第22話 星渡りの塔へ
「今回は引き分けとしておいてあげる。次は容赦はしないわよ?」
「はいっ! アイギスの神盾さん! 良き勝負でした、ありがとうございましたです!」
アイギスとストブリも結果には納得したようで、決闘を握手で締める。
「これで序列は以前と変わらずですね。まず第一位がエルエルです」
「エルが一番です? わーい!」
「ええ、もちろんです。二位がアイちゃん、ブリちゃん。三位がトロちゃん」
「……ますた、ごはんほしい」
「ご飯はあとでね?」
エルは武具ではないし、そもそも不死身だから戦っても勝敗がつかない。
僕の服を引っ張るトロンは序列に興味がなさそうだし。順当な並びだと思う。
「ちょっと待ちなさい。ライブラはどうなのよ? そこをぼかされると先程の戦いの意味がなくなるわ!」
「そうです! もう一度勝負ですか!? 負けませんですよ!!」
アイギスとストブリが同時にライブラさんに詰め寄る。
国宝級の圧に対して、涼しげな表情でライブラさんは受け流す。
「私様は特別枠ですよ。なんせ神話級ですからね。お子様のお遊びに大人が本気になっては恥ずかしいでしょう?」
「ええっ!? ライブラ様は神話級様です? すごいです!」
疑う事を知らない純粋なストブリが驚いている。
「嘘に決まっているでしょ。変態妖精は☆1しかないただの端末だから」
「ぬっ、すっかり騙されましたです! 嘘つき妖精さんです!」
「みなさん私様を過小評価し過ぎでは……? むむむ、一度本気を見せてわからせますか……ですが、それではあまりに大人げなく――」
ライブラさんを中心に騒がしい集団を離れて、僕は一人佇むレイリアさんの所へ。
「ロロア様……申し訳ありませんでした。私の不注意で、危うく取り返しのつかない事に……」
「謝られる必要はありませんよ。二人にとって最善の結果になったと思いますから!」
一人飛びぬけて優秀だったアイギスに対等の相手が見つけたんだ。
あの場で変に決着が付くよりも、引き分けに終わらせた方が先がある。
大きな怪我もなく。終わりよければそれでいいんだ。僕はそう伝える。
「……はい」
僕の慰めも、あまり効果がなかったようで。
レイリアさんは、わかりやすく落ち込んでいた。
異界の神に与えられたユニークスキルに振り回される人生。
僕も同じ経験者だ。言葉一つで救われたら苦労はしないよね。
「レイリア、身体が汚れてしまいましたです。水浴びがしたいです!」
「ええ、わかりました。ラティアには有名な温泉があるの、これから一緒に入りましょう?」
「はい! 私がレイリアのお背中をお流ししますです!」
二人は僕たちにお礼を告げてから、地上世界へと戻っていく。
温泉か、いいな。庶民向けの温泉宿もあったはず。僕たちも入ろうかな。
「むむむ、温泉ですか! かつてない肌色データが私様を呼んでいる……!」
「そこに反応するな変態妖精。貴女は目立つから拠点でお留守番ね」
「そ、そんな!? 私様に汚れていろと申すのですか!?」
「僕と一緒で男湯にする?」
「あ、はい。それで構いません。一度じっくり、ねっとりとロロアさんのデータを記録しておきたかったので」
「いいんだ……ライブラさん節操ないね」
隠すところは隠さないと。変なところまで記録されそう。
「って認める訳ないでしょ!? ロロアのどこを記録するつもりよ!」
「おや、アイちゃん。私様に羞恥心はありませんよ? 知りたいなら答えて差し上げますが」
「黙りなさいっ。羽を毟り取るわよ!?」
「ズルいです! エルもあるじさまのお背中流したいです!」
「おんせん、おいしい?」
暴走するライブラさんを取り押さえ。結局、僕たちは拠点で水を浴びて済ませたのだった。
◇
「えっ、レイリアさんが【星渡りの塔】に!?」
後日、魔塔挑戦者としての心構えを学びにヘラさんの元を訪ねると。
どことなく暗い表情をさせた彼女から、そんな情報がもたらされる。
「ギルド側も危険だと何度もお引き留めはしたのですが……あくまで最終的な判断は冒険者の方に委ねていますので。個の意志を捻じ曲げるほどの過干渉は一職員では禁じられていますし」
「もちろん、ヘラさんを責めるつもりはありませんよ。自己責任ですし」
僕とレイリアさんが酒場で会話している姿をヘラさんも目撃していたようで。
知り合いとして、何とか彼女を助けてあげられないかと相談を持ち掛けられた。
「手続きをする際、レイリアさんはどんな様子でしたか?」
「どうも焦っていらっしゃるような感じで、私の忠告もあまり届いていませんでした」
「……やっぱり、昨日の一件を引きずっているんだ」
ガーベラ王家の仕来りで二十までに【星渡りの塔】を踏破しないといけない。
【宝剣ストームブリンガー】の【擬人化】を望んでまで、彼女は人生を賭けている。
僕も気持ちは理解できる。もう一人の自分に負けたくないという想いを。
レイリアさんは真面目過ぎるんだ。そこは通過点であって終着点じゃない。
このままでは彼女は自分の可能性に負けてしまう。魔塔で命を落としてしまう。
「【星渡りの塔】に入ったのはいつ頃でしょうか?」
「本日の早朝です。既に六時間は経過しているでしょうか。一階は短いので、そろそろ二階層に入っていてもおかしくありません」
「わかりました。僕たちもすぐに追いかけます!」
下層で連れ戻せなければいっそ、合流して最上層を目指そう。
幸運にも新しい拠点に物資がある、準備にさほど時間は掛からない。
荷物持ちの経験が生かせる。荷物整理は逃げ足の次に自信がある。
「感謝します。ギルドとしても王族を失うのは痛手ですし。個人としても若人の死は純粋に悲しいですから。不倒無血の盾使いロロアさんなら、安心して任せられます!」
「ええ、僕も名前負けしないよう無事に戻りますよ」
さっそくヘラさんに入塔の手続きをしてもらう。
ちなみに冒険者でなくても、誰でも魔塔には入れる。
七賢人の遺産を一部の者が独占するのは先人の教えに反すると。
管理国が許可を出しているので。なら、冒険者の利点は何かというと。
十階層ごとに置かれる転移ゲートと休息所を無料で使える点。
ここで冒険者の資格がないと、あとで高額請求をされてしまうのだ。
それに【情報板】の有無も大きい。これ一つあるだけで生存率が変わる。
あとは事前に目標の階層を申請しておくと、
ギルドの方から一定階層ごとに物資を支給してもらえる。
また、途中で連絡が途絶えた場合、近い階層から救護部隊も派遣される。
当然それらの恩恵を受けるには、相応の前金を支払う必要があるけど。
フロアボスの魔石報酬金がまだ残っているので。すべての支援を申請できる。
クルトンたちは節約してこれらの恩恵を一切使わなかったから。
僕は同じ過ちを犯さない。仲間が増えたからこそ地盤は固めておきたい。
「ロロアさん、急に男らしくなりましたね? 顔付きが以前とは違います。可愛い弟のように見えていたのに、今はまさに挑戦者の面持ちですよ。男の子は成長が早いですね」
「僕も強くならないといけない理由を見つけたからですかね?」
「ふふっ、素敵な答えです」
申請書類に署名している間、ヘラさんはずっと僕の顔を見つめていた。
エルフ族特有の美しい翠瞳に整った眉。弟と見るにしては熱が籠っている。
(えぇい! 私様の王に色目を使う卑しいエルフ族め! まず歳の差を考えなさいっ明らかに三桁は離れているでしょうが、許しませんよ!?)
「……たった今、ロロアさんと近しい何者かに酷い暴言を吐かれた気配がしました」
「あはは……気のせいでは?」
(ロロアさん……く、苦しいです、潰れてしまいますっ!)
エルフ女性の勘は鋭い。僕は勝手に暴れる上着ポケットを抑えつける。
「それではロロアさん。どうかお気をつけて。地上からご武運をお祈りしています!」
「ありがとうございます。不倒無血で戻ってきますよ!」
ギルドでの用事を片付けて、僕は振り返る。
既にエルとアイギスは事情を聞いて待機しててくれた。
トロンはいつものように腰ベルト。ライブラさんはポケット内。
「エル、アイギスお待たせ、行くよ。生き急ぎなお姫様と、小さなメイドさんを追いかけるんだ」
「はい、あるじさま!」
「任せなさい」




