の身体を委ねるんだ。

 決して失敗は許さないと。強い視線で相手に訴えかける。


「道具に好かれる人間は面構えからして違うな。技師の誇りにかけて。お前を満足させてやると誓う」


 そう言って、イーグルさんはお店を閉めて工房の方に入っていった。

 僕たちも邪魔にならないよう外に出る。これで用事は済んだ。


「あるじさま……とろんさん、大丈夫ですかね?」


「あの人の腕は間違いないよ。いつかは誰かに託す必要があったんだ。僕は自分の判断を信じる」


 素人の僕ではトロンの不調も見抜けないから。

 古い単属性魔導銃を見れる人が他に居るとも思えない。


「ロロアさんの問いかけにも真っ向から返していましたし。性格はともかく、職人としての情熱は私様も感じました。あの者には文字通り命を懸けていただきましょう」


 人間嫌いなライブラさんでも、職人に対しては特別みたいで。

 あとは明日を待つだけだ。高い買い物だったけど後悔はしていない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ