第23話 一人旅
この回から主人公ロロアの成長が加速していきます
レイリアさんたちを追って【星渡りの塔】再攻略に挑んだ僕たち。
最初の十階層までは難なく突破できた。既に三十階踏破を経験しているんだ。
出現する魔物も弱く。アイギスの退魔結界だけで対処できている状況だ。
全力で走り抜けて、従来の三倍近い攻略速度。
僕は平気だけど後ろを走るエルたちは辛そうにしていた。
元がアイテムの子たちは、体力面では普通の子が多いみたいだ。
「みんな大丈夫? ここでたくさん休憩して次の二十階層まで頑張ろうね」
珍しく僕がみんなを引っ張っていけている。
汗を拭いて、座り込むエルたちに労いの言葉をかける。
「ふぅ……たくさん走って疲れました。あるじさまは足が速いです」
「そうね……任せろと豪語した手前、弱音は吐きたくないけど。ただ走るだけってのも……戦闘とは別の意味で自分との戦いだわ。トロンなんて塔に入って一瞬で力尽きたわよ」
エルもアイギスもトロンも、長距離走とは無縁のアイテムだしね。
僕はストレッチをしながら身体をほぐす。まだまだ余裕が残っている。
「私様はポケットの中で楽ちんですが。ロロアさんの意外な長所をデータに残せてホクホクです」
順調に進んでいるのに、レイリアさんたちには未だ追い付けそうにない。
理由として足の数、パーティ人数の差もあるけど。【王女の激励】の有無が大きい。
身体能力が最大で二倍になる補助スキルはあまりに強力だ。
強化されたストブリがレイリアさんを背負えば、もう止めようがない。
「ロロア、あの子たち十日前にはここを去っていたみたいよ」
十階層にある転移ゲート前の休息所で情報を集めてきたアイギスが知らせてくれる。
「驚異的な速さだね……もう二倍以上の差を付けられているかも」
「あるじさま、このままで追いつけます?」
「うまうま……おいしい」
「トロちゃんいつの間に……食事への嗅覚が鋭いですね」
休息所でギルド関係者から支援物資を受け取り。
栄養のある食事を取りながら僕たちは作戦会議を開く。
「流石にそろそろ向こうのペースも落ちると思うよ。下層は魔物の脅威度が低いから少人数の方が楽だけど。戦いが避けられなくなる上層では人数の少なさは致命的だし、その点では僕たちが有利だ。つまり後半からが勝負だね」
「ですが、それは即ちお二人の身に危険が迫るという事です。【王女の激励】が本人に効かない以上、ブリちゃんがどこまでやれるかですが……以前の決闘データを分析した限りでは【宝剣ストームブリンガー】は複数敵には有効ですが。対強敵、フロアボス相手では決定打に欠けます。アイちゃんに通用した黒嵐も諸刃の一撃でしたし」
「うん、そこが問題だ。フロアボスの強さは階層に関係ないけど、上層では複数の群れを成していたりする。危険なのは追いかける僕たちも変わりない。というか決定打不足は僕たちもそうだよね?」
現状最大火力であるトロンの雷光弾も、水龍の魔力水を失った今では威力が激減。
この辺の課題はすぐには解決しないと思う。フロアボスに挑まなければ済む話ではあるけど。
「というか、以前から思っていたのだけど。ロロア、貴方って足が速いわよね……? 人間の中でも最上位クラスはあるんじゃない?」
アイギスがエルが蓄えていた果実ジュースを飲みながら僕を褒めてくれる。
「ありがとう、僕の数少ない長所みたいなところだから。褒められると嬉しいよ」
荷物持ちとして意識的に訓練してきたから。
これまで一緒に行動してきた冒険者たちは、
荷物を持つ僕の事なんて、一秒も待ってくれなかったし。
置いて行かれないようにするには、もう単純に足を速くするしかない。
他の人が剣を振る練習分を、ずっと足だけに費やしてきたんだ。
「エルもびっくりしました。いつもあるじさまは、エルの歩幅に合わせてくれていたんですよね? 今回それに気付けました。優しくて、もっと大好きになりました!」
エルはそう言って嬉しそうに、僕の手のひらをにぎにぎしてくれる。
「あのアイちゃんですら追い付くのがやっとでしたから。胸を張って自慢できると思いますよ」
「ちなみに、まだ本気は出していないけどね」
ちょっとだけ得意げになって答えてみる。
実際あと二段階は速められるし。支援物資のおかげで手荷物も少なく済むから。
「えぇ……ロロアさんの健脚は常軌を逸しています。データも驚いて目玉が飛び出ますよ」
「どういうデータよ気持ち悪い……。ねぇロロア。ここで一つ提案があるのだけど」
「どうしたの?」
「悔しいけど現状私たちは足枷になっている。下層の魔物が弱い区間は――貴方の一人旅で進むのはどうかしら?」
◇
「……よいしょっと」
【星渡りの塔】十四階。現れた魔物の群れを文字通り撃ち砕く。
右手に【アイギスの盾】。左手に【改造型魔導銃トロン】を握り締め。
近接戦闘では【エリクシルの空瓶】を振り回す。かの暴虐王スタイルだ。
飛んで来る投げ槍を躱してトロンを放つ。足元を崩して空瓶で殴り付けた。
「ブオオッ……オオオ」
倒した魔物が動かない事を確認して、僕は一息ついた。
「十四階のオーク軍団を一人で壊滅って、冷静にやっている事がおかしいよ……!」
大戦果に思わず、自分で自分の活躍にツッコんでしまった。
魔塔は上層になるにつれて、生息する魔物が強くなる傾向があるけど。
あくまで傾向であって、生物である以上下層にも強敵が出没する事がある。
この手の階層を跨いで遠征する魔物は通常種と違い知能も高く。
フロアボスと近い脅威レベルを持つ。つまり一人で戦う相手じゃない。
今しがた壊滅したオーク軍団も、本来は三十階層以降で戦うはずの魔物だった。
「前回の四十人斬りから日が経っているというのに、ロロアさんは飲み込みが早いですね。一番の強みは若さゆえの成長率、貪欲なまでの知識の吸収量でしょうか?」
「ありがとう。みんなの、アイテムの性能のおかげだよ」
「自分の才能に無頓着なのも若さゆえでしょうか……?」
「ライブラさん、口を閉じていないと舌を噛むよ」
上着ポケットで観戦していたライブラさんを優しく押さえつけ。
僕はまた全力で走り出す。景色が移り変わる。向かい風が気持ちいい。
「速い、速い、速すぎますっ!? やはりロロアさんの健脚は前人未到の領域ですよ!? 揺れが激しくて口からデータが零れそうです……おろろろ」
「もっと飛ばすからね! 落ちないでよ!」
「私様も元の姿に戻るべきでしたああぁぁぁ!」
更に限界を外すと、ライブラさんが目を回しだした。
後ろで遅れて罠が発動する音がするけど、僕の速さには追い付かない。
下層の魔物の群れも、罠も、全部無視してひたすら上を目指す。
荷物持ちだった時には出せなかった力を使えて、気分は最高だった。
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