第49話 王都へ
「へぇ、あのコクエンが接客をねぇ。泣いて鼻血を出してる姿しか思い浮かばないけど」
「そこは愛嬌ということで。慣れない業務もいっぱい頑張っているよ」
あの祝賀会のあと、参加した冒険者たちが常連になっていて。
【白髭】は朝から賑わっていた。しばらくはお手伝いが必要みたい。
早朝からコクエンはケルファさんのお店を手伝いに行っている。
「面白そうね。一度様子を見にいってみようかしら――ってロロア、どうして私を見つめるの……?」
「お店の衣装、アイギスも似合いそうだなぁって。ヘラさんが用意した白のヒラヒラスカート」
長身でスタイルのいいアイギスなら何を着せても様になるだろうけど。
「ヒラヒラ……あ、あのね。私はマスターだけに見せる分には構わないけど、他人の為に着飾る予定はないわよ?」
「それなら、冷やかしに行くのはダメだよ。真剣に仕事をしている人の邪魔をするのはよくない」
「うっ、ごめんなさい。普通に怒られてしまったわ」
アイギスは反省して、朝食を作りに厨房に戻っていった。
「今日はお野菜をたくさん入れましょう!」
「いっぱい、たべる」
エルとトロンが地下から新鮮な食材を運んでくる。
今日はアイギスとエルが学んだ家事を披露してくれるらしい。
二人とも綺麗なエプロンをまとい、髪を結んで気合が入っている。
僕は何もしないで待っているように言われていた。
だけど気になる。大丈夫かな、怪我とかしないでね。
「ふーんふーん。ロロアは薄味が好きだったわよね。エル、刃物の扱いには気をつけなさいよ?」
「はーい!」
元気のいい返事と共にゴツンと鈍い音が。あぁ……痛そう。
「あいぎすさんごめんなさい、指が痺れます」
「不死身だから……刃の方がこぼれているわね」
包丁を一本台無しにするトラブルがありつつも。
鍋からは美味しそうな野菜スープの匂いが漂っている。
「ぐぅ……ますた、ごはん」
「もう少しだから我慢しようね?」
いつの間にか僕の膝に座ったトロンが身体を左右に揺らす。
身体が大きいから前が見えない。でも軽いので気にはならない。
エルが焼き立てパンの入ったバスケットを机に置いていく。
拠点にはパンを焼く石窯まであった。果実ジャムも用意された。
「せっかくのエルエルとアイちゃんの手料理を食べられないなんて可哀想に」
ライブラさんが机に座り専用の小型カップで水を飲んでいる。
「参謀の私様を置いてお爺さんを優先とは。コクエンちゃんの忠誠心を疑いますよ」
「お手伝いは今日で終わりのはずだから。ライブラさんも安心して」
「別にお腹を空かせていないかとか、そんな心配なんてしていません。つーん」
誰もそこまで言っていないのに。自分から白状してるよ。
準備が終わるまでの間に僕は【情報板】を取り出す。
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黒炎龍の短剣☆3.6
・炎牙
・黒炎陣
・龍威圧
・???
・???
・???
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新たに更新されたコクエンのレアリティ。
☆3.5から☆3.6に上昇している。数値は小さいけど大きな一歩。
「これで確信を持てたよ。ただ名声を集めるだけじゃ神話級には至れない」
段階的にストップが掛かり、そのつど心の成長も求められるんだ。
「私がいつまでも☆5.1止まりなのも、何か明確に足りない部分がある訳ね」
スープの入った鍋をそのまま机に置いて、アイギスとエルは席に着く。
「アイちゃんは自覚があるのではないですか? 素直じゃないところとか」
「くっ……まず変態冷血無粋妖精が☆6なのも、未だに納得いかないんだけど」
「ふふん♪ 私様、勝者の余裕です」
「☆1の端末の癖に……!」
ライブラさんは創造主が偉大な大賢者だから。まず前提がズルい。
「ぐぅ……はやく、はやく」
会話を続けている合間にもお腹を空かせたトロンが暴れる。
「はいはい。トロンは自分の席に戻ってから食べましょうね。ロロアが潰れてしまうでしょ?」
「わかった」
コクエンを除く全員が席に着いたのを確認して、朝食を食べ始める。
「ん、美味しい。優しい味だね。二人とも上手だよ」
「そ、そう? 元はお姫様の拠点だし、素材の品質が良かったのね」
あくまで自分の実力ではないと謙虚になっている。
「あいぎすさん、あるじさまの好きな物をずっと研究していたんですよ!」
「ちょ、ちょっとエル。そういうのは黙っておくものよ!」
頬を仄かに赤らめさせて、アイギスは誤魔化すようにパンを頬張った。
レイリアとの修行中に何度も好みを聞かれたから、バレバレだけど。
僕に喜んでもらおうとしていた事実が、それだけでお腹がいっぱいだ。
「うまうま」
トロンも夢中になって具沢山スープを食べている。
そんな様子をライブラさんは興味深そうに眺めていた。
「ロロアさん、法則性がある程度把握できた状況で改めて、一人特殊な子がいますね」
「うーん。そうだね。本人は自覚なさそうだけど」
「……ますた?」
注目されている事に気付いて。トロンは指を咥え僕を見つめている。
「今のところトロちゃんは順調に成長しています。その勢いも止まる事はありません」
「私たちの中で、特に感情の起伏がないように思うのだけど」
「でもとろんさんは、エルより先に☆3になっています!」
人見知りだけど感情豊かなコクエンとは別の意味で、
寡黙なトロンは、心の成長が難しい子だと思っていた。
「……ますた、たべていい?」
「うん、気にしないでたくさん食べて」
「うまうま」
膝に人形を置いて幸せそうに頬張っている。
我儘を聞いてみたら欲しいとおねだりされた物だ。
精神年齢は一番幼いけど、誰よりも純粋で成長が早い。
「まさか、このまま最初に神話級に到達するのはトロンとか言わないでしょうね……?」
「アイちゃん、油断していると背中を刺されますよ」
「くっ……私に何が足りないっていうのよ! 誰か教えなさいよ!!」
「まず、その怒りっぽいところがいけないのでは?」
◇
朝食を終えて、ゆったりとした時間を過ごす。
拠点は今日も賑やかで。だけどいつもの二人が抜けている。
レイリアとストブリは使命を終えて、王都に戻ってしまったんだ。
といっても今生の別れじゃない。すぐに再会する機会が訪れる予定。
「ところで、早く迎えは来ないのかしら? いい加減、人を待たせ過ぎじゃない?」
「王都から魔塔都市まで馬車で片道三日は掛かるから。もう少しだと思うけど」
僕たちはここ数日あまり出歩かないようにしている。
どうも国王陛下への謁見がほぼ確実という話になっていて。
いつ王都からの迎えが来てもいいように待機している状態だ。
正直、断ろうと考えていたけど。レイリアがとても喜んでいたので。
「あのお姫様、王都案内をしますと張り切っていたけど。そもそも自由に外を出歩けるのかしら?」
「正式に王家の一員として認められた訳だから。難しそうだよね」
ギルドから受け取った【星渡りの指輪】に触れる。
同じ物をレイリアも受け取り、指に身に付けているはずだ。
「それよりも問題なのは、何故ロロアさんが一国の王風情の召喚に応じなければいけないのかです! 寧ろ、向こうから首を垂れるべきではないのですかねっ! 不敬なっ!」
「それって重要な要素?」
「私様の王が格下扱いを受けているのですよ! この屈辱はデータに残しておきます! 痔になる呪いを置き土産にしましょう」
大前提、僕は王じゃないんだけど。
ライブラさんのいつもの冗談だと思いたい。
だけど念を入れて謁見の際は宿でお留守番してもらおう。
「王都では最新の武具が見られるのでしょう? 私に勝るものはあるのかしらね?」
「美味しいものもたくさんありそうです!」
「にんぎょう、おともだち、ほしい」
憤慨するライブラさんを無視してアイギスたちは観光を楽しみにしている。
これが普通の反応だ。僕も初めてだから楽しみ。通行手形が取れないんだよね。
「――創造主様! お迎えにあがりました!」
拠点のドアが開かれて、メイド服の少女がお辞儀をする。
外には豪華な馬車が待機していて、護衛の人たちが並んでいる。
「おかえりストブリ、君が案内してくれるんだね」
「はい、共に王都に向かいましょう! レイリアが待っているです!」




