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第50話 観光

 豪華な馬車での長くも快適な旅を済ませて。

 ガーベラ王国の王都であるコーレリアに到着する。


 魔塔都市と比べると、落ち着きのある長閑な雰囲気だ。

 優雅なひと時を過ごす住人たちを眺めながら道なりに進む。 


 そのまま高級住宅街に入ると。初めて見る貴族のような人たちが。

 自分の恰好と比べて、場違いのような居心地の悪さを感じる。

  

 先頭を歩いていたストブリが、近くに城が見える建物の前で止まる。

 

「ガーベラ王家御用達の宿泊施設です。王宮へご案内するのは二日後になりますので。それまでの間、こちらで長旅の疲れを癒してくださいです! 御用がありましたら、私や近くの者に何なりとお申し付けくださいです!」


 ストブリとその後ろで数十人の使用人の方が頭を下げる。

 その圧巻の光景に僕は何も言えずにいた。すごい厚待遇だ。


 そして案内された宿は、首を上にしてようやく天井が見える高さ。

 白く光り輝く石畳の通路に、豪勢なシャンデリア。遥か先まで伸びる庭園。


「あひぃ……眩しくて溶けてしまいそうです。こんなの落ち着かないよぉ」


 フードを深く被り怯えだすコクエン。

 僕も同意見。庶民の身体には合わない装飾だ。


「きらきらです! あるじさま、噴水もありますよ!」


 エルが疲れて魔導銃に戻ったトロンを握り飛び跳ねてる。


「ふむ、やりますね。私様の王を本気でもてなそうとする意欲は評価しましょう」


 ライブラさんがそう言いつつ、指で埃がないか念入りに確かめている。

 粗を探そうとしているんだろうけど、どう見ても清掃が行き届いている。


「当然です! 国王様は創造主様にとても感謝されていますです。ガーベラ王国は長らく優秀な冒険者を探していました。他国の英傑に引けを取らない存在を。それに加えてレイリアの恩人様ですから。――創造主様に決して無礼がないようにと、レイリアが周囲の者に厳しく命じていますです」


 王宮に戻ってから、レイリアは自分の殻を破り王女として行動した。

 僕たちと出会い、魔塔探索を経て。自信が付き、自覚が芽生えたらしい。


 今まで自分を冷遇してきた父親に激しく言い返し。正式な謝罪を求め。

 【王女の激励】を利用しようとした兄弟には毅然とした態度で向き合った。


 ストブリが嬉しそうに彼女の戦いぶりを伝えてくれた。

 王宮内でも味方を作り、自分一人の足で歩きだしたのだと。

 

「あの人間不信のお姫様がねぇ……急成長の理由は間違いなくロロアへの――」


「アイちゃん、それ以上はいけません! 私様は認めませんからねっ!」


「どうしたの?」


 ライブラさんとアイギスが、じっと僕を見つめてくる。


「何でもないわ。自覚を持たれると複雑だし、隣の妖精がうるさいし」 


「くすっ、立ち話もここまでにしまして、お部屋までご案内しますです」


 三階建て宿の最上階の一番広い一室に通される。

 赤い絨毯の上には巨大なベッドが、肌触りが素晴らしい。

 窓からは街並みを見下ろせる。本当に王様になった気分だ。

 

「こちらの階層すべての部屋を貸切っていますです。自由に使ってくださいです」


「……とんでもないわね。お姫様もやるじゃない」


「他にお客さんがいないと思ったら、僕たちだけなんだ。六人しかいないのに……」


 見える範囲で十部屋くらいはあったけど。

 王族の人はお金の使い方がとにかく派手だなぁ。

 

 一通り設備の使い方の説明を受けて。

 ストブリ以外の使用人の方たちが持ち場に戻っていく。


「ロロア、私はコクエンと最新の装備を見て回る予定だけど。貴方はどうするの?」


「一応、僕も用事があるけど。二人は珍しい組み合わせだね?」


「えと、お爺ちゃ――ケルファに頼まれていまして。王都での流行を調査して欲しいと。懐刀なのに、ご主人様とご一緒できず申し訳ありません……!」


「ううん、自由行動だから好きにしてもいいんだよ。お休みは必要だしね」


「しくしく……寛大なお言葉。ありがとうございます」


「癒しの水――あれ? こくえんさんが鼻血を出していないです!?」


 ギリギリのところで鼻水で止まっている。

 お爺ちゃんか。あれからも仲良くしていて微笑ましいなぁ。

 以前のコクエンなら、こうして自分の望みを優先する事もできなかった。


 心の成長が実感できる。


「創造主様にはこのストブリがついていますから。ご安心を」


「エルととろんさんも忘れないでください!」


 僕の右手をエルが、左手をストブリが握る。

 二人とも小さいから妹二人を連れているみたい。


「心強いとは思うけど、別の意味で心配よね……悪い人間に騙されないかしら」


 アイギスが保護者目線で僕たちを見ていた。


「ふふん、そこで私様の出番ですよ。お子様たちの面倒はお任せあれ!」


「いや、貴女が一番の不安要素なんだけど。くれぐれもロロアの負担にならないようにね」


「なんですとー!?」


「心配しないで。僕が責任を持ってライブラさんの面倒を見るから!」


「え……ロロアさん……? 私様が一番のお子様扱い……?」


「普通は逆であるべきなんだけど。まぁ今日だけ頑張ってね。明日は一緒に行動しましょう」


 ◇

 

 二手に分かれて僕たちは観光を楽しむことになった。

 高級宿を出て真っ直ぐに賑やかな商業街を目指す。


「どちらにご案内いたしましょうか!」 


「えっと、まずは魔導銃のパーツを売っているお店を紹介して欲しいな」


「トロン様の強化をお望みなのです?」


「うん。僕たちの主力を担う子だからね。一度、専門家に見てもらいたいんだ」


 魔導銃は訓練を受けていない人間でも簡単に扱える武器。

 冒険者の多い魔塔都市より王都での取引が盛んになっている。


 国防軍の中には魔導銃兵部隊も新設されるくらい。

 つまりトロンの強化パーツを探すのにうってつけの場所。


「単属性の古い型だから、魔塔都市だと適合するパーツが少なくて」


「なるほどです! それでしたらお勧めのお店がありますです!」


 王都には魔導銃専門のお店が幾つかあるらしい。 

 これから案内してくれるのはその中で一番有名な所だそうだ。


「あるじさま、とろんさんのパーツは手に入りにくいんですか?」


「魔導銃は異世界の技術だから、未だ解析できていない部分が多いんだ。パーツも魔塔で見つかったものを市場に回しているだけで、新規で開発、複製もできない。だからランクが低くても貴重品で値が張る」


 今でも研究は進められていて、多少の不備は直せるようになったけど。

 大事な基礎部分が壊れると修復不可能になる繊細な武器に変わりはない。


「とろんさんは繊細なんですね。もっともっと大切に扱います!」


「うん、そうだね」 


 エルは胸にぎゅっとトロンを抱きしめる。

 道具にだって寿命があるから。大切にしないと。

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