29.初めての感情
温度が上昇していき本格的に夏が始まろうとする頃。
リリアーナは目を覚まし、同時にロロナが目覚めの紅茶を持ちながら部屋に入ってきた。
あの建国記念のパーティーからの1件から1週間が経過した。イリアスの勧めで、安静のためフィローメル邸へ滞在してからは平穏に暮らしていた。
フィローメル公爵によって、リリアーナがフィローメル邸へしばらくの間滞在すると侯爵夫妻に伝えれば
アッシュは了承していたようだが、クレアは強く反対していた。安静するのなら家族のいる侯爵家の方がいいと
頑なにリリアーナをフィローメル邸へ行かせないようにしていたがフィローメル公爵の威圧によりクレアは引き下がった。
アッシュからは戻りたい時に戻ってきたらいい。と言われた。もう暫くは、フィローメル邸にいるつもりだが…。正直なことをいえば、帰りたくないと思っているリリアーナ。けれど帰らなければ、クレアがこちらへやってきてはリリアーナを返せとしつこく言ってくる可能性がある。それだけは面倒なため仕方がなく、
1週間経った後帰ろうと今は考えている。
フィローメル邸へ突然やってきたことにより召使い達の仕事が増えるのではないかと心配したが皆、気にせず
リリアーナを歓迎し今も優しく接してくれた。
その後、フィローメル公爵によってロロナをこちらへ手配してくれた。
フィローメル邸へ滞在しているが
イリアスの所へは日がやってくれば必ず行っている。
ネオも変わらずいつものように接してくれた。
あれからは、時空巻き戻し魔法の解読を試みつつも
最近では、様々な魔法を習得していた。
ある日には、火の魔法水の魔法を、風の魔法の
三代魔法を。
ある日には、浮遊魔法と移転魔法などを。
様々な魔法を習得していくリリアーナ。
一方ネオは、あの日以降から治癒魔法を習得してみせると心がみなぎっているのか、イリアスの指導では全く寝ずにただひたすらにあらゆる治癒魔法を習得していた。
そして、基礎の治癒魔法を全て習得させることに成功したネオ。
そのため、もうネオは魔法塔へ来るのは
今回で最後ということとなった。
「…もう、私とは会うのはこれっきりということなんですね。」
「まあ、そういうことだな。」
実践終わりの後、そう話しながらも互いに
イリアスが用意してくれたレモネードソーダを飲んでいた。
「それに、俺来月からアストレス帝国へ行くんだよ。」
「アストレス帝国ってフィルア公爵夫人の母国ですよね?」
「そ。治癒魔法を習得させたら、アストレス帝国へ行ってアストレス帝国の騎士団の元で剣術を鍛えるんだよ。」
「…!そうですか。」
リリアーナは前世の記憶を思い出す。
確か、ネオはこの年でアストレス帝国へ行き
剣術を鍛えたことで帝国騎士団へ入団をし下済みした後に1番隊団長にまで上り詰めたのだった。
確か、5年ほどアストレス帝国へいたと。
5年でで剣術を極めることができるとはネオは凄いものだ。頑張って欲しいと願う。
けれど、何か胸がチクリと痛むような気がした。
感じたことの無い痛みだった。
痛くて思わず顔が暗くなってしまう。
それが誤解をうんだらしく。
「寂しいのか?俺がいなくなって?」
「…。」
違うと否定できない。
寂しくはないという訳では無い。
こんなにも自分に素直でかつ人を喜ばす才のある人とは関わるのは初めてだったけれど、彼と過ごすこのほんの少しの間はとても楽しかった。
そんな彼がこれからはいないというのは
少し寂しい。だからおそらく胸が痛むのだと感じる。
それを口にするのが恥ずかしくて口ごもってしまう。
「寂しいのか!そうかそうかぁ!」
と少しいじらしく言いながら頭をわしゃわしゃと撫でられる。
「…っ!やめてください…!
髪が崩れるではありませんかぁ!」
と照れながらも、手で力強くネオを引き離す。
不思議とじわじわと身体中が熱い。
そして頬すらも熱かった。
無理やり引き離してもまだいじらしい笑みを浮かべながら
「なんだよぉ、素直じゃねぇなあ。」と言う。
完全に、恥ずかしがる自分を見て楽しんでいるようにしか見えない。
そのせいで恥ずかしさが増していき、かっとなってしまう。
「別に、寂しくありませんから!!」
と子供のような反撃をした後今も子供だが。
「私、先に馬車に乗りますから!」
と頬を膨らませながら後にしていくリリアーナに
やりすぎてしまったと感じてしまいネオは
「おい!待てって!」と慌ててリリアーナの後を着いていった。
「「…。」」
ネオの方を振り向かずにただ馬車の窓から景色をツンとした表情で眺めるリリアーナと気まずそうにリリアーナを見ながら何を話そうか頭の中で思考を巡らせるネオ。
普段は、イリアスの移転魔法で帰っているが
今、リリアーナはフィローネ公爵家でお世話になっておりフィローネ公爵直々に馬車を手配してくれたため
馬車で帰っていた。ネオも乗っていいと許可が出ているためネオも乗っていた。
「お、おい…まだ怒ってるのかよ。」
「怒っていませんわ。」
ふとネオがそう言っても逆効果で、リリアーナは
全くネオの方を向かない。
ああ。どうすればいいんだとと考えていると…。
ふと馬車がガタンと動いた。
ネオは鍛えていたからか耐えることができたが
リリアーナはそうではなく反動で体がふわりと浮いてしまう。
「きゃっ…!」
浮いた瞬間体が別方向へ行ってしまいそうだったが
「危ない!!」
咄嗟にネオがリリアーナを受け止めた。
受け止めた瞬間、自然とリリアーナはネオの腕の中にピッタリと収まってしまう。
「大丈夫か!?」
「あっ…うん。ありがとう。ネオ。」
互いの顔の距離は
キスができてしまうのではないかとほどとても近い距離
でリリアーナは少しドキリとしてしまう。
外の方では御者がボソボソと何か言っている。
それからは、馬車の扉を開く。
「申し訳ありません。ネオ様、リリアーナ様。
先日の雨の影響で泥が深い状態で
それに馬車がはまってしまいました。」
「まあ…大変。」
「引き上げるのに大変時間がかかると思いますので
少しの間だけ馬車に出てもらってよろしいでしょうか?」
「仕方がない。とりあえず、出るか。」
「そうですね。」
ネオが降りるのと同時にリリアーナも馬車から降りた後
ふと、視界に白い百合の花ビラが映りそのまま
百合の花に誘われ走っていくリリアーナ。
その後を追っていくネオに
御者は「あまり遠くへ行かないでくださいね!」と言い
馬車を引き上げようとした。
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