第47話 親愛
「よぉ、ロロア。元気そうじゃないか! 聞いたぜ、あの後も大活躍だったらしいな!」
以前と同じ分厚い鎧を着込んだ男性が僕を招き入れてくれる。
「まさかキングオーガだけじゃなくフォルネウスまで倒しちゃうだなんて。お姉さん自分の事のように興奮しちゃった。今や王国中にロロアくんの名声が届いているけど。ファン一号の私からすれば、何を今さらって話よね」
優しい魔法士のお姉さんも。その他、懐かしい人たちが揃っていた。
街の片隅にある小さな魔法道具店【白髭】。
まだ真新しい店内には多くの冒険者たちがひしめき合う。
「あら、ククリ。残念だけどロロアさんのファン一号は私なのよ? 今回の祝賀会も私が責任者なんだから。不服があるなら追い出してもいいのよ? ふふっ」
「ちょっとヘラ。いくらあの子の担当だからってそれは職権乱用よ。エルフは狡賢いわね」
「おいおい、いい歳した大人が年下を奪い合うなって。狙うならこの俺にしとけ!」
「「黙りなさいトッポ」」
「ひぇっ。……ロロア、女ってこえぇよなぁ? お前も有名人だから今後は気を付けろよ……?」
「あははは、大丈夫ですよ」
既に僕の傍には怒ると怖い子がいるから。
突発的な祝賀会は、キングオーガ戦で共闘した人たちだけにとどまらず。
街中の僕に好意的な人たちが集まってきていた。百人を軽く超えている。
予算としてあらかじめヘラさんに金貨十枚を渡していたけど。
わざわざ出張酒場まで頼んで。店の前にはお酒が樽ごと積まれている。
複数の料理人が野外で調理した食べ物が次々テーブルに並べられて。
ささやかなお祝いを想像していた僕は、予想以上の規模に驚くしかない。
というか当初の予算を超えているはず。誰かが追加で支払ってくれたのかな。
「ごほんっ。今宵皆の者に集まってもらったのは他でもない。若くして優秀なロロア少年が【星渡りの塔】を制覇し、また五十年もの間、我々を天高くから見下ろしていたフォルネウスを地上に落とした。その名誉を讃え、祝う場として――――」
会場を貸してくださった、ケルファさんが代表して挨拶をしている。
「ケルファ、堅苦しい話はなしにしろよ! 怖い顔がいつも以上に強張っているぞ!」
「――やかましいわ! お主たちはこんな時でも真面目に話を聞いている少年を見習わんか!」
いえいえ、人が多すぎてただ緊張しているだけです。
茶々を入れられ、溜め息を付きながらケルファさんが僕の肩を掴む。
「すまない。私はどうもお呼びではないようなので、代わりに少年が適当に挨拶をしてくれ」
「え、ええ……」
用意された壇上にあがると、年上冒険者たちの表情がよく見える。
何故だろう頭が真っ白になった。魔物相手だとこうも緊張しないのに。
期待の眼差しを向けられる。ヘラさんが頑張ってと手を振っていた。
――な、何を話せばいいんだろうか。
僕みたいな若造が人生の先輩に偉そうに語るのも変だ。
「きょ、今日は僕からの奢りです! みなさん遠慮せず楽しんでいってください!」
傷が浅くて済むように、簡潔に終わらせた。
「よっしゃあ! 今日は死ぬほど飲むぞ! 無礼講だ!」
「わはははは。ロロアは爺さんより冒険者が何たるかをわかっている! 目の前に餌をぶら下げられて、待て、ができるほど俺たちはお利口じゃないんでな!」
反応を見る限り正解だったらしい。ほっと息を吐いて壇上を降りる。
「はぁ……どこにだしても恥ずかしい馬鹿者揃いだ」
額を押さえてやれやれとケルファさんがぼやく。
「まぁお祝いですから。無礼講ということで。楽しい雰囲気は僕も好きですし」
「それも本来、祝うのはこちら側のはずなんだが……」
僕の方を見て姿勢を正し、手のひらを差し出してくれる。
「改めて、【星渡りの塔】踏破おめでとう。君ならいずれ七魔塔制覇という前人未踏の偉業を成し遂げられるのではないかと、私は仄かに期待している。……私もまた、君に期待を掛け過ぎているのかもしれないな」
「いいえ。ご期待に沿えるよう頑張ります。応援してもらっているのですから。それくらいは」
「そうか。君はとても聡くて優しい子だな」
皺のある手のひらを握りながら。僕は褒めすぎですよと笑いかける。
ファンを公言してくれる、ヘラさんやククリさんには悪いけど。
やっぱり僕にとっては、ケルファさんの応援が一番励みになるかな。
◇
お店を貸切ってのお祝いは真夜中になっても続く。
寧ろここからが本番とばかりに、お酒の減りが早まっていく。
僕も水を持って色んな人たちと会話を交わした。
そういえば真面目に同業者と話す機会は少なかった。
そんな貴重な経験を噛み締めながら。
一人で来るのはもったいなかったなと思った。
エルたちは僕に遠慮して拠点で過ごしている。
僕が一人旅の最中に出会った人たちとの交流だから。
妖精さん付きだったけど、ライブラさんは人間嫌いだしね。
それでもケルファさんに一目会わせてあげたいと。
途中まではコクエンも一緒だった。今は姿を消している。
会場に辿り着くまでの間に、どこかに行ってしまったんだ。
「どうしたのロロアくん、誰かを探しているの?」
魔法士のお姉さん、ククリさんが話しかけてくる。
「その、僕の仲間にケルファさんをよく知る子がいて。会わせたいなと思ったんですけど」
「ああ……。あのお爺さんは気難しいので有名だから。彼の事を昔から知る人ほど顔を合わせ辛いのはあるかもね。その人も怖がっているんじゃないかしら」
「そうなんですか……?」
予想外の反応。コクエンもただ恥ずかしがってた訳じゃなかったんだ。
「どんな過激な人でも歳を取れば丸くなるものよ。昔も実力はあったけど、とにかく理想家で、すぐ怒るし口を開けば嫌味ばかりで。頭の固い冒険者らしいといえばそうなんだろうけど。人としてはあまり尊敬できる方ではなかったみたい」
「それで本人が反省した頃には、友人や、嫁さんにも逃げられていてな。自業自得とはいえ、年老いてからもずっと一人孤独で、あまりに可哀想だったから俺たちが代わりに馬鹿騒ぎして寂しさを紛らわしてやってる。爺さんには感謝して欲しいくらいだな! まったく優しくならねぇけど!」
会話にトッポさんも加わる。全員、偶然の出会いだったらしい。
歳も性格もバラバラなパーティだけど。そういう歴史があったんだ。
「ロロアくんは、きっと年齢的にもお孫さんのように見えるのね」
「まっ、老い先短い男の行き場のない親愛を、俺たちの代わりに受け止めてやってくれや」
二人に笑顔でそう伝えられて、僕はますますコクエンの事を考える。
きっとその親愛を向けられるべき相手は、彼女の方が相応しいと思うから。




