28.温もりに助けられた
後ろを振り向けばイリアスがいた。
聞き覚えのある声であったため姿をみなくてもリリアーナはすぐに分かった。
「…リリアーナ大丈夫か?
顔を上げられるか?」
「…っ」
自然とイリアスにはすぐに顔をあげるリリアーナ。
レディスとは大違いだった。
胃から何かが上がってきて吐き出してしまいそうな顔をしているリリアーナに対してイリアスはゆっくりと
背中をトントンと叩いた。
そうすることによって体の震えも吐き気も収まり遮断されそうになった意識が再び戻り始めた。
視界が戻ってくるなり目の前に見えたのはイリアスの着ているローブ。まるでレディスを隠しているように見えた。
「魔道士、イリアス…
いつの間に…!」
突然リリアーナの目の前にやってきたイリアスを見てレディスは驚いて言葉が出ず立ち尽くす姿を見せるも
それを無視してイリアスはリリアーナの方を向く。
同時にふと誰かもリリアーナの方へと近づいてくる足音がした。
「おい、お前大丈夫かよ!」
案の定ネオであった。
静まり返った空気の中でもネオは変わらない
明るい声でそう発した。
それが今、リリアーナにとって救いとなっていた。
先程の静まり返った空気の中で息が詰まって苦しくなっていたから、ネオやイリアスが来てくれたことにより少しだけ息を吸いやすくなっている気がする。
「お前、顔色悪いぞ?もう1回、休憩室戻った方がいいぞ?なあ、イリアス?」
「…そうだな。リリアーナ、今のお前はとても大丈夫だとは思えない。休憩室に戻ろう。私もっいていくから。」
優しく手をさし伸ばしてくる。
けれど躊躇ってしまうリリアーナ。
今にでもイリアスの手を取って、ここから離れてしまいたい。けれどここで手を取れば許されない行為だと思われる。
そう分かっているはずなのに。
自然とイリアスの手を取った。
「リリアーナ嬢は、体調が優れないらしく
休憩室にお戻りになるそうです。私が送っていきますのでどうぞご安心を。」
そう言ってイリアスは優しく手を握っては歩き出そうとネオもリリアーナ達に着いていこうとしていた。
ストップをかけたレディス。
「待て…っ!
彼女は…!」
「彼女は何も関係ないのですよ。
彼女はただそこの令嬢の騒ぎを聞きつけてやってきただけですから。」
イリアスの言っていることは正論である。
ルナティアは、被害者で
加害者はリリアーナ以外の令嬢達。
その加害者を知ろうとするのは王太子であるレディスにはある。
けれどリリアーナは?
リリアーナはルナティアに何をした?
リリアーナはただルナティアの騒ぎを聞きつけてやってきた傍観者に過ぎない。
問い詰められ責められる理由などどこにもない。
「ただ見ていただけのリリアーナ嬢に
悪く言う理由がどこにあるのですか?」
どれもこれもイリアスが言っていることはレディスにとって棘のあるような言動だが、全てリリアーナを庇う言動である。
「無実の彼女を悪にして責め立て挙句には、倒れてしまうほどに追い込むなんて…」
「人として恥ずべきなのは…リリアーナ嬢ではなくねぇ…?
王太子殿下。」
「…っ」
イリアスがレディスに叩きつけたのは紛れもない悪意のある言葉。ストレートにレディスに伝わり反論の余地もない様子。
泣いていたルナティアは一体何があったのか分からずただオドオドとしていた。
そして異常な程視線を向けていたクレアは顔を真っ青にさせて倒れそうになっていた。
おかしな空気になっていたが
それを気にせずにイリアスはリリアーナの手を優しく手を引いて歩いていく。それに合わせてリリアーナやネオも歩いていった。
「ほらよ!」
「ありがとう。」
休憩室まで送ってくれ
ゆっくりと長椅子に座った後、イリアスはリリアーナを送った後どこかへ行きネオはリリアーナにコップ1杯の水を持ってきてくれた。
飲んでみれば、体調が安定していく。
水を飲んだ後、リリアーナは困った笑みをネオに向ける。
「何だか、ごめんなさい。
こんなことになって…。」
「ん?別に?どっちかって言うと王太子の方がおかしいだろ?イリアスも言ってたけどお前はただ見ていただけに過ぎないし。」
「イリアス様はどこへ?」
「ん?確か…」
「リリアーナ。」
ネオが何か言おうとした時にちょうどいいところに
イリアスがやってきては話し始めた。
「あの1件で侯爵家に戻るのは心細いだろう?」
「…はい。」
「フィローメル邸に暫く過ごすといい。
もし、侍女を連れていきたいのなら私が直々に手配しよう。」
「いいのですか?フィローメル邸へ…」
「私自ら、許可を出した。フィローメル公爵曰く
気にせずこちらへ来るといいとのことだ。」
「…では、私はフィローメル邸へ行きます。」
その後、イリアスによってレディスの件を聞いた
2人の魔道士。
1人は腹を抱えて大笑い。
片方は呆れてため息をこぼし
レディスに対して毒を吐いたのだった。
建国記念のパーティーの後
リリアーナは、ルドレッタ公爵に連れられて
フィローメル邸に居候することになった。
「ここが…フィローメル邸」
公爵家の屋敷であるにも関わらず
どこか温かみがあり、圧迫感もない。
それだけでも心の中にある何かが
少しづつ剥がれていくような感覚があった。
「お待ちしておりました。リリアーナ様。」
フィローメル邸の使用人達。
突然居候することになった
自分を優しく出迎えてくれる。
「部屋へと案内する。」
ルドレッタに案内された部屋は
淡いラベンダーを基調とした落ち着いた空間
窓からは柔らかな光が差し込み
風がカーテンを優しく揺らしている。
「綺麗…」
ポツリと呟く本音。
「気に入ったか?」
「はい。」
その一言に嘘はなかった。
ベッドに腰掛ければ、ふわりと沈む柔らかさに驚き同時に、肩の力が一気に抜けた。
ルドレッタ公爵から、ゆっくりと休むといい言われ
その言葉に甘えてリリアーナは
湯浴みをしてからすぐに眠りについた。
侯爵家にいた頃とは全く違い
気の抜けた様子で眠っているリリアーナに
ひっそりと、様子を見に来たイリアスは
ほんの僅かに安堵した顔を見せる。
(ようやく、ここで肩の力を抜くことができたな。)
優しくリリアーナの頭を少し撫でてから
イリアスは転移魔法を使って
リリアーナの部屋から去っていった。
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