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第21話 宝剣VS宝盾

 レイリアさんはストブリさんと共に外へ出掛けてしまった。

 しばらく二人で過ごしたいらしい。あとは自由にしていいとの事で。


「さっそく探索ですかね! 私様たちの王が過ごされる拠点です。欠陥を見つけ次第、王国に文句をつけてやりましょう! 順調に権力者の後ろ盾を手に入れて、ふふん♪ ロロアさんが名実ともに王になる日も近いかもしれません!」


「殆どタダで貰えたのに図々しい妖精ね……あのお姫様冒険者はどう考えても特殊でしょ? 行使できる権力も少なそうだけど」


「わーい! とっても広いです。これでいつでもあるじさまと一緒です!」


「そうだね。みんなも人の姿で過ごせる。宿では元の姿に戻ってもらっていたし、これからは窮屈な思いをさせずに済むよ」


 節約の為に一人部屋を借りていたけど。ここでなら十人以上は余裕だ。


「ふむ……窓枠に小さな埃……これは新人メイドにさっそく教育的指導ですねぇ」

 

「あの変態妖精は放っておくとして、地下もあるみたいよ」


 僕たちは新しい拠点の探索を始める。地下付きの二階建てだ。

 地下貯蔵庫には豊富な食材が並んでいた。王国領で採れる名産品かな。

 ライブラさんが料理データを活用する機会だと喜んでいた。期待は……半々。


 二階には広い寝室が四つある。部屋数が多いのは来客用だろうか。

 ここまで設備が充実していると管理が大変だけど、それも勝手にやってもらえると。


 もう至れり尽くせりだ。スキル一回の対価としては貰い過ぎなくらい。


「ただいまです! 創造主様、こちらをどうぞです。私からのお引越し祝いです!」


 帰宅したストブリさんが腕に抱えたたくさんの果実を机に並べてくれる。

 その後ろでレイリアさんが、動き回る小さなメイドさんを嬉しそうに眺めていた。


「わざわざありがとう。拠点もいただいたのに。ここまでしてもらえるなんて」


「いえいえ。私はレイリアの剣ですが、創造主様に粗相があれば、罰が当たりますです! 私の事もストブリと気軽に呼んでください! 創造主様っ!」


「創造主様か……ストブリも僕の事をロロアって呼んでもいいんだよ?」


「いけません、創造主様は創造主様です。呼び捨てだなんて、畏れ多い……!」


 両手を振ってストブリは顔を蒼くさせる。罰なんて当たらないよ……?


 薄々勘付いていたけど。【擬人化】は強い主従関係も構築するんだ。

 しかも今回は僕の所有物でもない、他人の想い入れのあるアイテムでだ。


 たとえばこれが聖杯などの宗教的偶像物に作用したら。

 下手すると個人の問題を飛び越えて、戦争に発展しかねない。

 神話級のアイテムは基本そういう背景がセットでついてくるから。


 自分の力ながら、恐ろしいスキルだと思う。使用には細心の注意を払わないと。


「おやおや、私様たちの王に献上品ですか。ブリちゃん好印象ですよ! ふむ、この果実はデータにありません。トロちゃんにまずは毒――味見をしてもらいましょうか」


「たべる。おなかすいた」


「エルにもください! 果汁を絞って美味しいジュースを蓄えたいです!」


 何気に一番僕を崇拝しているライブラさんが献上物を確認している。

 トロンが隣で皮ごと果実を齧っていた。エルは器に果汁を取り込んでる。

 水龍の魔力水も空になって、最近では飲み物を蓄えては僕に届けてくれるんだ。


「……」


 みんなが和気藹々(わきあいあい)としている中で。

 アイギスだけはストブリの顔をじっと見つめていた。


「宝剣ストームブリンガー、一つ尋ねたい事があるのだけど」


「はい! アイギスの盾さん、なんでしょうか?」


 ストブリは子供用の箒を手にして床の清掃をしてくれていた。

 

「私と貴女は同じ国宝級。レアリティの差は僅かでしかない。両者がぶつかり合えば……一体どちらが強いのかしらね?」


 挑戦的な瞳で、アイギスがそんな事を言い出す。

 受け止めたストブリは、箒の動きを止めて笑顔になる。


「はい! もちろんそれは答えは決まっていますです。強いのは――――」


「私よね」「私でございます!」


 同時の答え。


「「…………」」


 そして二人の時間が止まった。あ、嫌な予感が。


「アイギス……?」


「ストブリ……?」


 僕とレイリアさんは二人の間に立って距離を作る。

 鋭い視線が飛び交っている。和やかな雰囲気が吹っ飛んだ。

 

「聞き捨てならないわね、異界の神が定めた☆0.1の差は絶対よ!」


「所詮は0.1です。私はレイリアの、王女の剣として些細な敗北すら許されないのです。足りないのであればそれを補うレイリアの力があります。武具の実力は、所有者の能力含めて語られます!」


「そんなの私だって同じよ。ロロアは……マスターはね、共に神話級を目指すと言ってくれたの。私は英雄を生かす武具として、一度たりとも負けさせない覚悟があるわ!」


「あるじさま、剣と盾の喧嘩です?」


「……ますた、おなかへった」


 とんでもない事になってしまった。

 

「まぁ予想通りの事態ですね。優れたアイテム同士が、用途が近しい者が揃えば当然序列を気にします。武具は壊れでもしない限り基本的に一枠しか空きがないですからね。私様のような唯一無二の存在であれば気にせず済みますが」


「予想していたのなら止めて欲しかったよ……ライブラさん」


 アイギスのような盾が今後も頻繁に出て来られても困るけど。

 気を遣ってあげられなかった僕の落ち度かな。闘争心がすごいや。

 

「国宝級までいくと誰もが自身に絶対の自信を持ちますから。一度始まると簡単には止まりませんよ」 


「ロロア様、私はどうすればいいのでしょうか? ストブリも止まりそうにありません」 


「ここは一度、勝敗をハッキリさせた方が後々の為にもいいかもしれません」


 僕はそう言って、レイリアさんにも納得してもらった。


 ◇


 【星渡りの塔】一階層に僕たちはやってきた。

 入口ゲート近くは魔物の少ない草原が広がっている。

 まさか腕試しの為だけに戻ってくるとは思わなかったけど。


―――――――――――――――――――――――――――――

 アイギスの盾☆5.1【擬人化】 

    

☆1・魔法障壁           

☆2・退魔結界          

☆3・自己修復          

☆4・帯電            

☆5・反射            

☆6・???           

―――――――――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――――――――

 宝剣ストームブリンガー☆5.0【擬人化】


☆1・風刃

☆2・闇刃

☆3・飛翔

☆4・生命吸収

☆5・黒嵐

☆6・???

―――――――――――――――――――――――――――――


 【宝剣ストームブリンガー】のスキルは風と闇の複合属性だ。

 対する【アイギスの盾】は雷と光。属性的にも反発し合うのは当然か。


「まずは小手調べね。後輩に華を持たせてあげる。自由に攻撃してきなさい」


「むぅ……創造主様の盾とはいえ、遠慮はしないですよ!」


 ストブリの足元に黒い風が纏わる。数秒後、姿が消えた。速いっ。

 アイギスの死角を突いた蹴りが放たれた。小さな身体に見合わない身体能力だ。


「……甘いわね。それが渾身の一撃ならば、貴女はもう主人を守れないわよ?」


「んなっ!?」


 アイギスは視線を動かさず片腕で止めてみせた。

 動きを封じられたストブリは慌てて抵抗する。

 余裕の表情を崩さずアイギスは見逃した。


「い、今のは小手調べです! 先手を譲ってもらったお返しです!」


「あらそう。だったら次は期待しているから」 


 国宝級のアイギスの実力は、現時点でも単身でAランクパーティ以上はある。

 それも才能だけじゃない。これほどの戦闘技術がある人は、今の僕の記憶にはない。


 きっと【擬人化】する前も、盾として数多の戦場を駆け巡ったんだろう。

 公爵家の宝剣として、平和な地上世界で過ごしていたストブリには厳しい相手だ。


「風よ、王女の剣として恥じない働きを見せるのです!」


「未来の英雄の盾を貫くと豪語するなら、破損する気でやってみなさい!」


 不可視の風の刃が何層にも重なり殺到する。

 アイギスはその場を動かず、全部を受け止めた。

 

「通じない……次っ、腐敗の黒き刃!」

 

 一陣の風に闇が混入した。周囲の木々を腐らせる。

 アイギスは頑なに動かない。受け止めた腕が変色していく。


「アイちゃんは盾に徹するつもりですね。その気であれば最初の一撃で終わっていましたから」


「というか、真正面から受け止めて大丈夫なの? 腕が黒くなっているけど!」


「あるじさま、あいぎすさんなら大丈夫です」


「……ますた、みて」


 トロンが指差す先、アイギスの黒ずんだ腕が徐々に自己修復されていく。

 ダメージを与えているストブリもすごいけど、多少の損傷は意味がないんだ。


「少し強めにいくわよ!」


 そして、アイギスは最後の風を力一杯に跳ね返した。


「くっ、魔力を反射ですか!」


 メイド服を翻して、ストブリが空中を飛翔した。


「小手先の攻撃が修復されるなら、それ以上の一撃をお見舞いするまでです! みなさんの生命力を貰いますです!」


 ストブリは右手を伸ばして、僕たち以外の地表の生命力を吸収していく。

 風が吹き荒れ数秒ごとに闇が膨れ上がる。次の一撃で決着を付けるつもりなんだ。


「これが私の全力全開です! 避けるなら今のうちですよ!?」


「ご忠告どうも。私はこの場を譲るつもりは一ミリもないわ!」


 頑固な二人が向かい合う。最初に動いたのはストブリだ。


「うわああああああああああああああ!!」


 蓄えた魔力渦の中心で自身も苦痛に歪ませて、ストブリが叫ぶ。

 黒い嵐を伴った複合属性の蹴りだ。まともに受けたら生物は消滅する。

 アイギスは不敵な笑みを浮かべ、魔法障壁を強める。更には全身が帯電した。


「貴女には感謝するわ。ようやく本気を出せる相手が見つかったもの。悪いけど、貴女は私の神話への足掛かりにさせてもらう」


 衝撃が一階層全域を揺らした。稲妻と嵐がぶつかり合う。

 光と闇の魔力が入り混じり、二人の叫びが重なり合った。


「負けません、負けませんですううううううう!」

「私は気合だけで超えられる壁じゃないのよっ!」


 足元が崩れ埋まっている、だけど一歩を引いていない。

 なんて頼もしい背中だろうか。彼女の覚悟が魂に伝わってくる。


 たった一人。僕の盾として、全身全霊で吠えてくれている。

 感動で震える。ああ、僕もこの子に相応しい人物になりたい。


 きっとこの気持ちは、レイリアさんも同じように感じているはず。


「ストブリ、貴女は私の唯一の友です! 私は貴女を勝利を信じています!」


 まさしく王女の激励だ。その瞬間、ストブリの身体を赤い膜が覆った。


「うぅ……うああぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「いけませんっ、本当に【王女の激励】が発動しています。外部から力が加わり、均衡が崩れては両者に深刻なダメージが! 盾のアイちゃんはともかく、ブリちゃんは修復ができません!」


 ライブラさんが珍しく狼狽えた、レイリアさんも無意識だったらしい。


「そんなっ、止まって……私のスキル。お願いだから邪魔をしないで……!」


 祈るだけで【王女の激励】が発動してしまうんだ。想像以上に融通が利かない。


「あるじさま、エルが行きます!」


 不死身のエルがアイギスの後ろを支え、均衡を、時間を稼ぐ。

 

「……ん。バン、バン」


 そしてトロンがストブリに向けて雷光弾を放っていく。

 闇を削り、少しでも威力を減衰させる。それでも勢いは止まらない。

 【王女の激励】の効果は徐々に累積していく。ストブリに負荷が掛かっていく。

 

「トロン、今すぐ私を、全力で撃ちなさい!」


「……わかった」


 アイギスの言葉に数瞬で頷き、トロンが指から極大の雷光弾を放つ。


「宝剣ストームブリンガー、貴方も国宝級なら多少の痛みは我慢しなさいよ!」 


 背中で雷光弾を受け止め帯電を強めたアイギスは、ストブリの両足を掴むと、黒嵐の衝撃を逆回転で打ち消しながら地面へと叩きつけた。


「うああああああああああっ!?」


「っ!」


 眩い光が爆発して、アイギスの身体も吹き飛ばされる。

 僕とレイリアさんは倒れたお互いの大事な子の元に走った。


「アイギス、大丈夫!?」


「平気よ、私には自己修復があるもの。でも……」


 アイギスの視線は、元いた位置に向けられている。


「……盾としては失格ね。動いた時点で私の負けよ。貴方に、恥をかかせてしまったわ」


「そんなことない!」


 僕は無意識に大声を出してしまった。


「たったそれだけで君を見放すようなマスターは僕が認めない!」


「で、でも……もしこれが実戦なら、私は貴方を……」


「盾で防ぎ切れない攻撃なら、僕の自慢の足がある。どちらか片方だけじゃないといけない理由はないよ。アイギス、この一戦だけですべてを諦めるようなら僕は怒るよ!」


 強く言い聞かせると、アイギスは何故か頬を赤らめた。


「う、うん……ごめんなさいロロア、許して。私、次も頑張るから……マスターに褒めてもらえるように……たくさん攻撃を受け止めるから。どんなに傷付いても貴方が無事なら、それでいいから」


 とても嬉しそうに答えてくれるけど。言葉だけ聞くと僕が鬼畜なような?


「もしかしてアイちゃんって……マゾ――――まぁ詮索するのはなしとしましょう。友人の趣味趣向にツッコむのは野暮ってものです。やはり属性過多だとは思いますが……」


「らいぶらさんのお話は難しいです……」


「……ぐぅ。おなかすいた」


 こちらはとりあえず問題なかった。

 ストブリとレイリアさんはどうだろうか。

 

「参りました……私の負けです。未来の英雄の盾を貫けなかった私は、王女の剣失格ですです……」


「なにを言うのです! 貴女がいなくなるというのであれば、たった一人の友を失うくらいなら……! 私はこの場で命を絶ちましょう!」


「あわわわ。やめてくださいです! 嘘です! 私はまだ王女の剣を続けますですからっ!」


 向こうは向こうで盛り上がっていた。全員無事でよかった。

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